フィークス・G・リコイル   作:桃玉

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原作との違い
・ヨシさんは自前の拳銃を所持している。(設定上、千束と同じモデル:デトニクス45 装弾数6+1で所持マガジン数は3、チャンバーには装弾されておらず計18弾)

・その代わりに鈴仙が武器なし。(真島に没収された)



第12話

<Chisato side>

 

非殺傷弾を何発も撃ち込み、腕と胴体をワイヤーで拘束されている真島は気絶したのかピクリとも動かない。

その様子に安堵し、全身が弛緩する。

背中がひんやりと冷たく、戦闘で火照った体に気持ちいい。

 

「……DAはどうしたぁ?」

「……辞めました」

「バッカだねぇ」

「心外です」

「ハハハ、でも、ありがと」

「……いいえ」

 

私たちは軽度の疲労と緊張の糸が切れたことで横になり、天井を見上げる。

嬉しかった、それに助かった。

でもこれでもう終わりというわけではない。

まだ続きが待ち構えている。

 

時間が経つにつれ、呼吸が荒々しいものから穏やかのものに変化する。

たきなも同じようで立ち上がりシャッターを開けようと主電源、動力元を探し始める。

たきなが今は動かないエレベーターの近くにある配線とスイッチを弄くるとモーターの音とともに展望台全体に太陽の光が差し込んできた。

 

「鈴仙~! ヨシさ~ん!」

 

私は声を上げるが周囲にその二人は見当たらない。

 

「二人はここにいるんですか?」

「さっきまでは……でもどっか行っちゃって……。もしかしたら上か下にいるのかも。私上見てくるから! たきなは下の方よろしく~!」

 

私は愛すべき家族を急いで迎えに行くべく足を速めた。

 

 

****

 

 

外階段を使って第一展望台から上層の第二展望台へ駆け上がる。

ようやく登り切って視線の奥に二人の影があるのを見つける。

 

「鈴仙っ、ヨシさんっ、よかった無事で……」

 

そこには真島の銃のせいか、左肩に血を滲ませているヨシさんと、拘束が解かれていない状態のままの鈴仙が立っていた。

 

「大丈夫? 撃たれて、ないですか?」

「……ああ、掠めただけさ」

「よかったぁ」

「来てくれてうれしいよ、千束」

「そりゃあんな写真見せられたら。……鈴仙もナイスだったよ! ってどうして縛られたまま……ああ、切るものがないのか、って鞄落としちゃったから、携帯もないし、どうしy」

 

喜びがじわじわこみ上げて、云いたいこと、話したいことが積もり、何から話そうか迷う。

鈴仙の顔は俯いた状態で目が合わず、何か隠している、そんな様子に見える。

でもとりあえず鈴仙の縄を解いてあげようと思案し、悩んでいる私の言葉が遮られる。

 

「ヤツは死んだか? ……私をこんな目に遭わせた真島を殺したか?」

 

その言葉を聞いてやっぱり先生の言うとおりだったんだと、信じてるけど信じたくなかった現実を突きつけられ悲しみが口をどもる。

ヨシさんが何か悲しい期待を込めて私の肩に手を置き、揺さぶる。

まるで私に人を殺したって言ってくれと懇願するように。

でもその懇願も聞き入れられないし、期待には応えられない。

 

「殺してくれたんだろう?」

「ヨシさん……」

 

私の表情で察したのか、今まで聞いたことのない荒々しい口調がヨシさんの口から発せられる。

 

「殺してないのかッ!! クソッ!」

「ヨシさん、でも……!」

「何だ! マザーテレサにでもなったつもりか!」

「だって、人に救われた命で誰かの命を奪うことなんてできないじゃない!」

 

私はそんな偉大な人になりたいわけじゃない。最初は勘違いから始まった信念かもしれない。

でもリコリコのみんなはその在り方を受け入れてくれた、私らしくていいと肯定してくれた。

たきなも最初の頃は反対だったけど今はその考えを尊重してくれる。

みんなが好きでいてくれる私を変えようだなんて思わないし、この素敵な考えを捨ててまで変えたくない。

そんな想いとは裏腹にヨシさんからは否定の言葉ばかり。

 

「……君はわかっていないようだ。人生で役割が明確な人間は少ない、でも君は、君たちはある! ……これほど幸せなことはない」

「……殺しが私の幸せって言いたいの?」

「そうだ、それで君は世界と人類に貢献できるのだから」

 

声が震えてまともに話せているかすらわからない。

でも本当にそれが、殺しが幸せなんだろうか。

あなたのように誰かを助けることは幸せにつながらない、そうなのかな……

ヨシさんが私の銃からゴム弾を抜き取り、代わりに実弾のはいったマガジンを挿入する。

 

「私は人を助ける、そんなことのために死にかけの人形のゼンマイを巻いたわけではない。君にはこんな玩具じゃなく実弾がふさわしい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Reisen side>

 

目の前にいるはずの太陽の光が消えてしまいそうなほど弱かった。

それこそろうそくの火を吹き消すくらい簡単に。

 

その様子を見て、心臓の奥からドス黒い感情が渦巻いていくのを感じる。

でもそれを表に出してはいけないと理性が押さえつける。

それを理由に人を傷つけてはいけないと、心の中にいる太陽が優しくも強く抱きしめ、押さえつける。

 

「……君からも何か言ってくれ。その考えがどれほど愚かで、どれほどの不幸を招いているかを」

 

千束の曇り顔が見える。

合理的に冷徹に立ち回るなら吉松さんの言葉を肯定すべきで、そうすれば不興を買わずに今後の展開も上手くいくとわかっている。

だから用意した台詞を読み上げる。

 

「……私は、千束が好き。もちろん、他のリコリコのみんなのことも。それで、好きな人には幸せに生きてほしい。……吉松さんの言うとおり、幸せになってほしい」

 

千束の顔が何も見えなくなるくらい暗く沈む。

真島と、吉松さんと接触を図った時点で、こうなることを予想してた。

でも、この覚悟だけはやっぱりできない、千束を傷つけることだけは我慢ならない。

だから、吉松のシナリオを台無しにしてしまうけど、これからは私のシナリオに変える。

 

「……でもね、その幸せは自分で見つけるものだよ」

「……鈴仙」

「ほら、泣かないで、お姉ちゃんならしっかりなさい!」

「……うん、ありがと」

 

憧れの人に否定され、失っていた自分の在り方に対する自信は誰が敵であろうと私は、私たちはその千束を好きだと、声を張って言ってやる。

だってそれを教えてくれたのは千束お姉ちゃんだから。

自分の幸せは、誰にも譲れない信念を貫き通してこそ、やりたいこと最優先、だよね!

 

「……同士だと思っていたのに、君には残念だよ、鈴仙」

「幸せを願っているのは同じでしょ、ただ私は誰かに貢献する必要なんてないと思って……吉松さんとは信念とか考え方が違っただけだよ」

 

私はあっけらかんに答える。

吉松さんから裏切りに対する怒りや期待に添えなくて残念だという感情が聞こえてくる。

そのまま負の感情をピストルの弾に乗せて放とうと、そうすれば千束が怒って殺してくれるだろうかと、そんな思惑だろうか、吉松さんは狙いを私の眉間に合わせ、引き金に指をかけようとした。

 

「やめてぇっっっ!!」

 

千束の悲痛な叫びも意味をなさず、鉛玉が撃ち込まれそうになる。

しかしその引き金が私に向かって引かれることはなかった。

 

パンッ……パンッ……パンッ……

 

そんな連続の発砲音が指を止め、同時に空薬莢が地面に落ち、カラカラと冷たい金属音をたてる。

 

「動くな、次は眉間に撃ち込みますよ」

 

姿を現したたきなから殺意のこもった音が発せられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Takina side>

 

下に吉松がいないことを確認した私は上の方に足を急がせる。

きっとそこに千束を含めた三人がいるはず。

階段を昇りきり、三人の会話が聞こえてきて、ふと足を止める。

 

吉松シンジ。

真島と共謀して千束をここに誘い込んだその男。

真島に武器を手配したのもオマエ。

ウォールナットにラジアータをハッキングさせたのもオマエ。

ウォールナットを殺したのもオマエ。

松下もオマエ。

千束の心臓を壊したのも作ったのもオマエ。

 

新しい心臓を用意してくれたことに多少感謝の気持ちはあった。

だから千束に免じて逃がしてもいいとさえ思っていた。

 

でも今はもう違う。

千束に散々言いたい放題言いやがって……千束はオマエのものじゃない!

だからオマエが千束を傷つけて良いはずない!

千束を悲しませて、泣かせて、絶望に突き落とそうとしていいはずない!

 

それだけじゃない。

鈴仙を千束の目の前で殺そうとした。

これのどこが千束の幸せにつながるというのか!

大事な家族を、憧れを殺され、父のように思っていたオマエを自分の手に掛ける……これ以上心を抉り切り裂き、凄惨なことあってたまるかっ!

私にとって大事な人を二人とも奪おうとした、未遂だろうとその報いを受けさせるまで私のマグマのように煮えたぎる感情は爆発しつつける。

千束のいないところでもう二度とその吐き気を催す姿を見せないようにしてやる。

でも今は千束の命を……

 

「……そのケースを寄こせ。クルミが掴みました、その中に千束の命がある」

 

 

****

 

 

私の甘い見通しは壊された。

千束の前で殺したら悲しむだろう、そう思っていくら怒ろうと吉松を今すぐ殺すことだけはしないよう自制していたのに……

 

「千束……お前を生かす心臓は、今はここだ」

「え……どうしたの、ソレ……だって……!?」

 

吉松が胸元を開く。

その肌を見ると、胸を大きく裂き、開けた大きな切開痕がその姿を覗かせた。

 

千束の動揺がこちらまで伝わってくる。

千束の心臓が……今は吉松の中にあるという事実。

それらが動揺を誘い、それ以外を見えなくさせる。

 

「これで君はまだまだ生きられる。……さあ、躊躇うな。撃ってくれっっ! 千束っっ!」

「巫山戯ないで! できるわけないでしょッ!」

 

千束に銃を握らせ自分の眉間に銃口を導く。

ここまでしても千束を不幸にさせたいとはとんだ狂人だ。

でもよくよく思えば、ここで吉松を殺せば余計な手間が減る。

オマエを殺せば千束は幸せになれる、生を享受できる!

 

心臓さえ手に入ればオマエに用はない。

非道く惨たらしく殺してでも千束の心臓を奪い取る。

私は確実に吉松の息の根を止めるため近づき、千束を退け、額に撃ち込んだ。

 

だが、虚しくもそれは妨げられ、外れることとなる。

よりにもよって助けたいその人の手によって。

 

「千束っ!! 離してッッッ!! 私がっ私がやるッッッ!!」

「たきなッッ! 止めてッッ! 大丈夫、大丈夫だからッ!」

 

大好きな人の叫びが聞こえる。

でも私の心には響かない。

どうでもいいコイツさえ死ねば、千束は生きられるのだから、千束と、みんなと一緒に生きることが私の願いだから!

 

「やめてッッ!」

 

鈴仙の叫びも聞こえる。

喉が張り裂けそうなほどの二つの叫びに一瞬反応して思わず力が緩む。

そのせいで千束に突き飛ばされる形となってしまった。

 

 

****

 

 

「どうして……どうして止める! 鈴仙! 吉松を殺せば」

 

わからない、私には理解できない。

千束のために吉松を殺そうとすることを止めなければいけない理由も、私と同じくらい千束と一緒にいたいと思っているはずの鈴仙が辛そうな表情で止める理由も、何もわからない。

 

「……ごめんね、たきな」

「なに、謝ってるんですか……なら止めないでくだs」

「違う! ……私が言ってるのは、そうじゃなくて……」

 

鈴仙の言葉が詰まる。

しかしその瞳の奥底には決意の炎が揺らめいていた。

 

「私が言ってるのは、たきなを、裏切ったこと、だよ……」

「それって、どういう……」

 

裏切ったと聞こえた。

思わず耳を疑い、現実を受け入れられない。

 

「実は、吉松さんと真島と……手を組んでるんだ……だから、ごめんね?」

「嘘、ですよね……? 嘘だとっ言ってください……ッッ!!」

 

私は思わず呆けて、その言葉の意味を否定したくて喉を張り裂けるほど震わせる。

ずっと一緒だった人の裏切りに目の前の景色が歪む。

それは、誰かに思いっきり蹴られた時のような、そんな頭と感情と、視界の揺れ。

 

「たきなッッ!!」

 

千束の叫びで現実に引き戻される。

歪みの原因、それは本当に蹴られたからみたいだ。

体勢を直そうにも体が追いつかず床に打ち付けられ、そのまま窓を割り、体が外に放り出された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Reisen side>

 

上の方にある鉄骨の影に潜んでいた女、千束の心臓を壊した吉松さんの部下である姫蒲がたきなを蹴り上げ、窓の外に吹き飛ばした。

硬い鉄骨に叩きつけられる音がした。

何とか地面に落ちずに済んだみたいだが、姫蒲がたきなを追い詰めようと殺しにかかろうとしている。

 

「千束、実弾を使いなさい。友達が死ぬぞ」

「千束っ、行って!!」

「終わったら聞かせてもらうからなッ!!」

 

私は吉松さんの言葉に被せるように千束に叫ぶ。

千束が私の声に応え、たきなのところに走って行った。

 

 

「……結局君は敵なのか、味方なのか、どっちなんだい?」

「私はあんたを利用してるだけ、お互い様でしょ?」

「違いない……」

「……それにお互いの命の保証はされてる、さっきはよくわかんなかったけど」

 

私たちは互いに命を脅かさないと確信している。

それは吉松さんが私たちは似ていると評した部分でもあり、千束が大事にしているものを壊さないように、自己犠牲をも厭わず行動している。

だから私は自分を犠牲にしてでも吉松さんの犠牲を、死をも阻止したい。

どれだけ今が辛かろうとも未来が微笑むのなら私も、吉松さんも、その機会を逃すまいと必死なんだ。

 

「すまないがリアリティというやつだよ。……しかし、予想外の行動をとる味方ほどやっかいなものはない」

「ぐっ……!」

「そのまま横になったまま休んでいてくれ」

 

そう言って吉松さんが千束のいる方とは逆方向に私を突き飛ばす。

足がもつれ、床に倒れてしまう。

胴体全体に巻き付けるように腕ごと拘束されている私はなかなか上手く起き上がることが難しい。

その間に吉松さんはたきなに向けて銃を放つ。

窓の外がどうなっているかわからないが、上空特有の風が吹き荒れ、銃弾が逸れ当たるかどうか。

しかし、吉松さんにとって肝心なのは千束に自分を撃たせること、殺しを行わせること。

でも千束がそれをしてしまったとき、千束は千束でなくなる。

 

もう10発も放たれた銃声。

鉄骨に当たり甲高い音を打ち鳴らすソレはたきなにいつ当たってもおかしくない。

 

だから私は吉松さんを止めるため、千束に銃を撃たせないようにするため、なんとか立ち上がり、体をぶつけた。

 

そのまま勢い余って倒れ込み、腕が熱く、同時に冷たくなっていく感覚を覚える。

千束の魂が切り裂かれるような、そんな叫びが聞こえた。

 

 

****

 

 

千束の放った銃弾をこの身に受け、ドクドクと鼓動に合わせて熱くなり、寒くなり、痛さが麻痺していく。

吉松さんを倒し、私が上になった状態で、私は吉松さんが立ち上がらないようにゆっくりと立ち上がり、重い腕を動かそうとした。

 

「なんて愚かなことを……お前が傷ついたところで意味はないのに」

「不幸にも、キューピットは私の心臓を射抜けませんでしたね……残念です」

「軽傷で良かったじゃないか。止血しないのかい?」

「両腕使えないのにどうしろと?」

「縄が切れて一本は開いているだろう? その手に持っているものを離せばいいと思うが……私が預かろう」

「片腕では無理ですよ……渡せば止血、吉松さんがやってくれるんですか?」

「残念なことに持ち合わせの道具は君の持っている銃とケースだけだ」

 

千束の銃弾は私を貫く前に縄を噛み千切った。

そのまま動く方の手で銃を奪い、吉松さんに向けて構える。

本当なら撃ちたくなんてない。

重い金属の塊を持つだけで、恐怖で手が震える。

 

「……その腕では銃を扱えないだろう。私の銃だ、返しなさい」

 

私が撃つ気がないのを知ってか、まるでオモチャを独り占めする子供を諭すように手を出した。

でも、この状況で千束の幸せを叶えるなら“この”方法しかない。

 

「撃ちますよ。……千束のために、何より私のために」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Yoshimatsu side>

 

「鈴仙ッ! 大丈夫!?」

「千束……大丈夫、とは言いがたいけどおかげで鬱陶しい服が破けて助かったよ。ありがと」

「こっちの気も知らないで……よかった」

 

あの子が戻ってきた。

姉妹の儚い悲しさを孕んだ笑顔が咲く。

しかしその後ろからは姫蒲の姿もたきなちゃんの姿も見えない。

だがしかし、そんなことはどうでもいい。

重要なのは友人の死を防ぐために私の期待に応えてくれたことだ。

残念なことに私は無傷だが、きっとこの子は私を殺してくれる、そして幸せになってくれると思い、安堵する。

 

「鈴仙ちゃん、銃を返してくれないか」

「んー……ダメ。私を人質に取るつもりでしょ」

「なんでもお見通しかい?」

「どうでしょう?」

 

やはり返してくれそうもない。

力ずくで取り返そうにもリコリス、それもアランチルドレンできるはずない。

ならば自分自身を使うしかない、飛び降りて自殺か千束に殺されるか、選択させれば、殺しを選んでくれるかもしれない。

大事なのは殺人衝動でも殺すという確固たる意思ではない。

千束が殺しをしたという事実だけがアランが提示する心臓を手に入れる最低限必要な条件なのだから。

そう思って窓の方に這いずりながら移動しようとするが、鈴仙の言葉がそれを止めた。

 

「ああ、そう言えば、吉松さん。私の使命、教えるって言いましたよね?」

「……それが今更なんだというんだ」

「きっと驚きますよ? ……なんたって私の使命は、才能を殺した人を殺すことらしいですから」

「……つまりどういう…………まさか!」

 

私の頭が思い浮かんだ答えを否定する。

鈴仙が言っている使命は嘘だと。

才能を殺した人を殺すというのは今の千束には関係ないと。

そして私がアランに則って行った計画によって千束の殺害は取り消されたはずだ!しかし何度否定したところでその答えしか出てこない。

その答えは……鈴仙が千束を殺すということ。

 

「いいや、ありえない。だって君は私と同じように千束のことが好きで、幸せになってほしい、そう思っていたはずだ!」

「ええ、その通り、あなたと同じですよ、吉松さん。でもこれ以上生きていて苦しいのなら、殺してあげた方が幸せですよね?」

「狂ってる……」

 

思わず顔を顰め、隠したい本音が絞り出される。

それでも鈴仙は何を考えているかわからない様子でその言葉を吐き捨てる。

 

「アンタには言われたくないね……ま、そういうことだから、覚悟してね? 千束」

「……茶番だってこと? 冗談にしては酷いね」

「そういうこと。私は本気だよ」

 

覚悟の表れか、銃弾は千束の方に放たれた。

その弾は千束の技巧によって、まるで弾自身が千束を避けているのではないかと錯覚する。

鉄筋に当たりうるさく音を鳴らす。

千束のような非殺傷弾では出ない実弾の音だ。

 

「自分勝手で面倒くさい妹を持つと大変だねぇ」

「自我が強い世話の焼ける姉を持つのも大変よ」

 

どうして……神からの贈り物を受け取ったもの同士で、私の子供と、子供の妹とで、殺し合うなんて、それが幸せなのか。

これが世界のため、人類のためになるのだろうか……

 

これが避けられぬ戦いならば……

少なくとも見届けなければ。

 

 

****

 

 

千束はどんどん鈴仙との距離を縮めていく。

突っ込んでくる千束に鈴仙は距離を置く。

ただ血が足りないのか、顔を青白くしていた。

 

「ひどい顔……。どうした、鈴仙……手が震えてんぞ?」

「しょうがないでしょ……」

 

恐怖か、緊張か、それとも血圧不足か、低血糖状態か。

一瞬ふらつき、そのまま近くにあったケースの影に隠れる。

この間、命の奪い合いだというのに互いに引き金を引いていない。

 

いつまで経ってもその影から出てこない鈴仙に千束はジリジリと距離を詰める。

そして距離を詰め終わったと思ったそのとき、千束が横の方によろめく。

 

「……ッ! なぁに、前より隠れんの上達したぁ?」

 

私は何が起こったか理解できなかったが、千束の言い振りから察するに死角から攻撃を仕掛けたということか。

しかし、いつ見てもアランチルドレンの才気は恐ろしい。

あの弱そうな彼女ですら見かけによらず凶悪で素晴らしいギフトを持っていたのだから。

 

「でも、今ので見えた!」

「グッ……!」

 

千束の蹴りで私には見えていなかった、いや見えていたのに見落としていた鈴仙がまた見えるようになる。

ケースごと壁の方に吹き飛ばされた彼女の細い軽そうな体が宙を舞う。

そのまま鈴仙は空中で捻り、うまく着地を決める。

 

「シャッターは下ろさなくていいのぉ?」

「千束相手に、あんな狡い手は、使わないよ」

「今は私が有利なのに、言うねぇ!」

「千束だって、ゴム弾、持ってないでしょ?」

「鈴仙だって」

 

仲がいいのか悪いのか、互いに軽口をたたき合う。

でも千束の言うとおりどちらが有利な状況であるかなど一目瞭然だった。

腕から血が流れ出て、顔面蒼白、肩で息をする鈴仙は格闘での威力に欠け、銃弾を命中させることなど千束の前でできるわけない。

対して精神的な疲労は垣間見えるものの至って健康、体格的にも有利な千束。

しかし千束が手を掛けるだろうか、私のようなほとんど会ったこともないような他人ならいざしれず、長年の家族に実弾を使えるのだろうか。

 

 

****

 

 

鈴仙が次の行動を起こす。

何をするのかと目を見張れば、千束にケースを投げつけた。

しかし鈴仙にあの重いケースを千束に届かせる腕力はない、届いたとしてもたやすく受け止められる、その予想通り千束はケースをキャッチし、やはり投擲攻撃の意味をなさなかった。

だから次の瞬間には千束が押さえつけるか、ケースでガードするかして鈴仙を止めるだろうと、そう思っていたが今度の予想は裏切られる。

千束が動かないのだ。

 

「また消えたッ……!」

 

その千束の声で何が起きたかようやく理解する。

ケースを投げたのは攻撃のためじゃない、目隠しのためだということに。

千束はガードしながら集中して辺りを頻りに観察するが見失った鈴仙を見つけられない……もう既に懐に入り込んでいるというのに。

「うっ゛……!」

 

鈴仙はそのまま体当たりで千束を窓際の柵に押しつけた。

その衝撃で千束の口が歪む。

鈴仙はその勢いのままに千束をケースごとワイヤー射出器で柵に固定してしまった。

 

「……さっきまでソレ持ってなかっただろ。どっから出した?」

「隙だらけだったから、盗っちゃった」

 

千束が鋭くそう言うと鈴仙は千束のポケットを指さす。

 

「手癖悪いなぁ。そんな風に育てた覚えないけど」

「フキさん直伝よ!」

「まったくあんにゃろ、余計なこと教えてくれちゃって」

 

もう勝敗は決した。

項垂れる千束に悲しそうな眼差しを送る鈴仙。

 

「やっぱり、嫌だなぁ……」

「今更なんだよ? 千束さんをこんな目に遭わせておいて、くっころよ、くっころ」

 

こんな状態でも鈴仙に対して気を遣うのか千束は。

もう死んでしまうっていうのにどうしてそんな明るい顔をしているんだ。

千束はそう笑みを浮かべながら胸の、ケースが被っているが、人工心臓が宿っている部分を見つめる。

 

「狙うなら……ちゃんとここ、狙って、壊して。痛いのはやだから」

「意地悪だ、千束は……」

「勝手に殺そうとして、勝手に辛くなって、そのくせ茶番って……そっちの方が質悪いだろ」

「悪いよ? ……悪い?」

「良い! なんせ私の自慢の妹だもん! ……だから笑って送ってよ」

「……わかった」

 

私にはアランチルドレンを止める権利など持ち合わせていない。

アランチルドレンとは使命によって幸福を世界に、人類にもたらすことで、私のような凡人とは異なり、明確に幸せを享受することができる存在だ。

だが、この結末は本当に神の導きで、幸せなのだろうか。

私が幸せにしたかった娘の命が親を置いて天に導かれる、これが神の導き出した最高のHAPPY ENDINGなのだろうか。

 

「止めてくれ……」

 

私は絞り出すように声を上げる。

しかし結局私はなにもできなかった。

その精一杯の声も二人の方まで届くことはなかった。

 

「またね、大好きな姉(千束)

「またな、愛おしい妹(鈴仙)

 

鈴仙の震える指が引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Reisen side>

 

人を撃った。赤が溢れた。爆ぜた。潰れた。……静かな赤以外見えない。

人を撃った。悲鳴。叫び。憎しみ。怒り。……静かに幻聴が纏わり付く。

そこには誰もいない、暖かさが失われる、冷たく動かない、みんな死んで逝った。

私のせいで、みんな、死んだ。

 

誰か撃たれた。赤が溢れた。爆ぜた。潰れた。……静かな赤以外見えない。

誰か撃たれた。安堵。悲鳴。叫び。憎しみ。怒り。笑み。……五月蠅い幻聴が纏わり付く。

 

仲間でも、敵でも、好きでも、嫌いでも、関係ない。

私より弱いヤツらはみんな好き放題言って、いなくなる。その度に死人の恨みと憎しみが聞こえてくるようになる。

 

大事な人を撃つ。

 

あなたも約束を破って死ぬの?

私を置いていっちゃうの?

約束したのに私の願いを叶えさせてくれないの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

約束したよね? 死なないって、お願い死なないで、死んだらどうすれば、死なないで、死なないで、死なないで、死なないで、死なないで、死なないで、死なないで、死なないで、死なないで、死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌ッ、私より先に死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌ッ、置いていかないでッ、死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌ッ、嘘つかないでよッ、死んじゃ嫌、死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌、死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌ッ、ずっと一緒っていったじゃんッッ、死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌、死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌、死んじゃ嫌ッ、どうして何も言わないのッ、死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌ッ、本当は生きてるんでしょ、黙らないでよッ、死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌ッ、私より先に死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌ッ、置いていかないでッ、死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌ッ、嘘つかないでよッ、死んじゃ嫌、死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌、死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌ッ、ずっと一緒っていったじゃんッッ、死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌、死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌、死んじゃ嫌ッ、どうして何も言わないのッ、死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌ッ、本当は生きてるんでしょ、黙らないでよッ、死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌ッ、死んじゃ嫌ッ死んじゃ嫌ッ

 

死んじゃ嫌だッ!!!!

 

床が千束の胸から溢れ出す赤に染まり、彼岸花が朽ちた彼女を中心に狂い咲く。

 

 

****

 

 

信じていたモノが壊れる。

誰のかわからない悲しくて苦しくて辛くて痛ましい心が叫ぶ。

全てを失い、理性が感情に塗りつぶされる。

 

あの時、千束と最後に寝た時から覚悟したつもりだった。

でも人を撃つ覚悟なんて結局できていなかった。

 

赤一色の視界。

忘れていた銃の反動が腕を伝わる。

 

トラウマが想起する。

 

声が震え、手が震え、五月蠅い。

手を無理矢理押さえつけ、感覚のない体のどこかに銃口を当てる。

 

そして、震える指で引き金を引く。

 

一発、もう一発…… 引き金を引く。

その度に罪の意識を自覚し、罪悪感と嫌悪感が心を握りつぶす。

何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も…………

 

それでも私は死なない、苦しみから解放されない、罪を拭えない。

感覚のない全身は、指先が引き金を引く感覚も、銃の反動も、その音も、何も伝えない。

 

「……ぁぁ…………ぁ」

 

腕が無気力にぶら下がり、手から黒鉄の玩具が離れる。

後に残るは今尚激情のままに叫び続ける枯れた声と涙跡。

喉は裂け、涙さえも涸れ果て、限界を迎え感覚を失った体が悪夢に誘われようとして、体が紅の亡骸にもたれ掛かり、意識が消失した。

 

この後の展開について

  • 千束死亡エンド
  • 千束生存エンド
  • だが、吉松、テメェは駄目だ!
  • そんなことよりおうどんたべたい
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