フィークス・G・リコイル   作:桃玉

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第7話

<Fuki side>

 

司令からの連絡が通信機器にきた。

内容は珍しくDA本部に千束たちが来るらしい。

アイツのことだ、こんな早い時期にライセンスの更新じゃあるまいし、まさか、先生と一緒に来ているんじゃないかと期待していたのだが……

 

「んんん~~……似てない」

「はあ? おまえの指示通りAIが描いたらこうなったんだ! 指示が悪い」

「じゃあいいですよぉ! この千束さんたちが描いてやるんだから。ねっ二人とも!」

「えっ? あ、はい?」「似てないのでしょうがないですね……」

「……勝手にしろ」

 

先生は不在で期待外れ、ただ千束一行(うるせーやつら)の世話係。

この場にいる司令には騒ぎ立ててしまい申し訳ないと感じるが、それにしてもムカつく。

だったら最初から自分らで描けやと叫び散らしてェ……

 

「で~きたぁ!」「できました」「……」

 

そう言って三人が提示したモノは……千束マンガ絵、たきな小学生、鈴仙ブロッコリー……似てる似てないの次元じゃなくそもそも画力とリアリティの問題だった。

千束は「ちょ、似てないってぇw、鈴仙のは似てるけどぉブロッコリーってw」と腹を抱えて吹きだしている。

 

「漫画と野菜じゃないですか!?もっと真面目に……」

「いや、もう真島の印象ってブロッコリーってことしか頭になくて」

「しゃーないしゃーない。あのときぶち切れいせんだったから覚えてないはずだよ~」

「全然似てねぇじゃねぇかっっ!!」

「だってAIの似てないし……」

「そう言うからやらせたんだろーが……お前らが描いたやつだって全部違うんだろぉ? やる気あんのかぁ~? ああん?」

「いや、ホント、すんません……」

「うちのかわいい妹分の鈴仙萎縮してんだろ! だったらテメェが描けや!」

「お前らしか真島見てないんだから描けるわけないだろ!?」

「……あ、そうか」

 

マジで、コイツ……考えてから物言えよ!

おかげで余計なカロリー消費しただろうが……これに託けて先生の店でカロリー補填できたらどれだけよかったか。

そんな大好きな人のことを想い、怒りが静まる。

 

それにしても鈴仙……大分肉ついてきたか?

 

 

****

 

 

鈴仙に出会ったのは大体10年前、旧電波塔事件のわずかに前のことだった。

そのときの彼女は恐がりで、何かに常にビクビク怯えている様に見えた。

そんな彼女の第一印象はよく言えばやさしく無害そう、はっきり言って弱そうだしすぐ死んでしまいそう、だから私が助けてやらないと、とそんな感じだった。

 

日常生活でも戦闘中でもその柔らかさとやさしさは変わらずにいた。

そんな彼女と戦闘任務で一緒になったことが何度もあり、何回目のことだったか、仲間の一人が命の危機に瀕したことがあり、そのとき印象はガラリと変容した。

生に執着した目、荒れ狂う感情と殺意、それらが相乗して冷たい空気を放っていた。

 

きっと仲間を殺そうとしている敵に怒ったのだろう。

普段の演習では全く見せないその姿に周囲の空気が重くなり、私は顔が青ざめ息苦しくなったのを覚えている。

その作戦は犠牲を払いつつも成功したのだが、直後冷たい空気が収まり、いつもの肩を振るわせる鈴仙がいた。

 

そんな怖くもやさしい彼女はきっとすぐファーストになるものだと確信していたのに、今や私がファーストで、鈴仙はセカンド、予想なんて当てにならないもんだな。

 

それもこれもあの事件のせいだ。

公にはなっていないものの彼女にとっては、いや私にとっても旧電波塔事件以上の事件。

あの日以降彼女は銃を持つ手が震え、冷たい空気を撒き散らし、仲間の死を見る度に衰弱し、ついには本部から姿を消した。

 

先生の元に行く度に顔を合わせることはあったが、顔を見るたびに気力が戻って前のやさしい彼女になったと思っていたが……

何かいやな予感がする……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Reisen side>

 

現在、傷口を抉るような似顔絵大会も無事終了し、いつも通りお店の営業に勤しんでいる。

ただし今日はいつもよりちょっぴり来客が多く、千束が休憩に入るとき、ミズキが嬉しい悲鳴をあげている。人のことは言えないがミズキの体力の無さには呆れてしまう、これも三十路という年の運命(さだめ)か……

 

「ちょっと、今失礼なこと思わなかったでしょうね?」

「勘のいいガキは嫌いだよ」(い、いえ! 何も!)

「アンタがガキでしょうがっ!」

「ちょ、ま、話! 話をしy……」

 

酷い目に遭った……何も拳骨を落とさなくてもいいでしょ……

ヒリヒリする頭を押さえつつ楽しい賑やかな店内の様子を眺めた。

「漫画家、前も同じこと言ってなかったか?」「ニヒヒ、絶対終わらないよアレは」「早く休憩変わりなさいよぉ ……」「たきなボードゲームの準備し……」「私は結構です」「前ボロボロだったから……」「関係ないです。日本語学校の……」「逃げたぁ!」「逃げてないです!」

こんなにいい雰囲気なのに、どうしてこんなにも最悪な……

 

……似顔絵飾っちゃったかなぁ。

 

 

****

 

 

うーん…… うーん……

千束が昨日のお昼頃から眉を顰めて唸っていて五月蠅い。

トイレに入っているときでも、接客中でも、ずっと千束の悩ましげな声が耳から脳みそに入ってきて鬱陶しい。

心ここに在らずといった感じで接客せず、休憩時間ばかりが過ぎていく。

 

「さっさと、仕事に、戻らんかいっ!!」

 

ミズキのうれしい悲鳴(笑)が大きくなった。

それにしても一体どうしたというのだろうか。

鬱陶しい以上に心配が勝り思わず「大丈夫? どうしたの?」と声をかけると……

 

「ん、ああ。ごめん。ちょっと、ね」

 

とミカさんの方をチラチラ見るばかりで教えてくれない。

内緒話でもあるのだろうかと仕事をしながら待っていると、いよいよ日が暮れ、店内で晩酌を始める労働者が現れた。

 

「ぷっはー! 仕事終わりはコレに限るわ~!」

「家に帰ってからやれよ……」

 

クルミの正論に耳を貸さないでもう一杯、もう一杯と酒カスができあがっていく様子を見ていると、チリンチリンとドアが開く音がする。

千束が帰ってきた音だったのだが、今もなお考える像のポーズで唸っている。

たきなの真正面に千束が現れ、たきなが訝しげに声をかける。

 

「どうしたんですか? 今日、なんか変ですよ?」

「コイツは毎日変だろ……」

「スゥーー、先生は」

「おっさんはさっきかいだしに行ったわよぉ。なぁにもうおっさんがこいちぃーのかぁちさとちゃ~ん?」

「酔っ払いは余計なこと言わないで。……それで千束、何があったの?」

 

私は酔っ払いの言葉を冷たくあしらい、今までお預けされていた情報を催促する。

すると意を決したのか、深く考え込んだ様子の彼女の口から衝撃発言が飛んできた。

 

「皆さん……リコリコ閉店の危機です」

「「「「えっ……?」」」」

 

 

****

 

 

「店内オールクリアです」

「よしきた!」

 

ミカさんが出てから既に店内の状態は確認済みである。

千束から事の発端を聞くと何でもミカさんの差出人不明のメールに『明後日21:00 BAR Forbiddenにて待つ。

千束の今後について話したい』、つまり千束を本部に連れ戻したいと楠木さんから連絡がきてたらしい。

 

「人のスマホ、覗き見するんじゃありません!」

「だぁって見えちゃったんだもん……」

「でも司令とは限らないでしょ?」

「いいや、先生をたらし込んで私をDAに連れ戻す計画じゃわ……」

「自慢ですか? 結構ですね必要とされてて」

「ああん! そうじゃないよぉたきなぁ!」

「ちょ、そこ! ベタベタしない、くっつかない!」

「私に言われても……千束に言ってくださいよ」「えぇーん、鈴仙、たきながつめたいよぉー」

 

ただでさえ千束がいなくなることに不安を感じている今、千束がふざけてたきなに絡んでいるのを見ると DA より先にたきなに独占されてしまいそうと間に割って入り千束を奪い取る。

嘘泣きをする千束を慰めるように頭や背中を撫でている間も話は続く。

 

「小さいとはいえ、DAの支部だからファーストリコリスであるコイツがいないと存続できないのよねぇ」

「じゃあ私が戻りますよ」

「うええ~ん、そんな寂し~い」

「たきなはお呼びじゃないんだろぉ……イテッ。失言だったスマン、スマン」

 

ミズキが叩かれるクルミを見てにっしっしと笑っている。

私としてはたきなが DA に戻る分には少し寂しくなるなとは思うが千束を独り占めできるというメリットもあるため、たきなが本気で戻りたいなら後押ししたいのだが……

 

「みんなだってお店なくなったら困るでしょ!?」

「……私は養成所戻りですし」

「まだボクはここに潜伏しないと命が危ない」

「千束とペア解散……DAに戻ったとしても任務の時以外一生ぼっちのまま!?」

「私も男との出会いの場がなくなる!!」

 

「そうでしょ!?」

「「「「うん」」」」

 

ここに千束をDAに連れ戻すのを阻止するための同盟が結束した。

なお、ミズキの出会いはこの職場でもないという事実は空気を読み口を噤んだ。

 

 

****

 

 

「Forbidden、完全会員制のBARか……」

「会員証の偽造は任せたぜ! クルミさん!」

「たまには働きなさいよっ」

 

普段働かない居候に普段昼間っから酒盛りしてる不良店員が活を入れるという構図を見て思わず吹き出しそうになる。

その居候にとって偽造くらいわけなさそうだが何故か眉を顰めている。

 

「どうしましたの? なんか問題が?」

「いや、偽造くらいわけないが、こんなしゃれた店で仕事の話するか普通? 常識的に考えて逢い引きじゃないか?」

「つまり店長と司令は愛人関係ということですか?」

「愛人って……」「破廉恥です!」「アンタの口から聞くと、なんか、興奮するっ!!」

「えっ?」

 

私たちが昼ドラを見たことがあるせいか、たきなが日常口語に慣れていないせいか、愛人というワードに呆れている人、顔を朱に染める人、変態、要領を得てない本人がいた。

そんな中淡々とパソコンをいじりつつ「でもそういうことだろ?」とクルミが返すが、あの二人に限ってというか、ミカさんの恋愛対象的にも恋仲は……

 

「「「ないないないないないない」」」

「なんでだよー、あり得る話だろ?」

「「「ないないないないないないない」」」

 

あるとしたら……ヨシさんとか、ね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Fuki side>

 

昨日世間を騒がせた警察署襲撃事件、ヤクザによって起こされたと報道されているが事実は異なる。

実際には真島とかいうあの頭の狂った野郎が主犯で、銃弾をばらまいたのだと上の人は思っているらしい。

犯人の顔も目的さえ不明であるが、その手がかりとなる人物がいる。

だから司令はソイツと知り合いである私に情報の伝達を頼んだのだろう。

ソイツ、まあ千束のことだが、見るたびにムカつくようなやつだ。

私と違って身長高いし、胸デケぇ(スタイルいい)し、先生を独占してるし、絡み方がウザいし、銃弾を避ける化けもんだし、先生といっつも一緒だし……何かおかしくねえか?とにかくだ、大好きな先生がいることを期待して、ペアのサクラを連れて喫茶リコリコの扉を開けた。

そこのテレビからは昨晩の事件が一般向けに報道されている。

 

「千束はいるか」

「おお~フキぃ、らっしゃい」

「説明は不要だな、見せたいものがある……オマエ、見ない顔だな?」

 

ここのパソコンにUSBを接続してDAが入手した映像を見せようとするが、パソコンを使っていたのは今まで見たことのない顔。

千束とその新顔が言うにはDAの一員らしいが、今はそんなことより重要な情報がある。

「ちょっと借りるぞ?」と言いタブレットにUSBを差し込み、動画を再生する。

 

「署内の監視カメラの映像だ」

紋々(ヤクザ)じゃねえじゃん!」

「当報道はカバーして情報統制するに決まってるじゃないッスか」

「けどこうなる前にあんたらが何とかするのが仕事でしょ?」

「むぅ……」

 

ミズキに痛いところを突かれてサクラがうなっている。

確かにミズキの指摘通りだが今回はそれ以上に協力してもらわなければならないことがある。

気を改めて話を続けようとしたが、うれし残念なことにそれは店の奥から登場した人により中断される。

 

「珍しいお客さんだな」

「団子セットいいッスか? 抹茶のやつ!」

「抹茶団子セットね。……フキ、おまえは?」

 

先生が私の名前を呼んでくれただけで嬉しくて顔が蕩けてしまいそうだ……

でも今の私は任務で来ているのであって、憧れの人の前で公私混同するだらけた姿など見せられない。

 

「い、いえ、任務中ですので……。ち、千束ぉぉお! この中のどれが真島だ!! さっさと教えろぉぉおお!!」

「うっさいなぁもー、そんなに大きな声で話さなくても……あ、コイツ! こいつだよ! ね、たきな!」

「ですね……」

「髪型は私の方が似てるじゃ……」「髪色だけじゃないですか! 私のほ……」

 

こいつが……

癪だがこの現在進行形で喧しい二人のおかげで真島を特定できた。

さて、今回の任務はこれで終わりだ。

 

「よし、サクラ、行くぞ」

「……えっ?」

 

先生と顔を合わせるのすら恥ずかしい。

だから一刻も早く退店しようと「ちょ、待ってくださいよぉ! まだ団子セット食ってないッス~!」と騒ぎ立てるサクラの襟を引っ張って扉に向かうがその行く手を塞がれる。

 

「お客さん! 席に座ってください、お団子ができたので」

「はあ? 任務中だっつってんだろ……「やたっ! ラッキー!」オイコラ!」

「ままっ、そうかっかせずに……先生のアメリカンですよ? 飲まないで行くなんて失礼ですよもったいないですよ? それにカロリー補填しないと」

「カロリー消費させたのはどこのどいつのせいだと……!」

 

先ほどまで見えなかった妨害者、鈴仙は抹茶団子をテーブルの上に置き、サクラは一瞬の隙を見て私から脱出し

「いただきますッス」と甘味を堪能し始めた。

鈴仙の巧みな言葉と旨そうな団子に食いつくサクラを見て苛つきながらも、先生をむげにすることなんてできない。

あくまでも先生のことを思ってだ、決して屈したわけじゃねぇ!

 

「くっ……鈴仙、オマエ、誰かに似てきたんじゃあないか?」

「いやいや、そんなこと! ごゆっくり~♪」

 

絶対千束の嫌のところが移ってるわ。

そうして椅子に座らされ抹茶団子セットを堪能するサクラを横目にアメリカンのブラックを啜る。

先生が入れたコーヒーは嬉しさと恥ずかしさとで正しく味を吟味することなどできなかったが、それでもおいしいと堪能している私に先生が顔を合わせ、聞いてくる。

 

「フキ、菓子はいらないか?」

 

凜々しい顔だが、同時に私の断りを予想してか残念だというしょんぼりとした様子で見て取れる。

その初めて見る顔は卑怯だ。

もちろん断ることなどできなかった。

 

「オススメを……おねがいします」

「ふふ、わかった」

 

たまにはこういうのもいいかもな

 

 

「センパイ、チョロすぎッス……「フン゛ッ!」いだっ!?!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Chisato side>

 

もう少しフキは素直になればいいのになぁとと思いつつ、私たちは先生の恋愛対象外である知っている私は嬉しそうに菓子を頬張る彼女をそっと見守っていた。

日が落ち、お客さんたちが帰宅して、迫る今夜の備考作戦決行の時をソワソワしながら待っている。本当は鈴仙ひとりに任せる小規模な方がいいのだけど、やはり当事者である私は現場を確認する義務がある、そう思い全員での作戦となった。

といっても尾行して盗み見するだけだけど。

現在時計の針が20時丁度を指す。

静かで薄暗い店内で、この雰囲気に耐えられなかったのかミズキが棒読みする。

 

「腹減ったー」

「おうどんでも湯がきます?」

「いいね」

「太るぞミズキ……」

「私は食べまーす!」

 

ぎこちない空間を紛らわせるために無理矢理ひねり出したような会話にないはずの鼓動が早くなって緊張する。

同時に映画のような状況に千束、ワクワクっ!

そろそろ先生が出発する頃合いかなと思っていると先生が謝りながらドアノブに手をかける。

 

「ああ、悪いが私は用事で外出する」

「あら、そう」

「戸締まりを頼むよ」

「あ、あいあいさー!」

 

みんな緊張して普段と違う言動をとっていて面白い反面、ばれてないかどうかヒヤヒヤする。

扉が閉まる音が聞こえた瞬間、移動の準備を開始しようと一人を除き四人がドタバタし始め……またドアが開いた。

 

「言い忘れたが、ガスの元栓を……どうした?」

「い、いやあ、うどんはどこかな、と」

「ここにはうどんはありませんでしたー」

「うどん……うどん……」

「うどんなら納戸だ」

 

あ、あっぶねぇ~~!!

 

 

****

 

 

危機一髪、先生の目を欺くことに成功し、クルミの発信器が先生の車を追跡中。

それを見越して密会所に先回りする。

クルミが助手席から「準備は大丈夫か?」と問うが、この千束さんに抜かりはない!

もちろんドレスもスーツも、ペンダントも、高級バーに行く準備はすでにバッチり整ってるぜ。

こんなに準備万端なんだから失敗なんてしない、それにDAに戻されてる場合じゃない…… 人の助けをするため、あの人を探すまで。そして無事先生の到着前に目的のバーがあるビルに着いた。

エレベーターで夜景の見える高層まで上る。

これだけでもワクワクが止まらないのにバーの入り口はなんと、映画で見たことある雰囲気にスゲェ仕掛けと私をこれでもかと刺激してくる。

たきながスーツ姿でロックを解除していく。

 

「こんないかにもな、ちょムリムリやばっ!」

「これはカッコイ!」

「それは認めますが、落ち着いてk……通りましたね」

「流石ウォールナット。ふっふ……ミッションスタート」

 

興奮冷めやらぬ中、私はミステリアスな女スパイを演じる。

エスコート役のスーツたきな&グラサン鈴仙もノリノリで「俺の銃が火を噴くぜ……!」と言いそうなほど決まりまくってる。

受付で「山葵(わさび)のりこ」「蒲焼太郎」「焼肉太郎」と澄ました声で言った時には今にも噴き出しそうで困ったが何とかクリア。

ちなみに非戦闘要員の二人は車で待機しているがニヤニヤしてる様子が浮かぶわ。

 

そして無事潜入できた私たちは白のスパークリングワインを片手に店内を見渡す。

壁には綺麗な水槽が埋め込まれ、魚が優雅に泳いでいる。

間接照明や石柱も豪邸にあるようなおしゃれなモノばかりで普段なら尻込みするほど。

 

「……ミカさん来た!」

「本当ですね、ほらあそこ……」

 

二人の言葉にその方を見ると前を開けた見覚えのない白い背広にネックレス、そして見覚えのある顔が目に入る。

その姿はいつもと異なりギャップを感じる。

 

「うっわ、なんかめっちゃ決めてんだけど……」

「やっぱり愛人が来るのでは?」

「いやいや、楠木さんは……」「女性だし……」

「「ねー」」

「えっ?」

 

きっとリコリコ生活が短いし、たきなが知らないのも仕方ない。

というのも楠木さんが恋愛対象じゃないのは先生が……

 

「誰か来ましたよ!」

「あれは……ヨシさん!?」

「あー、ソッチだったかー……」

「私としたことが……」

「え? 何です?」

「撤収撤収、帰ろう。邪魔しちゃ悪い……」

「あ、はい……」

 

先生が好きなのは男の人だから。

愛の形は様々なんだ。

強いていうなら百合も薔薇も観賞用、愛でるもので挟まるべきではない、見守るべきものである。

だから不純物である私たちは何も見ていない聞いていないとその場から立ち去ろうとする。

でも自分の想いに反して足が突然止まる。

 

「手術後、私は君にあの子を任せた……。その意味を忘れたのか、ミカ……。何のために千束を救ったと思っている。あの心臓だってアランの才能の結晶なんだぞ」

 

いつもなら気にとめる声が後ろの方から聞こえているはずなのに反応できない。

私が今まで会いたかった救世主さんが目の前にいるという事実、それだけで、それだけのはずなのに頭が喜びと白でいっぱいになる。

 

「ちょっと、千束! 帰んなくていいんですか!?」

「ヨシさんだ……ヨシさんなんだ! 鈴仙、救世主さんはヨシさんだったんだよ!」

「ちょ、声大きいって! 気付かれ……「千束!?」……あちゃあ……」

 

「……ミカ!」

「い、いや違うっ!!」

「あ、あのぅ、そ、その!」

 

ヨシさんが先生に厳しい非難するような目を向ける。

私のせいだろうか、二人の雰囲気を険悪にしてまで二人の前に顔を出すべきだったか、後悔してももう遅かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Reisen side>

 

「ごめんなさい! 先生のメールをうっかり見ちゃって……」

「司令と会うのかと……」

「お前たち……」

「でも、今の話、ちょっとだけ! ちょっとだけヨシさんとお話させて……」

 

「たきな……」

「はい」

 

せっかくの再会に私たちがいたら邪魔だろうと思い、静かにたきなと店の外に足を進める。

いや、建前はそうで本音は自己嫌悪と罪悪感とでここからすぐに飛び出して逃げたかっただけだ。

背中側から申し訳ないと思いながらも緊張と喜びの混じった声が聞こえる。しばらく沈黙が続いた後、ヨシさんから唇と空気の震えが聞こえる。「……何かな」

「……まさか、ヨシさんだったなんて。あ、すみません、吉松さんの方がいいか……ありがとうございました」

 

彼女の透き通った声は離れた私たちの耳にも届く。

今まで探していた、会えないかもしれなかった人にありがとうを伝えるという細やかながら困難な夢が叶った。

 

「よかったですね」

「……うん、そだね」

 

たきなが口元を綻ばせ、目を細める。

静かな床にコツコツと靴の音が鳴り響く。

私は嘔吐かないように口を結び、耳を立てる。

 

私は救世主さんを知らなかったし、見つからなかったらいいのにと思ってた。

私は千束の才能を知らなかったが、それでもよかった。

私はずっと千束と一緒がよかった。

 

千束のことを助けてくれたアランの人は彼だったと私は知っていたし、見つからないでと願っていた。

アランが彼女の才能が生かすために彼女をリコリスにして、でも千束は知らないでほしい。

千束は千束のままで生きててほしい。

 

その念いは彼と彼女が出会ってしまった瞬間、打ち砕かれた。

彼女の憧れが理想で目標、偶像崇拝にも似たその思いが消えて千束がいなくなってしまうんじゃないかって……

二人が出会ってしまって、千束が悲しんで千束じゃなくなるかもって……

そうなるって心の何処かで知っていたのに知らないふりを続けて流れに身を任して逃げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Chisato side>

 

たきなと鈴仙が戻り、私と先生とヨシさんのただ三人だけの空間ができる。

デート中だったら申し訳ないし、私がここにいるのが場違いだってこともわかってる。

でも私が探していたその人にようやく会えて気が動転してしまったんだ。

 

お店で顔を合わせたときには優しい笑顔だったヨシさんの顔は、今は背中を向け冷たさを含んでいる。

私に自分が救世主だって言わなかったのにはどうしようもない理由があるんだと思う。

直接お礼も言いたいし、ヨシさんの口で言ってほしい、よくやったねって褒めてほしい。

張り詰めた空気の中、再開の感動と罪悪感と正反対の感情が渦巻いて胸が痛くなる、滴が零れ落ちそうになる。

 

気を遣ってくれた二人のおかげでそこはもう三人だけの空間。だから今まで言えなかったすべてを話したかった。

でも全部話すには時間もなくて、言葉を選べなかった。

 

「あなたをずっと、探してて……手術の後、お礼を言えてなかったから……」

「それを認めることはできないんだよ……。そう言う、決まりなんだ……」

「あ、あぁそう、なん、だ……そっかぁ……」

 

ヨシさんの言葉に思わず驚きの声を上げそうになる。

淋しくて辛そうな、複雑な大人の表情がどうしようもない事情があったことを伝える。

わかってはいたけれど、だからといって仲間外れにされた感じがして悲しい。

決して泣きたいわけじゃないのに声が震える。

 

「私も頂いた時間でヨシさんみたいに誰かを……」

「知っているよ……」

 

誰かを助ける仕事をしようと言葉を続けようとして、続かなかった。

ヨシさんの優しく、でも沈んだ声が耳をかすめる。

 

「……だが、君はリコリスだ。君の才能は……」

 

私の才能は……

ずっと知りたかった、その言葉の続きは入り口から聞こえるクルミとミズキの雑音で止まってしまう。

きっと心配して見に来てくれたんだろう。

うれしいけど、大事な人との会話ができない。

 

「ちょっと、ふたりともぉ……」

「アランチルドレンには使命がある。……ミカとよく話せ」

「あ、あの、ヨシさん……」

「……ここで待ってなさい」

 

ヨシさんが私から逃げるように席を立った。

席を立ち去って去って行くその背中を追いかけようとして手を伸ばすが、私の肩に手が乗りそれを止める。

私から離れようとするヨシさんを追いかける先生を、私は眺めることしかできなかった。

どうして帰っちゃうんだろう……

私が来たせい? 先生との時間に割って入っちゃったせい?

ただ私はうれしくて、お話ししたかっただけなのに……

 

「またお店で、待ってますから……待ってます……」

 

ヨシさんの認められない決まりなんだという言葉はもう二度と会えないのではないか、そんなことを連想してしまい、不安という苦しみに胸が潰される。

リコリスである私の才能は……その言葉の裏に何が含まれているのか。ヨシさんの目は優しくて、私を慈しんでいて、それは初めて会ったときと同じ目だ。

でもそこに悲しさは含まれていなかった。

その目は私だけじゃなくて先生やヨシさん自身をも見ていた。

その目が何かを否定している、でも「救世主さんみたいに人を助ける」って約束したし……

 

私の使命は……なに?

なにも理解できていない頭は鈍器で殴られたように重かった。

 

 

Mika side

私はエレベーターに乗る彼の背中を追いかけた。

私が杖を持って追いかけるのをシンジは待っていてくれた。

そうだ、私たちは同じだったんだ、秘密が多く、マイノリティで、愛娘がいる。

でも、あの時、彼の一方的な別れの挨拶を機に、道はズレ始めた。

 

「シンジ、ジンはミカさん逃がしたぞ」

「フッ、昔はそんなに甘い男じゃなかっただろ……どうした?」

「千束が望む時間を与えてやろうッ!」

「ミカ……才能とは神の所有物だ、人のものではない。まして私たちのものでもない」

 

それは、そうだったんだ、お前も、私自身も……

それでも長く生活を共にすると、いや、千束だったからか……俺は健気で儚い少女を目の前にして、お前のように冷静ではいられなかったんだ。

だから、約束を……

 

「私たちは約束したじゃないか……そうだろ?」

「やめろ!!」

 

愛と哀を孕んだ唇と眼で私を押さえつけようとしないでくれっ……!

私はシンジ……お前のことを裏切ったんだ。

だから娘のことを引合いにするなら、俺だって娘のために……!

 

「千束を自由にしろッ! 私には、この引き金を引く覚悟があるッ!!」

 

銃の、覚悟なんて……あるわけない。

それでも、私はこうでもしなければ君のことを否定できない、お前のことを裏切るなどしたくはなかったのだから、愛しているのだから。

 

「君の店を訪れた日は、胸が弾んでいたよ……。ホントさ……十年前のあの日のように」

 

去り際にそんなことを言う彼の背中を見て、安堵と後悔……ただただ崩れ落ちた。すまない、千束……、シンジ……

 

 

****

 

 

「なんで黙ってたの……?」

 

ペンダントをやじろべえのように指で弄んでいた音が止み、千束が私の声を待っている。

裏切りと嘘、二人に対して私が犯した罪の意識がズンと躰全体に重くのし掛かる。

目が涙で霞始め、息をするのさえ億劫となる。

そんなことをしても罪は積み重なるのに。

 

「……それが、君を助けるための条件だった」

「約束を守ったんだぁ……その方が先生らしい。やるなぁ、千束を欺くとは」

 

冗談混じりの明るい言葉で彼女は私の罪を許す。

それでも私は罪を積み重ね、自分を許さない、許せない。

今もまた一つ、君を欺いている。

 

「すまない」

「良いって~、気にすんなよぉ!」

「……すまない」

 

今だけは無理をしている彼女の励ましが胸を締め付ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Chisato side>

 

私がずっと探していた救世主さんが吉松さんだった、恩人に再会できて浮かれるほど嬉しかった。

先生が私にそれを教えてくれなかった、男の約束、格好いいじゃん、先生らしくていい、仕方なかったってわかっているのに、心の中で受け入れ切れてない。

 

私が二人のデートを、約束を意図しない形で破綻させた。

私が知らなかったから今まで会えていたのに、知ってしまった……でもまた会えるよね。

その追いかけていた背中が幻のように薄く、消えそうだと感じた。

 

先生の涙、吉松さんの声、全部悲しそうで全てが笑えなかった。

 

だから先生を慰めるときも、明日も笑ってやると、そう決めていた。

 

そのために一人で探しても見つかることのない答えを求めて、長い夜になる……はずだった。

目を地面に落として帰宅すると、家の前にいる影が動いた。

 

「おかえり」

「……どうしたぁ、こんな遅くに?」

 

玄関の前に座り込んでいたのは寂しそうな表情をした鈴仙だった。

一瞬驚き、顔を反射的に上げるが、重い頭はまた元の位置に戻る。

今日の私を見て心配になったのか、それとも気まぐれか、今の私にはわからなかった。

 

「ちょっと話があるんだ」

「……ごめん、鈴仙。今日はちょっと……ひとりに、なりたい気分だ」

 

だってこれからきっと落ち込んだ姿になる……それを見せたくない。

だって、恥ずかしいし、心配してほしくない。

いくら家族みたいな間柄といっても……いやだからこそだ。

 

「ねえ、千束、こっち見て?」

「へ? な、なに」

 

いつも通りの鈴仙のはずなのにその言葉は命令的で違和感があるが、私の落ちた視線と彼女の視線が交差する。

下からのぞき込んでくるような形で私の目見る赤い瞳は、月明かりが映り込み、静かに、綺麗だった。

目を離すことができず、私のすべてを受け入れてくれるような、私と同じ色の瞳に吸い込まれそうと錯覚する。

 

「今日はさ、いろいろあったよね……ミカさんの諜報活動とか」

「別に裏切ったわけじゃないだろー……先生は、ヨシさんとの約束を守っただけだよ」

「シンジさん、別にアランに内緒にしてれば教えてくれてもよかったじゃん」

「……仕方ない、仕方ないんだよ。ルールだったんだって」

「千束はさ、救世主さんみたいになりたいんだよね」

「うん、そう、そうだよ。でも……」

 

わからない……

自分の才能も、使命も、吉松さんの考えも、今の私が正しいのかさえわからない。

いよいよ鈴仙の瞳を見るのがつらくなって反対側の空に映る月を見上げる。

 

吉松さんともっと話せればよかった、教えてほしかった、私頑張ってるんだよって認めてほしかった、また会いたい。

私が思い描く博愛主義の救世主像とは真反対の利己的な考えが渦巻いている。

そんな自分を捨て去ろうと、いつもの自分に戻ろうと、いつもと違う私は日常に戻ろうと振り返り嘘の笑いを作る。

 

「結局何さ? あーもしかしてぇ千束に会いたくなっちゃったのかぁ? それならそうと言ってよぉ……」

「違うッ!! そうじゃ……そうじゃないんだよ、千束」

「な、なに、急に声荒げて……」

 

突然の大きな声に体が跳ねそうになる。

でもそれ以上に次の言葉はないはずの心臓が飛び上がったと錯覚するほどだった。

 

「千束は私との約束、覚えてる……?」

「お、覚えてるけど……」

「私が千束のことを支えるって言ったよね……。千束はいつまで自分の想いに蓋をしてるの?」

「な、なぁに言ってんの! いつもの千束さんだろぉ」

 

嘘がばれた時みたいに、ドキリと心臓が跳びはねたような気がした。

まだ私たちが出会って一年くらいの時だったかに、そんな約束をした気がする。

でもあの時あの言葉は私が鈴仙を慰めようと、生きてほしかったからとっさに出た言葉で、それ以上に鈴仙のことが気になってそれ以外のことを忘れていた。

 

「意外と見栄っ張りんだよ、千束は。たきなにいいところ見せようとするし」

「そう言われればそうかもだけど……だからなんなのよ」

「ツラいときは、ツラいって言ってほしいんだ。……じゃないと本当に助けてほしいのか、いつ支えればいいのかわかんないでしょ? 千束は我が儘でいいからもっと私たちを頼ってほしいんだ」

 

鈴仙に言われてみんなに心配されたい気持ちとされたくない気持ちがあることに気づく。

私よりツラそうな人がいたとか、心配されないようにとか言い訳ばかりで、自分に嘘をついてまで笑って、我が道を見失ってどこか遠慮していた。

 

「人に迷惑かけまくるのが千束でしょ? 先生を励ますのはいいけど、私はね、千束は千束のままでいてほしい。

嘘が下手でやりたいこと最優先の」

「ヘタクソかっ! ……ありがと」

 

鈴仙が私を抱きしめる。

私もそれに応じるように少しずつ力を込める。

悲しさと不安と罪悪感とを、誰にも聞こえないくらいの声と銀色の水滴に乗せた。

小さい鈴仙の腕が幼子を宥めるように撫でる。

 

月照らす静寂の夜、抱き寄せてくれた腕と胸に初めて頼もしさみたいなものを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Reisen side>

 

「たきなちゃーん、やっぱり悪人は殺すべきかな?」

「べきですね」

 

昨晩の悲愴的な雰囲気はどこへやら、店内は阿部さんや伊藤さん、北村さん、いつもの常連さんとゲーム大会に参加しようとするが、結局伊藤さんは漫画の締め切りで参加できなそうだ。

そんな状態なので何だかんだ言ってボドゲを一番楽しみにしているリスに強制連行されて今に至る。

 

「ミズキ、おまっ!? 日の高いうちから何ちゅう格好してんだ!?」

「うわぁ……」

「ミズキさん、お出かけ?」

「決まってるねぇ!」

 

いざゲームスタートというときにミズキがえらく艶めかしいドレスを着て外に行こうとするものだから思わず憐れみというか、蔑みというか、ドン引いてそんな変な声をあげてしまう。

 

「どこ行く?」

「もちろん、昨日の高級バーよ? お子様連れてこの前は入れなかったけど、私一人だったら入れますから、このゴールドカードで……」

「そのIDならもう消したわ」

「何でっ!? 高級バーよっ!?」

「お前が低級だからだ」

「やだぁっ! 絶対行くっ!! ナニ、何だ、犬、野良イッヌ!? 雌じゃねぇか! ああぁぁ……!?」

 

年甲斐もなく駄々こねて、外に飛び出して、絡まれて……お労しや、ミズキ……

そんな面白おかしい人の嘆きより前からドタバタと激しい靴の音が近づいてきている。

 

「北村さ~ん、千束もうすぐ来るよ!」

「希望が見えてきたぁっ!! 千束ちゃん、早く来てぇ!」

 

千束がいなくてスランプ気味の漫画家に声をかけるとよっしゃとペンに力を込める。

そんな励ましにたきなが携帯を見ていないのに何故確信しているのか不思議がってきた。

 

「鈴仙、あの……どうして千束がくるって?」

「んあ、何でって、気配探知得意だからね。みんなよりちょっと耳がいいの」

 

千束は視力による洞察力が人並み外れて特化している。

対して私は聴力、周囲の状況把握は得意だが、その程度。

千束の能力(唯一無二)には劣る。

と、たきなに話していると彼女にも聞こえたのか、本当だとニコリと顔を綻ばせる。

昨日の今日だから千束が心配だったんだろう。

でも大丈夫、だって……

 

 

****

 

 

五月蠅い足音とともに扉がぶっ飛んだと錯覚するほどに激しく開く。

そこから見える顔には隠された憂いは少ししかなかった。

 

「千束がきましたぁ!!」

「おお、千束ちゃーん!」

 

常連のみんなが彼女の登場を喜び、取り合うようにこっちこっちと呼び合う。

 

「千束ぉ゛! こっち早く早くぅ」

「ああ、最新話できました~?」

 

伊藤さんの漫画を確認しようとして、

 

「千束ちゃん、ゲームしよー!」

「昼休みが終わっちゃうよ、早くこっち」

「ちょっと待ってえ! すぐ行きま~す!」

 

阿部さんと北村さんにボドゲに誘われ、

 

「千束―、スペシャルパフェくれ~」

「ちょっとみんな! こっち(漫画)は遊びじゃないんだぞ!」

「ええっ!? 殺しちゃったのっ!? 駄目だよぉ殺したら!」

 

てんやわんやしているときにクルミが面白がって千束に注文して、大忙しである。

 

「千束―! 営業始まってるんだから早く着替えてきてくださ~い!」

「は~い!」

 

千束はたきなに促され給仕服に身を包もうと奥の部屋に入る。

騒がしいいつもの店内の雰囲気に戻る。

やっぱりこうじゃなくっちゃ!

 

「元気そうでしたね、千束」

「そうだな……」

 

 

****

 

 

「元気そうでしたね、千束」

「そうだな……」

 

ミカさんが一見よかったというような顔でたきなに相槌を打つ。

たきなはクルミに特大パフェを運び、オーダーがなくなったのかそのまま座敷に腰を下ろす。

なぜか私を凝視しながら。

 

「お、サンキューたきなぁ……ん? どうした?」

「いえ、アノ鈴仙に限って珍しいなって。千束が来ないの心配してる様子がなかったので……この中で一番千束にお熱でしょ?」

「アノとかお熱って……あのな、たきなぁ。二人は長年ペアだったろ? 熟年夫婦のように以心伝心ってやつじゃ……って何顔赤くしてるんだ、オマエ?」

「えっ!? いやぁそう見えちゃうかー……えへへ」

 

決してそういう関係じゃないが好きな人とそういう風に見られることは悪い気はしない、むしろ良い!!

昨日は落ち込んでいた千束を見ていてもたってもいられなかったから、想いを伝えて(千束は千束らしい方がいい)、抱き合って(ハグして)、一緒に寝ただけだけど……ってどうしたの? みんな顔を赤らめて?」

 

途中で言葉に出してしまっていたようだけど本当にどうしたんだろう?みんなで顔を赤くして……まさか、伝染病!?

「い、いや。と、とと突然のことでどどど動揺してるだだけだからき、キニスンナヨ……?」

「愛の形は様々って言っていましたがそういう……!?」

「鈴仙、恋愛は自由だ。自由だが、その、公でそういう夜の話はというか、子供なんだからまだ早いというか…

…」

「人の感情を利用して……ハレンチっ! 破廉恥よ!!」

「ははは、若いっていいねぇ! 青春だぁ!」

「次は百合展開も、アリっ……!」

「キャー、それでそれでっ!? 二人はどこまで!? どんなことしたのっ!?」

 

どこから口にしていたのか、そもそも何を話してしまったのかさえわからない私は詰め寄ってくるみんなの勢いに目を回す。

そこにやってきた救世主がいた。

 

「鈴~仙、昨日はごめんね、泣いちゃって……。(鈴仙の励ましは)嬉しかったんだけど(あんなに落ち込んだのは)初めての経験だったからさ。でも私をおいて行くのは頂けないぞ? ……ってどったの?」

 

このあとあり得ないほど拗れていた誤解を解くために二人で力を合わせたのは言うまでもない。

 

 

****

 

 

アランチルドレンには才能があり、使命がある。

 

私の才能というか特技は聞きたくないことまで聞いてしまうこと。

千束の才能と使命はリコリスとして活躍するためもの……昨日、彼はそう言っていた。

そして彼女は神のものであり人のものではないとも。

 

なら、人のためじゃなく自分のために、自分の意思で、その才能を使う。

それが彼女に合ってる。

 

千束は自分のしたいこと最優先。

それでいいんだ。

 

吉松さん……

もし私にも才能があるというのなら、使命があるというのなら……あなたの事情など構わない。

私は私のために私のしたいことを最優先させて(千束と一緒にいるのを邪魔しないで)もらいますよ。

もし邪魔をするのなら、私の覚悟は、決まっている。

 

今までは全部流れに身を任せていたけれど、昨日の千束の顔、忘れられない傷ついた顔を二度と見なくて済むように、千束が心から笑えるように……

 

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