鈴仙(レイセン)
身長 :約140cm(フキより若干小さく、千束は162cm)
見た目:東方ロストワードの鈴仙を見た目を幼く(……具体的には小五)
黒っぽいパーカー羽織ってる(中は紺色のリコリス制服)
原作と性格や設定が違うのは生まれ育ちが原作のそれとは違うためです。
それを踏まえてご覧ください。
第1話
<Reisen side>
朝が来た。
春風が爽やかな桜の香りを部屋に届け、鼻腔を擽る。
重く閉じられた私の瞼の裏は暗く、朝が来たという事実を拒むが、布団が顔から離れ、日の光と街の音を感じる。
平和で、安全、綺麗な、そんな仮初めの東京。
でも大きな街が動き出す前の、静けさが今日という煌びやかな日を伝えてくれる。
起床直後のずんと重い、夢と現実との境界が曖昧になっている頭。目まいの様な気持ち悪さを押さえつけ真っ先にトイレに足を運ぶ。
そんないつも通りの習慣を一通り終え、玄関から飛び出す。
向かう先は喫茶リコリコ、私の職場。
こぢんまりとした喫茶店には私、千束、ミズキ、店長のミカさんの四人が働いている。
私と千束は現役の高校生……ではなくリコリスと呼ばれる、所謂暗殺部隊の一員。
ミズキとミカさんは元と着くがリコリスの本部(DA)に務めていた。
DAは社会を乱す者の存在を許してはならない。存在していたことも許さない。
消して、消して、消して、綺麗にする。危険は元々なかった。
そう思えることが一番の幸せ。それを作るのが私たちリコリスの役目。
ではなぜ、暗殺に携わるような私たちが喫茶店なんて営んでいるのか。
それは……
……私たちがリコリスとしては異端で問題児で、暗殺部隊なのに殺さないをモットーにしているから。
そう言う問題児を寄せ集めたのがここ、喫茶リコリコ。
そんな場所に左遷されてくる人がいるみたいだけど、一体どんな子かな……?そんな思いを持ちながらお店のドアをたたいた。
「おはようございます!」
「おはよう、鈴仙」
「はよー…… 朝から元気ねぇ」
喫茶店の扉を開けると店主のミカさんと飲んだくれのミズキさんが挨拶を返してくれる。
もう、5年も続いた日常。
この日常がいつまでも続いてほしい、そう思う。
店内を見渡すといつもの通り、いない人がいる。
「ミカさん、今日は千束買い出しの日ですか?」
「ああ、そうだ。また食材が足りなくなったら次は鈴仙に頼むからよろしく頼む」
「りょうか~い! この私に任せてください。じゃあ着替えてきますね」
「とっとと着替えて早く私を楽にさせてぇ~」
「ミズキさんはしっかり働いてください!」
朝から酒を喉に流し込むミズキさんのお酒は店に来た常連さんに出そう。
そう心に決め、後は喫茶店の制服を着て親友を待つばかりだと行動に移す。
着替えが終わり、シワがないか等身だしなみをチェックしていると店の扉の前に誰かの気配を感じる。
千束ではない誰かの少し緊張気味の息づかいが聞こえる。
新規のお客さんか、はたまた別の……なんて考えつつチェックを終えた私は顔を出した。
「いらっしゃいませ~」
<Takina side >
私はリコリスのためだけに存在してきた、そう言っても過言ではないほどに尽力してきたつもりだ。
しかし、この前起こった事件、銃取引の事件で上部の意向にそぐわない行動をしてしまったためか、転属命令、もとい左遷が決まった。
あのとき、エリカが人質に取られ、リーダーのフキさんも通信障害で動けなかった。
だから私が機関銃を使い、敵を殲滅するのが最善だと判断し、実行した。
確かに命令のないまま敵を殺し尽くすのは良いことではない。
ただ、あの方法が仲間を救う上で最も合理的な方法であったし、これ以上待機命令を聞いていられるような状況ではなかった。その結果、フキさんに仲間を殺すところだったのだと本気で殴られ、その後楠木司令からの転属命令。
本部に残りたいと思うし、間違った行動をしたとは思えないものの、あの電波塔事件(十年前に起こった日本で最後のテロ事件)を一人で解決したリコリスがいると聞き、勉強のため、今は耐え忍ぶとき、そう自分に言い聞かせ、受け入れ、今まさに転属先のあると聞いている場所へ到着した。
喫茶店のような建物だがカモフラージュも兼ねているのだろうと考え、足を踏み出す。
『……けですね! アランの支援を受けたものの共通点はこのチャームポイント。スポーツ選手以外にも研究者や芸術家など、世界中で様々な分野の天才が支援を受けてい……』
「ここにも母となるべき才能が今結婚という障害に阻まれているのよぉっ!!不満d」
「いらっしゃいませ~。ほら、ミズキさん、不満をぶちまける前に仕事して。男運なくなるよ」『凡人のやっかみですな』
「んだとぉ! ダブルでやっかましいわっ!」
静かな喫茶店と思いきやテレビに従業員の声が響く、割と騒がしいらしい。
こんな場所で本当に得られるものなどあるのか、本部に戻ることができるのか、不安だ……
****
そんな騒がしい店の奥から大柄の男性が出てくる。
「来たか、たきな」
「初めまして。本日配属になりました、井ノ上たきなです。あなたから学べとの命令です、千束さん」
ひとまず挨拶を済ませ、千束さんらしき妙齢の女性に声をかける。
十年前の功労者、当時の年齢を私と同じくらいだと推測すると25歳くらいに見えるこの女性が……
そう思っていたらその女性は何やら呆気にとられた顔をする。
私のやる気が伝わらなかったのか、お前に教えることは何もないとでも言いたげな飲んだくれにさらに自分の意思を伝えるべく話を続ける。
「転属は本意ではありませんが、東京で一番のリコリスから学べる機会が得られて光栄です。この現場で自分を高めて、本部への復帰を果たしたいと思っています」
「……それは千束じゃない。元DAの情報に所属していたミズキだ」
「それっていうなよ……」
「三十路ぃ~」
「まだピチピチの二十代よッ!」
人は見かけによらない。
まさかの今まで千束さんだと思っていた人物は別人だったようだ。
それでは、この男性が……ちさt
「そのおっさんでもねぇよっ!」
「ここの管理者のミカだ。よろしく」
「井ノ上たきなです。よろしくお願いします」
となると残る千束さん候補はカウンターからひょこっと顔を出している一つほど年下に見える少女。
まさか、こんな人畜無害な風貌をしているのに、実際は小学1年生くらいのときに電波塔事件を解決してしまったのだろうか。
恐るべし、東京一のリコリス。
「この子も千束じゃない」
「鈴仙です! 階級はたきなさんと同じセカンドです。年も一つ違いみたいなのでよくしてくれると嬉しいです!」
フキさん、私の先輩に当たる小柄な人よりもう一回り小さい彼女は人見知りなのか声も態度も小さく、目を合わせず言葉を言い切った後、いきなりペコリと頭を下げ、完璧な 90° の礼を披露した。
「硬いわねぇ。友達が少ないぼっち陰キャかっ! 自然体でいいのよ、ボロ出るから」
「なにおう~ミズキ!? さっきの結婚がうんぬんの復讐か!」
「三十路からのありがたーい忠告よぉ?」
「ひぇ、目が据わってる!? ごめんなさい!?」
ミズキさんが「大体アンタは年長者に対して敬意が……」と頭を浅く垂れ鈴仙さんに小言を話している。
愉快な人たちだが私が求めていた職場環境とは真逆でこんなところでやっていけるのかと一抹の不安を覚えた、そのとき鈴仙が急に頭をあげた。
「千束だ!」
「お、ようやくご到着か」
二人が何か言っているがしばらくドアが開く気配もなく頭に疑問符を浮かべる。
数秒後、店の扉がバンッ! と効果音がつくほどの勢いで開かれる。
何事かと思い一瞬警戒するが、ドアの前に現れたのは私たちと同じリコリス(ただし制服の色が違う)、さらに店内が賑やかになる。
「せんせ~大変! タベモグの口コミでこの店ホールスタッフがかわいいって! コレ私と鈴仙のことだよね♪」
「いや、私だよっ!」
「冗談は顔だけにしろよ、この酔っ払い……」「そうだそうだ!」
「だまらっしゃい! 酒飲ますわよ!」
この人が千束、東京のファーストリコリス……。
不安だ……。
<Reisen side>
というわけでたきなが新人としてリコリコに籍を置き、仕事も始まったわけだが…… 今までは二人で仕事に当たっていたため十分人手が足りていた。
そこに新たに人が加わったということは、余裕が増えるということ。
うん、それだけならよかった、よかったんだけど……千束と別行動になるのは聞いてない。
今回は前半は千束、後半は私がたきなと行動し、いわゆるレクリエーションのような感じになった。
「うん、不服だ。それに暇!」
千束は早速たきなを引きずるようにハイテンションで子供のお世話、ヤクザに怪しい粉(コーヒーの粉)の配達に行った。
きっとたきなは本部との仕事の差に驚いている頃だろう。(実際は訝しんでいた模様)
楽しそうな千束を見たり想像したりする分には楽しいが、やっぱり少しだけ寂しい。
というわけで現在閑古鳥が鳴くリコリコで暇を持て余している私はやることがないので喫茶店のレジ係をやってたりする。
ぼーってしていたところ先生がお話をしに来てくれたようだ。
「すまない、平日の客足を考慮したら三人で一緒に行動してもらった方がよかったな。コーヒーはいるか」
「別にいいですよ、ミカさんやミズキさんとお話しできるなら。それはそれとしてコーヒーはいります! もちろん苦くないやつで」
「そうか、……ところでたきなはどうだった」
コーヒーを出してくれた先生の口からおもむろに漠然とした言葉がでた。
ただ今回の問いの意図はエスパーでなくてもわかる。
きっと仲良くやっていけそうか、いろいろと問題なさそうか、そういう感じだろう。
「別に、普通に元気そうな子で、千束とはうまくやっていけると思いますよ。性格というかテンションというかそこは真逆ですけど……。何にせよなんとかなりますよ」
「なるほど、千束をとられて不機嫌になってたらどうしようかと思っていたが……」
私がたきなと精神的な距離を開けている、仲間として迎え入れるのに抵抗があるとでもいうような言い方だ。
そんなミカさんにジト目で反論する。
「ミカさん、私そんなに子供じゃないですよ……」
「悪い悪い、ほらミルクと角砂糖だ」
「やったー!」
「そーゆーとこぉが子供なのよぉ……」
「そこ何か言いました?」
コーヒーのことか、それとも機嫌が甘いもので直ったことか、どちらにせよ苦手なものは苦手だし、だからといって私はもう立派なレディ、子供じゃないんだよ、ミズキ?
それはそれとしてやっぱり誰かと楽しい時間を共有してるとあっという間に時間が経ってしまう。
静かな空間でさえも砂糖とミルクをコーヒーと同じくらい入れた私を見て何故か苦い顔をするミカさん、ついでに酔い潰れかけているミズキさんがいれば不思議とそう感じてしまうのだ。
****
「たっだいま~、千束とたきなが帰りましたよ」「ただいま戻りました」
「おかえり~。お仕事は順調だった?」
扉の方から聞こえてきた元気のよい声に反応する。
見たところ千束はやはり新鮮で楽しい仕事となったようだ。
一方のたきなは慣れない仕事にか、千束のテンションにかはわからないが少々疲れているみたい。
「聞いてよ、鈴仙! たきなったらコーヒーの粉を怪しい粉の取引だと思って銃撃しようとしたんだよ。まあ私がそう見えるように怪しく演じたってのはちっとばかし悪いとは思ったけど映画みたいなことできて、楽しかった! ほかにもいろいろd」
「ちょぉっとそこのうるさいの。これから鈴仙とたきなの二人は仕事なんだから邪魔しあいの!」
「酔っ払いの方がよっぽど邪魔だと思いますけどぉ、どぉ思いますか~、ミ・ズ・キさぁん」
いつも通りに千束とミズキさんは口げんかを始める。
これも一種のコミュニケーションで互いに楽しそうに戯れている様子を見ると微笑ましいとさえ思える。
その姦しい声をBGMにリコリスの制服に腕を通す。
着替え終わるとたきなが扉の前で待っていたのか、そこで驚いた声と表情をする。
「鈴仙さん、セカンドリコリスだったんですね……」
「そうなのよ。見えないわよねぇ~」
「見えませんね……」
「む、自己紹介の時に言いましたよね? そんなことひどい言ってると怒っちゃいますよ!」
「すみません、てっきり誇張かと」
「ブツブツ……(たきなよりセカンドリコリスでいた期間長いはずなのに下に見られてるのは……)」
ミズキさんとたきなの声にむっとした気分になった後、手を地に着け項垂れ落ち込むがこれから重要な任務がある。
千束のように優しく、寛容になるんだ。
そうすればすぐ気持ちを入れ替えられるはず……
「鈴仙さん。そろそろ向かいませんか」
「……そうですね。ボディーガードの依頼をしに行きましょう」
たきなから出発を促され、先輩風吹かせられないという前途多難でビミョーな気持ちなるが、それでもめげない。座りっぱなしで凝り固まった背中や足を伸ばし、背負い鞄を持つ。
そして店を出発しようとドアに手をかける。
「二人とも喧嘩もほどほどにね」
「「喧嘩じゃないから!」」
「じゃあ、行ってきま~す!」「行ってきます」
「「いってら~!」」
そう言って私たちは仲のいい二人に見送られながらリコリコの外に出た。
<Takina side>
私たちは現在警察の依頼を聞きに来ている。
「こんにちは、鈴仙ちゃん。いつも依頼引き受けてくれてありがとうね。今日は千束ちゃんはいないのかい? 代わりに新人さんかな。これまたリコリコにいく楽しみが増えちゃったなあ。」
「こちら、今日からリコリコの店員の一人となりました、井ノ上たきなさんです!」
「井ノ上たきなです。よろしくお願いします。」
「よろしく、警視庁の阿部です。まあちょっとこっちへ」
そう言って私は軽く握手を交わしたのち、話を伺う。
この刑事さん、どうやらリコリコの常連さんらしく、時折このように依頼をするそうだ。
今回の依頼は篠原沙保里さんのボディーガード兼事情徴収。
ストーカーや脅迫の被害に遭っている女性で、曰く、刑事さんの担当じゃないため首を出しにくく、担当の人は痴情のもつれと言い取り合ってくれない、女の子同士の方が話しやすいかもとのことだった。
千束さんからは殺しじゃなく人のためになることをするのが仕事だと聞きましたが、一つ疑問が生じる。
「早速篠原さんって人のとこに行きましょう」
「あの、……こんなことしていて評価されるのでしょうか」
****
「本部へ復帰したい私にとって、ここでの仕事に意味を見いだせません。それにあのとき自分の下した判断は冷静で、合理的で……私への人事は正当だと思えません……」
独断専行したせいだっていうのはわかっている。
それでも普通なら味方が死ぬのと敵が死ぬのではどう考えても前者の方が不利益なはず。
証人を残せなかったせいでこの騒動の銃の行方がわからないといった不利益はあったが、仲間を失わない方法として最善であったはずだ。
「じゃあなんで命令無視をしてまであの子を助けてあげたの?」
「……? 仲間を助けるのは当たり前じゃないんですか?」
「でもあなたは"DA"のリコリスだったでしょ? DAのためって言うなら仲間を見捨てるのが最善だよ リコリス1人の命と街の平和ならDAは後者を選ぶ、でしょう?」
「…………ならあの時の私の行動は」
先ほどまでの優しい雰囲気とは打って変わり、過激な、でも的を射ている言葉に返答ができない。
それに仲間を見殺しにするという発想自体がなかった。
私はうつむき、黙り込んでしまう。
DAのために行動していたはずなのに、それが原因で左遷されたのか……
「銃の乱射がまずかったと思ってるならそれは違いますよ。DAの情報操作で隠蔽されてるだろうから世間に影響はないですから」
「それじゃあ無意味だったんですね……私の行動は」
DA のためにと思っていた行動が全て無意味だったと気づいて辛さが目から溢れだしそうになる。
しかし私の言葉に鈴仙は首を横に振る。
「それは違いますよ……その子を救ったんでしょ? 私だったら動けなくて何も出来ないと思うから凄いと思いましたよ」
「慰めですか?」
「褒めてるんですよ? 尊敬して。
……まあ何が言いたいかって、たきなの考え方はとっても大事でかっこよくて、好きだってことです。 それにその信念、"リコリコ"にピッタリなんじゃないですか?」
「は、はあ……?」
リコリコの信念、か……
彼女の言いたいことはよくわからなかったが、その不思議そうな顔を見る限りきっと褒めているのだろう。
……悪い気はしない。
私はあのとき最善と思う行動をした。
しかし仲間一人の命と今後行方知れずの銃によってもたらされる国民の被害の大きさを考えると果たして本当に正解だったのだろうか。
DAの役に立ちたい、認められたい、本部に戻りたい、それらは本心だ。
しかしその思いとは裏腹に DA に必要ないと言われ、左遷され、逆に鈴仙には DA に不要だった行動が好きだと言われて、困惑する。
それに鈴仙が言う信念は必要なのだろうか。
「良いことだったのは千束も、なんなら楠木さんも思ってるはずです」
「司令もですか?」
「うん。大切な自分自身の気持ちに嘘をつかないのが大事って千束が言ってた。今わからなくても、いつかきっと……」
「わかりますかね?」
「たぶんね。本部への復帰、千束より応援しますから。頑張ってね!」
「いえ、ありがとうございます、鈴仙さん……」
「あっ、あれ篠原さんじゃないですか? こっちですよ~」
リコリスとして自分の気持ちという曖昧で情に訴えかける、そんな任務には不要なものは私にはいらない、ただ合理を求める。
だからと言って仲間を見殺しにすることは、DAの損失となると今も思うし、できない。
ただDA本部のための私、今回もDA のために、一人のリコリスを助けるために引き金を引いた……。
そのせいでDAから左遷されたのに、本当に司令は認めてくれるのだろうか。
それに本当にDAのためと思っての行動だったのだろうか、本当は身勝手な自分の意思……
いけない、いけない。これから重要な仕事の途中なんだ。しっかりしなければ。
****
沙保里さんによるとSNSに写真をあげたとこと脅迫メール等があるそうだ。
私がその写真を注意深く見ると写ってはいけないものが入り込んでいた。
それはホラー的なものではなく、違法な銃の取引現場の写真であった。
場所的に私の転属の理由になった銃の取引場所だ。
それに気づくやいなや鈴仙に小声で話しかける。
「鈴仙さん、コレ……」
「……うわ、軽くホラーじゃん!? ……う~ん、たきなさん、篠原さん、ちょっと待ってください、念のため連絡とります」
そういい携帯電話を取り出す鈴仙。たぶん連絡相手は店長さんだろう。
「もしもし、ミカさん? 鈴仙です。さっきの……ああ、ミズキさんが見てくれたんですね。
それで……はい、よろしくお願いします」
『……鈴仙! もしかしてお姉ちゃんが恋しくなっちゃったぁ?』
「千束、それは卒業したって……」
『ジョークだよイッツァジョ~ク! まあ、それはおいといて沙保里さんに変わってもらえる?』
どうやら千束さんに変わったようだ。
スピーカーフォンにしていないのにも関わらずハイテンションな声が聞こえる。
「もしもし、篠原です」
『こんちわ! そこにいる二人の友達兼同僚の千束で~す♪ 今日もしよければ私もボディーガードしに行っていいですか、ずっっとひとりぼっちで今晩暇になったら寂しくて死んじゃうかもぉ……沙保里さんとたきなと仲良くなりたいですし、今晩一緒にパジャマパーティなんてどうですか?』
「千束ちゃんっていうのね、元気ね~! それじゃあ私のうちに来る?」
『えっ、いいんですか! ヤッタ~! それじゃあたきなと鈴仙の分の用意持って行きますので待っててくださ~い! 楽しみ~、うひひ♪』
「すごい元気な子ね。何だか不安も吹っ飛んじゃった♪ 今日はかわいい子たちと大いに楽しむわよ~!」
「いぇ~~~い! ほら、たきなさんも、遠慮しないで!」
「……」
今この瞬間、ここでの仕事に誇りが持てるのか少し怪しくなってきた。
苦い表情を浮かべながら不安になった。
****
私たちは待ち合わせ場所の店を出て、次の目的地である沙保里さんの家に歩を進める。今は夕日が沈み徐々に暗くなってきている。
千束さんは後に合流するらしく今はまだ喫茶店の仕事をしているらしい。
「そういえば二人は今日始めてあったの?」
沙保里さんが思い出したように私たちに話しかける。
私の評価につながるとは思えないが鈴仙さんはこれも大事な仕事の一環でミカさんはそういう細かい点も評価してくれるとのことなのでしっかり対応していく。
「はい、そうです。優秀な人たちと聞いていたのですが……」
「いや~照れますね~……って「ですが」って何ですか?!」
「いやだってあなた、私より小さいですし年下ですしぼっちって言われてましたし……」
「嫌ぁ、たきなさんが辛辣~、というか遠慮なくなった!? ……人を見た目で判断しちゃだめって言いたいけど言い返せない」
「だってそうしてほしいと言いまいたよね?」
「やっぱり仲いいね」
「早く元の仕事に戻りたい限りですよ……」
しょぼくれた様子の鈴仙を無視しながら話しているといつの間にかすっかり日が沈み夜の時間となっていた。
暗いところでは犯罪が起きやすいため周囲に注意を巡らす。
もしこの件で銃取引の重要な証拠等を見つけられたら本部に復帰できるかもという期待もあり、いつも以上に気張っている。
そんな私の様子に気づいたのか鈴仙が話しかけてきました。
「あんまり緊張しちゃだめですよ。こういう時こそ力を抜かないととっさの時に対応できないです。
周りにしっかり余裕を持って見るのが索敵のポイントです!」
「鈴仙ちゃん、格好いいね! まるで武術の達人みたい」
「え、ええ、こう見えてサバゲーやってるんですよ(棒)」
「見かけによらずアグレッシブ! 今度私もやってみようかな……」
本職がばれかけて慌てて取り繕うため視線をチラチラとどこかに向けてるように見えたけど、ややこしくなるから何も言わないでおきます。
そんなこと思いつつもセカンドリコリスで活動している期間の長いらしい先輩リコリスの話を心にとめておく。
別に緊張はしていないんですが……
話題をそらすように鈴仙さんが口を開く。
「そう言えば千束来るの遅いですね! 喫茶店に行って様子見てきます! すぐ追いつくと思うんで先いってください!」
「ああ、ちょっと、鈴仙ちゃん!」
そう言って鈴仙さんは脇道に入って行く。
こんな適当な人たちで本当に東京支部は大丈夫なのでしょうか……そう思った瞬間、携帯にメールが来た。
『ちょっと不審者いたので探ってきます! 千束に早く来てって言っといたのでそれまで待っててください。命を大事に行動お願いします』
『わかりました。』
簡潔な文に返事をし、さっきの考えを撤回し、周囲に敵がいないか注意した。
<Reisen side>
たきなから離れ、私はパーカーをかぶる。
千束には敵が近くにいるため早めに来るように、たきなには敵が来ても対応を見誤らないようにメールで連絡し、怪しい気配があったため背後を取ろうと沙保里さんたちから離れ、行動を開始した。
そこまでは良かったのにどうして……沙保里さんが人質となっているのだろうか。
私の言葉足らずだったことが原因かもしれない。
そして想定以上にたきなさんがある意味合理的な考え方の人物だったことも原因。
勝算が高く、問題ないと考えたのかもしれないが、敵は情報にしか興味なく、篠原さんのことを人質にし殺してしまう可能性を捨ててしまったのは良くない。
もしかしたら情報が最優先で篠原さんの生死のことは考慮に入れなかった……は流石にないと思うけど。
とにかく今は今起きていることにどう対応するかが大事だ。
幸いにも千束が到着してたきなに指示を出せる状態にある。
なら、私がすべきことは決まっている。千束を信じて動きを合わせるだけだ。千束たちの呼吸と意思の音を感じ、篠原さんを人質に取っているヤツの背後に立つ。
後はタイミングに合わせて引き金を引いて、流れに身を任せればいつも通りの何気ない日常(幸せ)に戻っているだろう。
そう確信しながら引き金を引いた。
パァンンン
音が共鳴する。
<Takina side>
鈴仙が離れて数分後、私は後ろの方から低速で移動するいかにも怪しい車を発見した。
私は最も合理的であると思われる方法、沙保里さんを囮として使うことを思いつく。
自分の射撃の正確さはファーストリコリスと同等かそれ以上であると自負しており、事実、前回の任務の射撃も仲間は傷ひとつ負わずに終えることができた。
今回も味方は無傷、敵は壊滅の状態にできると考え篠原さんから離れ車を誘導する。
その様子を好機とみたのか、敵は一人になった篠原さんを車の中に乗せ、抵抗できないように頭から足の方まで袋を被せた。
敵が沙保里さん携帯を取り上げ、データを削除しようとしたところで私は発砲を開始した。
まずは運転手の肩に弾が当たり、車で逃走できないようにタイヤやヘッドライトにも当てる。
続いて他のヤツに銃弾を当てようとすると横から足音が聞こえる。
新手かと思い素早く音のする方へ銃口を向けようとし、その足音の人物によって止められた。
「なぁにしてんのっ?!」
その人物はリコリコの服を着た千束さんだった。
このまま打ち続ければ打破できたのにと考えながら問いに答える。
「後ろから尾行されてたのでおびき出しました。彼らが銃の情報を持っているはずです」
「ちょぉいちょいちょい! 沙保里さんは?!」
「車の中です。彼らの目的はスマホの画像データで、沙保里さんを殺すいとはないと思います」
「人質になっちゃうでしょ!」
すると車の方から「この女がどうなってもいいのか」と聞こえた。
千束さんは「ほら~」といわんばかりの呆れ顔をしているが、そもそも私の邪魔をしていなければこんなことにはならなかったのだと言ってやりたい。
「沙保里さんに当たっちゃうでしょ」
「私ならそんな失敗はしません。ここからでも確実に射殺できます」
「鈴仙から聞いてるでしょ、命大事にって……射撃が得意ならあっちにいるドローン打っといて、音出して」
そうこうしているうちに男たちが沙保里さんを連れて車の外に脱出し始めていた。
本当なら文句の一つくらい言ってやりたいが沙保里さんが人質に取られた状況で悠長なことはできない。
私はリコリス特製のサプレッサーを外し、ドローンのカメラ目がけて発射する。
パァンンン
音が想像以上に響き渡る。
車の方を見るといつの間にか沙保里さんを人質にしていた人が膝から崩れ落ちるように静かに倒れた。
その男の後ろの影には誰かの小さい影が見える。
その小さい影は沙保里さんを優しく、それでいて素早く、音もなしに安全地帯へと運んでいった。
****
それからは千束さんの独壇場だった。
非殺傷弾という明らかに敵の無力化に向いていないエモノで近距離まで近づいて相手の弾丸をすべて難なく避けきりながら自分はすべて玉を必中させる。
尋常ではない。一体どんな動体視力しているのでしょう。
未来予知の領域にも見えるし、身体能力や反射神経も人外でないとできない動き。
今私が見た千束さんの一面は確実にどのリコリスよりも優秀であると、そう思ってしまうほどであった。
ただそれ以上に驚くことがあった。
「敵を介護するって……命大事にって敵もですか?!」
「そう敵も!」
「いや~、ごめん。血とか死体見るの苦手で、沙保里さんつれて隠れてるから後はドンパチよろしく~!」
「なら、さっき鈴仙が打って倒れた人は……!?」
「だいじょーぶ! 生きてる、生きてる。だからさっさと二人で片付けるよ!」
そう、私たちリコリスは敵の殺害を認められているにも関わらず、敵も殺さない対象であり、二人とも何らかの方法で殺さず、さらに血も流れずに敵を無力化している。
しかも普通の方法よりも短時間で、無駄なく終わらせる。
現場にあった血は私が撃った敵の運転手のものしかなかった。
その後鈴仙さんが介抱していた沙保里さんのもとへ近寄ると泣きつかれてしまった。
囮に使うという決断は間違ったものではなかったと思う。
だが、一般人をいきなり囮にしてしまったことは少し悪かったと反省せざるを得なかった。
翌日になるとまた新しい仕事が待っている。
そう思いながら私たちは布団に潜り朝を待った。
<Chisato side>
日が昇り始め、また命のありがたさを感じる。みんなで朝ご飯を食べ、幸せを噛みしめる。
いつ終わるかわからない命が今日もある。
生きている間は全力で楽しもうとテンションも上がり、いつもの私になる。
そしてつかの間の日常が待っている扉を開いた。
「おっはようございま~す!」「おはようございま~す!」「おはようございます」
「おはよう、千束、鈴仙、たきな。昨日はお疲れ様」
「おはよぉ……昨日は大変だったみたいね。イチャついた写真をひけらかすからこんなことになるのよ~」
「ミズキさぁん、妬み嫉みは醜く見えますよ~」
「イラッ 鈴仙、喧嘩なら買うわよ。そもそも SNS への無自覚な投稿がトラブルを招くって言っt……」
店に入った瞬間から酔っ払いの僻みが耳に入る。
その感情を面白がった鈴仙がミズキと悪ふざけを始める。
普段ならそんな面白そうなことなら一緒に便乗するところだが今日は違う。
な・ぜ・な・ら…… ♪
「ねぇねぇ、せんせ~! 今日はたきなが給仕服着る日だよね、絶対に似合うと思うからさ、早く服、ちょうだい! 私と鈴仙で着させるから~♪ ほら、早く、早う、ハリィアップ!」
「別に着物くらい自分で着れます。ミカさん、制服は……」
「ロッカーの中だ。慌てなくていいから着てきなさい」
そう、今日はたきなのリコリコ給仕服デビュー日!やっぱり同じ服を着て同じ場所で仕事に取り組むって一体感があって、仲間意識がより深まる。
と~っても楽しみ……なんだけど一つ不満。
「ぶー、なんだ、せっかくお着替えさせてあげられる機会だったのに……」
「と言いつつ本音は?」
「たきなのむふふなシーンをこの眼に焼き付けるってバカ! そんなことするか!」
作戦名:裸の付き合い(着替えの手伝い)で仲良くなろうよ、は阻止されてしまったが昨日のお泊まりで絆は深まったはず。
まだ焦るときじゃない、できる鷹は爪を研ぎ、来たるときまで備えるのだ!」
「千束~。 心の声ダダ漏れ~。たきなにチクっちゃお!」
「うわああ止めて! お止めになってください鈴仙様ぁ、どうかご慈悲をぉ!」
そんなおふざけをしてるうちに閉まっていた更衣室の方の扉が開き、たきなが給仕服の姿で出てきた。
「うぉほおああ! かわぃいい! 何々ちょっとぉもうむりむりちょまちょ~似合うじゃん!」
「いい感じだと思います!」
たきなは何だか困ったような微妙な顔をしていて、照れちゃってるのかな。
そのままの流れで5人で記念写真を撮る。
「改めてたきなの喫茶店リコリコデビューを記念して~。ほらミズキも鈴仙寄って!」
この写真は私の一生ものの宝物だ。
先生は優しく私たちを見守ってくれてるような優しい笑みで、ミズキは面倒くさがってしゃ~ないなぁと言わんばかりの表情で、たきなは真面目で堅くまだこの店に馴染めてない初々しい顔つきで、鈴仙はセンターを陣取ってみんなと一緒で幸せそうないい顔。
みんなの個性を詰め込んだ写真を見て心が温かくなる。
「さて、たきな! 昨日の件もそうだけどこの調子でやれば本部に復帰できるかも。私、復帰できるように応援する!」
「もちろん、私たちもだ」
「ありがとうございます。私、やってやります!」
「おお~いい返事~!」
そうだ、だってたきなはもう私たちの日常に入り込み、二度と失うことなどできない人(存在)になってしまったのだから。
だから私は願う
この大切な毎日が長く続きますように
なお、すぐにSNSに写真をアップし宣伝をしたときに、鈴仙と先生の顔が見切れてしまっていて、鈴仙が微妙に落ち込んでしまって先生に慰められていたのを目撃してしまった。
ほっぺを膨らませてかわいかったので影に隠れニヤニヤしていると見つかってしまい追いかけられたのはここだけの話。
今回の作品は本編13話、過去編12話の予定で執筆しており、
「本編第1話と過去編外伝1の内容がリンクしている」と言った感じなので、
本編1→過去1→本編2→過去2→……のような見方もありですし、
本編完結後に過去編の一気読みやその逆に過去編完結後に本編の一気読みもありです。
できるだけ毎日1話ずつ投稿頑張らせていただきます。