フィークス・G・リコイル   作:桃玉

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後半の書き溜がある程度できてきたので順次投稿していきます。


第8話

<Takina side>

 

今日も今日とて騒がしいこのお店の中は平常運転。

昼休みを使って休憩に来る方や創作活動に勤しむための場として活用している方もいる。

そんな相変わらずな感じではあるが、強いていえば二つほど気になる点があった。

 

「ヘイ、オマチっ!!」

「千束ちゃん、飲み屋じゃないんだからぁ」

「おっ? 昼から飲めるのかい?」

「こちら、泥酔になります……」

「おお、昼間っから盃とは、悪いねぇ!」

「オイィッ! それわたしんのだからっ!」

「阿部さんっ! 勤務中ですよ!」

「ですって、ミズキさん?」

「「ぐぬぬぬぬっ……!」」

 

お酒を昼から飲む不良がいることではなく、これ日常風景だ。

 

「今日のもすごいねー!」

「千束SPECIALですからぁ! 北村さんも食べます?」

「食べるー!」「はいはいっ俺もー!」「こっちも頼むよ」

「はいはーい! スペシャル一丁二丁三丁っ!」

 

このパフェが一因であり、顔を思わず顰める。

さらに当の本人が理解していないようであるのが問題です。

 

「たきなー、スペシャル三つだよー!」

「……まずいです、このままでは!」

「何が?」

 

このお店は絶賛経営難であり、まさに閉店の危機である。

ちなみに、この前のは千束の勘違いだったためノーカウントとします。

 

 

****

 

 

「赤字も赤字、大赤字だな……」

「依頼を合算しても足りません。このままではインスタントコーヒーのみの提供になってしまいます……銃弾や仕事の移動の経費はどうしてるんですか!?」

「DAが千束のリコリス活動費用って名目で支援金もらってんのよ」

「……足出てますよね」

「コーイツがバカスカ高い弾を打つからよ!」

「というミズキは化粧品やスケスケ下着を購入してますが……」

「ウッ……!」

 

「あのパフェもだな」

「この前株価落ちやがったとか悪態ついてたよね?」

「サ、ナンオコトカナ」

 

「クソー! みんな結局私利私欲じゃねぇか!」

「ホームシアターセット」

「げぇ、バレてる!? 鈴仙の裏切り者ぉ!!」

「裏切り者!?」

「つまり独立してると言いながらお金はDAに頼ってたと……」

「う、うえーん、楠木さんみたいなこと言わないでよぉ」

 

「とりあえず横領の疑いがある三人はこの鈴仙の眼が黒いうちは……「赤いですけど」……水を差さないでほしかった……」

 

泣き真似をする鈴仙、その告げ口の有能性を考えればこれからお店の景気回復に役立つかもしれない。

とにかく赤字続きをなんとかしなくてはいけない。

私がこのお店を建て直すには……

 

「……わかりました。以後私が、ここの経理をします!!」

 

鈴仙は容疑者三名の監視担当になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Reisen side>

 

それはある昼下がり、ヤンチャしてる奴らを懲らしめようとしたとき。

千束が非殺傷弾で敵をかっこよく成敗した、のだが……

 

「千束、クリーナーを呼ぶと莫大な費用が飛びます。できるだけ現場を壊さないで、原状復帰が不要な活動を心がけてください。……ちょ、弾使いすぎです!」

「ヒイイィィ……!!」

 

普段から窓ガラスを割って、狙いもつけられない銃弾であるのに遠方からの連射乱射をする千束の行動は意識しようにもそう簡単には直るはずもなく、その日はたきなにこれ以上悪化させないようとにワイヤーで拘束される始末。

 

他にもミズキの冷蔵庫の開けっぱなしの注意やクルミが頻繁にやらかす食器の破壊の阻止、ミカさんの機械音痴に対応してあげるなど、冷静かつ合理的思考と真面目さがたきなのことを俊敏な経営者へと変えたのだ。

 

そんな彼女と二人で依頼を受けたときのこと。

今回は密輸グループのアジトに潜伏して無力化するのだが、たきなは目頭を摘まんで疲労、でも口元は楽しんでいるような表情だった。

 

「いやーお疲れ様だね、たきな」

「そう思うんだったら鈴仙からも注意してくださいよ……なんのために監視担当に任命したと思ってるんですか。最近は徐々ですが回復してきてるので鈴仙にも協力してもらいます」

「えっ、監視担当ってそんなとこまで職権及ぶの!?」

「今決めました」

「職権乱用!?」

「いえ、信頼してるので」

 

てっきり横領だけを阻止できればいいかなって思ってたのに、もはやたきなと同じポジではないか。

さすがにそれは疲れるから遠慮したいものだ。と思って歩を進めていると標的が見えてきた。

アマチュアの集まりなので安全に問題ない。

 

「そ、そんなこと言われたら調子乗っちゃうよぉ」

「その調子です」

 

たきながほくそ笑む。

冗談上手くなったなぁ……

そのジョークに免じて調子乗ってやりますか。

 

「じゃあ、回り込んで先に仕留めてくるね」

「はい、私は打ち漏らしを狩っていくので」

「流石頼もしい!」

 

そう言って私は物陰に身を潜めつつ敵に接近し、武器から音を鳴らした。

一人でぶらついていた奴から次々と狙いを定めて(ターゲット・ロックオンして)一人ずつ確実に無力化する。

音があちらこちらで鳴るせいで敵襲だと警戒されるが、すぐに移動したおかげで見つからない。

そのまま第二、第三と順調に制圧していった。

 

 

****

 

 

「ふう、依頼達成(ミッションコンプリート)!」

「こちらも大丈夫そうです。お疲れ様でした。千束と違ってクリーナー呼ぶ必要がなくって助かります」

「そりゃどーも! まあ私の場合、あれだよ、武器と戦闘スタイルがこういうのに適してるから、たまたまだよ」

「千束と同じようなこといいますね、たまたまだって。そんなことないと思うんですが」

 

そう言われても、そうとしか言えないので曖昧に笑うしかない。

たまたま私に渡されて使ってみたコレが手に馴染んだ、コレは不意打ちが効果的でたまたま隠れるのが得意だった、ただそれだけなんだけどなぁ。

 

「それにしても相手が乱射しない限りは本当にきれいなまま終わりますね。血もないし……その武器、スタンガンか何かです? 前から気になってましたけど……」

「ああ、コレ? スタンガンだったら意識ないだけの人だけじゃ済まないでしょ」

「だから、聞いてるんです」

 

スタンガンは人を麻痺させることができる。

でもスタンの時間は数十秒もなく気絶もしない、もしくは数分もしないうちに回復する……はず。

耐性だって付けられると聞いたことがあるし、そんな不確実な武器だけで戦うのは千束以上のバカしかしない(実力が伴っている千束はそんなバカではない)。

電圧を上げればいいっていう単純な話でもない、死んじゃうかもだし。

 

「……コレは、何ていうか、音発生装置?」

「なんで疑問なんですか……」

「いやだって、クリスマスの晩に知らないうちに枕元に置いてあったから名称知らないし。音量マックスにすると自爆するし、結局いつのも銃声より小さい音を鳴らすだけの装置」

 

ジト目で私と装置とを見るたきな。

うん、そんな反応になるってことは知ってた。

だって地味だもんね。

 

「きっといい子にしてたご褒美に赤くて白いお髭のサンタさんがプレゼントをくれたんだろうけど……」

「なぜ血まみれの髭悪魔がいい子にしてるとプレゼントをもらえるんですか?」

「……ちょっと何言ってるかわかんない。まあ、サンタさんからのプレゼントはそれっきりだし、他のプレゼントは千束のサプライズがほとんどで……」

「つまり、それ以来鈴仙はいい子認定されなくなったと……」

「いや、そういう話じゃないし!? それにきっといい大人のレディとして見てくれるようになったんだよ!」

「はあ……そうなんですか?」

 

私を大人の女性として見てくれるようになったという持論にケチつけるように首をかしげるとは、どうもたきなは一般常識が欠けているらしい。

これは帰ったら経営の前に常識というものを叩き込まねば……

 

「そんなことはどうでもいいんです。なんでそれで人が倒れるんですか?」

「どうでもよくない! でも、まあ、う~~~ん…………あれだよ、指向性があるから、鼓膜が破れる、みたいな。あと波長を合わせたり、130デシベル以上だと、神経調節性失神とかで、ああなるみたいな?」

 

詳しい原理とかは説明できずに何とか貧相な語彙力を振り絞って説明する。

ちなみに普段使いとして意識の波長を合わせて乱す方法が隠密のときよく使う。

千束と同様に接近しないといけないが、手に衝撃が来ないし、何より血が出ない。

 

「……普通にやった方が早くないですか?」

「そうかもね。まあクリーナー代が浮いたと思って」

「ふふ、確かに、それは大事ですね。……帰ったらもう一踏ん張りです!」

 

きっと今と昔の自分と見比べて、まさか金策をする羽目になるとはと思ってもみなかったのだろう。

そのことがおかしかったのか、難しそうな顔の後かわいらしい笑顔をこぼすたきなを見て以前とは全くの別人みたいに表情豊かだなと私も顔が緩んだ。

 

 

****

 

 

こうした生活が半月ほど続いて、千束は銃弾一発で依頼を終わらせる域まで至った。

そんな彼女を見たときは本当に千束の仕業なのかと一月前とはまるで違う彼女の動きを見て目を丸くした。

 

「どーよ! スゲぇだろ私!」

「まさか、本当すごい!」

「よくできました」

「褒められた!」

 

そんな私とたきなに褒められてうれしそうな声を漏らす千束。

このままいけば順調に黒字を維持できる。

そう思っていた、実際そうなったのだが……

 

 

「お待たせしました! ホットチョコレートパフェです! ごゆっくりどうぞ」

「ミズキ~、4つ追加~!」

「ミズキさん、4番に3つお願いします!」

「……ま、待ってぇ、今、今やるぅ!」

「鈴仙、何ぼーっと突っ立ってるんですか。仕事中です。早く運んで!」

「は、はいぃー!」

 

店の外には何人もの人が列を作り、店内は大混雑。

普段働かないクルミでさえ総動員令で招集されてる。

それだけならまだしも、私の手には蜷局を巻いた茶色い蛇のような形(う○こを模した形)のパフェの皿があり、お客さんはそれを嬉々として口に運んでいる。

最初は瞼をピクピクさせて苦笑いしていたが、一周回って笑えてきた。

 

「お疲れ様でしたー! この調子でまた明日も頑張りましょう!」

「お、おうよ!」

「あ、ああ、お疲れさん」

「クク、お疲れーw」

「ウ、ウヴ……」

「……」

 

それが営業時間たっぷり行われた。

ワロてるクルミ、呻くミズキ、声一つ出さず顔をテーブルに擦り付ける私。

今日という日をなんとか乗り越えるのに精一杯な私はたきながドアを閉じて帰ったのを確認すると抑圧から解放され、大きなため息とともに隣に座る千束に顔を伏せたまま恨み辛みを吐き出す。

 

「はぁー……ねえ、千束」

「どしたー」

「どうしてこんなことになんですか……」

「それはねー、ミズキがー、私の言葉をー、止めたからぁー」

「じゃあミズキは後で絞めるとして」

「ちょ、とばっちりっ! それにさん付けどこ行った!?」

「じゃあ! どうしてこんな流行ったんですか!? う○こですよ、アレ!? う○こ!? 生暖かいほかほかの! ミズキの策略のせいだっ!」

「こらこら、年端もいかない少女が下品な言葉を連呼するんじゃない」

「私じゃないって言ってんでしょうが! あとアンタ、フォローしろハッカー!」

「クルミ、何にやついてるんです? それにだってアレのことそう思ってるでしょ!?」

「にやついてなんかない。カワイイカワイイと持て囃されたからとかそんなことはなかった。がう○こだってことは……否定はしない」

「あ、私は空気なのね……」

「ミズキ、ヨシヨシ」

「ううっ……ありがと、ありがとね千束ぉ」

 

お酒も飲んでいないのに泣き出すミズキ……さん。

少人数で切り盛りしているところに手が回るギリギリのお客さんが来店しているんだ、疲労もたまってるんだろう。

けど私のあずかり知らぬところでこんなことになっていたんだから、泣きたいのはこっちなのに……

 

「こうなったらやけ酒よおぉぉぉおお!!」

「まだ早すぎるわ!! 家に帰ってからやれ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Takina side>

 

順風満帆、流れは掴んだも同然。

私たちはお店での仕事とともに外での依頼を合間にこなす。

基本的に外の仕事は千束と私、あるいは千束と鈴仙のどちらかで行っている。

というのもお店での仕事はふと目を離すとクルミが皿を割り、店長は会計がスローペース、ミズキさんはとても頑張っているが、千束の集客力の前には疲労で倒れてしまう。

それに私か私の代理役である鈴仙で店内の状況を逐一確認して臨機応変に対応したい。

そういう目論見もあり千束は積極的に外の仕事をしてもらっている。

看板娘になんたる扱いを~、と不満げであったが私のことを信用してくれているのだろう、きっちり仕事をこなしてくれる。

11月直前の今日の仕事は日本語教室にハロウィンイベントで子供のお世話。

千束には組長にコーヒーのお届け、迷子捜し、野生動物の保護活動、不審者の追跡、チンピラ成敗、狩猟のレクチャーなどをやってもらっている。

ハードスケジュールだがおかげで稼ぎも多い。

 

「ハッピーハロウィン! いい子ね」

「わあ! お姉ちゃんありがとー!」

「ハッピーハロウィン! いい子」

「ありがとー!」

「ハッピーハロウィン! いい子ですよ~! ……ああぁ!! 私もたきなのプレゼントほしいぃ!」

「子供ですか!」

 

子供にプレゼントの配給をしているときに仕事を終えたのか子供に交ざってプレゼントをねだる彼女にジト目を向ける。

鈴仙なら年齢的にも容姿的にも幼い感じだから渡してしまうこともあるかもしれませんが……

 

そんなこともありながら今日の稼ぎをパソコンに打ち込み、いよいよ潤ってきたのを実感する。

だからさらなる効率を求め、店員の要望も多少受け入れるようにした。

 

「たきな、ミズキさんが食洗機ほしいって。あとミカさんがレコード……」

「いいと思います。……ついでにロボットも導入しましょう」

 

そうして店員の満足度をあげて、ついに喜び泣きをする人も出た。手荒れに悩む心配がないとか、クルミが皿を割らないで済むとか。

泣かれたときは戸惑いましたが、感謝されて悪い気はしません。

AI搭載ロボットにもロボリコと名付け、稼働させている。

この調子でさらに……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Reisen side>

 

「もう、そのパフェ、やめます……」

「あら~気づいちゃった?」

 

ミズキがにんまりとしてたきなを揶揄う。

ようやく気づいたか、いや、気づいてしまったか……

自信満々意気揚々と売り出した新商品は排泄物を模したものであるという評価に気づいてしまったそのショックはもう作り笑いから解放される喜びでいっぱいの私にはわからない。

一方でお店の売り上げや株、外での仕事はたきな様様であるから肩に手をぽんと置き、労をねぎらう。

 

「たきなは、よくやったよ……」

「鈴仙……今までありがとうございました」

 

なに終わりみたいな雰囲気だしてるのか。

確かにこの商品の提供を中止すれば客足は減るだろうけど、本来の喫茶リコリコはこれでいいのだ。

それに別にこれで終わりってわけじゃない、たきなの経営は続くのだから。

でもまずは……

 

「ということで! これを持ってホットチョコレートパフェは終了! ヘイ、ロボリコ」

「ハイ ナガシテキマス」ジャー

「ちょ、今日はまだ売るから! 人気なんだからいいじゃ……なっ! トイレっ!? クソ、くそが」

 

こうしてたきなの黒歴史は水に流された。

 

 

****

 

 

しばらくして店内の電話が鳴る。

近くにいたたきなが電話に対応するが、その電話の相手は山岸先生だった。というのも今日は千束の健診日なのに時間になっても来ていないとのこと。

千束が遅刻するのは珍しいことではないが、予定をかなりすぎている。

 

千束の携帯の着信音、山岸先生の時はホラーでよく聞く女の絶叫と不気味なBGMであるので気づかないはずない。

何回かの着信があれば嫌々ながら出るので今回は何かおかしい。

 

「たきなー、こっちでかけてみるねー」

「わかりました。お願いします」

 

だから私は何もないことを願って携帯を耳に当てた。

プルルルルという無機質な機械音が何回も、何回も、繰り返される。

そのたびに不安が募るが、ようやく繋がりひとまず安堵する。

 

「千束? いまどこ? 山岸先生から電話あったけど……」

『ああ、ゴメンゴメン! 今家ん中。急用中(休養中)でさぁ、ちょい遅れるって言っておいて?』

「了解、今そっ……ップツ、プー、プー……ちいくから……」

 

異常事態発生だ。

普段なら千束がいるから激情に駆られても問題ないが今日は違う。

うん、千束も青春真っ盛り花のJKって年頃、かわいい彼女に彼氏の一人や二人いてもおかしくはない。

千束の家の中に変な野郎の息があったからって冷静沈着に、落ち着いて、怒らず……なんてできるかっ!!

 

「たきなッッ!!!」

「は、はいっ!?!?」

「千束の家に不審な男を確認ッ!」

「……了解です。サーチアンドデストロイで構いませんよね」

 

無論だ、と私は沈黙で返す。

こうして囚われの千束奪還作戦は幕を開けた。

 

 

****

 

 

私たちは全速力で千束のところに走る。

そこに近づくにつれ聞き覚えのある狂った声が聞こえ、私は顔を顰める。

 

「またお前か、真島……!」

「真島と一緒なんですか!?」

 

その事実が私たちを加速させる。

普通のチンピラならまだしもあの千束を殴ったことのあるヤツだ、千束が危機的状況に陥っていてもおかしくない。

 

そう思ったが予想に反して戦闘の激しい音は聞こえないどころか千束と会話を楽しんでいるような、そんなおかしい状況だった。

しかしそんな状況は終わったことをキィと家のドアの開閉する音が知らせる。

まるで私とたきなが迫っていることを知って逃走を始めたような、そんな動きをする真島に推し測れないような何かを感じる。

だから本当ならこのまま追跡したいところだが、千束に問いただしする必要があることや、私の足では追いつけないということもあり走りをやめる。

 

「どうしましたか、鈴仙っ!」

「逃げちゃった……」

「えっ!? どうして……まさかこの距離で気づいたとでも!?」

「……真島にも、何か隠し球があるのかもしれない」

 

監視カメラも何もないのに逃げおおせられた。

不穏な雰囲気にたきなの顔がわずかに曇る。

銃取引、下鉄の爆破、リコリス襲撃、そして今回の件。

脈絡のなさそうな一連の事件の主犯であろう彼は一体何のため、何の目的で……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Chisato side>

 

「じゃあな、電波塔のリコリス」

 

真島はそう言い残し私の部屋から去って行った。

急に現れて、突然帰るとか一体なんのようだったのか、はた迷惑なやつだ。

おかげで明日の健康診断に余計行きにくくなっただろと舌打ちしているとドタバタと足音がしてドアを蹴破られる。

 

「ちょわあっ!? なんだなんだっ!? また変なやつが来やがったかっ……てどうした二人と」

「千束っ! 大丈夫だった!?」

「ほえ?」

「真島がいたんですよね!? どっちに逃げましたか!」

「ちょちょいちょい! どうして知ってるそのこと……」

 

映画さながらの突入を見せたのはたきなと鈴仙の二人で、突然の荒々しい訪問と真島がいたことを知っていたことにびっくり仰天で逆に質問する。

 

「電話で家にいるって言っていたのに変な呼吸が聞こえたからてっきり私たちの知らぬ間に彼氏ができたのかと……」

「えっ、そうだったんですか? てっきりリリベルとかその辺だと思ってサーチアンドデストロイと聞いたんですが……」

「おいオマエらもっとちゃんとしとけよ連絡は……。危うく私の恋人(仮)が撃ち殺されるところだった、って真島は恋人じゃねぇからな!?」

「どちらにせよ、千束を穢そうとするやつは問答無用よ」

「「ええー……」」

 

冗談めかしてそんな物騒なことを抜かす鈴仙の瞳はハイライトが消えていてマジの目だった。

変に怖い覚悟を見せるが未だ付き合いたいことすらなかった私にとってはどうでもいいこと。

それよりも何で真島がいたか知っていたのかなど聞きたいことも話したいこともいっぱいある。

 

「そういやどうして真島だって? まさかいつのまに家に隠しカメラとかくっつけてたの? いや~ん鈴仙のエッt」

「違うからそれ以上止めて。……家に近づいたとき話し声が聞こえただけ」

「そんなことはどうでもいいんです! 真島と何かあったんですよね!?」

「そう! そうなんだよぉ、聞いてよ! 詳しい話はリコリコでするけど、あいつの弱点は苦いもの、映画好きってことだよ」

「ちょっとよくわからないのでお店に着いてからゆっくり徴収させて頂きます」

 

 

****

 

 

「どうした二人とも血相変えて出て行って……って千束!? 山岸先生のところに行ったんじゃんかったのか!?」

 

急いでお店までやってきた私たちをクルミが私たちを出迎える。

そしてあのブロッコリー野郎が来たときから現在までを、たきなと鈴仙に連れられリコリコで事情を話しているのだが……

 

「真島が家に来たぁ~っ!?」

「それで、やったのか?」

「それが……私と鈴仙が到着する前に感づいて、姿を拝むこともなく逃げられました」

「はあ!? どういうことよ?」

 

ミズキの驚きとクルミの質問がほぼ同時にやってくる。たきなの言葉に、真島がなんかおかしなこと言ってたなと思い出す。

 

『いいねぇ、やっぱ俺とオマエは同じだっ……殺しの腕を買われてスカウトされたんだ』

『二対一じゃあバランスが取れねぇ……じゃあな、電波塔のリコリス』

 

「私と同じ、アイツもコレ……持ってたわ」

「凶悪犯でも支援されるんですかっ!?」

「アイツなんかにどんな才能があんのよ?」

「ミカ、おまえの恋人から何か聞いてない」ゴキン

「あっらークルミちゃん、おねむでちゅかー? これだからこどもはしょうが……」

 

先生のプライベートに土足で踏み込むクルミにミズキの恐ろしく早い酒盗、私じゃなきゃ見逃しちゃうね……じゃなくて!

私とアイツが同じなわけない、ヨシさんが支援するはずない。

だって私とヨシさんの約束だ。

 

「きっとどっかで拾ったんでしょ、ね、先生?」

「ちょ、ミカさん! コーヒー! コーヒー溢れてますって!?」

「うん? ……あ、ああ!? すまない! ぼ-っとしてたみたいだな……」

 

私の声に気づかず、鈴仙に指摘されて慌ててふきんで拭き取る先生。

先生はたまにぼーっとしたり、物忘れする癖があるけど今回のはマジで心配になるわ……

火傷しなくてよかったとほっとしていると隣のたきながバンッとカウンターを叩き立ち上がる。

「千束っ!」という声に思わずなで下ろした胸も「は、はいっ!?」と姿勢良く張ってしまう。

 

「私からの電話は3コール以内に出てください! でない場合は危険と判断して次のワン切りですぐに向かう通知とします! 嫌ならすぐ出るように」

「……つまりどこに居ても来てくれるのね?」

「それと、ほかのセーフティーハウスに移ってくださいね?」

「えぇ~、あそこ一番気に入ってるんだけどぉ」

「また遊びに行きますから……」

「ホント!? 同棲~!? またご飯作ってくれる!?」

「それは鈴仙がやってくれます……たぶん」

「はい、もちろん!」

「ええー、なんでぇ……たきなのも食べたい~!」

「はいはい、仕事しましょ」

 

私は最近冷たいたきなばっかりでつまんないなと思いつつも仕事に取り組むのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Reisen side>

 

「最近たきなが冷たい気がする」

「それは……お店とか忙しいからだよ。でも今日でそれも終わり、でしょ?」

「いや、でも、なんかなぁ……」

「どうしたのさ、そんなに心配しちゃって……?」

 

千束が突然そう言うから適当にそれっぽいことを言ってみたがその回答には不満足らしい。

私からすればたきなと千束の距離感は前と比べて気兼ねないというかあしらいが上手くなったというか、いい意味で遠慮やなく、信頼関係が築けているんじゃないかなと思っているのだけれど。

 

「だってさ、今までDAに戻りたい、DAに戻りたいってばっか言ってたじゃん? それがあってのコレだとDA復帰を目指して本格的に行動しだしたんじゃないかなって寂しい気分にもなりますよ……」

「あー、言われてみれば!」

「でしょ?」

 

確かにそういう捉え方もできるかもしれない。

でも私が思うにたきなはただ単にリコリコのためを思って、もしくは千束たちと一緒に過ごすための空間を潰れさせることなんてもっての外という、逆にDAに戻るためなんて一欠片も思ってなさそうだ。

 

「でも大丈夫だよ。だってたきなはココも千束もみんな好きだから」

「それはわかってんのよ。それ込みにしてあの素っ気なさ、心配にならない?」

「うーん、あんまり? たきなはツンツンツンツンデレだから……いやクーデレっていうのかな?」

「そうかもだけど! たまには構われたいっていうか、楽しく過ごしたいっていうか……」

 

その気持ちは理解できる。

私だって千束と、たきなと、リコリコのみんなとのんびりまったり過ごして一緒に遊びたいし、それがずっと続いてほしい。

でもそれができる時間も限られてるから、急いでる……いや何でもない。

 

「……経験上、人は余裕がないときに周囲のことに目が行かなくなるもんだと思うよ? 今日で店の人気も落ち着くだろうしやっぱ心配しすぎだって。私が大丈夫って言ってるんだから信用してくれてもいいんだよ?」

「ハァー……。確かにそうかもね」

 

私は人の感情の起伏や情緒の変化を捉えることに長けている。

それこそ、その一点をみたら千束以上だと自負できるほどには。

そんな私を知っている千束は納得するしかないんだ。

と、私が胸を反らせ自慢げにしていると元気を取り戻した千束の手が頭の方へ伸びてくる。

 

「なんだ~いっちょ前にぃ、私より年下のくせにぃー!!」

「ちょ、生意気言ってごめんて、だから髪わしゃわしゃしないでぇ!」

 

私の言葉に笑いつつも生意気なぁと髪をワシャワシャされ、それに対して僅かばかりの抵抗をする。

さっきまで軽くだが落ち込んでいた彼女はある程度気持ちの整理がついたのかすっかりと元気な様子で余裕が生まれたように見える。

気丈に振る舞い、笑顔を絶やさない彼女の冗談混じりの言葉はなんだかとても眩しく見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Chisato side>

 

時間はすぐに過ぎていく。

外に出ると暗く、星瞬く空が現れ、営業時間が終わる。

今日でこの忙しさともお別れかと思うと嬉しさと同時に寂しさも感じる。

お客さんに対する感情以外にも明日からたきなともっと一緒にいられるかなという願いもあった。

そんな思いに耽っているとより時間が早く過ぎていく。

そんなところに一声、私の時間は正常に戻る。

 

「寒くなりましたね……」

「……そう、だね。たきなが来たときは桜が咲いてた」

 

たきなの言うとおり、あの出会いから半年以上経ち、日暮れも早まり、雪が降ってもおかしくないほど寒くなってきた。

そんな寒い夜空の下、店の外にあるベンチでアランの救世主さん、たきなの最初のお客さんであるヨシさんがくれた銃を手入れする。

 

閉店まで忙しく、結局たきなと楽しくお話しする時間すらなかった。

しかし今まで忙しく体を動かしていた分使われていなかった脳が変に働き始める。

 

お店の騒がしさと外の静かさが妙に私を感傷的にする。

だからきっとこの言葉もその心情のせい。

 

「……あれから……ヨシさん、来ないね」

「……」

 

たきなが言葉なしにベンチの端を見る。

肯定も否定もない、冷たい彼女を見て一瞬悲しくなるが、すぐにその悲しさは霧散した。

たきなが鞄の中からあるものを取り出したからだ。

 

「はい……」

「ん? これって……保育園の?」

「ほしかったんでしょ?」

「くれるの! ……おおっ! イッヌっ! カワイイっ!」

 

嬉しい。

今までの疲れが吹き飛ぶくらいに、たきなからのプレゼントは私の心を満たす。

もらったキーホルダーを鞄に括り付けながら、私は一抹の寂しさを覚える。

それは、何というか、私を頼っていてくれた人が自立して頼らなくなる、繋ぎ止めていた何かが解かれる、そんな感じ。

……いいことなんだけどね、やっぱり寂しいかな。

 

「……たきな、最近大活躍だね」

「店が潰れないようにと思っただけです……大切な場所なんでしょ、ココ」

 

やっぱり訂正、寂しくなてないや。

だって私のことを見てくれている、私のためを思ってくれている。

とっても暖かい気分になる。

 

「たきな……ありがと!」

「……! てっ定期検診いってくださいね」

「……わかったよ~」

 

キーホルダーをみんなに見せつけたい、そんな気分だったのにたきなのツンツンツツンデレめ。

ありがとうって言っただけなのに急にいやなこと思い出させんなよぉ。

 

「何が嫌なんです?」

「嫌なんじゃなくて……ほらぁ……」

「何です?」

「……ちゅうしゃ」

「……ふふっ、注射が怖いんですか? 銃向けられても平気なのに」

「そうだよっ! だって注射避けられないしっ!」

「電波塔のリコリスが、注射怖いって……かわいいですね」

「うぎぎ! 笑うなよぉ!」

 

もじもじと恥ずかしい思いまでして白状して笑われて、顔が赤く染まるのに、こんな毎日が愛おしくて大好きだ。

これからもこんな毎日をみんなで過ごせたらなぁ……

 

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