フィークス・G・リコイル   作:桃玉

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第11話

<Takina side>

 

会議中、楠木司令から千束の通信と消息が途絶えたとの情報が伝えられた。

 

私の大切な人のためなら私はすべてを投げ出す覚悟がある。

DAからクビを仄めかされても、すべてが敵に回ることすら厭いはしない。

この決して消えることのない激情の焔で命を焼き尽くそうとも、それが初めての感情を教えてくれた千束のためなら……

 

だから、DAの直前の会議中にも関わらず、不吉な予感が走ることを止めるなと訴えかける。

息を切らしても、フキさんたちリコリスが止めようとも私は駆け出さずにはいられなかった。

 

肩で息をしながらリコリコに駆け込む。

その扉には閉店を知らせる張り紙、開けて中を見渡すとガラリと人の影すら見えず、廃れている。

しかし、ただ一つだけ動くものがあった。

 

「これは……千束の携帯……」

 

私のコール音と振動の音が重なり、心臓をぞわりとさせた。

どう見ても異常なこの現状を見て、どうするべきかわからなくなる。

大人を頼ろうにも楠木司令は取り合ってくれないそうにない。

店長も千束と同様、行方がわからないらしい。

なら、私がとるべきは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Kurumi side>

 

あの後ミズキと別れて飛行機で高飛びする予定だった。

何かあればたきなもミカもいる。

……できればミズキも千束と一緒に居てやればよかったのになとも思うが、スッと身を引く彼女の姿勢こそ意思の表れだ、これ以上口出ししても悪い。

そう思い、空港でミズキと別れ、離陸を待っているのだがその予定は真島の電波ジャックにより未定である。

ネットが使える状態であるためボクのできることを最大限やる。

 

論文、その著者、秘匿された研究施設、カメラの振動解析、そのすべてが終わった。

その結果ボクは飛行機から降りることを決意する。

そして重いキャリーケースを受け取ったとき、パーカーのポケットから着信音が鳴る。

誰だ、こんな忙しいときに電話してくれるやつはと思ったが、すぐに目が変わり急いで応答する。

 

『もしもし、クルミ! お願いしたいことが!』

「どうしたたきな!」

 

電話越しに聞こえる切羽詰まった声に一瞬だが動揺してしまう。

自分が話したいこともあるのだが、まずは落ち着いて、相手の話を聞いて、言うのはそれからだ。

 

『千束と店長と音通不振です、喫茶店に戻ったのですが、誰もいなくて……』

「何だってッ!?」

『それで、リコリコに携帯だけ置きっぱなしで……解析できませんかっ?』

 

もちろんだ。

そんな言葉より先に指先が動き出す。

ウォールナットに任せればこんなもの…………!

だが、そればかりに集中してもいられない。

ボクが飛行機から降りた理由である情報を提供しなければ。

 

「朗報だ! ……千束の二つ目の心臓見つかったぞ!」

『っ! それは今どこにッ!?』

「わからない……だけど吉松が持ち出していたのはわかった」

『では、吉松は!?』

「数日前からの足取りが掴めない……だが、千束の携帯の解析したら居場所が……!?!?」

 

ちょうどいいタイミングで解析が終わる。

そこに映し出されたものに驚き言葉を失う。

そんなボクにいきなりどうしたのかと、不安な声が聞こえる。

 

『どうしました?』

「千束のスマホ見てみろ…………吉松と鈴仙だ」

 

そこに写っていたのは吉松だけならいざ知らず、鈴仙だった。

拘束されている二人の様子にたきなも絶句し、思わず息が止まる。

だが、よくよく考えればこれほど好都合な状況はないことに気づく。それを伝えようとしてたきなの絶叫や悲鳴に近い声にかき消される。

 

『な、なんで二人が一緒なんですか!?』

「……おそらく真島が関係している」

『二人は真島に捕まえられた……?』

「わざと捕まりにいったと言ってもいいかもな、吉松に関しては。……その画像が送られて吉松からの着信が入ってた。今、ミカの車を追跡したらおそらく旧電波塔の方に向かってる。きっと二人が乗っているはずだ!つまり心臓の持ち主のところに向かってるってことだ、万事解決だな!」

 

鈴仙がいつどこで捕まったかまでは把握していない。

それでも吉松が心臓を持っている以上、千束は助かるといっても過言ではない。

いくつかの不確定要素は否めないが、それでもきっと大丈夫だろうと思っていた。

しかしたきなの声は芳しくなかった。

 

『本当にそうでしょうか……』

「……たきな? 千束なんだから大丈夫じゃ……」

『吉松には……絶対何かある……』

「……わかった。予定変更だ。ボクらももっと急いでそっちに向かう」

『……? 一人ではないんですか?』

「ああ、優秀な足が来た」

「ああっ……彼との約束がああぁぁぁ!」

 

ボクは頭脳担当で身体能力は残念なことにちんちくりんだ。

だから空港の職員に生き別れの娘がここにいるから迎えに来いと伝えたのが功を奏したな。

 

「遅いぞミズキ? まだ付き合ってないだろ」

「ヒイ……ヒイ……何を、酷いこと、言うなぁ、キサマぁ!」

 

たとえ元であれDAに属していた彼女のこと、ボクは期待してるぞ?それいけ、ミズキ!

ボクはケースの上に乗り、移動用のヘリを手配しながら、ケースを押す汗だく息切れ体力なしのミズキを急かした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Chisato side>

 

私と先生は電波塔の前にやってきた。

ロボ太のドローンによる監視せいで下手なマネしたら鈴仙たちがどうなるか気が気でなく、思いっきり行動できなかったためとってもイライラしている。

 

「私も一緒に中入らなくていいのか?」

「うん、大丈夫! 先生はお店に戻ってコーヒーでも飲んで待ってて!」

 

でもその気持ちもここについた今、終わる。真上に飛んでいるモノに弾丸を撃ち込んだ。

 

「シンジによろしくな」

「うん。それじゃあ、行ってきます!」

「行ってらっしゃい、千束」

 

先生に見送られながら私は、私と因縁のあるこの場所に再び足を踏み入れた。

 

足を踏み入れたそこには観光地として整備された一階で、万が一にも真島関係の人以外立ち入りしてないとは思いながらも警報ボタンを押し、非常事態を通達する。

少なくてもこれで私の侵入はばれた。

でもそれはただ単に奴らの狙い通りなだけで、私はそれを正面から突破するだけ。重い扉を吹き飛ばすような威力のものからいつも使っているものまで、手持ちは十分。

 

私は誰も殺さず、憧れた救世主のようになれるように、銃身からゴム弾を打ち出した。

憧れは幻だったのかもしれない。

ヨシさんとの約束は勘違いだったのかもしれない。

全部先生の言うことは真実だとしても、それを本人の口から聞くまで憧れを貫く。

否、聞いたとしても私の信念は昔も今もこれからも貫き通す。

 

だってその方が私らしいって、先生も鈴仙も言ってくれる。

そうでしょう、二人とも?

 

私は天高く続く道なき道へ跳躍した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Erika side>

 

私たちが行動するまで後残りわずかなのにたきなが帰ってこない。

そのことでフキやサクラは「遅ぇなぁ」など言っていた。

口は悪いけど、たぶん心配しているがゆえでもある。

かく言う私も心配していた。

 

それは戻ってこないことへの心配じゃない。

たきなが何か焦っている、周囲が全く見えてない、そんな状態なのが心配なんだ。

私が声をかけようとしても何か深く考え込んだ様子で……

 

フキたちの心配は杞憂でたきなは時間ギリギリではあるものの帰還した。

このような重要な集合時間があるとき、以前の彼女なら予定の時間より早く行動していたと思うが、今回はそうではなかったので、何かたきなの在り方が変わった気がする。

私と同じように鈴仙のおかげだったりしてね。

 

たきなが到着したため私たちも他の班と同様に延空木に突入するためにエレベーターまで、階段を用いて上ろうとしていた。

でも、たきなの足は動いていなかった。

フキがそのことに気づきたきなに声を飛ばす。

 

「さっさと来い……任務開始だ」

「……すみません、私、やっぱりいけません」

「またかよオマエっ!?」

「たきな、どういうこと?」

 

サクラやヒバナも詰め寄るように声を大きくする。

たきなの顔は申し訳ないと思っているのか俯いており、その心情を誠に理解することはできない。

ただ、私にわかることは、たきなと私自身のために前へ進むよう促してくれた優しい人の影響を私たちは少なからず受けているということ。

 

「千束と鈴仙のところに行きます!」

「……バカが移ったか?」

「すみません……」

 

たきなを今度は私が少しでもいいから助けになれるようにと動いてきた私の気持ちは止められない。

だから今の私にできることをすると、強く口に出した。

 

「フキ、たきなを行かせてあげて。私がたきなのポジション埋めるから」

「ムリムリ! ……そもそもコイツがクビになったのはアンタのヘマが原因だろ!」

 

確かにサクラの言うとおり、私が捕まりさえしなければたきなはクビにならなかったのかもしれない。

でも鈴仙が教えてくれた、気づかせてくれた、私のことを助けてくれたたきなの気持ちは本物だってこと、私が私を責めてもどうにもならないこと、自分の失敗でくよくよしてるよりたきなのために自分ができるせいいっぱいをする方がいいと。

だからサクラにも、たきなにも、私の今の気持ちをぶつけた。

 

「サクラ」

「な、なんすか……!? ……ホントのことッスよ」

「うん、サクラの言うとおり、あの時の私は何もかもダメだった、自信すら失って……。でも、今の私は前とは違う! あの時、たきなは私を助けてくれた。だから今度は私が……!」

 

フキにも目で訴えかける。

フキがそんな私を見て、なぜか目を剥き、諦めたような呆れたようなため息とともにたきなに向き直り言葉を発した。

 

「この任務を降りれば、もうDAには戻れんぞ……」

「わかってます……」

「最後のチャンスなんだぞ……それでもか?」

「……ここでは二人を救えない、それだけです」

「……行けよ」

 

たきなが一礼して私たちと逆の方に走っていった。

そんな背中を私たちは見ることなく階段の上を見た。

 

「フキ……ありがとう」

「……バカが。最近の実力的に判断したまでだ。調子のんなよ」

「……うんっ!」

「ええっ、行かせるんスか!? 司令に何て伝え「アイディア募集中だ」……うへぇ」

 

相変わらずツンデレのフキとちょっと生意気なサクラのやりとりを見て思わず笑みか隠せない。

いつもリーダーとして私とたきな含めた皆のことをしっかり見てくれているフキにも感謝している。でもそれと同等くらいに……

 

「エリカ、最近絶好調だけど、なんかあったぁ?」

 

ニヤニヤと私を小突いてくるヒバナにもう一人の感謝している人の顔を思い浮かべる。

 

「鈴仙のおかげ!」

「やっぱりね!」

 

私たちは上の方に上り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Reisen side>

 

『よう、また会ったな』

 

またラジアータのハッキングに成功したのか、そんな真島の声が再び街に流れ出す。

その声は不安を煽り、一般人に銃を持たせ、リコリスの銃を抜かせない。

肉が貫かれる音、血液がこぼれる小さな音は発砲音と悲鳴でかき消された。

 

「また始まったみたいだね。真島君が優秀なハッカーに出会うきっかけを作れてよかった……」

 

横の方で吉松さんの声が聞こえる。

中継の様子がわかるようにモニターをそこら中に用意したロボ太の労力は量り得ない。

今のところすべてが真島の手のひらの上だが、そろそろその時間も終わりだろう。

 

遠くから彼女の声と銃声が聞こえる。

その音は響き、徐々に近づいて大きくなって私たちの近くにやってくる。

 

第三幕だ (千束が来た)

 

 

「千束っ!」

「ヨシさん……! 鈴仙……!」

 

千束にとって二度目の電波塔。

階段を上ってようやく見つけた、割と元気そうな姿の私たちを見て心配の表情が安堵に変わる。

家に帰ろう、言いたいことも聞きたいこともたくさんあるんだというその思いが叶えばどれほどよかったか……

戦いは始まったばかり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Chisato side>

 

ヨシさんと鈴仙を見つけるが、その直後に突然モーターの動く音があたりに響く。

窓のシャッターがどんどん降りて、窓の光が遮られ周囲は暗闇に包まれていく。私は二人の元に駆け寄り、警戒を高め、銃を構える。

 

私たち三人以外誰もいないと思われたこの場に一つの影が見える。

見覚えのあるシルエットに、聞き覚えのある声、本来延空木におり、いていいはずのない人物……因縁の相手がそこにいた。

 

「よう、ヒーロー?」

「真島!!」

 

シャッターが閉まりきり、暗闇に包まれる。

なぜこんなところにいるんだという疑問を持った直後、真島がこちらを狙って発砲する。

銃弾がヨシさんの腕をかすめたのかうめき声が聞こえる。

 

「ヨシさんっ!」

「ほらほらぁ! 避けると憧れのヨシさんに当たっちゃうぜ、ヒーロー? 約束なんだろぉ?」

「くっ……!」

 

激しい銃撃を本能が避けたがっても避けることができない。

後ろに守りたい人がいる、その意識が私の頭から回避の術を奪う。

 

鞄を使って弾丸を受け止めるが、衝撃が激しく後ろに吹き飛ばされる。

でも追撃は来ない。

ちょうど5発で弾を撃ちきったのだろうか、何にせよ銃弾の嵐が止んだため二人の安否を確認しようとする。

 

「ヨシさんっ! 鈴仙っ!」

 

暗く、ほとんど何も見えない空間を把握するために鞄からライトを取り出し照らすが先ほどまで二人がいた場所にはちぎれたロープに倒れた椅子、僅かに血の跡しかなかった。

二人は気づいたらいなくなっていた。

でもそのことで大きく取り乱しはしなかった、だって多分これは鈴仙の仕業だから。

 

鈴仙の隠密能力と音による周囲の知覚があれば暗闇でも問題ないし、ヨシさんだけでは構造を知っているならともかくこんな暗い中動くことすらままならないはず。

つまり、鈴仙が安全な場所にヨシさんを誘導して私に戦いやすい状況を提供してくれたんだ。

 

とは言っても私は見えない状況での戦闘は苦手だし、なんなら鈴仙の方が暗闇での戦いは得意……というか達人級だ。

そんなわけで少しばかり鈴仙が戦ってくれないことや、私だけで戦うことに愚痴をこぼす。

 

でも鈴仙はヨシさんを連れて行ってくれ、このシチュエーションを作ってくれた。

私が本領発揮……はできないが、相手のみに集中して思う存分暴れられる状況を作ってくれた。鈴仙に「千束ならやってくれる」と言われているような、ある種の信頼を感じ、暗闇という圧倒的不利な状況なのに顔が緩む。

 

「しょうがないなぁもう……いっちょやってやりますかっ!」

 

 

****

 

 

後ろも前も全方位が暗闇で隠れる場所もない、つまり死角ばかりのこの状況では絶対勝てないことくらいわかってる。

私が不利であることに変わりはないが、背後からの攻撃だけでも避けられるようにと防壁代わりに金属製の棚のような物を押しだし、できた壁に背をつける。

 

いつ攻撃がやってくるのかわからない今、未だかつてないほどの集中して感覚を研ぎ澄ましていると、唐突にこの場所一帯に設置されているモニターによって薄く光が放たれる。

 

意表を突いて油断させるための策略か何かわからないけど注意しないとと思っていても、そのモニターに映し出されている、延空木にいるリコリスに目を奪われてしまった。

 

「……フキ」

「あっちのリコリスは今や全国デビュー中だ。これでオマエらは終わりだ」

 

声のした方にどうせ至近距離じゃないと当たるかもわからない銃弾を当たればラッキー程度に数発ばらまく。

しかし、やはりか、真島の笑い声が全弾外れたことを伝える。

そしてお返しにと一発の銃弾が私の元に到来する。

モニターの微光のおかげでなんとか躱すことができたがそれももう終わりのようでモニターの光が消え去る。

 

何とか反撃しようとしてライトで真島を探すがなかなか見つからない。

ようやくライトが真島を照らし出した、でも後手後手の行動に回っていた私はその攻撃を避けられなかった。

 

「ハッ!!」

 

かけ声とともに真島の蹴りがライトを遠くへと飛ばす。

 

「……っちぃ!!」

 

思わず舌打ちが出る。

しかし腐っても戦闘のプロ、たった一回の攻撃ではなく連続の殴打が私に襲いかかる。

闇の中、私は防御もままならず後ろに飛ばされ、背中を地面に打ち付け、肺の空気が押し出される。

 

「ッ……ゲホっゲホっ」

「どうした、アランリコリス? お得意の回避はぁ?」

「ハア……ハァ……お前、わかって言ってんだろ」

「もちろん。視覚が全てだろッ!」

 

咳の苦しさと真島のニヤついた声に顔を顰める。

何とか息が整うがだからといって状況は好転しない、それどころか悪化の一途を辿っている。

 

私の強みを逆に利用して……これが私専用の罠か。

鈴仙やたきながいる状況だったら「この私から一本とるなんて、やるなキサマ」とか減らず口をたたいていたかもだけどそんな余裕は微塵もない。

 

さっきまでギリギリ見える範囲だったのに、真島の姿は闇に紛れて見えなくなる。

それに加え、ライトがなくなったせいで、防戦どころか四方八方想定外の場所から拳が飛んでくるため何もできない。

 

いくら私が見えてないからってこの一方的な展開はおかしい……

闇に紛れて、音も小さく全くといっていいほど聞こえない、この感じ……まさか鈴仙と同じ!

 

「聞こえてんのか!?」

「……正解だ」

「グッ……あがッ!」

 

背後から声が聞こえ、反射で振り返り打ち込むが全くといっていいほど捉えきれず、私の背中に拳が叩き込まれる。

銃を使わないで殴ってくるのは単に弾切れか、私に光も音も与えないことで一方的な展開に持ち込もうとしているのか、それとも舐めて掛かってるのか、戦いを長く楽しみたい戦闘狂か、表情がわからない今それを判断する術はない。

 

目が見えない今でも、わずかに勝算はある。

真島が鈴仙と同じように地獄耳なら、銃を使わないなら……鈴仙の言葉を思い出す。

 

『私の攻略方法? ああ、戦闘でのね! わかってたよ、もちろん……そうだなぁ、耳元で大きな音やられるとキンキンして耳聞こえなくなるかも……。あと千束の方が戦闘技術とか自体は高いから密着すれば……。まあ一番は……』

 

大丈夫、思い出せた。

つまり私らしく全身全力でやればきっと何とかなる。

反撃のチャンスはやってくる。

 

転がっていたヨシさんの携帯が3回鳴る。

ワン切りの後、私は真島を引きつけるために発砲しながら走り出す。

これで私の位置は真島に完全にばれるが、自棄になったわけじゃない、たきなが来る、そう確信しているだけだ。きっと私と同じように階段を使って上ってくるのだろうと思ったから、真島に気づかれないように背後をとらせるために走る。

……でもそうはならなかった。

 

三寸先も見えないような闇に希望の光が差し込んできた。

 

鈴仙の言葉の続き……意図しない形だけど実現しちゃったなぁ。

 

『一番は自分を最も生かせる状況に()を引っ張り出すこと!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Takina side>

 

急げ、私の足!

延空木を背に電波塔に向かう。

延空木の周辺にはセレモニーを見に来た人が密集しており走り抜けることさえ困難だったが、そこを抜けると一変、古い電波塔の周辺は怪しいほど人の気配を感じない。

この街に住む大多数の人が延空木に注目している。

 

そしてようやく辿り着いた。

その中に入ると警報音がけたたましく、そのせいか一般人はいなかった。

でも千束は、鈴仙は、ここにいる。

 

私は千束が通ってきたと思われるルートで上へ上へと駆け上る。

途中途中に気絶した真島の部下と同じ服装をしているヤツらがいたが、誰も彼も意識が飛んでいた。

そして赤い粉もあった。

 

赤い粉、千束が非殺傷弾を放った痕跡だ。

つまりここに千束が着たことが確かで、上の方に千束いるのが間違っていなかったと喜ぶと同時に警戒の色を高める。

吉松のことだ、絶対何か気色の悪い策を弄しているに違いない。

 

現存する最後の階段まで上りきった。

しかしさらにその上、階段が崩れ普通なら落ち立ち入ることが困難な場所、展望台に千束と鈴仙はいるはず。

いつもなら展望台としてガラス窓が張られているその場所に目をやるとシャッターがガラスを隠していた。

 

……まずいかもしれない。

ロボ太が千束たちを誘導したなら、有利な条件を作り出しているはず……暗闇か。

 

暗闇では千束の目が利かない、鈴仙は拘束されている。

それに、千束は銃弾を避けるのが得意でも誰かを守りながら戦うのは不得意。

もし吉松と鈴仙を庇いながらなら……最悪の状況を考えて毛が逆立つ。

 

一刻も早くたどり着かなくてはとよじ登る。

でも、ただ辿り着くだけじゃ駄目だ。

それだけじゃただの千束の足手まといになってしまう。

ならどうすればいいのか。

 

私は携帯の着信を鳴らす。

それに連動してシャッターの中の銃声と足音が動いていく。

遮光を意識したソレは音を十分に遮らず、耐久もさほどない。

複数、おそらく二人の足音が目の前を通過する、その時、私はシャッターを銃でぶち破った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Reisen side>

 

激しい銃撃が聞こえる。

守るべき人を背にした千束は防戦一方。

だから吉松さんを連れて静かに上層へ上る。

 

「鈴仙ちゃん、千束と一緒に戦わないのかい?」

 

そんな煽りが私の落ち着きを乱そうとする。

怒りで手が出そうになる、そんな状態も物理的に阻止される。

 

「そう言うんだったらこの縛ってるの解いてほしいんですが?」

「……すまないがそれは聞けない、手持ちに刃物もない。それに……真島君に止められている。君も君自身を止められない。そうだろう?」

「ええ、わかってます。……もしアランチルドレンとしてお願いしたら?」

「……それはタブーだ。それに私は先約を優先するだろうね」

「今更タブーとか……」

 

私は縄で手を使えない状態にされたまま歩く。

本当は吉松さんの言うとおり千束のもとに颯爽と駆けつけたい。

でもそれを阻む理由があり、必死な彼女に申し訳ないと思うが私はこの戦いに手を貸せない。

 

建前はいくらでもある。

手に専用武器を持っていない。

拘束されたままである。

指示を出そうにも千束の銃は超短距離射撃で指示を出しても防がれる。

つまりただのお荷物になるから。

 

それだけなら私は自分の気持ちを優先して千束の方に言ってた。

でもそれだけじゃなかった。

 

吉松さんの思惑

それは千束の使命、つまり殺しを肯定すること。

そのために必須なのは殺人行為。だから吉松さんは千束が死なないだろうギリギリの人材を見つけ、この場を用意し、真島を利用した。

それだけでは飽き足らず、自分までも犠牲にする算段まで仕組んでいた。

 

そこに私は必要ない、むしろ居たら殺しから遠ざかってしまう存在。

だから私が無駄に動かないように、逃げ出さないように拘束を解かない。

 

思惑の他に真島と吉松さんとで千束とのタイマンに横水を差さないという取り決めをしていた。

互いの要望が重なった結果だと思うが、吉松さんは真島を殺してそれで終わりが理想だろう。

でも下から聞こえる音はそれを否定する。

 

千束の非殺傷弾が砕ける音は変わらず聞こえる。

それだけじゃない。

ガラスとシャッターが破壊される激しい音とともに二人だけの戦場が三人になった。

千束には私がいなくても彼女がいれば無敵になれる。

 

千束が理想を貫き通した。

千束のことを想う安堵の気持ちが生まれる。

同時に体全体が気持ち悪く、重く感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Chisato side>

 

階段から上ってくると思っていたのに予想外の登場をしたたきなに目を見開く。

驚きもあったがそれ以上にたきながきたくれたことに対する嬉しさがこみ上げてくる。

 

背後から狙撃してもらう計画は今断たれたが、それ以上の優位な状況が外の光が今まで見えなかったこの場所を照らしだすことで現れる。

しかしそれでも奥に行けば一切の光が遮断される真島のテリトリーだ。

99パーセント勝てない絶望的な状況がわずかな光とたきながいることで半々に戻っただけ。

 

なのに、どうしてなんだろう……負ける気がしない!

 

私とたきなで敵に相対し、鈴仙が陰から支えてくれている……いつも通りみんなと一緒に戦っている、ただそれだけでわずかにあった心細さと辛さ、苦しさが吹き飛んだ。

 

「チッ、割り込んで来やがって。俺はお前に用はねぇつったろ?」

「千束、マガジn」

「シッ、黙って……アイツは地獄耳だ」

「つれないねぇ、弾切れかぁ?」

 

これ以上は無駄に口を動かせない、どんだけ小さく話してもコッチの行動がばれる。

ぱっやり面倒くさい……ストーカー以上に面倒くさい。

でもこっちの以心伝心の連携力舐めんなよ?趣味が違っても、性格が違っても、何もかも真逆でも私たちは私たちを理解してる。

 

 

****

 

 

たきなと私の弾切れを知って真島は暗闇に駆け出す。

逃がすもんかとリロードし、手に狙いをつけ真島の武装を解除することは成功したが、その姿はすでに暗闇に紛れて見えなくなる。

 

こうなると闇雲に撃ったところで当たらない。

それどころか反撃の隙を晒してしまうことになる。

だからギリギリ光の届く位置をキープすることで闇に潜った魚を誘う。

 

どこから攻撃が飛んでくるか直前までわからない。

だから一撃くらい貰うかもしれない。

そう思っていた矢先、頭に蹴りを一発貰ってしまう。

 

「グゥッ……!」

 

おかげで痛みと衝撃でよろめきそうになるが、真島の大体の位置は予測できた。

次の攻撃は……

 

「右足ッ! 獲ったどおおぉぉおいしょおおぉぉおお!」

 

誘いに釣られた獲物を逃がさないようにガッチリホールドし、そのまま光の方へ一本背負い (一本釣り)っ。

地面に叩きつけるっ!

 

「グッ……!? まだまだあぁぁあッ!!」

 

固い地面に叩きつけられ、受け身を上手くとれなかったか、若干苦しそうな声を発する真島だが、体の捻りを利用して私の腕から足を抜き取る。

でも問題ない。

陸に上がった魚はもうジタバタと足掻くことしかできない。

呼吸を奪われ、泳ぐヒレも役に立たず、締めを待つのみ。

弱点を攻撃すればそれでもう終わりだ。

 

「がああああぁぁあぁあああぁぁぁあああ!!!?!??!?!!」

 

真島の耳のすぐそばで銃声を鳴らす。

私の弱点が目であるように、耳がいいってことは耳が弱点でもあるってこと、鈴仙と同じでね。

 

「たきな!」

「はい!」

 

私は非殺傷弾で真島を窓側の手すりの方へ追い詰めていく。

聴力を一時的にとはいえ奪った真島は死に体で、驚異的なバランス能力で立つことしかできない。

ついに手すりに体をぶつけ、たきなが用意していたワイヤーガンで真島をワイヤーで手すりに固定する。

 

たきながギチギチに固定したからもう動けないだろう、そう思ったところで今まで張り詰めていた緊張やらが解けてため息とともに床に寝転んだ。

 

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