<Mika side>
「ええっ! 鈴仙も殺ししたくないって思ってるの?! 一緒じゃん、イェ~イなか~ま!」
「で、でも、私はそんな敵のことを考えてとかじゃなくて、臆病なだけで……」
鈴仙がここに来てから数日。
鈴仙から自分の過去や不殺の理由について話そうという雰囲気はない。
千束には伝えていないが上からの通達によるとトラウマのようなものらしい。
「え~、でもそんなこといったら私だって単純に殺すと嫌な気分になるからってだけでやってるだけだし(……救世主さんとの約束もあるけど)。理由が何であれ人を殺さないでみんなハッピーならそれでいいでしょ♪」
「そうゆーものかなぁ?」
「そうだよ! ねっ、せんせー」
「ああ……」
千束は詳しい理由を聞かずにポジティブな方へ話を進めている。
これも事情を知らない彼女なりの気遣いなのだろう。
報告書を読む限り一時期は才能あふれるリコリスの卵だったらしい。
しかしあると気を境に殺人を忌諱し、任務の失敗やそもそもの参加拒否、そして今に至る。
日に日に窶れ(やつれ)が見え、無気力な様子が気にかかり、楠木が上部に掛け合いここに寄越したようだが……ここで数日を過ごしてから初日より顔色も調子もよく見え、千束とよく話し、ボランティア活動にも精を出している。
……死と隣り合わせであることが彼女の精神に多大な負荷を掛けていたのだろうか。
千束と鈴仙は年も比較的近い。
二人が真の友人となり、互いにいい影響をし、傷が癒え、笑顔が絶えない、そんな風に育ってほしいものだ。
「それに、ほら! これくれた人、私たちの救世主さんもき~っと私たちがしてることに賛成してくれるよ!」
「そう、かも……?」
私は千束の首元に隠れていたフクロウの飾りに目をやる。
DAの元教官としてはこう考えるのは失格かもしれないが、あの優しい二人にはアラン機関や才能、大人から望まれている期待を忘れて自由に生きてほしい。
「二人とも、そろそろ開店しようか」
「「は~い!」」
少なくともここにいる間は……
<Reisen side>
リコリスの仕事は敵を無力化、もとい殺害すること。
それが出来ない私、しない千束。
ここ、リコリコに居る人はそういう異端児で、異端が当たり前として受け入れられ、私の不安が薄れた気がした。
しかしそれでも仕事はしなければいけない。
つまりDAの依頼がやってきたのだが、ミカさんの提案で依頼を受ける前に練習をすることになった。
そして今私は千束の戦闘訓練の様子を見て感嘆の声をあげた。
「すごい……」
「でしょう?」ニヤリ
超絶的なセンスで銃弾を躱しきり、至近距離で撃ち込み、着弾部分から赤い花が咲く。
そんな千束をみて、私より強いと感じる彼女を見て、この人なら、私をおいていかないかもしれない、この人と一緒なら安心して闘えるかもしれないと思い、心臓が高鳴る。
しかしそんな私を置き去りに千束がその銃を手に握らせる。
復活した意識が拙くも言葉を絞り出す。
「その銃に入っている弾……」
「ゴム弾、つまり非殺傷弾だ」
「誰も殺さない、誰かを救うための弾丸、私はそう思ってるんだ。まあ、変な方に跳んでっちゃうから遠くからだとぜんっぜん当たんないけどぉ、近づけば当たるから問題ナッシ~ング!」
「千束は回避できるが、無理せず……」
「私っそれがいいですっ!!」
私は千束とミカさんの説明を聞き、ミカさんが止めておくようにと言うのに割り込むようにして声を出した。
実弾だと躊躇して引き金を引くのが難しかったが、この非殺傷弾なら私も千束と同じように一緒に現場でも役に立てるかもしれないと期待した。
それで今日一番の声を上げたわけだがミカさんの返事は芳しくない。
「だが、失敗したら怪我だけでは済まない……」
「でも、普通の銃だとまともに敵を撃つこともできなくて……ちさとお姉ちゃんの足手まといになっちゃう」
「足手まといなんかじゃないよっ! ……せんせっ、お願い!」
「しかし……慣れていない武器だ。リスキーすぎる」
頑なにその銃をダメだと言うミカさんを見て心配してくれていることは理解しつつも悲しくなった。
目から涙が流れそうになったが、千束が私とミカさんの間に割って入って笑って見せた。
「せんせー心配しすぎ~、何かあっても私がフォローするから。お試しでも、ね!」
「お願い、します」
頭を下げる。
それでも私が望んでいる使用許可の返事はなかった。
「……ダメだ。この銃は扱いに慣れるまで使い物にならない。私は死んでほしくないんだ。せめて慣れてからだ」
私は結局役に立てないと落ち込む。
が、最後の言葉を思い出し、疑問が生まれる。
「……慣れてからって?」
「今すぐに実践で使用するのは禁止だ。実践で使い物にならないようなら使ってはダメだ」
「せんせー意地悪しない。もし、大丈夫になったらオッケーってこと、でしょ?」
ようやく思考が追い付いた。
こんなにも心配してくれる人がいて優しい家族のような人がいる。
その事実に涙が流れた。
自分勝手な私がこんな幸せを感じていいのだろうか……
「銃を使えないなら……一先ず、今回の任務は見学するところから初めるか。見学とは言え、百聞は一見にしかずと言うしな。学ぶことも多いだろう」
<Chisato side>
結局先生の判断で今日の依頼は私がいつも通り行い、鈴仙と先生が物陰に隠れつつ、後ろから見学するような形となった。
確かに依頼の前だから練習も長くはできないし、すぐにこのゴム弾の扱いに慣れるなんてできっこない。
というわけで、私は絶賛敵をなぎ倒している。
鈴仙に見られているからいつもより張り切って頑張ってるのはナイショ。
とはいえ、楠木さんが手を回してくれたのか、単なる偶然かはわからないけど、今回の仕事は敵の数は両手で数えられるほど、動きは素人、という比較的簡単な部類だ。
撃ち漏らしがないように、先生と鈴仙の方に流れ弾がいかないようにうまく誘導をしながら敵をさばいていく。
基本的に銃撃戦、特に大勢で仕掛けてくる場合は同士討ちを避けるため立ち回るのが普通だ。
でもこの人たちは銃の心得がないのか、仲間が死んじゃってもいいのか、それとも私みたいに避けるのに自信がある人たちなのか、かなり危なっかしい。
現に私が倒した4人以外にも肩や足から血を流して倒れている人が二人もいる。
私は早々に倒さないとフレンドリーファイヤで大変だと思い残りの3人も倒しきる。
銃の乱射も人の動きもなくなり、これで一件落着だ!
「せんせー! クリーナーの人呼んで~!」
「わかった。千束は手当でもしときなさい」
「はーい」
私は振り返り先生と鈴仙の方を見て大きく手を振り上げる。
電話をかける先生の腕には少し顔を青くした鈴仙がいた。
「アレ、どうしたの鈴仙? 調子悪い?」
「ち、ちさとお姉ちゃん、ケガしたの? ……それにあの人たちから、ち、血が……!」
「ん? ああー、大丈夫だいじょうぶ! 私がこれからあの人たちを手当てするの。死んじゃったらヤでしょ?」
「……うん」
「ってわけだからちょっと行ってくるね!」
どうやら私がケガをしたんじゃないかって心配してくれてたみたいだ。
同時に敵の心配も……
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私が敵さんの手当てをしてると鈴仙の青ざめた顔に少し血色が戻ってきた。
それを見て私も安心する。
……私は救世主さんとの約束と、救われた命で誰かを救いたいなって思って殺さないようにしてるけど、鈴仙からは私とは違う、怯えや恐怖心を浮かべていた。
それはなんでなんだろう……?
もし、人の痛みをわかってそれを自分のように思っているなら、かく在るべきだと思い実行している不純で利己的な私と違って、純粋で利他的で、まるで綺麗な宝石みたいな心だ。
先生から鈴仙は昔悲しいことがあって、今は大丈夫そうだけど塞ぎ込んじゃうかもしれないからお姉ちゃんとして見守ってやってくれって、そう言われた。
でもそれだけじゃない。
こんなにキレイな宝石を、落っことさないように大事にしたいって、言いつけだけじゃなくて心からそう思ったんだ。
「ヨシ! これでお仕事終わりっ! 帰ろっか、二人とも!」
「そうだな」
「う、うん!」
二人の手を引いておうちまで……