フィークス・G・リコイル   作:桃玉

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第3話

<Takina side>

 

リコリコに来て数ヶ月が過ぎ、騒がしい毎日を騒がしい彼女たちと日々を過ごしている。

しかし未だにこの環境にも仲間にも馴染めず、馴染もうともせず、ひたすら職務を全うする毎日。

そうしなければリコリスとしての存在価値が薄まりそうな気がして、どこか恐ろしく感じる自分がいた。

 

その恐怖は日を重ねるごとに強くなり、その考えを払拭しようとさらに仕事に精を出す。

同時に私の存在理由であるDAのための仕事をして、早く復帰したいという思いも強くなる。

だから私の得意としている急所を狙う仕事も難易度の高い殺害依頼を多くこなせばDAへの復帰は早まると思い希望したが、なかなかそのような仕事はない。

 

私たち孤児を育ててくれたDAに想いは帰結し、帰還命令を心から待ち望んでいる。

そんな DA の役に立ちたいと思っているリコリスにとって情と無駄の多いこの場所での仕事は合わない。

DAでの仕事の方がリコリスである私には合っている。

 

とはいえ、リコリコでの仕事を疎かにするわけではない。

今日も今日とて嫌々ながらも慣れ始めてきた生活が始まる。

朝早く起床し、清々しい心意気のままに職場へ足を走らせる。喫茶店に着き、店の制服に袖を通すと仕事のスイッチが入る。

 

「たきな~! お店開けるよ~!」

「はい! 今行きます」

 

営業までの準備をしているうちに徐々に職場の同僚の顔ぶれがそろい始め、最後に千束の溌剌とした声が店内に響き渡る。

今の私がすべきことはDAに認めてもらえるようにここでの仕事に力を入れること、そんな考えで私は今日も仕事をこなす。

 

 

****

 

 

日が西の空へ消え始め、今日の営業の時間が終わる。

外の看板はCLOSEに裏返り、私はレジの整理を始める。

しかしそんな中、店には私たち店員以外にも多くの人が集っていた。

 

「というわけで、閉店ボドゲ会スタートっ!!」

「ババ抜きやりましょ、BBA抜き! ミズキさん抜きで」

「何だとぉ、上等じゃコラ! この情報の鬼と言われた私に勝負ふっかけたこと後悔しろお!!」

「じゃあ順番決めるぞ~」

 

千束の宣言に常連さんから歓声が上がる。

鈴仙の挑発にゆっくりとお酒をちびちび飲んでいたミズキさんが食いつき、おちょこの中にある酒を一気飲みして完全に出来上がった状態で会場に向かう。

そしてそれになぜかノリノリなクルミが仕切り出す。

私はその騒がしい方を気にせずにレジ係としての業務を続ける。

 

「ね~え、たきなも一緒にやろうよ~」

「いえ、結構です」

 

馴れ合うつもりはない。

そのような非効率的なことをして店長から評価されようともDA復帰の評価につながるとも思えない。

それに今は上司の誘いだからといって飲み会に半ば強制的に付き合わされるような時代じゃない。

私はその誘いに断りを入れる。

 

「混ざってきたらどうだ」

「そうすればDAに戻れますか」

 

店長さんの言葉にも冷たく返す。

彼からは年相応の子供らしく楽しい事をしてほしいと言われていたがまったく気乗りしない。

ここで私が参加することに意味を見いだせない、命令ならまだしも。

それに私の活動がこんなところで評価されることはないし、評価されたとしてもそれは DA の復帰につながるようなものではない。

だからいつも通り冷たくあしらう。

……なのに、どうしてこの人たちは絡んでくるのだろうか、私と仲良くしたがるのだろうか。

 

「ね~え~たきな~! 一緒にゲームやろ! ねっ」

「……もう帰ります」

「じゃあ明日は?」

「明日は定休日ですよ。着替えるんで」

 

そう言って私はドアの前にいた千束を退け、着替えるためにドアを閉めた。

無駄で面倒くさいことに付き合わせようとするのをやめてほしい。

私にはとってDAの復帰以外のことはどうでもよく、そんな遊びをしたところで楽しくもない。

命の恩人兼育ての親がいる冷たい暗殺部隊本部への復帰への意志は固い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Reisen side>

ある雨模様の日、私と千束とたきなの三人は電車に揺られ、DA本部に向かっていた。

目的は、千束はリコリスのライセンス更新、たきなは楠木司令に直談判、私は暇潰s千束の監視役。

 

本当は先週の休日にすでにライセンスの更新は済ませてきたので二人と一緒には行かないつもりだったのだか、千束がライセンス更新の最終日である今日までほったらかしにしており、それを聞きつけたたきなが一緒にDA本部に連れて行ってくださいと持ちかけてきたのが事の発端だ。

ライセンスの更新や訓練と言ったリコリスとしての義務のようなものを除けばお世話になった一人の先輩に挨拶するくらいしか用事がなく、先週行ったばかりでもう一度挨拶しにいくのも何だかなと思い行くのを躊躇っていた。

 

しかしミカさんから「こっちのことは私とミズキ、それからクルミに任せて、年齢が近いもの同士楽しんできなさい。どうせ暇だしな。あと千束の監視も頼んだ」と言われ、渋々了解し二人と一緒に電車に乗り込む。

その時に「ボクに手伝わせる気か!?」と文句を垂れていたリスがいたが気にしないで、どうせならミカさんの言うとおり電車の揺れと話に花を咲かせることを楽しもうと出かけた。

 

しかし今日の天気は生憎の雨。

仄暗く、灰色の空は見てるだけで気分が下がる。

濡れた地面を歩き、指定の座席に座る。

窓側に二人が向かい合う形で座り、私は千束の横に座る。

その移動の途中で千束が天気にケチつけながら飴をなめようとする。

 

「はぁ~あ、ただでさえあそこに行きたくないのに、こんなどんよりした雲見てるとやる気起きねぇ体動かしたくねぇ寝ててぇの三拍子……甘いものでも」

「雨だから飴でも? なんて、食べたら先生に言いつけるよ」

「えぇ~! でも、ちょっと一個くらい私のやる気スイッチを押すと思って、鈴仙さま~!」

「千束さん、健康診断の前の糖分摂取は血糖、中性脂肪、肝機能等の測定に影響が出ます。今食べようとする気持ちが変わらないなら糖に関する周辺知識を小一時間話して食欲を削ぐ必要があると警告しておきます」

「ぁぁ……はぁぃ」

 

千束が肩をがっくりと落として元気のない様子で返事をする。

お目付役のようなものを任された身である私は役立たず。

代わりにたきながその役目をやってるため楽チンだ。

 

助かってるからこの調子でよろしく!と、強力な助っ人の登場に私はたきなに向けてサムズアップをビシッと決める。

その時直談判の言葉を考えるためにメモ帳に釘付けだったたきなに無視され少しへこんだ。

たきなはそんなこと気にせず、というか気づかずに黙々とペンを走らせ、千束のテンションは低迷中。

全く会話が弾まず詰まらない。

 

その後も会話と静寂が交互に繰り返す…… 楽しいとは言えない時間が過ぎていく。

それもこれも雨のせいなのかな。

 

 

****

 

 

電車を乗り継ぎ、迎えの車に乗り、とある山の奥に位置し厳重な警備・警戒態勢を敷いている目的の場所、DAの本部に到着した。

 

入り口には監視カメラがあり、私たちを見張っている、そんな圧迫感が息苦しい。

そんな入口を通過し、荷物検査、身体検査をクリアした私たちは受付をする。

用件を伝え、どこに行くべきかの指示を聞いている千束とたきな。

説明をする受付の声以外にも様々な声が聞こえてくる。

他愛もない世間話、これから行う任務の情報交換、恋愛相談、そして聞きたくもない虚偽や悪意。

悪意に満ちた言葉のせいで気分が悪くなる。

そんな私に構うことなく、なおも醜く歪んで嘲笑っているヤツらの口から悪意が垂れ流される。

 

「味方殺しの……」「DA 追い出されたんでしょ?」「組んだのみんな病院送りにするんだ

って」「恐ろし」「指令無視したんだって」「えっ、なんでそんなことするの」

 

「……何だあ、あいつらあ」

 

千束もその声に気づいて顔をしかめる。

私もたきなのことを何も知らないような奴らに悪口叩かれるのを黙って見ているだけでは面白くない。

口を挟もうか、足を動かそうか、手をあげようか、そう思い顔を顰めていると、たきなは顔を暗くしその場から離れようと背を向ける。

 

「……私訓練所に行ってます」

「ちょ、ちょっと、たきなぁ!」」

 

一瞬千束と誰かの声が重なる。

何だと疑問に思いその声がした方へ顔を向けると名も知らない一人の少女がどこか陰な雰囲気を纏いながらいた。

しかし誰かも知らない人の声も千束の伸ばした腕もたきなには響くことなく虚しく空振る。

たきなは声が届かない距離まで逃げるように走って行った。

 

「……追いかけないの?」

 

名前も知らない少女の方に顔を向けると気まずくなったのか顔を背けどこかに去ってしまった。

千束の方に顔を向け直すと悲しそうな顔をしながら首を横に振る。

 

「きっと今のたきなには一人の時間が必要……私たちが頼りないと思われているのは、ちょっと悲しいけど今は自由にさせてあげたいんだ……。もしDA に戻りたいって気持ちがあるなら、尊重したいし、協力するって言ったしね。ただ……」

「ただ……?」

「……たきなはDAに戻りたがってるけどさぁ、ここに戻るのは本当にたきなのためになるのかなって。わかるでしょ? ホントなんでここがいいかなぁ……?」

「そりゃ、わかってるつもりだけどさぁ~」

「でも鈴仙はたきなの復帰に協力するんでしょ?」

「うん……」

 

私とは違う千束がまぶしく感じる。

自分のしたいこと最優先なのに、人を思いやり、押し付けがましくない、その心が好きだ。

刹那的に生き、良く生きようとするその精神が好きだ。

 

「……もぉ~眉間にしわ寄せない難しく考えない、本当に助けが必要になったら私が行くから心配すんなって!」

「そう、だね」

 

ちょっと考えが食い違っていたから頬を掻きつつ曖昧に返事をする。

そんな私の返事に満足したのか「よろしい!」と言おうとした千束。

それが誰かの声で遮られる。

 

「うっせーぞ、千束!」

 

その声がする方を見ると唯一お世話になった先輩の春川フキさんがそこにいた。

 

 

****

 

 

「ああ! フキー! 久しぶり~! 元気してた?」

「……オマエは相変わらず脳天気そうな面してんな」

「ええ、元気でやらせてもらってますよぉ? リ・コ・リ・コ・で♪」

「オマエ……ッ! いちいち私をムカつかせるような言動とらなきゃ話せねえのか? ああんっ?」

「んなわきゃないでしょ! あんたが売ったケンカだろぉん?」

「いつ私がケンカ売ったって? 大体な! 廊下で騒ぎ立てんな! 鈴仙も困ってんだろ!」

「いつ、誰のせいで、困ってるんでしょうねぇ!」

「いま、オマエのせいでだよ!」

「何だぁ? やんのかコラぁ?」

「上等だ、かかってこいや!」

 

このやりとりも、もはや恒例行事のようなもので、この二人が鉢合わせると毎回毎回ケンカが勃発する。

初めて見たときはあわあわして何もできず眺めていることしかできなかったが、数えるのを諦めたほど体験した。

つまりこの状況の対処方法は……

 

「二人とも仲いいですね!」

「良くないわッ!!」「良くねぇよッ!!」

 

ケンカするほど仲がいいとはいうがここまで面白い二人もそうそういないだろう。

どうやらフキさんも千束と同様ライセンスの更新手続きに来たらしい。

手続きが終わり、更衣室に向かう。

 

「……鈴仙、また痩せたか?」

「近所のおばちゃんみたいなこというのやめてくださいよ~! 痩せてません! むしろ太ったくらいです!」

「そか、ならよかったが……そんで、オマエら、ここに何しに来た?」

「何か用事なきゃ来ちゃ駄目なんか? ああn「千束はライセンスの更新です。私はそのお目付役で……」」

「チッ……やっぱそーか。ったく、オマエノ相棒は自己管理ができてねぇから大変だな。頑張れよ」

「ありがとうございm「あれれぇ~? おかしいぞぉ~? しっかり者のフキさんも最終日の今日ライセンスの更新なんですって!」」

「うっせ。テメェとは違ってちゃんと忙しかったんだ。……なんだ、たきなも来てただろ?アイツは?」

「あ、はい! 何か楠木司令に直談判してDAに戻してもらおうって……」

 

その言葉を聞いた瞬間、フキさんの口から大きなため息が吐かれる。

 

「チッ、あのバカ……どうせそんなこったろうと思ったよ」

「そう、何でこんな冷たい場所がいいんだろね?」

 

千束が含みのある言い方をする。

さっき聞いた悪口について、それでもDAに戻りたいって理由がわからないってことじゃない。

言ってしまえばDAに対する批判が含まれた言葉だ。

 

「……陰口のことは正直聞いてて気分がいいもんじゃねぇ、が、命令無視に機関銃を仲間がいる方に向けて炸裂させたのはそれだけのことをしでかしたってことだ。アイツの自業自得だろ」

「む、そんな言い方ないでしょ!」

「事実だ。……だが、そのことを自分のせいだって根詰めすぎて任務に影響が出そうなヤツもいる。さっき会ったろ?」

「ああ、たきなのこと呼び止めようとしてたあの子か……」

 

一瞬嫌な顔をした千束だったが、中にはたきなのことを理解して苦しんでいる優しい人もいると知って、玉石混交なある意味正常な社会の在り方に、自業自得という言葉について難しく考える。

 

「その子、たきなのおかげで助かったって子ですか?」

「ああ、エリカは……あの一件以来不安定な部分がある。私がオマエのせいじゃねぇっつっても効かねえんだ」

 

命令無視して機関銃を味方に向け殺しかけたというのも敵を倒し味方を救ったというのも真実。

事実はモノの見方によって移ろいでしまうが、きっとそのエリカという子は自分のミスのせいで迷惑をかけ、左遷させてしまい、傷つけてしまったという真実にたどり着いたんだろう。

思考を巡らせているといつの間にか更衣室の前に着いていた。

 

「……なあ、暇な時にでも行ってくれねぇか?」

「機会があったら、ですかね」

 

フキさんが目配せする。

対する私の返答は微妙……人付き合いが苦手だから確約はできないけど、それでも暇だったら……

と、考えていると千束が何かひらめいたように手をポンとし、嬉々としてしゃべり始める。

 

「そうだっ! 鈴仙もさ、このまま一緒に着替えてさ、走ろうよっ! ねっ!」

「そ、それはちょっと……」

「え~、でも運動不足でしょ?」

「そ、そうかもだけどぉ……」

「そうだな……運動は大事だぞ?」

「フキさんまでっ!? ご、ご勘弁を~~……!」

 

瞬発力ならともかく、シャトルランとか持久走とか、死ぬほど嫌い。

それに更衣室に入った瞬間身ぐるみ剥がされて二人のおもちゃになるのは目に見えている。

私は逃げるように更衣室に入っていく二人の先輩から離れた。

 

さて……これからどうしようかなぁ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Erika side>

 

私、蛇ノ目エリカは二ヶ月前のあの日、本来なら死んでいたかもしれない。

でもたきなのおかげで無事に生き延びることができ、今日も体は健康そのもので過ごすことができている。

……それなのにとても最悪な気分がここ二ヶ月間、ずっと続いている。

 

もちろんたきなには感謝しているし、今生きていることにありがたみも感じる。

そしてさっき、命の恩人を久しぶりに見かけ、嬉しい気持ちが出てくる。

私のせいでDAから外されたと聞いてから罪悪感を覚えないない日はなかったけど、このときばかりは元気そうなたきなを見てDAに復帰するのかと思い気持ちが軽くなった。

 

でも結局その気持ちが続くことはなく、たきなに声をかけられず、お礼も言えないまま、今に至る私は最低だと自己嫌悪に陥ってしまう。

そのことに加え、たきなも聞いてしまった悪い噂を止めることができず、その陰口のせいでツラそうに堪えているたきなを見て引け目に感じ、話しかけられなかった。

この事実が私の胸の奥底でズンッと重くのしかかっている。

 

そんな罪悪感で押しつぶされそうなとき携帯から電話の着信音が聞こえた。

画面を開いて、発信元を見ると「フキさん」と名前が表示されている。

ほとんど任務のこと以外で電話をすることのない、というより直接話す機会が多いため久しぶりかつ突然の電話に驚きつつも、耳に当てる。

 

「もしもし……」

『……今大丈夫そうか?』

「はい、大丈夫、です……でも、その……どうしましたか?」

『ああ、実は、ここにたきなの転属先のリコリスが来てんだ。んで、その、なんだ……たぶん、お前のとこに行くかもしれねぇからそんときは相手してやってくれ』

 

フキさんからたきなという名前が出た瞬間、私の心臓がドキリと跳ね上がる。

何も心の準備もできていない状態で、罪悪感がズシリと心にのしかかる。

断ろうかと思った。

 

「あ、あの……!」

『ん? どうした?』

「いえ、その、何でもないです……」

 

しかし言い出せない。

感情が逃げ出したくて逃げ出したくて堪らないのに、心がそれを止める。

ここで逃げたら自分を許せなくなるとでも無意識に思ったのだろうか……

『……そうか。あんまり自分を責めんなよ?』

 

電話が切られ、フキさんの心配そうな声が聞こえなくなる。

みんなに心配してもらって申し訳ない気持ちもある。

でもそれ以上にたきなに申し訳なくって……

 

 

****

 

 

自室の部屋の扉をノックする音が聞こえる。

普段ならルームメイトの篝ヒバナだけしかドアを開けない、つまりフキさんの言っていた人かもしれない。

暗い気持ちを切り替え表面だけでも取り繕い、ノックしてきた人を確認する。

きっとフキさんの知り合いでたきなの先輩なら私より大人びている年上の女性が来るのかな……なんて思いつつ扉を開けると予想外。

 

「あ、あの……こんにちは?」

「……こんにちは」

 

私どころかフキさんより小柄な女の子がいた。

その子の制服の色を見て私と同じセカンドリコリスであることがわかり、ギャップに驚いて口を開けぽかんと呆けそうになるが、今のたきなの状況を知りたい気持ち、特に幸せを願う気持ちが強く、早く話を聞きたかった。

 

「とりあえず、どうぞ、こっちに……」

「あ、す、すみません!」

 

私以上に緊張しているその子はキョロキョロと周囲を見渡して、落ち着きのない様子でいた。

どこか小動物のような雰囲気でかわいらしい。

 

「あの! ……フキさんから聞きました。たきなと同じところで働いてるって……」

「は、はい! 鈴仙と言います……エリカさん」

「たきなは、元気にやってますか……?」

「……DA 支部、リコリコって言うんですけどね、そこでは毎日仕事熱心ですし、飲み込みも早くて……ただ、DAに復帰したいって」

「そっか……」

 

静寂が訪れる。

気まずさとたきなに対する罪悪感で息が詰まる。

その静寂をかき消すように勢いよくドアが開く。

 

「エリカ! たきなが来てるって……その子だれ?」

「えっと、たきなの転属先の人」

「ど、どうも」

「ふーん、この子が……」

 

現れたヒバナが不躾にまじまじと鈴仙を観察するように見る。

鈴仙が恥ずかしそうに視線をそらす。

 

「あなた……もしかしてフキさんと昔ペアだった子?」

「え、ええ、まあ、一月も組んでませんが……」

「やっぱり~そうだと思ったんだよねー! 昔模擬戦見たけど凄かったよね……ってそうじゃない。たきなが模擬戦するらしいよ!」

「模擬戦?」

「うん、そう。たきなが勝ったら復帰するのかも! だから見に行かない?」

 

たきなが戻ってくる。

その言葉を聞いた瞬間、俯いていた顔が少し上がる。

その顔で鈴仙の方を見ると私とは逆に顔が俯き、影が差していた。

 

「……鈴仙?」

「あの……たきなは、まだ、戻れないと、思います」

「それ、どういうことよ?」

 

その言葉に驚き何も言えなくなる私の代わりにヒバナが聞き返す。

 

「たきなが左遷された理由は……きっと、独断専行が一番の原因じゃないと、思うんです」

「それ、どういうことっ!?」

 

私は思わず声を荒げ立ち上がってしまう。

私は、たきなが機関銃を撃って敵を殲滅して、情報が得られなかったから左遷されたのかと、私のせいでそうなったのかと思っていたのに、訳がわからなかった。

 

「私、ミカさんと司令の話、聞いちゃったんです。……銃取引の存在自体があのときなかったって……だったらたきなが敵を殺しても、情報は得られなかった……つまり、その、DAが、ラジアータが情報を誤ったという不都合を上層部に隠蔽するために、そうしたんじゃないかなって、思うんです」

「……たきなは、帰ってこれないの? 楠木司令に言っても?」

「無駄だと、思います……」

「そんなっ……たきながあの時一番……なのにこんなことってある?」

「エリカ、泣かないでよ……あんたのせいじゃないって」

「でも……でも……!」

 

次の言葉を探すが頭が真っ白になり何も浮かばない。

代わりに目からポロリと涙がこぼれ、それを隠そうと顔を手で覆う。

無力感や罪悪感で、胸が痛い。

そこに優しい声が流れ込んでくる。

その赤い瞳に覗き込まれ何だか吸い込まれそうになる。

 

「……私はDAのリコリスのことは何も知りません。でも、リコリコのみんなのことなら誰よりも知ってる。……たきなはDAのために、貴女のために、平和のために、って理由で行動したのかもしれないけど、それだけじゃない。いっつも自分の正しいことを信じて自分の行動原理に従って、何より自分の意思で決めたことなんだ。……だからエリカさんには泣かないでほしい……たきなの意思を否定しないでほしい」

 

さっきまでのオドオドとした雰囲気はなくなり、まるで別人みたいだ。

その言葉は私を慰めることなく、でも、私のくよくよした考えを捨て去るには十分だった。

涙が止まり、まだ謝れていないという罪悪感は残っているものの、晴れやかな気分になる。

 

「本当ならDAに戻ってきてほしいなぁ」

「私も、DAに戻ってほしいって、そう思います。でも、電波塔のリコリス(千束)もDAのリコリス(フキさん)も複雑な思いはあるけど、たきなを思って……」

「そっか、戻れないのか~……残念だな、エリカ?」

「も~、揶揄わないで!」

 

心の憑きものが剥がれ落ち、少し元気になった。

そんな様子を見てヒバナがニヤニヤして少しウザったい。

 

「……それで、模擬戦、見に行く?」

「うん! 行く! 鈴仙は?」

「私は……お迎えの車、手配しないと」

「そっか、残念」

「そ、それじゃ……!」

「今度来たときはちゃんと歓迎するから、また来てね」

 

人見知りが戻ったのか体を小さくし、ドアまで行き小さく手を振って出て行った。

直後、さっきまでの嵐のような体験を思いだし、ふふっと笑う。

 

「いいやつだったね。かわいいし」

「そうだね……優しい子だね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Takina side>

 

リコリスなら誰しもDAのために最善を尽くそうと行動するだろう。

かく言う私も今までDAのために最善を尽くそうと行動し続けた。

その結果、私は京都からDAの本部がある東京への転属が決まった。

 

あの時の嬉しさと言ったら、親に認められ、褒められ、仲間に祝福され、人生の絶頂だった。

同時に親からの期待を感じとり、期待を応えたいという気持ちが膨らんだ。

いつの間にか期待に応えることが義務となり、責任を感じ、気づかないうちに重圧となっていた。

東京に来て、顔馴染みもおらず、頼る人もいない私はただひたすらDA の期待に応えるために、合理的で冷静たろうとして感情を押し殺し、同僚と馴染もうとせずに、ただひたすら最善を突き進んだ。

おす、期待に応えたかっただけなのに……

「あんたの席はもうないっすよ」

やめて……

 

「復帰……そんなことを言った覚えはない」

信じてたのに、そんなこと言わないで……

 

「諦めろって言われてるのまだわからないっすか?」

違う!

私は頑張って……

 

「あの時ぶん殴られたので理解してなかったのか? だったら言葉にしてやる」

もう、何も言わないで……

 

「お前はもうDAには必要ないんだよ!」

 

わかりたくなかったのに理解してしまう。

私は期待も何もされていなかった。

独断での行動が多かったから、統率を乱し同僚の言葉に耳を傾けなかったから、一方的で邪魔で疎ましい私は誰にも必要とされていなかった。

 

親の期待に応えたい一心だったのに、余計なことをするなと頭ごなしに言われ、頭が真っ白になる。

果ての無い暗闇に堕ちて、自力で戻れない。

 

誰も手を伸ばしてくれない。

腕を振り払われ、家族に捨てられたような喪失感に襲われ、さらに深く絶望に堕ちる。

 

こんな悪夢、早く覚めてほしいと思って走っても、藻掻いても、目は覚めない。

 

誰か、助け……

 

 

****

 

 

「ここにいたんだ」

 

残酷な悪夢が非情な現実に戻る。

夢や希望の象徴として色鮮やかだった思い出の場所が、今は無機質な白黒に見える。

その場所、噴水からは静かに水が出ており、そして私の後ろから千束さんの声が聞こえるが振り返れない。

 

「……綺麗だよね、噴水」

 

意識が明確になるにつれ悲しさが溢れてくる。

DAに拾われた私たちリコリスにとって、ここの寮でくれることが憧れ。

ここが目標だった……

 

「制服に袖を通したとき、私も、うれしかった。……そんな意外そうな顔しないでよ、みんな最初は同じだよ」

「……DA に必要とされているあなたにはわからないですよ、今の私の気持ちなんて。…… 自分の意思でここを捨てたあなたにはわからない! 私はこの場所以外で私自信に価値を、意味を見いだせない! ここが全てで、ここでしか必要とされない、ここでだけ必要とされればいい、そう思って今までやってきた……のに私は居場所を私は奪われた……!」

 

私にはもう、居場所がない…… 私は千束と違ってここだけが拠所だった。

だから必要とされなくなった私に価値はなく、死んだも同然だ。

思えば思うほど悲しく、つらく、眼が熱くなる。

ただの八つ当たりで、でも、全部自分の失敗のせいだってわかっていて、それで期待もされてなくって、それでも壊れた心から濁流は押し寄せてくる。

 

「……ごめんなさい」

 

体を背け、目の前がぼやける。ぽつりと情けなさがこぼれる。

そんな私の肩の辺りにひとつの温かい小さな手が置かれ、不思議な感じがして、激しく流れていた感情が落ち着いてくる。

 

「たきなのことを必要としている人は町中にたくさんいる。私も鈴仙もみんなたきなが必要なんだ……。居場所はある。お店のみんなとの時間を試してみない? それでもここがよかったら戻ってくればいい」

 

千束の言葉が私の心を揺さぶる。

私の体は千束にふわりと私全体を覆うように抱擁され動かなくなる。

その腕と胸から伝わる血液の優しい暖かさがやってくる。

 

「……たきな、今は次に進むとき。誰かの期待に応えるために悲しくなるなんてつまんないって。たきながあの時ああしてなかったら、私たちは出会えてなかったよ。失ってできた意味もあるって。じゃなきゃ私はたきなと出会えなかった」

 

私の凝り固まった価値観が崩れていく。

初めて会ったとき、千束は旧電波塔が壊れてできた意味もあるという言葉を思い出す。

あの時も、そして今もその意味がわからないが、今は不思議と悪い気がせず、胸が熱くなるのを感じる。

私の行動がなかったら、仲間を失い、この出会いもなかった。

その言葉を反芻していると急な浮遊感を覚える。

持ち上げられた体に外からの光が当たる。

 

「私は君と会えてうれしい! うれしい うれしいっ!!」

 

暗闇から今、引っ張りあげられた。

そのまま千束は私を抱え、くるくると回る。

鮮やかに千束の色が戻る。

その顔はひどく眩しく輝いて暗闇を照らし、冷たさを和らげる。

 

「遅くない、まだ途中だよ。チャンスは必ず来る。そのときしたいことを選べばいい。…… 私はいつもやりたいこと最・優・先! 今は、たきなに酷いこといったあいつらをぶちのめしたいのでぇ、ちょっと行ってきますよ」

 

千束は演習場の方へ行った。

まだうまく状況を整理することができずにその背中を、千束が歩いて行ったことで色付いた道を眺める。『一四○○で状況演習を開始。リコリス各員は当該時間までにキルハウスブースに集合してください。繰り返します……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Reisen side>

 

千束とフキさんとあと……誰だっけ? の戦闘が開始する。

でもそこにたきなはいなかった。

 

千束ならたきながいなくても数分もしないうちに終わらせられる。

そのはずなのに何故か戦闘の音は途切れない。

フキさんが予想以上に粘っているのか、それとも千束が不調なのか。

どちらかの理由が当てはまっていたとしてももっと重要な理由がある。

 

千束はたきなのことを待ってるんだ……!

 

だから私もたきなが来るのを待ってる。

伝えなきゃいけないこともある。

戦闘の音に耳を澄ませているとその音に混じってようやく別の足音も聞こえてきた。

その足音は私の方、戦場に近づいて、やがて私の前で止まる。

 

「鈴仙さん……」

 

たきなの綺麗に透き通った声が聞こえる。

 

「千束が待ってるみたいだけど、行くんでしょ?」

「はい!」

 

一切の曇りなし、色褪せた世界に鮮やかさに彩られたかのような晴れやかな返事だ。

DAのためじゃない、自分の思い。

少しずつ自覚し始めたその思いは自分が閉じこもっていた殻を破り捨て、羽化した。

その瞳には決意の色が見え、やる気に満ちあふれた目だった。

 

「ヒーローは遅れて登場するもんだよ。……だから絶対勝ってきて!」

「ええ、もちろん。ヒーローではありませんが、勝ってきます、鈴仙」

 

私たち、リコリスに降り注ぐ多くの理不尽。その理不尽は仕方がない、耐えなければならない。

だって、他の一般の人たちが幸せを享受できるように私たちがいる。

私たちが不幸を背負い込むことで平和が維持されている。

そしてたきなは理不尽を押しつけられた。

その理不尽は耐えても報われることなどなく、不条理を跳ね返すこともできなかった。

でも今は違う、不幸を跳ね返し、幸福を手に入れようとしている真っ最中なのだから。

 

「行ってらっしゃい、たきな」

 

すでに見えなくなったその背中に向けてエールを送る。

人を助けるんだという思いため殺さない千束と人が殺されるのが苦手な私がいるリコリコにくるのなら、たきなにもそれなりの覚悟と強さが必要だ。

如何なる時でも殺さずに解決するという覚悟と最低でも死なない程度の強さがあるとなら、まずはここで勝って、そのことを証明してもらわないとね。

といいつつ今回の戦いの勝敗に不安はない。後は私たちの居場所、リコリコへ帰るだけ。

 

さて、二人のことは心配せずに帰りの準備をしておこうかな……

 

 

****

 

 

今回の勝負は千束の卓越した洞察力で相手の射線と射撃タイミングを見抜く程度の能力とたきなの途中参加からのフキさんに拳を叩き込むという想定外の動きを取り入れることによるファインプレイで、結果圧勝だった。

逆に、そうじゃないと今後不安だし、私が困っちゃう。

 

「た~きな~、迎えの車来たって!」

「私が手配しておきました」グッ

 

千束の呼ぶ声にたきなが振り向くと、私はドヤ顔で親指をあげる。

たきなは慣れない感じで親指を上げ、DAに背中を向けて、私たちの方に足を前に動かす。

その途中、フキさんが現れる。

 

「……お前、模擬戦なんだぞ。後ろから打てばよかったんだ。それを突っ込んできて殴るなんて馬鹿げてる」

「これでお相子ですね」

「チッ、やっぱりお前使い物にならねえリコリスだよ! 命令違反に独断行動、二度と戻ってくんじゃねえ!」

「おいてっちゃうぞ~! おいていかなけど!」

 

たきなはにやりと笑い、千束の声の方へ駆け出す。

 

フキさんは千束曰くこれでもかと言うほど優しく、真面目で嫌みなムカつく、自分とは全く違うタイプの人間。

千束はフキさん曰くこれでもかと言うほど強くて、ムカつく無自覚人たらしで自分とは全く違うタイプの人間。

絶対二人は認めないけど似たもの同士だなって思う。

……フキさんが捻くれて、素直じゃないのは間違いないし、そこは千束と同感だけど。

 

そんなフキさんを見て、今、千束が影の方でボソッと「もっと素直になればいいのに……」とほっぺを膨らませている。

もしかしてどっかでたきなをDAに未練なくリコリコに行かせるように口裏合わせしてたのかな?

……いや、たぶんない。

どっちかって言うと「たきなは DA にいらねえよ!(個人的には気に入っているが……)」

「あーそうですか! なら私がもらっちゃいますー!」「「……決闘じゃコラッ!!」」って流れの方が自然だ。

容易に想像できる展開に思わず吹き出してしまう。

 

「何だぁ? 今私のほう見て変なこと想像してなかった~?」

「い、いや、何も考えてない、よ?」

 

さすがファースト、何だかんだ言って連携が上手なこって……とか思ってませんよ?にしても千束もなんだかんだ素直じゃないなぁ……

 

私たちは迎えの車に乗り込む。

そのときに聞いた言葉は遠く離れている私にも聞こえるほどだった。

たきな、ここには冷たいヤツばっかしかいないと思ってたけど、やっぱりそんなことないね。

もし、まだDAに戻りたいなら、その時は今度こそ私が後押ししてあげよう。

だって少なくても二人は貴女の仲間がいるみたいだしね。

 

 

次はぜってえ負けねえ!!

ありがとう、たきな、鈴仙!

 

 

****

 

 

戻ることへの執着が消え去った古巣を背にし、車から下り、電車に乗り換える。

帰りの席はたきなと交換したせいで少し距離を感じさみしさを感じる。

何で、行きと帰りで席が違うのだろう……

ふと空を見ると紅くまぶしく輝く夕日が沈みつつある。

 

「鈴仙、そんなにふて腐れないでください」

「ふて腐れてなんかいませーん」

 

「……たきなさぁ」

「何です?」

「私を狙って撃ったろ、ん」

 

千束は飴を突き出すようにたきなの方に伸ばす。

千束を放って話したことか、それとも狙って撃ったことか、そのせいで拗ねてる様子で、短

い言葉で千束は言葉を句切り、たきなは渡された飴を受け取り、口に放り込む。

 

「……きっと避けると思いましたから。そこが不思議で、それ以上に非常識な人ですよ、千束は……」

「……でも、スカッとしたな!」

 

千束はにかっとその笑顔を向ける。

 

「ええ」

 

たきなはその笑顔に対してにやりと、したしてやったり顔を見せた。

乗り始めて初めて見せた顔をみてずいぶんと表情豊かになったと感じる。

以前は驚くようなことはあっても喜怒哀楽をあまり見せなかったのに。

 

「凄く、輝いてる(いい顔してる)ね」

「もちろん、ムカつく相手を殴り飛ばして負かしてやりましたから」

 

文字通り理不尽を相手に殴りつけてやったたきなの清々しい顔。

その瞳に映る夕日の輝きが反射してまぶしかった。

日が沈みきったとしても光で付いた瞳の焔は燃え続ける、私が好きな目だ。

 

 

****

 

 

ピロン

千束の携帯から着信音が鳴る。

 

「おお? 誰だ誰だ先生たちからだぁ! 二人とも見てみ」

「なになに?」

 

そう言って私たちは千束の携帯をのぞき込む。

『ボドゲ大会、延長戦中! 間に合いそうなら返信PLZZZ!』クルミからどや顔コロンビアポーズ写真付きの連絡が送られてきた。

クルミのしてやったり顔は、純粋に楽しんでいるような顔だけどポーズ的にズルしたのかな?

クルミの顔と周りに写る参加者の悔しさと楽しさが混じる顔を見て今すぐにでも混ざりたいという気持ちが高まる。

 

「どぉする?」

「もちろん参加で! たきなは~?」

 

私と千束の顔が期待に染まり、たきなの反応を伺う。

少し考えた様子のたきなの口が開く。

 

「……帰ってからが楽しみですね」

「「つまり、参加するってこと!?」」

「はい」

「鈴仙隊員!」

「了解ですっ、隊長!」

 

私は隊長の意図を察して携帯のボタンを押す。

私と夕日に照らされて儚げに写る少女二人の写真を送った。

 

「ホント不思議な人たちです……」

 

たきなが呆れたような言い方をするが、その顔は静かな夕日の輝きと同じで、千束の輝きと変わりないように見えた。

 




オリジナリティの欠片も無い箇所について。
今後の展開に繋がる大事なシーンなので抜かせませんでした。

ただこれだけは言わせてほしい……

やはり原作は素晴らしい……
下手に手を加えると良さが損なわれるほどに完成されている。
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