フィークス・G・リコイル   作:桃玉

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第4話

<Kurumi side>

 

パァァン、パァァン、パァァン、パァァン、パァァン……

 

喫茶店の中だというのに銃を乱射する音が鳴り響く。

店内で誰かが乱射しているのならばまだわからなくもない、いや、本当はわかりたくもないが。

ボクとミカと鈴仙はタブレットの映像を見ていた。

 

「ミカ……店の下に射撃場って、お前アホなのか?」

「防音には金がかかったが、良い仕事には日頃の研鑽が必要だ」

「でも今までなかったんだろ?」

 

この訓練場ができる以前は千束と鈴仙の練習はDA本部等の特殊な施設に行かなければできなかったはず。

研鑽が必要ならかつての二人はどこでどのように練習してたんだろうか。

 

「千束は狙って打った弾は全部避けられる。狙いが定まらない非殺傷弾でも詰めて撃ちまくればいい」

「だから今までは射撃訓練の場所は必要なかったんだよね~」

 

なるほど、確かにそれなら今まで射撃の訓練は必要なかったのだろう。

タブレットには千束とたきなが射撃練習している様子が写っている。

千束が普段使用している銃は非殺傷弾が装填されており、たきなも千束も中距離からの命中精度はかなり低い。

一方殺傷能がある実弾でたきなが射撃するとそのすべてがダミーの急所を射貫いていた。

 

「おお~、凄いな」

「人質に取られた人を機関銃で助けられるような人ですよ、しかも人質は無傷で。……この様子なら非殺傷弾じゃなくても急所以外を狙って撃てますね。流石ちゃんとしたセカンドリコリス! でもまだ足りないなぁ……」

「いや充分だろ。あれか? 銃の腕前だけでファーストになるにはまだまだ精密さ、連射が足りないって?」

「確かに、セカンドの中では上澄みだろうがファーストに上がるにはまだ強みが足りんな」

 

ミカの説明を聞くとたきなの精密な射撃があっても、上には上がいるらしい。

たきなで凄いと感じるボクは千束の異常性に気づき、ますますアランチルドレンの存在に興味が出てくる。

 

機関銃の反動を考えたら、通りで連射しても狙いが外れないわけだ。

ただ、一つだけ疑問が生じる。

 

「なあ、鈴仙。たきなのために練習場が必要なのも、千束に練習場がいらない理由もわかったが……お前は今までどうしてたんだ?」

 

画面から顔を離し、鈴仙の方に視線をやるとなんだかばつが悪そうな様子で頬をかいている。

鈴仙は言いたくないのか躊躇いがちに声を出した。

 

「い、いやぁ、実は私……銃持ってないんですよ」

 

タブレットからの銃声が鳴り止み、いやに静かな中練習場にいる二人の言葉が耳に残る。

『急所を打つのが、仕事だったんですけど?』『もう違うでしょ?』

ボクは鈴仙の方にどういうことだと疑問に思い視線を送る。

 

「ただ単にここでは殺さなくてもいいから銃を持ってないだけで、ここに来る前、特に DA に入る前とか、その頃はそれこそバンバンぶっ放して凄腕って言われてたんだから……。まあ、ここでは忍者みたいに抜き足差し足ってね」

「ああ……そういえばボクの護衛の時も役割分担してたな。箱の中でそもそも見れてなかったから失念してた。

……だから練習に参加してなかったのか」

「本当、千束様様だよ」

 

その口ぶりからして以前から千束は攻撃、鈴仙は索敵のようなという役割分担だったんだろうと容易に想像できる。

ただ、万が一に備えて銃の腕を磨いてもいいんじゃないかとは思うが、千束だのように鈴仙も何か隠し持っているのかもしれない。

言葉の節々に何か隠しているような違和感を感じるが、とりあえず疑問が解消され、興味はまた画面へと向いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Chisato side>

 

只今、最新のゲーム(1vs1の銃撃バトル)をプレイ中の私こと千束は勝利目前!

いつもの仕事だと相手の視線とか筋肉の収縮を見てから反応して回避に移ることができるが、ゲームは無慈悲にもそこまでの機能は搭載されていなくて苦戦を強いられる。

相手の方が若干、若干ではあるが体力が多く、あと数発で決着がつく。

どちらもギリギリといった状況。

 

「だがそれがいい!! それっ、そこっ! あ、あ゛あ゛あ゛っっ!?!? うぐぐぐぐぅ、ぐやじいぃぃ!!」

「ムキになりすぎだろ」

 

ゲーム画面にLOSE(負け犬)と表示され、ただでさえ悔しいのにさらに悔しくなる。

クルミが暴れ馬を落ち着けるときのようになだめるが悔しさは増すばかり。

 

「千束も私の仲間ですね」ニコッ

「や、やめっ、それ以上近づくな辱めるなああぁ!」

 

鈴仙はI am a loser(私は敗北者じゃけぇ)と大きく書かれた紙を首からぶら下げ、虚ろで自虐的な目で、でも仲間ができて嬉しそうな様子で私の首にその紙をかけようとする。

 

「観念しなさい!」

「だぁってぇ、この名前がムk……あ、たきな!」

 

そこにはゲームに集中して気づかなかったがたきなが立っていた。

そのたきなを見て、この前の射撃の腕前、仕事での私とは違う堅実な立ち回りを思い出し、ピンとひらめく。

(たきなだったら勝てるくない?)と。

 

「いいとこに! これやって、これやってっ!!」

 

私は状況をイマイチ理解してないたきなの手を引っ張りVRゴーグルを被せる。

きっと私の敵をとってくれると信じて。

たきなはVRゲームに慣れてないのか顔をあちらこちらに動かし、その様子がかわいらしくおもしろい。

 

「お、お~! リアルですね……ナニコレ」

「はいはい、コレもって~、敵とってよ~、スタート!!」

 

ゲームが始まるとたきなは俊敏な動きで体を動かす。

周りのテーブルとかに注意をしていないでゲームにのめり込んでいる様子で今にもぶつかりそうだ。

 

「ぅおぉ~ヤバ、ヤバいって!? ぶつかるゥゥ!!」

 

あまりに危険だったので慌ててたきなのそばから遠ざける。

たきなは半身になり、しゃがみ、宙を舞う。

仕事の時と同じように激しく闘うたきな。

そのときに目にした光景が衝撃的で自分の目を疑った。

 

「え……」「黒か……」

 

あまりの衝撃に鈴仙と顔を見合わせ呆然としているとクルミから「おお~!」声が上がる。

何事かと思ってゲーム画面を見るとWINNERの文字がデカデカと表示されていた。

 

「勝った? っしゃあぁぁ~!!」

「喜びすぎでしょ……」

 

たきなは「まあこんなものか」といった表情で私に呆れているように、でもわずかに嬉しそうに目を合わせた。

私はたきなの先輩なのに子供扱いされたような気がして頬を膨らませる。

 

「だって、コイツ名前がムカつくんだよ!」

 

次の対戦が始まろうとして、画面には対戦相手の名前が表示される。

FUKI vs CHISATO

なお、最終的に私の首には敗北者カードがかかった。

 

 

Loading……

 

 

次の試合もたきなの勝利で見事勝ち越し、清々しい気分でゲームを終えた。

……かに思えた。

きっと私は眉間に皺を寄せて難しそうな顔をしている。

確かにたきなは全ゲームで勝利した、でもそれ以上に気になることがあるためである。

私は箱の中にゲーム機器を片付けているクルミとテーブルとかを元の配置に戻している鈴仙に純粋な疑問を投げた。

 

「……たきなのパンツって見たことある?」

「あるわけないだろ……敗北者」

「敗北者やめぃ! ……ちぇ、何でも知りたいんじゃないのかよ」

 

小さく文句を言う私にクルミが「聞こえてるぞ」と言う。

というかいつまでコレ首からさげとけばいいのかねぇ?

 

「ちさt……敗北者はとうとう愚者にレベルアップした。さらに、ノーパン派ということが明らかに」

「いやいやいや、今なんで言い直した? ん? それに別にノーパンは求めてないから」

「なら何だってたきなの自由だろ?」

「別に黒いパンツだっていいと思いますよ?」

 

違う、そうじゃない!

クルミは確実に見えてないから論外だとして、鈴仙……何たきなのパンツ肯定してるんじゃわれぃ。

見えたなかったんか!? それとも見えた上で言ってるのか!? 明らかにあのパンツはおかしかった!

 

「鈴仙、ちょっとこっち来て!」

「はっ、はい? ってスカート引っ張んないで~!」

 

私は真相を解明するために鈴仙を引き連れ、たきなが着替えてる部屋にすぐさま突入。

間髪入れずたきなのスカートをバッとめくりあげ、そこにある下着を確認する。

 

小鳥のさえずりが聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Takina side>

 

私は先ほどまで着替えようとしていた。

そんなとき扉が急に開き、千束が勢いよく入ってきた。

何事かと思えばいきなりスカートをめくられ中を見られた。

少し呆気にとられた後、急なセクハラ行為(羞恥や嫌悪はなかったが)に質問する。

 

「何ですか?」

「なに……こ、れぇぇ……」

 

私は質問を質問で返され、その質問の意図がわからず小首をかしげ、ありのままを伝える。

 

「……下着ですが?」

「ぬぁんで男もんの下着はいてるのおおっ!? っぅ……鈴仙!!」

「へあ? な、なんですkああああああ?!?!」

「そうっ!! 普通はこういうパンツ履くもんでしょ!?」

 

千束が開けたドアの前には鈴仙がおり、私と同じようにセクハラされて顔を赤らめ必死にスカートを押さえている……が、私の視線にも細い太ももとそのかわいらしいウサギ柄のパンツが勝手に見えてしまう。

千束はそのパンツのあるところを激しく何度も指さし、睨み付けるような視線をよこす。

 

「これが指定なのでは?」

「し、指定っ!?」

 

これは所謂職場でのセクハラではと思い店長に伝えるべきか悩むが、千束は驚いた様子で叫び、ドスドスと足を踏みならしながらミカさんのもとに喧嘩腰で行った。

私は千束に追いていかれその場にペタンと座り込む鈴仙に肩を貸し店長と千束の元へ向かう。

 

「もう……お嫁に行けなぃ」

「大丈夫ですか? ほら立てます?」

「なんで平気そうなのぉ!」

 

そう言われても、見せて恥ずかしいものでもないし。

そもそも恥ずかしい下着を着ているのが問題なのでは?

私は下着を見られるのが恥ずかしい=恥ずかしい下着を着ていると思っているが違うのだろうか。

 

 

****

 

 

バンッ「聞かせてもらいましょうか!」「もう、お嫁に行けない……」

 

千束がカウンターを叩きさながら取り調べを行う刑事のように店長に問い詰める。

しかし容疑者、店長はその圧を微塵も気にせず淡々と自供し始める。

 

「店の服は支給するから下着だけ持参してくれと」

「どんな下着が良いかわからなかったので」

「だからって、なんでトランクスなの!?」 「もう、お嫁に行けない……」

「好みを聞かれたからな」

「コレ、履いてみると結構開放的で……」

「そうじゃなぁいっ!」 「もう、お嫁に行けない……」

 

そもそも、お洒落に興味がない自分としては仕事に差し支えなければ何でもいいと思っていたが、推奨している下着はあるかどうか問い合わせたところそのような返答だった。

最初は入手場所がメンズだったので驚きはしたが、着用してみると案外快適だ。

運動の妨げにならず、乾きやすい、蒸れないし、見られたところで恥ずかしさを感じない、まさに私の基準では最高の下着で感動したものだ。

その良さを布教すべく千束に感想を説明しようとしたが言葉で中断されてしまった。

 

「それとさっきからそこで体育座りしてウジウジすんな! 前まで平気だったろ、なんでこんなんになっちゃってる?!」

「いくら同性の姉や親友だろうと恥ずかしいもんは恥ずかしいのっ!!」

「思春期だ。察してやれ」

「ぁうぅ……」

「ふーん、ギア・セカンド状態かぁ~」

 

顔を赤く染めている鈴仙が床に手をついて、さらに赤くなり蒸気が出ている。

それと千束の言ったギア・セカンドとはなんでしょう……第二次成長期のことでしょか?

 

「と、に、か、く、明日駅に十二時集合だから!」

「仕事です?」

「ちゃうわ! パ・ン・ツ! 買いに行くの!」

 

そう言って千束は帰ろうとドアに手をかけ体を外に出す。

そのまま帰るのかと思いきやしまりかかったドアが再度開き、千束が顔を出す。

 

「あっ、制服着てくんなよぉ? 私服ね、私服ぅ!」

 

「……指定の私服はありますか?」

「……」

 

追加注文にレディの嗜みとやらを知らない私は残ったメンバーに良い装いがないものかと尋ねる。

ミカさんは何か言いにくそうな様子で無言になってしまった。

ここの店長さんは頼りにできないらしい。

さて、どうするか、困った……

残る頼りは鈴仙だけ、何か提案はないかとじっと見る。

 

「えっ私も付き添いに行く流れ?」

 

 

****

 

 

私は軽めの昼食で済ませ、目的の地へ足を運ぶ。

予定時刻より数分早かったがそこにはすでに人がいた。

いつも早めの行動をしている鈴仙はともかく、余程楽しみだったのか普段遅刻気味の千束さえそこにはいた。

鈴仙は私に気づいたのか小さく手を振ってこっちだと合図する。

 

「お待たせしました」

「いや~みんな早かったね」

 

遅れて千束がこちらに目を向ける。

千束は何度かパチクリと瞬きをし、普段着姿の私を認識する。

 

「お、おおう、新鮮だなあ」

「問題ないですか?」

「問題はないけど外出用の私服としては問題な感じが……」

 

問題ないけど問題だという鈴仙の言葉に思わず首をひねる。

着こなしとかファッションとか所謂そういうものに興味がなく、機能性重視の服しか持っていない私には難しい話だ。

千束は私のつま先から頭まで目を細め、仕事中より真剣そうな表情でじっくり見るようにして、笑顔となり、口を開ける。

 

「銃持ってきたな、キサマ?」

「駄目でしたか?」

「抜くんじゃねえぞ?」

 

妙に威圧的な笑顔だ。

確かに銃を所持しているがそこまで悪いことだったのだろうか。

リコリスとしては普通のことだと思っていたし、現に……

 

「鈴仙も持ってきてるじゃないですか?」

「ん、ああ、鈴仙のは実弾なしのオシャレアイテムだから……オッケー?」

「オーケィ! パァンッて畑荒らしを音で威嚇するやつ、いいでしょ!」

「相変わらず意味わからないこと好きですね」

 

なんだか裏切られた気分です……

呆れた顔で視線を二人の服にやると目立つ服装をしており、銃を所持している自分よりよっぽどよろしくないのではないだろうか。

目立つとリコリスの任務に支障が出る可能性がある。

 

「……千束、その衣装は自分で?」

「衣装じゃねえ次からそんな物騒なアクセサリー捨ててこい」

「鈴仙は……」

「以前千束に買ってもらったやつです」

「おめぇ、それ一昨年買ったやつだぞ? 帰ったらトランクスと一緒にポイだから」

「ご無体な!」

 

なるほど、衣装は千束の趣味でしたか。

やりたいこと最優先の千束を止めることはできません。初めて見るパーカー姿じゃない鈴仙は新鮮だが、その服については成長期で少し服が合わなくなっているので捨てると言われても仕方がないと思う。

悲しそうな顔になっている鈴仙に合掌しつつ、任務を遂行べく私たちは千束御用達とのお店に移動を開始した。

 

 

****

 

 

「一枚も持ってないの、スカート?」

「制服だけですね……普通そうでしょ」

「そもそも任務外では勝手に外出はできないリコリスってどうやって私服調達してるの?」

 

千束からの問いに私は当然と肯定する。

本部にいたときは普段は支給される安物の服、特にジャージが多く、機能性ではかなり優秀だったがそればかり着て過ごしていた。

現在もその週間が抜けておらず、仕事が終わったらまっすぐ帰宅し食べて寝る生活なもので服を買う機会などなかった。

それに千束も今スカートじゃないでしょうに。

 

「まあ、DAのリコリスはそうだね……ね~ぇ、買おうよっ! たきな絶対に合う!」

「よくわかりませんし、千束が選んでくれたら……」「えっ、いいの!? うおおおやったああ!! テンションあがるわぁ♪」

 

いつも以上にハイテンションな千束を見て何でそんなに喜んでいるのかよくわからず困惑し、同時にその姿に嬉しさを感じた。

鈴仙が「いつものことだよ」と遠くを見るその目を見て、今までは彼女だけがそのテンションのままに振り回されていたんだなと思うと共感し、何か心が通じ合った気がした。

 

 

****

「どっちがいい?」「これいいんじゃない?」「おお、こっちもこっちも!」「似合う!」「いい!!」「いいね!!」

「「めっちゃかわいい!!」」

「どうも……」

 

千束の為すがままにされ、衣服を試着し、さらにどんどん追加で服を着替える。

それが自分に似合ってるかどうかはあまりわからないが二人が褒めちぎってくるので不思議と気分も乗って、嬉し楽しくなる。

 

しかし、時間は有限で、千束に下着を購入するについて尋ねると「えっ? ……そうだった下着だった」と本来の目的を見失っていたようで、私たちは急ぎ足でその場所に向かった。

鈴仙が「時間を忘れて楽しむことこそがこのイベントの醍醐味、らしい……」と言っていたがそう言うものなのかと取りあえず心にとめておいた。

 

「どう、好きなのあった?」

「好きなの、を選ばなくちゃいけないんですか? 仕事に向いているものがほしいですね……」

「銃撃戦向けのランジェリーですか? それならこちらに……」

「あるかぁぁあっ! そんなもん!」

 

鈴仙の店員さんのような口調に思わず知ってるのかと思いついて行こうとするが、千束が鋭く突っ込む。

あるのだと思っていた私は少ししょんぼりする。

 

「これ、いいんですけどねぇ。通気性もよくて動きやすい。さすが店長だなって」

「いや先生そんなこと考えてるわけないだろ。だいたい、トランクスなんて人に見せられたもんじゃないでしょ」

 

頬をわずかに染めながら千束は答える。

別に人に見せたところで問題ない気がするというか、そのパンツの方が恥ずかしさが増す気がする。

 

「パンツって見せるものじゃなくないですか」

「いざって時にどうすんの」

「いざってどんなときです?」

「……知るかっ!!」

 

千束のピンク色の頬がさらに赤くなり顔全体に広がる。

やはり千束は恥ずかしい下着を着用しているのでは?

私は確認するため鈴仙とともに試着室に千束を引きずり込んだ。

千束を抵抗するまもなく試着室の鏡張りの壁に追いやられる。

 

「え……な、なに?」

「千束のをみせてください」「パンツ」

「ぅええっ?!」

「人に見せて大丈夫なパンツかどうか知りたいんです!」

「えっtあっ、ええっと~……」

「昨日のパンツの恨み晴らさずにいられようか、否!」

「「早く!」」

 

千束はパンツがある部分に視線が集中したためかさらに顔が赤くする。

観念したのか恥ずかしそうに腰に手をかけ下にずらす。

私たちは千束のパンツをまじまじと見る。

 

「今日の服装とは違って結構かわいい感じの選んできたんだ……これが千束の勝負下着!」

「……これが私に似合うっていうと違いますよね」

「そのとおりだよっ、なんで見せた私!」

 

そんなに恥ずかしいんでしょうか、恥ずかしがるほどのものでもないでしょうに…… 千束の顔はそれはもう完熟のトマト色になった。

 

 

****

 

 

「これで男物のパンツとはおさらば、部屋にあるトランクスと古着は全部処分するから」

「はい……」「千束との思い出が……」

「そこ、私を悪者にするな!」

 

トランクスの良さを理解されないままお別れになるとは、なんとも複雑な気分だ。

うきうきルンルンな千束とは対照に鈴仙は涙目でグスンという音が聞こえそう。

二人と一緒にいると退屈しないなと感じていると千束から楽しそうな声が上がる。

 

「さ、て、と! 次は千束さんお待ちかねのおやつタイムだぁ!」

「イェイ、イェイ!!」

「目的は完遂しましたよ、というか立ち直り早いですね」

「完遂って仕事じゃないんだから……仕事と食事と遊びは別物だから気分変えないとやってられないよ!」

「ってことで今日はこれからだよぉ~♪」

 

そんなわけで私たちはおやつを食べに移動した。

到着してすぐメニューに食いつきすぐさま注文をとる千束と鈴仙。

 

「私はフランボワーズ アンド ギリシャヨーグレット リコッタ ダッチベイビーケーク、たきなのはホールグレインハニーコームバターウィズジンジャーチップスで」

「こっちはラルティザン・ドゥ・サヴールのドボシュ・トルテ! お土産用にポン・デ・リング3つお願いします!」

「かしこまりましたー」

 

呪文かと思うほどの長い名前をスラスラと注文する二人。

店の奥に姿を隠す店員を見て期待した目をしている二人を呆れた目で見る。

 

「ケーク、ハニー、バター、チップス……名前からしてカロリーが高そうな」

「野暮なこといわない、女子は甘いものに貪欲でいいのだ」

「千束、良いこと言った! それにスウィーツのためなら西へ東へ走り回る、新メニュー開拓しつつカロリー消費もできる、まさに一石二鳥!」

「寮の食事もおいしいですけどね」

「確かにそうかもだけどスイーツ作ってくれないからなあ~。永久にかりんとう」

「私あのかりんとう好きです」

「私食べたことないんだよね~。ずっとお餅食べさせてもらってた」

「偏食家だもんなぁ……。だからそんなに低身長の痩せっぽちなんだよ。もっと頼んでガツガツ太れェ!」

「悲しい、人が気にしてるところを……。そんなやっかまないでよ……」

 

かりんとうで十分だった身からするとそこまでカロリーに執着する理由がわからない。

ただあの味を楽しめていない鈴仙は割と損してると思う、お餅に興味はあるが。

それにここで食べるものがそれを越える食べ物なのかも疑問だ。そうこうしていると店員が注文したカロリー「おまたせしました」と持ってきてそれぞれの席におく。

生地の上にクリームにシロップ、ジャムなどの甘いフルーツ、チョコの香り。

さすがに甘過ぎではと思っていると前の方からキラキラした声が聞こえる。

 

「「うわっは~~!! おいしそ~!」」

「これは糖質の塊ですね……」

「「たきなっ!!」」

 

シンクロしている二人がすごい剣幕で叱るような声を上げてきたので少し驚く。

しかしその後に続く言葉を聞いて驚きが呆れに変わる。

 

「人が一生で食べられる回数は決まってるんだよ? すべての食事はおいしく楽しく幸せであれ~~」

「そのと~り~、千束! 良いこといった!」

「おいしいことはいいことですが、リコリスとして余分な脂肪はデメリットとなります」

「そんなデメリットこれを目の前にしたら無力、私たちの体は水以上に糖分を欲しているかrうまぁ!」

「その分走るその価値がこのお菓子にはあるnおいしい~! ほらほらぁ、たきなもたべて!」

 

ほっぺが落ちそうなほど幸せそうな顔で食べている二人、そんなにおいしいのだろうか。

あのかりんとうと同等くらいなのだろうかと思い一口。

 

「……おいしいな」

「「でしょ!」」

 

見上げると空は青く、白い雲と鳥が見え、夏のいい日和だ。

風が心地よく私の髪を撫でた。

 

 

****

 

 

「食べたらいいところに行きま~す!」と千束に言われどこに行くのだろうかと思っているうちに手を引かれいつの間にか着いていた。

そこは見渡す限り青が広がっていた。

 

「きれ~!」

「でしょ、私ここスキ~♪ コレ年パス~」

「も~何で一緒に行こうって誘わなかったの!」

「いや~、この前見つけたばっかりだしメンゴメンゴ。ってことでいざ行かん、疑似ワイハへ~!」

「「行っこう~行っこう~夢~の国へ~♪ み~んなで行~きた~いハ~ワイ旅行~♪」」

「……仲いいですね」

 

そう言って千束は年間パスポートを見せつける。

その事実に鈴仙はプリプリと怒っていたが千束が平謝りして、変なオリジナルソングを息ぴったり歌う二人を見ながら歩調合わせて早速水族館の内部に潜った。

そして最初に珍妙な生物が目に入る。

二人は面白そうにガラスの中を見てかわいいみたいなことを話しているが私はそれ以上に不思議に思ったことを知りたくて検索をかける。

 

『タツノオトシゴ トゲウオ目ヨウジウオ科タツノオトシゴ属 Hippocampusに分類される魚の総称……』

「どうしたの?」

「これ魚なんですって」

「まじ?……魚(うお)だったのかコイツ」

「そりゃ、竜の子供なんだからその前は魚に決まってるでしょ」

「「ちょっと何言ってるかわかんない」」

「ええ!? だって鯉が登龍門越えると竜になるんですよ!? 常識です」

 

鈴仙がどや顔でおかしなことを言ったので千束と突っ込む。

確かにそう言う言い伝えもあるらしいが、私が求めているのは非現実的な答えではなく、もっと現実的な……

そう、理由根拠を知りたいのだ。

 

「この姿になった合理的理由があるんでしょうか……」

「合理? 理由!?」

「なんかあるでしょう? 魚類がいきなりは虫類になるよりは現実的なやつで」

 

そうして私は再び調査作業に入る。

横目で見た鈴仙と千束はなぜか不機嫌そうだった。

鈴仙はともかく千束はどうしてそんな顔をしているのか……

水族館というのは魚の生態や特徴を学ぶ施設でしょうに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Chisato side>

 

私は水族館に二人を連れてきて、「きれい! 楽しい! すごいよ千束!」というように純粋に楽しんで喜んで仲を深め、いい思い出にしたいと思ってやってきた。

だが、現実はどうかというと、一人で魚のところに行っては調べ行っては調べ……

たきなは楽しそうで、鈴仙はそこまで気にしていないようだが、私はちょっと寂しく、ちゃんと私の方を見てほしくなる。

心にもやもやが溜まり、表情もむすっとする。

 

「千束、ちょっと飲み物買ってくる~」

「あいよ~」

 

鈴仙は背を向け買いに行こうとするが、振り返り私を見る。

 

「……たきなのこと」

「わーってるって。私自身の気持ちの問題だから気にしないで行ってこい!」

「おいしいやつ選んでくるんで期待してて~」

「……ありがと」

 

一緒に楽しみたいって気持ち、ちゃんとたきなに伝えるよ。

私は離れていたたきなの側に寄る。

たきなに難しいことばっかやんない! こっちを見て! 一緒に楽しもうよ! と言いたいその気持ちを抑えた結果……

手を上げ、揺らしてチンアナゴを全身で表現する。

 

「……何してるんですか?」

「え? チンアナゴだけど?」

「人が見てますよ……。私たちはリコリスです、目立つ行動は……」

「せーふく着てないときはぁリコリスじゃありませぇ~ん!」

「……ハア」

 

ため息なんてついちゃって、どうせ面倒くさい人だとか思ってるんでしょうけど私は気にしませーん。

なぜなら~、一緒に楽しんでくれないとご機嫌斜めな面倒くさい千束さんモードだからぁ~。

私はそのままチンアナゴを続ける。

しばらくしてたきなから声がかかる。

 

「千束……あの弾、いつから使ってるです?」

「……なあに? 急に」

 

水族館とは全く関係のない、そもそも脈絡のないその言葉。でも、ようやく自分を見てくれたような気がしてうれしい。

私は機嫌を直し、たきなの方に向き直る。

 

「旧電波塔の時は?」

「あのとき先生に作ってもらったのよ」

「何か理由があるんですか?」

「なぁにぃ~、私に興味あんのぉ~」

 

私の顔が喜びでニヤリと照れつつ笑顔になる。

真面目な顔のたきなにその顔を向ける。

 

「……タツノオトシゴ以上には」

「チンアナゴよりも?」

「茶化すならもういいです」

 

そっぽを向くたきな。

少し意地悪しすぎたというか、からかいすぎたなと反省し、真剣な表情のたきなの横に座り、伝える。

 

「気分がよくない。誰かの時間を奪うのは気分がよくない。そんだけだよ……。悪人にそんな気持ちにさせられるのはもぉーっとムカつく。だから死なない程度にぶっ飛ばす。アレ当たるとめちゃくちゃ痛いのよ!死んだ方がましかもってくらい」

「……ふふっ」

 

笑うたきなの顔が見え、嬉しさがあふれ出す。

「な~んだよ、変?」

「いえ、もっと博愛的な理由かと。千束は謎だらけです」

「そんな難しい話じゃないよ……」

「したいこと、最優先。でしょ?」

「おお~! 覚えてくれてたんだ!」

「もちろん。……ですがDAを出たのは……殺さないだけならDAでもできたでしょ? それも、そうしたいって、ただそれだけ?」

 

ちゃんと私を見てくれている、それを感じ、さらに嬉しくなったが、続いた言葉で少ししんみりした気持ちになってしまう。

でもそれ以上にたきなに知っといてほしい。

私は隠していた胸のペンダントを見せた。

 

「……人捜し。……会いたい人がいるの、大事な、大事な人。その人を探したくて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Reisen side>

 

美味しそうなジュースを売店で買い、戻るとすっかり距離が近くなった二人がいた。

千束のアランのペンダントを持つたきな。

対照的に感傷的な様子の千束の頬にピトッとジュースを近づけた。

 

「うおあ!? れ、鈴仙、いつから!?」

「ついさっきだよ。たきなの笑い声、かわいかったよね~」

「それな~って聞き耳立てんな!」

 

たきなが僅かに赤面し、千束は元気になる。

やっぱりしんみりした雰囲気は合わないなと思いながらジュースを渡す。

飲食できるスペースに移動し、たきなが千束のペンダントと画像を見比べる。

 

「確かに同じですね……何の才能があるんですか?」

「わからなぁ~い♡」

 

千束は後ろにあるセクシーな女性のポスターと同じポーズをとる。

千束のプロポーションは確かに抜群だが、これだけはわかる。

 

「「それじゃない」のはわかります」

「何で言い切るのよぉ~」

 

私たちに同時に、それもノンタイムで突っ込まれ、千束は肩をがっくしと落とす。

自分で言い出したジョークでそんなショック受けなさんな。

千束はその姿勢のままたきなに問いかける。

 

「自分の才能が何とかわかる~?」

「何かあるといいですけど」

「そんな感じでしょ?」

「で、見つかったんですか? これくれた人」

「ぜんぜん。しょうがないといえばそれまでだけど世界は広いから……」

 

たきなが千束にペンダントを返す。

千束の声は落ち込んでいた。

救世主さんのように人助けできるとペンダントが言っているのにその才能は何だかわからない、才能を生かせない。

だからシンボルを見せるような自信も勇気もない。

 

千束が水槽の方を見る。

そのせいで顔は見えないが悲しそうな声だけが耳に残る。

 

大きな水槽にいるたくさんの魚の一匹と私たちは似ている。

世界は広く、一期一会、本当に二度度会うことは叶わないかもしれないし、会えるかもしれない。

 

しんみりした空気の中たきながガタッと立ち上がる。

たきなが水槽の方にかけだし、手を合わせスイーっと前に突き出す。

 

「さかな~~!」

「おお~!! ……ちんあなごぉ~~!」

 

今までの暗い雰囲気はどこへやら、元気になった千束は明るい表情でたきなの方へかけだす。

そうだ、今は救世主がいなくても私たちがいる。

たきなが千束のペンダントをチラリと見る。

 

「……ふふっ、それ、隠さない方がいいですよ、千束」

「え、そう?」

「ええ。……めっちゃかわいいです」

「あ、ああ~こいつぅ~!」

 

それはお店で千束がたきなに言った褒め言葉。

してやられた千束はペンダントを服から出してたきなの肩に肩をぶつける。

 

この二人を見ていると仲睦まじい様子にほっこりするが、今の自分が馴染めていないことに気づきちょっとした疎外感を覚え、嫉妬が生まれる。

だから私は二人の間に割り込もうとした。

 

「ぎゃお~! 和邇(ワニ)だぞぉ~!!」

「きゃー! もぐもぐされちゃう~! ペンギン島に避難だ!!」

「ペンギン!!」

 

一匹の魚が殻を破って、雛は自由な空へ解放される。

眩しい太陽を追いかけるように明るい外へ走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Takina side>

 

ペンギンやイルカを見たりして、とても楽しかった時間だった。

それにしてもまさか水族館が学びの場であると同時に娯楽や大切な人とひとときを過ごす、所謂デートスポットでもあったとは驚きだった。

私たちが水族館から出て駅の近くによると夕焼けが外を赤く染め、仄暗くなってきている。

そして人々がざわざわと何か騒がしい。

周囲を確認するとサードリコリスの制服がかなり見える。

 

「リコリス……」

「やけに多いですね」

「そう、だね……でも私服だから関われないし関係なし。とりあえず向こうに行ってみない?」

「いいね~! いこいこ!」

 

この駅の様子、何か嫌な予感がする。

ここに残った方がいいのではと思ったが鈴仙の言うとおり今の私たちは制服を着ていないため仕事に関わることができない。

私は残ろうとするのを諦め、千束に手を引かれ、鈴仙に背中を押され、その場を後にする。

三人でしばらくそのまま電車のようになって街を散策しつつ、夕焼けや様々なお店を見ているといつの間にか背中にあった手が離れていた。

 

「鈴仙?」

「ごめん……久しぶりにいっぱい遊んだせいで、ちょっと疲れ、ちゃったかも……」

「お、大丈夫?」

「息が上がってますけど……」

 

その様子は軽くジョギングした後のような息づかいで、激しい運動をしていないのにも関わらず息を切らしている鈴仙を見て不安と心配が入り交じる。

しかしその心配とは裏腹に鈴仙は至って普通の声で元気そうに笑う。

 

「大丈夫、ただ今日はもう、歩き疲れちゃった。熱中症になるって言い訳して運動しなかった代価が重すぎる……」

「ちょ、大丈夫か!? どんだけぐ-たらしてたの!?」「二ヶ月」「に、二ヶ月ぅ!? 丸々?!」

「本当に大丈夫です? 送っていきますよ」

「大丈夫、大丈夫! 足が棒みたいで明日は筋肉痛で一歩も動けなくなるかもだけど、今んところ一人でも帰れるし」

 

筋肉痛か、今でこそないがかつてはものすごくつらかった記憶があり、思わず合掌しかける。

私は毎日体調管理に気をつけているからこそだが、二ヶ月も怠けていたらそれはそうなる。

 

「うっわ、それはきつそ~っ! ……もしかして、無理させちゃった?」

「ううん、私もやりたいこと最優先しただけ、今日は楽しかったよ、ありがとう」

「ならよかった! 気をつけてね」

「次からはしっかりやってくださいね?」

「はいはーい、じゃ、またね」

 

私と千束は鈴仙の帰る姿を見届ける。

鈴仙の姿が人混みに紛れ見えなくなり、二人きりになる。

千束の顔には憂いが見える。

 

「私たちも、帰ります?」

「そうだね…… あぁ~あ、本当はもっと三人で遊びたかったんだけどなぁ~」

「帰りに湿布でも買いに行きません?」

「お、それいいね! 百枚くらい買ってやろう!」

「それは買いすぎです」

 

 

****

 

 

湿布を買って、もうお店のすぐ近く。

西の空がわずかに赤いだけの宵闇を歩いていると携帯に一通の着信が入る。

鈴仙からの連絡だとわかり確認する。

『ヤバい、筋肉痛チョー痛え。もう駄目かも』という文とともに、ブレが激しい写真が添付されていて、ヨレヨレなピースサインをしている割と元気そうな鈴仙がいた。

 

「……鈴仙、大丈夫でしょうか」

「いや、元気そうだし大丈夫だろ。……おつかれぇい、あとでぇしっぷもっていくわっと送信!」

 

気づけば店の前に到着しており、ドアに手をかける。

暗く静かな外とは逆の明るく騒がしい店内に大量の荷物を抱えたまま入る。

 

「いらっしゃーって、予想よりずいぶん早かったわね、いや結構遅いけど! ミカ、三人が、って鈴仙は?」

「筋肉痛で途中早退です」

「貧弱っ娘か?! さては暑いのだるくて鍛錬サボったな……」

「ビンゴっ! さすがミズキ! 体力ないだけあるぅ~!」

「情報担当に体力求めんな! 馬鹿にしてんのか!」

 

ミズキと千束がいつも通りじゃれ合い始める。

ここにきてから四ヶ月目ともなるとさすがに慣れるそのやりとりに安心を覚える。

 

「おかえり、楽しかったか」

「せんせ~! めっちゃ楽しかった! あ、これお土産、鈴仙ズチョイス、後でどうぞ!」

「ありがとう、コーヒーと一緒に頂戴するとしよう。それにしても、ずいぶん買ったな……」

「千束~そろそろ逆転勝ちするからこっち見てみろ~」「今行く~!」

「クルミちゃん、そうは問屋が卸さないぜ!」「そうよ今度こそは!」

「フッフッフッ、もう勝負は決まっているんだよ」

「ほら、たきなも、おいで!」

「……はい!」

 

店長に荷物を渡し身軽になった私たちはクルミと常連の皆さんのもとに集まり、さらに騒がしくなった店内での時間を過ごす。

するとテレビの『今日の夕方頃、東京都の北押上駅で地下鉄が衝突し脱線事故が発生しました……』というニュース速報が流れる。

 

「ああ、あの時の駅前のやつか」

「ええっ、脱線事故!? 怖くて乗れなくなっちゃいますぅ……」

「でも回送電車だったのは幸いだねぇ」

 

テレビには鉄道会社の社長さんが泣いてしまいそうな顔で謝罪会見している映像が流れている。

リコリスがあそこにいたってことはきっとこの人のせいではないはず。

 

「この社長さんは何も知らないんだろうなあ~」

「不憫ですね……」

「才能か……」

「ん? 何か言ったか、ミカ?」

「何でもない……千束―、あがっていいぞ」

「うん、ありがと、先生! では皆のもの、さらばじゃ!」

「えー、千束ちゃん帰っちゃうの~?」

「ごめんね~これからちょっと……!」

 

常連さんの寂しそうな声が聞こえる。

いつものようなはしゃいだ声ではなく静かな声で千束はドアの向こうに消えていく。

千束の暗い表情とペンダントを見て、腕を組んでテレビを険しい表情で見ている店長がそこにいた。

私はその顔の意味をまだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Reisen side>

 

この場から離れようと背を押し、嫌な空気を纏う場所から逃げるように歩く。

息が切れ、心臓の音が早く激しく打ち付け始める。

 

乱射している弾と金属が擦れ、ぶつかり、拉げ、火花が散り、不快な金属音が鳴り響く。

僅かに呼吸は荒くなり、汗が滝のように滲み流れ、目が涙で霞んでいく。

乱射は止んだが、再び一発ずつ狙っている銃声が数多反響する。

誰にもばれないように気配を眩ませる。

金属音の不快な音か、肉を貫き、抉れ、倒れ、血が抜ける音が耳を劈く。

悪意と欲望と人が嗤う。

そのまま一人に慣れる場所に駆け込んだ。

 

爆発音とともにコンクリートやらが崩壊して肉が、金属が潰れ、破裂し、周りに破片を散らかしている音。

さらに呼吸が荒くなり心臓が五月蠅く鳴り響き、体が震える。

意識が遠くなり、胃から酸が込み上げる、私は、過去に縛られている。

 

自分の弱さと過去に犯した過ちを自覚し、嫌悪感を抱きつつようやく家に辿り着く。

仲間に対して迷惑も心配もかけたくないという思いは疲れた心に追い打ちをかける。

部屋の明かりを灯さずに暗闇に包まれていた中に自分の体を放り出す。

 

外を見ると街灯が涼しい夜を青白い光で映し出す。

温かみのないその光はより一層の孤独感と自傷行為を促す。

 

考えれば考えるほどネガティブな思考が脳内を駆け回り、一瞬自らに刃物を突き立てることを望んでしまう。

いっそ、屋根の上から飛び降りるか。

抑えきれないほどの衝動。

そんなとき、いつも決まって幻聴が聞こえてくる。

 

不思議な感覚だ。

周囲の雑音をかき消すくらい大きくて、気持ち悪いくらい純粋な憎悪、嫉妬、恨み、怒りの声だけが心の中から溢れ出し、木霊し、なのにはっきりと聞こえる。

 

「ぅう……あぁ…………」

 

心が悲鳴を上げる。

その幻聴は突然聞こえなくなる。

 

「鈴仙!」

 

私の大切な家族の声が木魂する。

現実と悪夢の区別が曖昧になっている状態で千束の悲しそうな顔が見えた。

私の意識は深いところへ落ちていく。

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