フィークス・G・リコイル   作:桃玉

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第6話

<Reisen side>

 

たきなの片手には私の手、もう片方には電話が握られ、寝起きの千束の声が聞こえる。

つまり、今私はたきなに手を繋がれ、引っ張られている状態だ。

何故こんなことになっているのか、それは先月、リコリスが襲われ、それを皮切りにこの短期間で次々と発生していることに起因する。

 

『え? リコリスが?』

「四人とも単独任務中に大勢に襲われたそうです」

「ちょっ、待ってよ、は、早いって!」

「すみません、ですがもたつく余裕はありません、急いでください!」

「ひぇぇ!」

 

たきなが電話から耳を離し、急かしてくる。

私は急ぎ足のたきなに着いていくのがやっとで電話に参加できない。

息一つ上がっていないその体力に恐ろしさを覚えつつ、必死に体勢が整わないまま脚を動かす。

 

『何で特定されてるんだぁ?』

「わかりません……例のラジアータのハッキングと関連があるのかも」

「それと『しばらく単独行動は控えなさいよ。それと今月の検診昨日よ』と山岸先生が」

「!? ……あぁ~、そぉ~だったぁ……」

 

若干寝ぼけていた千束はその一言で覚醒したようだ。

忘れたものを思い出して、「うわっ、まずったな~」という額に手を当て、頭を抱えているような声が聞こえる。

 

「……行かなかったんですね」

「だってぇ~……」

 

注射が苦手なんだもんとその言葉に続くのだろう。

千束の可愛らしい一面だが、命のためにもきちんと行ってほしいものだ。

息を激しくさせながら千束のことを案じていると、たきなが話題を戻し、早速要件を伝える。

 

「早速、今日から常に集団行動しようと思います」

「ん? たきなと鈴仙とは毎日お店で一緒じゃ……」

ピンポーン

「『あ~、ちょっと待って……ぇ?」』

 

ようやくたきなの足が止まり、千束の家の前に着いた。息絶え絶えの私は玄関前でへたりと倒れこむ。

たきなが呼び鈴を鳴ならし、千束が扉を開けると電話と目の前から声がした。

 

「『夜は交代で睡眠をとりましょう!」』

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Chisato side>

 

いきなり現れた二人、特に鈴仙は倒れていて、まさにカオス状態。

 

「ちょっ、ナニ何々ど~したぁ?! 大丈夫か?!」

「千束、わ、私はもう、ダメ、かも、しれない……。たきなのこと、頼んだよ」

「えっ、ちょ、えぇ~!?」

 

突然のことに事態を飲み込めず、心配と困惑であわあわ、おどおどしていると、たきなが自然な感じで家の中に入ってくのでさらに混乱極まり目が回る。

しかし、次のたきなの発言で困惑が歓喜に変わる。

 

「ただ急いで早歩きしただけでしょ? 運動サボって体力ないからって鈴仙は大袈裟です。

それより、安全が確保されるまで24時間一緒にいます!」

「うちに泊まんの!?」

 

ようやく状況を把握し、ニカッと一気に明るく、眩しすぎるほどに嬉しくなる。

声もサプライズと喜びで弾み、テンションあがるぅ!

どうでもいいような理由でへばっている鈴仙のことを忘れて家に招いく。

 

「いやっったああ~~! そ・れ・じゃ・あ、CHISATO's HOMEにごあんな~い、どぞ♪」

「どうも……」

 

まあ、先に無断で上がり込んでいたのにどうぞもなにもない。

たきながそのまま奥の方へ進むと感動したような声が聞こえる。

 

「プロの部屋だ……」

 

その奥の方にはタンスやテーブル、照明といった家具が一切ない部屋があり、カモフラージュのためで、本当の部屋は別にある。

きっとたきなは映画でしか見ないような本物の殺し屋が住んでいるような雰囲気に驚き、感動していることだろう。

意図せず面白いたきなを見られ、すでに大満足である。

が、そこに泊まられても困るので隠し扉の方から声を飛ばす。

 

「そっちじゃないよ~、こっち~!」

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Takina side>

 

「え? ええぇぇ~~……」

 

玄関から入ってすぐ正面に見える扉を開けるといつでも痕跡なく放棄できるようになっていると思われた千束の家に仕事ができる凄い人だったのだと感動していましたが……

なんということでしょう、何の変哲もない壁が回転式の隠し扉で、その下に続く梯子が……

そこから下りていくと、お菓子や DVD のケースが散らかり放題のだらけきった千束らしい部屋が露わに……

 

「その辺座って~、アイスコーヒーでいいでしょ?」

「ちょっと、おいて、いかないで、くださいよぉ……」ドサッ

「ああ、ごめん、大丈夫?」「大丈夫じゃ(だいじょば)ない、飲み物ちょうだい」「へいへい」

 

放置していた鈴仙が息を切られつつもなんとか自力で部屋の前に到着し、さも当然のようにソファーに倒れ込みエネルギー補給を始める。

先ほどの感動はどこへ行ったのか、霧散してしまった。

 

「……何なんですか、コレ?」

「長く仕事してるといろいろとあるのよ。ここはセーフハウス一号。他に三つあるんだ」

 

そう言いながらコーヒーの準備をする千束、出しっぱなしだったお菓子を貪っている鈴仙。

いくら危険があるからといって、こんな生活力がなさそうな人たちと共同生活すると決心して本当によいのか、過去の自分に尋ねてみたい。

しかし、過去には戻れない、私がこの家のことを切り盛りしないと……

 

 

****

 

 

「共同生活を送る上で公平な家事分担です!」

 

私は生活力皆無そうな二人に家事をやってもらうべく分担表を作成し提示した。

料理、洗濯、掃除、三人だから丁度毎日どれか一つずつ行うようにプランを組んだ。

これほど平等で完璧なプランに誰もケチつけないだろうと思っていたが……

 

「……つまんない」

「つ、つまらない!?」

「平等すぎ、社会主義みたい」

「平等なことに何の不満が!?」

 

と、このように文句を言われて困惑するばかりである。

和を以て貴しとなす、昔の偉い人(聖徳太子)の言葉をこの人たちはきっと知らないのだろう。

仕方なしに私は代案を考える。

 

「……で、では、じゃんけんとかがいいですか?」

「いいねぇ、それいいねぇ! じゃんけん!」

「資本主義らしくていいね!」「ちょっとわかんないです」

 

じゃんけん、それは確率によって支配されている運だけのゲーム、世の中には心理戦だと言うような人もいるが、今回そのような読み合いはない。

つまり多少のばらつきはあろうとも勝つ確率はみんな1/3、つまり結局平等に家事分担は決まるであろう。

 

「「「最初はグー! ジャンケンポン!」」」

負けましたか……でも確率的にまだ不公平ではなし、次は勝てるといいな。

 

「「「ぽんっ!」」」

また負けましたか……まあそういういうこともあるでしょう。

次こそは。

 

「「「ぽん!」」」

え、三連敗?

 

「「ぽんっ!」」「ぽn」

「「ぽんっ!」」「ぽ?」

「「ぽんっ!?」」「……」

 

……

 

「「ぽぉ~んっ!」」

「……は?」

 

気づくとじゃんけんは終わっていて分担表の21マスには全てに私の名前が入っていた。

千束は甘いジュースを、鈴仙はお菓子をリスのように口に入れながら余裕そうな笑みを見せる。

どうして、こんなこと……!?

 

愕然とし、疑問がさらなる疑問を呼び込み、思考がまとまらず何も考えられなくなる。

後に気づいたがこれが負けフラグというものなのだろうか?

 

 

****

 

 

じゃんけんの件の翌日、私は仕方なしに料理と洗濯、それから簡単に掃除をし、三人で集団登校(女子高生のような制服のため便宜上の「登校」)をする。

いつもの職場であるリコリコに到着すると過剰なほどの元気を振りまく千束が店のドアを勢いよく開け、その鈴の音を響かせる。

 

「おはよう、労働者諸君!」

「おはよーございま~す……」

「おはようございます」

千束は飛びきり元気な、鈴仙は対照的に眠気がまだあるようで目をこすりながら、三者三様の挨拶を電話中の店長やまだ摂酒していないミズキさん、畳の上でゴロゴロしているクルミに向けてする。

店長はこちらをチラリと見て手を上げ挨拶に反応し、ミズキさんは少し心配するように返す。

 

「聞いたよ。エラいことになってるわねぇ~」

「んあぁ~、私たちDAじゃないから大丈夫だよ」

「可能性はゼロじゃありません。油断大敵です。……ですよね、鈴仙?」

「……えっ? あっぁ、ええそうですね!気をつけないと」

 

千束のあまりにも隙だらけの会話に釘を刺す。

ついでにぼーっと店長の方を向いている眠たそうな鈴仙にも注意を促す。

犯人がわからない今、いつでも危険を意識し、緊張感を持って行動しなければいけないということを本当にわかっているのだろうか。

 

「次の被害を防ぐためにもなると思うが……。ああそうか、わかった」ガチャン

「楠木さん?」

「司令は情報をくれそうですか?」

 

店長が電話を切る。

その音を合図に千束と私は質問をするが、店長は肩をすくめ首を横に振る。

 

「極秘だとさ」

「DA様は秘密が多いこって」

「勝手に覗いちゃうから、いいよぉ~!」

クルミがハッキングを仄めかすようなことを言っているが、まさか実行するので?

もししたところでクルミなら問題なさそうですが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Chisato side>

 

「抹茶団子、おまたせしました」

たきなが接客にいそしんでいる中、私とクルミは休憩、もとい情報を調べていた。

この休憩場所の角には鈴仙もいるが、こちらは浅い眠りについているようだ。

昨日楽しすぎて夜更かししちゃったもんなぁ……

いつも六時間以上寝ている子供とって、日中ずっと起きているなんて無理な話だ。

 

「ほい! これも~らい」

「ああっ、そのタイルもってくなよぉ」

「調査するんじゃなかったの?」

 

仕事が空いたのかミズキが調査中の私たちにそんな声をかける。

心外な! と一瞬思ったが、まあ今の状況はボードゲームをしているようにしか見えないのでその言葉はしまっておく。

 

「情報をダウンロードして後でゆっくり調べるんだよ」

「アンタっ、DAをハッキングしてるの!?」

 

ミズキの呆れ声にクルミがあっけらかんとした様子で答える。

 

「さすがはクルミさん、ヤバいねっ」

「チョロいね」

 

クルミは私の冗談交じりの言葉に朝飯前だと調子にのる。

そのままテーブルの上に置いてあったミカさん特製ぜんざいをかき込みリスのようなほっぺたになっていた。

空になった皿を持ち上げ「たきな~、おかわり~!」という声高らかな声に目の前を通る労働者の鏡はむすっとした表情を浮かべた。

その不満げな視線は仕事をしていない者に対して、というより私たちの方へと向いていた気がする。

今朝のジャンケンのことかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Reisen side>

 

今日の仕事が終わり、3人でセーフティハウスの直前まで来た。

しかし少し離れた所からプロペラの音が聞こている。

その音の正体はドローンで私たちを尾行しているのだとつい先ほど確信した。

距離にして数百mで無音に近い、距離や方向は不規則、巧妙に隠れている。

これらのせいで尾行であると気づくのに遅れてしまった。

しかし隠密レベルは私の方が高かったのが運の尽き。

 

「千束、ドローンが」

「え、マジか~… こちとらこれからゆっくり映画見ようと思ってたのに~。お願いたきなぁ」

「……わかりました。どこです鈴仙?」

 

せっかく仕事が終わったのに業務時間外に仕事に呼び出されたが如く厭そうな顔をする千束が唯一ちゃんとした銃を持っているたきなに泣く泣くお願いする。

千束はかわいいからいいけど普通だったらただのダル絡み。

たきなが仕方がない人たちですと言うような顔で承諾する。

私が「だいたい西方向です。たきなから見て……」というと何時ぞやの沙保里さんの時のようにすんなりドローンを撃墜してしまった。

撃墜したドローンが西日から反れたことでその様子が見えたのか千束は目を輝かせ、たきなの手を握る。

「スゴいじゃんっ!! 見えないのによく当たったな!?」

「い、いえ、鈴仙に言われたとおり角度を調整しただけですから……。というかあの距離を目視で確認できるとか、位置を正確に把握して射撃の指示を出すとかの方が余程だと思いますが……これもじゃんけんと関係が?」

 

千束に褒められ頬をかきながら照れた様子のたきな。

そんなたきなに賞賛されて嬉しくって私も千束も口が軽くなる。

 

「ああ、口達者ぁ! そんなこと言われてもこの千束、タネは明かししませぇん! まあヒントくらいなら?」

「じゃんけんの勝率は統計的にどの手も三割なのに……どんなずるを?」

「ずるとは何です!? そんなじゃないから! それに統計とか運とかも関係ない。ヒントは千束の弱点は目」

「それは人類共通です」

「誰だって爆音とか、閃光とか、……しゃとか弱点に決まってんじゃん」

「ナニナニぃ、最後の方なんか聞こえなかったんですけどぉ?」

「……うっせ! 聞こえてるくせに」

 

ムムムと頭を抱えているたきなを尻目に千束をからかい続けた。

あ、キレた、やっやめっ、関節技かけないで!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Takina side>

 

現在晴天の昼下がり。

しかし私の顔は眉間に皺が寄っており曇天。

それもこれもじゃんけんのせいだ……

昨日のヒントは解けず、というかそもそもヒントなのかどうか疑っている。

そもそも完全な運任せのじゃんけんでイカサマができる訳ないのだ、まさか読心はできまい。

何にせよ勝つための方法を考えなくてはと腕を組み、うなっているとカウンターからミズキさんの声が聞こえる。

 

「どったのアンタ?」

「実は……千束と鈴仙にじゃんけんで勝つ方法を考えてまして。調べたりして実践しているのですが全戦全敗で……」

「……鈴仙、アンタ、最初はグーでやらせてるでしょ」

「ギクリ……」

「……それでは勝てない。千束が服や筋肉の動きを見て相手の行動を予測しているのは知っているだろう?」

 

いえ、知りませんでしたけども……

確かに千束がよく銃弾を異常な動きで躱しているのを見ますが本人曰く、「勘」らしかいのでそういう原理だったとはつゆ知らず……本当にあり得ない人です。

感情が少しずつ驚愕から感心、そして苛立ちにシフトする。

 

「鈴仙だってそうよぉ、千束より見る能力はないけど」

「そ、それは千束が反射神経オバケなだけ! 千束以外だったら連勝できますけど!?」

「その対戦相手がいないのに何言ってんだか」

「グハァ! (ぼっち)に、その言葉は、きくっ……!!」

「まあ勝ちたいなら最初はグーを止めることだ」

 

店長とミズキさんの解説と助言を有効活用しなければ。

かの邪知暴虐の二人を倒すために……じゃんけんで!

ミズキさんの言葉でダメージを受け床に伏している鈴仙を白い目で見ながらその決意を抱いたとき、奥の部屋から千束が出てきた。

その白い目をその方に移す。

この詐欺師紛いを見ていると腹が立ってきます。

 

「組長さんのとこに配達いくわー……ナニよ?」

「い・い・え、別に……」

「早く配達行ってきな~」

「私もいきます」

 

不機嫌ではあるが、かといってリコリス襲撃事件の犯人が特定できてない今、単独行動をさせるわけにはいかないため倒れ込んでいる鈴仙を放置しついて行こうとするが手で止められる。

 

「大丈夫! クルミがね、リコリスの制服がばれてるんじゃないかって。だから上にポンチョ着てみました~! どう、かわいい? どうどうどう?」

「いいと、思います」

「ああ~ん、かわいいって言ってくれないなんて、たきなのいけずぅ~」

「……ハァ、とにかく私もそれで行きm」

「ああ、大丈夫! たきな、今日も夕飯楽しみにしてるゥ♪ それじゃ行ってきま~す!」

「……確信犯め、警察に捕まっちまえ」

 

 

****

 

 

そんなこんなで休憩時間になり、千束と鈴仙のじゃんけん連勝記録を止めようと私は鈴仙に挑んでみた。

結果はというと……

 

「ど、どうして……!?」

「ふっ……手加減って難しいですね」

 

私が連敗していた。

おかしい……最初をグーをやめて、それでも連敗だなんて。

悔しがる私を見て鈴仙はどうだと言わんばかりの得意顔をしている、さっきまで意気消沈してたのに。

そんな私を見かねたのかミズキさんが顔を出しに来た。

 

「こっぴどく負かされて、よくめげずに続けてるわねェ。言っとくけど鈴仙は千束とサザ○さんのじゃんけん以外ではほとんど負けなしよ」

「えっ、それってどういう? さっき千束より見る能力がないって……」

 

疑問ばかりが浮かんで混乱する。

そんな私をそっちのけに、ミズキさんは鈴仙のことを再び白い目で見る。

気まずい様子の鈴仙から「いや、あの、そ、その……」と声が上がり挙動不審である。

一体何を隠しているというのか。

 

「波長を読んで、ます……」

「はい?」

「つまり感情を読み取って予測してるらしい。……あくまで補助らしいがな」

「ちょ、ちょっとぉ、ミカさん! 何でそこまで教えてるの~!?」

「ん? 悪かったか?」

「アンタが永遠どもって教えないからでしょ。兎の討伐方法(自分の手の内)くらい仲間なんだから吐いちゃいなさいよ」

「そんなこと言ったってー。教えちゃったら面白くないし、じゃんけんしてくれなくなるじゃん……」

「そんなんだからぼっちこじらせてるのよ……」

「ぼ、ぼっちちゃうわ! ……うぅ」

 

なるほど、そういうことだったのかと人差し指をツンツンもじもじさせている鈴仙を見て思う。

私の視線に気づき、鈴仙がビクビクと震える。

 

「ごめん……お、怒ってる……?」

「確かに少しムカつきました。でも、まだ勝つこと、諦めてませんよ?」

「……また遊んでくれるの!?」

 

私の宣戦布告にはしゃぎ喜ぶ鈴仙はやっぱり不思議な人です。

しかし再戦するからには勝ちたい。

 

「……ミズキさん、どうしたら勝てます?」

「アンアが挑むとしたら……千束はあいこになる前に決着をつければワンチャンあるけど、鈴仙は加えて考えちゃった時点でノーチャンよ。不意打ちで仕留めるしかないわよ~?」

「……前言撤回します。やっぱりしません」

「そ、そんな~!?」

 

負けが確定している勝負に進んで仕掛けるほど私は狂ってはいないはず。

純粋な子供のような理由で表情をコロコロ変える彼女には申し訳ないが諦めてもらいましょう。

それでも今度一緒に遊んであげよう……じゃんけん以外で。

 

 

****

 

 

千束が配達に行って数時間が経過し、外はすっかり暗くなった。

店の外も内も夜の静かさに呑まれていた。

今朝の眠気が再び襲ってきたのか鈴仙がウトウトし始めたのだが、その静かな眠りをぶち破る声が二階から「ぁぁぁぁぁああああああああ゛あ゛あ゛あ゛っっっ!!!!」と階段を降り私たちの前に来た。

一体何事かと一同の視線がクルミに集中する。

 

「見てくれっ! これは銃取引の時のDAのドローン映像! これが犯人に流出してバレたんだっ!」

「なぁんでそんなモンが流出すんのよ!?」

「あのときのハッキングか……」

「アンタの仲間じゃないの? さっさと調べなさいよ!」

 

ミズキさんがクルミに指示を出すが動きがない。

クルミの顔を見ると申し訳ないような、気まずいような顔をしており、爆弾を落とした。

 

「あの時のはボクだ……」

「どういうことだっ!?」

「依頼を受けてハッキングした……仕方がなかったんだっ! 目的のクライアントに近づくには必要だったんだ……」

 

耳を疑うような発言に皆が驚き、険しい顔つきになる。

店長の驚嘆と質問に弁明が飛ぶが私はそれどころではなかった。

どのような意図にしろ、私の左遷の原因が目の前にいる。

今まで仲間として見ていた者から突然裏切りの告白。

怒り、悲しみ、困惑して気がどうにかなってしまいそうだ、以前の自分なら。

あの時、千束が私に居場所をくれた。

鈴仙が信頼して待っていてくれた。

あの事件があったおかげでこの人たちに会えた、失ってできた意味があった。

 

ミズキさんが銃の行方や私のことについてクルミに責めるが、不思議なことに私は冷静さを失っただけでクルミに対する怒りや憤り、同胞の死に対する悲しみはほとんどなかった。

ただひたすらに千束が心配で……今はクルミがDAにハッキングしてたことなんてどうでもよかった。

 

犯人はリコリス制服を目印にしている訳ではなく、映像にいるその人をターゲットにしている。

なら千束は平気だろうと思うのだが、なぜか妙な胸騒ぎがする……

 

「映像はそれで全部ですかっ!?」

「千束、千束はどこだっ」

 

私の声にクルミの焦って千束を探す声、予感が確信へと近づいていく。

悪い予感なんて当たってほしくないのに……

 

「全部じゃないんだっ……」

 

千束が映し出されているタブレットを見せつけられる。

的中してしまった。

 

季節は秋。

ドアベルの音、木が軋む音、風の音、すべてが私たちの不安を煽る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Reisen side>

 

千束の存在は私にとって必要不可欠である。

彼女がいなかったら私は異端故に生涯孤独で、惰性で生き存えるか、進んで死中に身を投じ、彼岸花の花弁を散らしていた。

もし優しいだけの人であれば見かけだけ孤独を紛らわすだけ。そこに芯のある強さがある千束でなければ心は満たされない。

千束だから私は活きている。

 

強い彼女は自分をおいて赤い花を散らすことはないだろう、そう思っていても不安が残る。

私の最愛を奪おうとする者の存在、それを思うだけで怒りが生まれる。

私が動かなかったことで起こる悲劇を想像すると震えが止まらず、絶対後悔するぞと誰かの言葉が煩い。

だからクルミのあの言葉を聞いて、私の感情が体を動かした。

 

焦り、不安、恐れのせいで手が震え、体中から嫌な汗が流れる。

それでも私の耳はいつも以上に研ぎ澄まされ、遠くの衝突音を捉える。

その次には多数の車のブレーキ音。

 

まずい……間に合って!

 

そう思った次の瞬間銃声が轟く。

一瞬千束が打たれたのかと思い頭が真っ白になりかけるが、一つの銃からのみ出た音と判断し、きっと千束の仕業だろうと胸をなで下ろす。

 

不安による息の乱れはあるものの疲労は問題ない。

一刻の猶予もない中、大勢の男どもの非道い声が五月蠅い方に全速力で向かう。

 

 

****

 

 

ようやく忌々しい集団に追いつき、尾行している。

きっとコイツらは千束を集団で叩くつもりなのだろう。

日が沈みきり辺りは闇に覆われているためいくら千束だろうと心配だ。

 

しばらく後を付けていると千束の声が聞こた。

「アンタが一連の銃撃犯?」と警戒しながらも元気そうな様子且つ犯人を追い詰めたとの声に焦燥感が拭われる。

気配を消して近づいて見ると怪我一つなさそうな千束と頭から血を流しているのに凶悪な笑みを浮かべるブロッコリーヘアーの気狂い野郎が対峙していた。

緊張が張り詰めている中、千束が背後をとろうと間合いを詰めながらほとんど無音で回り込む。

 

少しの静寂の後、場が動いた。

それは千束にとっても私にとっても予想外の展開。

緑野郎が千束の方にぐるりと顔を向け口から血を吹き出し、千束の目にかけたのだ。

意表を突かれた千束はまんまと目潰しを食らう。

 

そして次の瞬間、茫然自失の後、私は我を忘れ怒りに身を任せていた。

 

だって仕方ない、千束の顔(大好きな人)に汚れた拳が当たったのだから。

たとえその傷が軽くても、彼女が平気であっても、耐え忍ぶことなどできない。

一発、もう一発と千束が苦しめられている、周囲の煩い蠅の歓声を認識するたびにナニカが膨れ上がる。

私は隠していた気配を無意識に晒すと同時に狂気の瞳で敵を捕らえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Takina side>

 

クルミが千束の映像を見せてくれたことで予感が確信に変わった。

だから千束に危険を知らせる一報を飛ばし、その電話越しに激しい音が響いた後連絡が途絶えたとき阿寒がした。

だからいち早く安否を確認するために鈴仙を連れて現場に向かおう、そう思ったときに初めて彼女がいつの間にかいないことに気づいた。

 

鈴仙がいないことで苛立ちと不安を募る。

そんな中、千束がいたと思われる場所に着くと身に纏っていたポンチョと先頭の形跡のみ残っていた。

一足遅かったと拳を強く握りつつクルミの指示に従い千束のいるところに駆けつける。

 

『まずい! 千束がやられてるぞ!』

 

そんなクルミの声を聞き足が加速する。

しかし数秒も経たずして『えっ……』と漏れた声が聞こえてどうしたのかと応答を聞く前に現場近くに辿り着き自らも同じ声を漏らしてしまった。

 

なぜそんな声を漏らしたのか?

そこにいつの間にか消え去っていた鈴仙がいたからか。

赤い液体が倒れている千束の額から流れていたからか。

敵の数が一瞬で把握できない程であったからか。

 

どれも正解だが一番の理由ではない。

 

鈴仙の異様な雰囲気に呑まれてしまったせいだ。

 

 

****

 

 

射程範囲外からでも十分感じる鈴仙の放つ殺気のようなナニカによって敵の意識は完全に彼女に向いていながら、銃弾が放たれなかった。

千束にゆっくりと歩み寄る鈴仙に痺れを切らして誰かが放った銃弾も一切彼女を射ていなかった。敵の無意識が彼女を打つことを躊躇ったせいか、それとも彼女の回避能力が千束のように化け物であるのか、ナニカに曝された私はまるで銃弾が鈴仙の体を透過したように見え、正確に判断できなかった。

 

普段の気弱の雰囲気から人が変わったかのように一変した鈴仙を見て、恐れからか、背筋が震えるのと同時に、暗闇に赤く映る瞳が綺麗だと感じた。

 

「オイ……なんだぁテメェは? コイツの代わりに戦ってくれんのか?」

 

主犯格だと思われる緑髪の男が銃口を千束から外し、鈴仙の方へ僅かにそらして片腕で構える。

それでも鈴仙の足は無視して徐々に千束の方に近づく。

 

パアァァァンッ

 

男の銃声を鈴仙が避ける。

その音を皮切りに二人は肉薄する。

 

「なんだ、喋らないのか? 寂しいぜ俺は……ッ! ロボ太ッ、照明を消せッ!」

 

男がそう言って誰かに向かって指示を出すと車のヘッドライト等から照射される光が落とされる。

急に光を失い、目のしぼりの調節が上手く働くまでに時間がかかる。

その間にも銃声が鳴り響く。

ようやく夜の闇に慣れて、目の前に現れた光景に目を見開く。

 

「テメェ……おもしれぇなぁ」

「……」

 

そこには転げた男に鈴仙のではない、男から奪い取ったのであろう銃が握られ、銃口が男に向けられていた。

しかしそこから一切の変化を感じない。

指がトリガーにかかる気配がない。

 

「もしかして……銃を脅しの道具に使ってんのかぁ? ビビってんじゃねぇ……銃はなぁ、殺しの道具なんだよォ!!」

「鈴仙!!」

 

男が素早く鈴仙から武器を奪い返しそのまま固まって動かない鈴仙に向けて撃ち込む。

しかし千束が手を伸ばし、鈴仙を思いっきり引っ張り、攻撃をすんでの所で回避する。

 

「ごめん、動けなかった」

「……大丈夫。ありがと、鈴仙」

 

先ほどとは打って変わって男が起き上がり、二人は膝をついている。

しかし、やり取りの直後二人はいつも通りに戻り、私の体の自由がも徐々に戻ってくる。

数秒動きが緩慢になってしまったがやるべきことを思い出し敵の銃や急所以外を狙い撃つ。

 

千束が落とした自分の武器を取り、突然の発砲に気をとられた敵に何発も打ち込み気絶に追い込む。

薄い気配が敵に接近してから鳴る銃声、血だまりができていない、つまり鈴仙もゴム弾であるはずなのに一撃で仕留めている。

 

戦い方は違うのにどこか似ている白く輝く太陽と月、二輪対の赤い彼岸花が咲いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Reisen side>

 

千束の力強い瞳と仄かに伝わる体温と息づかい、そして耳に届いた声によって高ぶり迸り爆発した感情は落ち着きを取り戻し、私の意識が現実を認識する。

感情に任せて我を忘れていた自分自身に嫌悪し、今は生き残るためにと膨れ上がりつつある思いを押さえつける。

 

千束が落とした自分の武器を取り、突然の発砲に気をとられた敵に何発も打ち込み気絶に追い込む。

 

私が私の武器で音を鳴らすたび、一つ響くたびに敵も一人ずつ地面に倒れる。

 

突然、敵が血を出して倒れ出す。

同士討ちかと思い一瞬戸惑うがサイレンサーのついた独特の小さめの銃声がなる方を見ると戸惑いは消える。

たきながそこにいた。

 

多勢に無勢、しかしこちらが優勢。

それでもこちらが不利な状況には変わりなく、千束とたきなの銃弾がなくなり次第反撃が困難となる。

そんなこと考えている間も敵は容赦なく私たちを狙ってくる、当たらないけど。

 

発砲の音は無数に聞こえるのに肉が爆ぜ、骨が砕け、血が大量にボタボタと垂れる音は一切ない。

夜風が肌を掠める中、撃ち転がされた人型も暖かさを失わない。

 

「聞いてねぇぞロボ太…………だが、いいねぇ最高だ! だが1対2じゃダメだ。バランスを取らなくっちゃなぁ!!」

 

男の銃撃が加速する。

激しい銃撃戦に、狙いが定ならないまま銃弾をばらまき牽制する千束、弾切れが心配になる。

しかし、ナイスタイミング、突然車がやってくる。

その車は敵の体勢を崩しながらこちらに向かってきた。

 

「二人とも! 乗れっ!!」

 

後部座席から聞こえるミカさんの声に促されそのまま車に飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Takina side>

 

あの戦闘の後私たちはリコリコに帰ってきた。

結局銃弾切れで撤退を余儀なくされ、爆発などヒヤリとした場面もあったがこうして無事全員がそろった。

座敷で店長と鈴仙が千束の応急手当を行って、ミズキさんは酒瓶(未開封)片手にカウンターに腰掛けていた。

そしてクルミは私の前の床に膝をつき、反省の色が見える顔を浮かべる。

 

「ごめん、たきな!」

 

クルミが自責の念を感じ、私に謝罪の言葉を伝える。

後ろの方から「たきな、やっちまうか?」「ちょ、動くな千束!」「アンタは被害者なんだから……」という声が聞こえてくる。本来ならハッキング自体よくないことで警察に突き出すことくらいあるのだが、生憎今の私は彼女を嫌悪することはないため謝罪を受け取る。

 

「銃取引の時の結果は私の意思で行ったものでクルミのせいじゃありません。……でもあいつは捕まえる、最後まで協力してもらいますよ?」

「もちろんだ! ……さっそくだがそいつの名前がわかったぞ!」

 

ドローン映像からは『真島さ~んっ!』とリピートされる。

「真島さーん、だって」

 

さっそく犯人逮捕に進展が期待できそうです。

 

 

****

 

 

帰り道、今回の反省を生かし千束と鈴仙の単独行動を見逃すまいとガッチリ腕を捕まえ暗闇を闊歩する。

家に着き、食事等を済ませ、もう寝る頃合いになる。

それなのに今から映画鑑賞3本コースを始めようとしている千束と鈴仙には呆れるほかない。

 

「鈴仙、こっちきてくさだい。もう就寝時刻です!」

「えー! まだまだ眠くなーいー!!」

「そうだぞぉ! これからパーリナイッするんだから……今夜はたきなも寝かせないぜ☆」

「そう言うのいいんで、千束は警戒お願いします。「ぶー、冗談通じないヤツめ……」鈴仙は私と一緒に就寝です。寝れるときにしっかり寝るのが良い子(リコリス)です」

「ふ、不公平だ! それに私はもう15だよ!? 元服してます~!」

「その幼児服が似合う体型で何言ってるんです? しっかり食べて寝れば伸びます。ほらこっちきてください、もう9時です!」

「ち、ちさとぉ~! 9時前は早すぎるよね!? そうだよね!?」

「鈴仙……南無三」グッ

「アイルビーバアァァック……ッ!!」デデンデンデデン、デデンデンデデン……

 

サムズアップして千束がかけた映画「ターミメーター」のBGMとともに外の月影しかない暗闇に絶叫する鈴仙を引き込んだ。

 

 

****

 

 

敷き布団に引きずり込み、私たちは横になる。

千束が私たちに配慮してイヤホンにしたのか、静寂が広がる。

私の声がその静寂を破る。

 

「鈴仙……」

「ん? なに?」

「どうしてあの時撃たなかったんですか?」

「あの時?」

「ほら、さっき。真島の銃を奪い取って……」

「ああ、見られてたんだ……」

 

私がずっと疑問視していた点。

千束のように銃弾を避けていたのも、普段は感じない奇妙な気配も、ゴム弾なのにどうして一発で済むのかなど、他にも質問したいことは山積みだが、自分の有利を無に帰すその行動が不可解だった。

 

「千束みたいに殺しに否定的なのはわかります。血も苦手なのを知っています。ですがあの

緊急事態でなぜ急所を外して撃たなかったんですか? 例えば肩とか足とか……」

 

私の質問に鈴仙の顔に影が差す。

もしかして聞いてはいけないことかと思いあっ……と言いかけるがその前に鈴仙の口が動き出した。

 

「……銃の引き金を引くのが怖い。ただそれだけだよ」

 

鈴仙が背を向ける。

僅かに震えを感じるその声は恐怖と拒絶の色。

「おやすみ」と、それ以上のことは言わず、そんな彼女を見て心臓がドキリと跳ね上がる。

この場所から去ろうとする彼女を幻視する、そんなことないのに。

 

仲間を頼らないでDAの中で孤立した自分と重ね合わせ、思わず手をつかみ、背中に体を寄せる。

鈴仙が鬱陶しいと振り払おうとするが私はそれを許さない。

 

「……放してほしいんだけど」

「私は……千束と鈴仙に出会えたおかげで、今ここにいます。だから貴女たちが、鈴仙がつらいとき、私はどうもできないのでしょうか……」

 

鈴仙が困った顔をして、力なく笑む。

 

「ずるいなぁ、その言い方は」

 

 

****

 

 

鈴仙がポツリと言葉をこぼす。

 

「結構前、DA に所属する前から……人を殺すのが私の使命で仕事だったんだ。何人も何人も殺して殺して殺して殺して……その度に相手から恨み、後悔、怒り……そんな言葉ばかり言って死んでいくんだ……。その後DAに入ったんだけど、初めて仲間ができたんだ。…… うれしかったなぁ」

 

昔を懐かしみ、その声色にどことなく幸せな日常を思い浮かべる。

楽しくて幸せな毎日だったんだろうな……

 

「みんなみんなみーんな、死んじゃったけど」

 

その言葉には何も感じない。

幸福も悲しみも、希望も絶望も感じられず、何も声の調子が変わらないチグハグな彼女。鈴仙はなおも感情の籠もっていない言葉で心の奥底に隠された感情を見せず、辛くないように振る舞う。

 

「……ソイツらが夢に出てきて、何か殺せなくなって……最初は殺さないように気をつけて何とかしようとしてたんだけど、やっぱりね、無理だったんだ。DA のお仕事だし、日に日に銃を持つ腕が鈍って、結局半端な私は仲間も助けるどころか……」

 

死んでしまったのだろうか。

大切なものを失う悲しみを私は知っている。

 

「仕事ができなくなって、DAから追い出されて、わかるでしょ?」

「……ええ」

 

それでも何とか二人のおかげで折れずにすんだ。

でも、鈴仙は……

 

「ナニかがポッキリ折れちゃったんだ。それ以来、血も銃も怖くて……。でも、そんな目の前真っ暗なとき運命の出会いをして、なんとか今まで。……だって殺さないリコリスなんて異端も異端、排除されて当たり前なのに千束という前例がいるおかげでリリベルも来なかったし、そんな千束と一緒だから、誰も死なない。まさに最強、だから私は千束以外と組めなかったし、仲間もいなかった」

 

 

****

 

 

「だからたきなが来たとき、正直さっさとDAに復帰してくれないかなって思ったよ。それがたきなの希望だったし、その方が私と千束、そしてたきなのためになるって決めつけたんだ。いくら善い人でも弱けりゃ死ぬし、仲間として見るのが怖かった」

「つまり、今までの私と貴女の関係は赤の他人だったと……」

「……そういうことに、なるのかもね」

僅かに、いやかなりのショックを受けた。

あんなに良くしてくれた人が実は心では仲間でも何でもないと思っていたという事実が脳内で反芻する。

 

「……なら、どうしたら見せかけじゃなく、本当の仲間として認めてくれます?」

「なら私が死んでから死んでね?」

「……嫌ですね」

「じゃあ……」

「鈴仙が死ぬのは嫌です。でないといつまでも一緒にいられないじゃないですか……。だから鈴仙も生きてください。私は絶対生きてやります」

「……私の言ったやつと意味同じじゃん」

「全然違います、結果は同じでもその中身が。……まあ、当分死に急ぐ予定はないですし、安心しておいてください」

「……約束、してくれます?」

「もちろん。……たきなは? 約束してくれる?」

「ええ、約束です」

 

その程度で仲間としてみてくれるのなら何も問題ない。

何なら一緒に死んでも、問題ないでしょう?ひとりは寂しいから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Reisen side>

 

翌日、私とたきなはミカさんに頼まれ、嫌がる千束の両腕を掴んでとある場所に連行していた。

 

「二人とも! 私逃げない、逃げないから放せやコラっ!」

「ちょっ、抵抗しないでケガ人は大人しくしていてください!」

「今日は消毒とか傷の治療だけだから暴れんなじゃじゃ馬娘!」

「何で今日に限ってそんな息ぴったなの!? だって傷口に塩塗るみたいに痛いよ拷問だよ!? 避けられないから嫌いィィ……」

 

とある場所とは千束の担当医、山岸先生のもとだ。

子供のような千束は定期検診やライセンスの更新といったものを疎かにしがちで、私たちが口酸っぱく言っても改める気はないらしい。

多分その背景には普段ケガをしない分絶対回避できない痛みに苦手意識を持っているんだと思う。

そんなこんなで途中まで無理矢理、その後観念したのかスムーズに患者を搬送(連行)した。

 

「ケガなんて珍しいわね」

「いやぁ、相手の目潰しが効いて……。でも鈴仙が途中駆けつけてくれたおかげでそこまでひどくはないでしょ?」

「いいえ! 車にはねられたんだから受け身して骨折はないにしろ酷い打撲よ! ここに引っ張ってきてくれた二人には感謝しなさ、いっ!!」

「いだああっ!?」

 

山岸先生が傷口に消毒液を塗り込み、湿布を貼り、包帯を巻き付け、千束が悶絶する様子を面白がってみているとたきなが突然当然のことを口に出す。

 

「千束の弱点は目ですね」

「ね! 言ったでしょ?」

「それは誰だってそうだろって……」

 

ようやくヒントの意味を理解したかと相づちを打つが千束は半目で呆れている。

山岸先生がいいコンビだと私たちを評すると千束が「そうでしょ」と顔を緩ませる。

 

「たきなぁ、二人でいると安心だし、しばらく同棲続けないとぉ♪」

「……じゃあ勝負します?」

「いいね! 私も混ぜt「鈴仙はダメです」……えっ!?」

 

私を省いて行われるじゃんけん大会、参加者3名、内一人参加券剥奪にショックを隠しきれないままことの行く末を見守る。

今までたきなに負けたことがない千束はノリノリでじゃんけん勝負を引き受けるが、私はたきなに勝ってほしい。

これ以上千束と一緒にいると甘やかされて堕落する上に、家政婦たきなのおかげで拍車がかかる。

あと、これ以上同棲するとたきなが千束とゴールインしてしまう可能性が……私の心の安寧のためにもそれだけは防がないと。

 

「最初は「じゃん・けん・ぽん!!」ええ゛っ!?!?」

「ッシ……~~~っっ!!」

 

勝負に負けたこと、たきなの言葉に表せない歓声を聞いて(それってつまり同棲したくないってこと!?)と思いショックを受ける千束。

敗れた者とハブられた者、共に悲しみ嘆きましょうね……グスン

 

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