フィークス・G・リコイル   作:桃玉

7 / 26
外伝7

<Chisato side>

 

いつか心臓のことを話す。

そう言ってから月日が過ぎ、季節も夏から秋に変わり、涼しさどころか寒さが増すばかり。

 

いつ話そうか、いつ話そうか……と考え、一緒にいると話さなくちゃと変に焦ってしまう。

私が無意識に心臓について話したくない、と躊躇して鈴仙のことを避けてしまう。

 

もし鈴仙に私がいずれ死んでしまうことを話したら泣いてくれるだろうけど、私のせいで泣かせるようなことや悲しませるようなことなんてしたくない。

それに鈴仙は血や死に関して人一倍敏感な子だ、死ぬだなんて口が裂けても言えるわけない。

心の中渦巻く嘘を言いたくない気持ちと傷つけたくない、悲しませたくないという気持ちが鈴仙との距離感を測りにくくする。

 

伝えないままで後悔しないのかと私のモヤモヤは溜まるばかりなのに、鈴仙と話したいという気持ちがあるのに、肝心なことを話す勇気が出なかった。

でも、こんなことでウジウジするのも私らしくない。

もちろん考えるべきことではあるけど今を楽しくが私のモットーだ。

まだ気分は少しだけ引っ張られているけど、おおよその気分を入れ替えて今日から元気に一仕事して楽しく過ごそうと玄関で靴を履き、外に飛び出した。

 

「おっはよ~ござま~すっ!!」

「おはよう。今日は元気そうだな」

「もちろん、リコリコの看板娘は元気が売りですから!」

 

扉を勢いよく開けて登場すると真っ先に先生の声がやってきた。

ちょっと数日だけ考え事のせいでクールな千束さんだったかもしれないけど、今日からまた元気な私でやらせてもらいますよ、と力こぶしを作ってポンと叩いてみせる。

先生はそれを見てよかったよかったと言うように目を細め、仕事に戻った。

そんな平常運転のリコリコに戻ろうとしていたのに一つだけいつも通りじゃないことがあった。

 

「あれ? せんせー、鈴仙は?」

「今日はまだ来てない……珍しく寝坊かもな」

「それはいけませんなぁ。もし遅刻したらこちょこちょの刑かなぁ……」

 

毎日鈴仙と先生が挨拶を返してくれるのに、今日は先生だけだったのだ。

でもまあ心配するほどのことでもないかと思いふざけているとさっそくお店のドアが開く。

そこに立っていたのは普段から日に焼けていないせいで色白な肌が僅かに血色悪く、その青白い肌の上にクマが乗っていた。

 

「お、おはよーございますぅ……!」

「おやおや、おはようさん! お寝坊ですかなぁ~?」

「ちょっとね……遅刻じゃないでしょ」

「ああ、余裕でセーフだ……が、珍しいこともあるもんだ」

「ちぇ~、刑罰は回避されたか……」

「ちょ、刑罰ってナニっ!? 聞き捨てならないことを聞いた気がするんだけど……」

 

ちょっとだけ不健康そうな見た目だけどそれ以外のテンションや体の動き、突っ込みの躍動感は変わりない鈴仙。

今日からまた楽しい日々が、奇跡の連続が積み重なっていく……そう思える一日の始まりだ。

 

 

****

 

 

楽しい毎日が一週間、また一週間と流れて、もう十二月。

本日のリコリコの営業も終わり、鈴仙が真っ先に帰る。

それだけなら何も問題ないのに、たった一つ、問題点があった。

それは……

 

「ねえ、先生。鈴仙のクマ濃かったよね。それに顔色も……」

「ああ。私も今朝発見して、聞いてみたんだがただの寝不足だと……」

「……昨日何かあった?」

「いや、特に。いつも通りだったはずだ」

「そっか……」

 

鈴仙の様子がいつからか調子悪く見える。

具体的にはクマができ、それは日に日に濃くなる。

加えて肌の艶はなくなり、深刻な寝不足に見える。

それが数日かそこらならただの寝不足だとわかるが、濃いクマと血色のない蒼白な貌が一週間程続く今回、明らかに正常なそれとは異なっていた。

そして今日、一気にその色が濃くなり、鈴仙はふらついているのに平気を装って仕事していた。

心配だ……

 

「……そう言えば最近早退が多いな」

「もしかして病院にでも通ってる……?」

「先々週、山岸先生から薬を貰いに来たと連絡があったが、それ以降連絡は何もない。だが何かしらの予定が立て込んでいると考えるのが妥当か」

 

その後もやり取りを続けるが結局わかったことと言えば鈴仙が睡眠薬をもらったこと、週に数回程度早退してること、いつからか体調が悪そうだということくらいだった。

関係ないかもだけど髪の毛が伸びているのに散髪をサボってるのも追記しておく。

だから次の日……あわよくば相談してくれないかなと朝一で聞いてみようとしてドアを開けた。

 

「おっはよ~、鈴仙~! 今日は遅刻しなかったねぇ」

「おはよーって遅刻じゃないし……」

 

今日は私より早く着いていた鈴仙だったけどやっぱり昨日の今日で体調が改善していることはなく、いつにも増して眠そうだ。

 

「……やっぱ元気無さそうだなぁ。どったの?」

「いやいや、元気よ、私」

「いーや、疲れてるね。クマも顔色も寝不足のソレだ。……一体どうしたの、悩み事?」

「いや別に……」

「私が力になれることだったら言ってよ?」

「ありがと。でもホント、そう言うんじゃないから。心配してるなら取り越し苦労ってやつだよ」

 

何かを隠しているのか、頑なに自分のことを話そうとしない鈴仙はそそくさと仕事に取りかかる。あやしいと訝しんだ表情を思わず浮かべる。

時間は過ぎ、今日も用事があるからと早退する鈴仙を見送り、私と先生の二人きりになる。

深刻そうなことを隠そうとは……強行手段を使わざるを得ないか、と思うや否や、先生と秘密作戦会議を執り行う。

 

「てなわけで、これから第一回鈴仙のお悩み解決のための作戦会議を始めますっ! はい、拍手っ! パチパチパチ」

「……それはわかったが、何か解決案はあるのか? 話してくれるまで見守る以外の策はないと思うが」

 

先生は真剣な面持ちでノリが悪いけど気にせず進めていく。

 

「ちっちっちっ、この私を舐めて貰っちゃいけないよ。もちろん考えましたよ?」

「して、それは?」

「……尾行しようと思います!」

 

一瞬何の音もなくなる。

我ながら素晴らしいと自画自賛した思いつきに驚いて声もでないのか、先生は目を大きく見開いた後、少し頭を俯かせ、声を出す。

 

「私はストーカーできないぞ? 何せ足が……」

「わかってるわかってますよ。だから先生には追跡のためのGPSとか盗聴器の準備と指示役を頼みたいなって」

「……尾行に失敗したら事態は悪化するかもしれない。それでもやるのか?」

 

先生の忠告が耳に残る。

もちろん、私だって鈴仙との関係が拗れたりして悪化してしまうかもって考えた、けど……やりたいんだ。私は先生の言葉に「うん」と頷く。

 

「だって今の鈴仙、絶対何かおかしい。それに、今やらないで何か取り返しがつかなくなったらきっと後悔すると思う。」

 

先生は顎に手を置き少し考え、優しくも決心した顔を見せる。

 

「……わかった。いつ決行だ?」

「明日、できそう?」

「ああ、問題ない」

 

 

****

 

 

また次の日、気づけばクリスマス直前だが、今日も今日とて元気いっぱいにドアを開ける。

 

「おっはよ~! 今日も元気にエンジョイしましょー!」

「うぅ、千束元気すぎ……耳キンキンするよぉ」

「おやめんごめんご。……今日も睡眠不足? クマ酷いなオイ」

「うん、ちょっとね……」

「良い子はよく寝てよく食べ、成長するのだよ鈴仙君? 何かあったらこの千束お姉さんに言ってごらんなさい?」

「ありがたいけど余計なお世話。だってフキさんは良い子なのに小さいじゃん」

「アイツはひねくれ者の意地っ張りだから」

「なるほど?」

 

何気ない話をしてジャブを入れてみるけど、昨日と同じ様に効果はいまひとつで話す気はないらしい。ならば!

 

「そう言えば昨日帰りにこれ買ったんだ、鈴仙に似合うと思って」

「え、なにソレ」

 

私が取り出したるは昨日何でも売ってる某店で買ってちょいと細工をしたうさ耳カチューシャ(うさ耳部分着脱可、カチューシャ部分にGPS搭載)。

それを見た鈴仙は減なりしている。

 

「何だよその反応? 最近神伸びっぱなしだから買ってきたのに。それにかわいいでしょ、絶対似合う! それになんとこの耳着脱式です。かっこいいでしょ!」

「いやぁ、なんとも……カチューシャは良いけどその耳はちょっと恥ずかしくない?」

「そんなことないと思うけど……」

「じゃあ千束はつけ……「よし、一回ためしに着けよう!」……ちょ、やめ!?」

「ほらぁ、やっぱりカワイイ!」

 

ちょっと抵抗され耳の部分がよれてしまったけど今の控えめに照れている鈴仙にマッチしていて非常によい。

うさ耳のせいで小動物感が増した鈴仙に思わず飛びつきたい衝動に駆られる。

そのままの勢いで鈴仙にハグをしようとして、いつもなら受け入れてくれるのに今日は両手で制されてしまう。

 

「ごめん……」

「あ、ちょっと……!」

 

私の引き留めも虚しく空振り、鈴仙は俯き店の外にかけだしていった。

ハグを避けられて結構ショックだけどそれ以上に今日これから行う作戦の要であるGPSを渡すことには成功した。

これで鈴仙の隠し事がわかるはず……

 

 

****

 

 

GPSを元に鈴仙の尾行を開始した。

片手には牛乳瓶、もう片方にはあんパン、そして首には双眼鏡という完全完璧な装備だ。

もちろん鈴仙に気づかれないように数百mほど後ろにいる。

 

さっそく腹ごしらえを済まして集中を切らさないように対象の監視をする。

途中電車とかの公共交通機関を使っていたため一筋縄とはいかなかったけど、なんとかGPSのおかげで一足遅れながらも鈴仙の後をついて行くととある港へ着いた。

 

一体こんなところで何をするのかと興味津々で双眼鏡を覘いていると鈴仙が鉄筋コンクリート造りの建物の中へと足を進め、その姿が見えなくなる。

こんなところで諦めるわけもなく私も少し遅れて慎重に中へ潜入しようとしたそのとき、一発の発砲音が聞こえた。

 

「えっ!? ナニナニドユコト!?」

『……まずいことになったかもしれない』

「せんせっ、なに! どうしたの!」

『そこは違法な銃取引の場だ。丁度今、壊滅作戦の通達が来た。場所も時刻も一致してる』

「つまり……」

『鈴仙がDAの仕事を引き受けているってことだ、私たちには何も言わずに』

 

どうしてそんなことを? どうして私たちに言ってくれなかったの?

私の頭は突拍子もない事実を理解できず、ただ意味のない声を漏らしていた。

 




次回から書き溜び都合上投稿日時不定期になるかもしれませんがよろしくお願いします
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。