大英雄だけど陰謀とかムリすぎなので普通に働く   作:カラス男爵

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くたびれた大英雄

かつて世界全てを巻き込む大きな戦争があった。

六つの大帝国と二つ大国が戦い、終わる事のない地獄を形成し続け、世界には余す事なく戦火と死が積み上がる。

 先の見えない大戦はその勝利によって世界の覇者が決まるとすら言われ、国々は全てを戦争と言う大火を絶やさせない為にその身すらもくべつづけた。

 

その結果、10年も続いた大戦争。

 ある国は国内にまともに戦える男性が消え、ある国は抑圧されていた属国が一斉に蜂起し独立し、ある国は革命により戦争を放棄し、ある国は構成州が独立するなど参加国の全てがそれぞれの理由によって戦争を遂行できなくなり、大戦争は勝者のいないまま終結。

最後にまた戦争を始めた国を各国で叩き潰す平和同盟を締結しとりあえずの平和が訪れた。

 

戦後の混乱を乗り越え、軍事機密の商用転用になどによる経済の急速な発展を経て20年、戦時下では英雄と讃えられた私は現在。

 

「はい、はい…申し訳ありません。先方には必ず納得して頂けるよう努力します…はい、申し訳ありません。はい、有難うございます。」

 

普通にリーマンをしていた。

 

至極明快な話、いくら強くても倒す相手がいなければ稼げない軍隊はお荷物で金食い虫だ。

 功績によって退役年金で暮らせるかもと思ったが、その時は国はボロボロでどこを見ても余裕など無かった。

 受け取っても国が倒れれば現金は勿論、勲章はガラクタへと変わり金や宝石は買い叩かれる。

 ならばと思って辞退したら先王であるリンディン公からは勲章を下賜された。

 

では何故、今、事務仕事をしているかと言えば単純な話、軍に居場所がないし貯蓄にも不安があるからだ。

 先王に勲章を頂いて退役した後、方々を旅したその間に大軍縮とそれに伴う人員整理が行われた結果である。

 

「課っ長〜、いいんすか?そんな謝っちゃって。あの資料作ったのは営業のほうっすよね〜?」

 

「当然だ、提出を行ったのは私で、資料にも責任者の一人として私の名前が記されている」

 

「え〜?でも提出期限を超過して渡されましたよね?」

 

「…」

 

「なんでも課長が走って届けたとか〜?」

 

「……無駄口を叩いて手を止める余裕があるならば、その優秀さを係長に伝えよう」

 

「うげっ!?マジごめんっす!ホントに!残業は勘弁で!!」

 

まぁ正直、今回のミスに思うことが無いわけじゃないが、これから繁忙期に入り、資料を作った営業部や電話してきた企画部すら半分デスマーチ状態になる為、ここで揉めて何か遅れようものならその皺寄せがこっちにも来る事間違いなしだ。

 資料とデザイン案に埋もれながらダンボールを枕に死戦期呼吸さながらないびきをかいて寝る営業部員、あの光景には過酷な塹壕戦を思い出すくらいにはゾッとした。

 

今日も今日とて、定時ちょっと過ぎに仕事を終えた帰り道。

 飲み屋の前で酔倒れ、路上で眠り込んでいるリーマンを見てすっかり平和になったと思いながら家路を歩くと、突然声をかけられる。

 

「失礼、ランス・ヴィクトリア閣下で間違いないでしょうか?」

 

やたらとパリッとしたスーツが普段袖を通していない事が伺わせる。

 にも関わらず、威厳の隠しきれない風貌に、真っ直ぐな背筋と歩き方からは熟練の雰囲気を醸していて、何より私を閣下と呼ぶのは昔、制服を着ていた軍属の誰かだろう。

 

「そうです。しかし私は既に退役した身、ヴィクトリア家につきましても家督は既に甥のジョージが継いでおりますので、どうか閣下はおやめ下さい」

 

「おお、おおサー・ランスロット、我々が貴方を敬うのをお許しください、そして貴方に恩を返さない議会に代わって謝罪します」

 

ちょっと前に途絶えたと思っていた厄介ごとの匂いがする。

 私が軍にいた頃の名声の名残が良くも悪くも、ある一定の層に色濃く残っていてそれは今、普通にリーマンとして働く身としては抱えきれない場合が多い。

 

「はぁ、、もう結構だ。用が無いのであれば帰らせてもらう」

 

「サー・ランスロット、王国が騎士に対して行った仕打ちに憤るのも無理はありません。

 しかし、申し訳ありませんが積もる話が御座います。どうかご同行して頂きたく存じます」

 

サー・ランスロット、懐かしい名で呼ぶ彼は恐らく大戦期を経験した軍人。それ以外から呼ばれることは無い称号。

 目の前で深々と頭を下げられ足踏みをしていると、やたらと高級そうな黒い外車が真横の車道に止まり、当然のように目の前の男に後部座席へと促される。

 

やたらと広い車内で当然の様にお高そうな酒にタバコ、そしてその為の肴が用意されていた。

 遠慮する理由も無ければ毒も対して効かないので普通に頂く。

 

「白ワインとウィスキーも御座いますが」

 

「いい加減にしろ、そも貴様は誰だ。全て話せ」

 

「申し遅れました。

 私、元陸軍中将のゲオヒルトと申します。今はパンゲニア学園の理事をしております。

是非、貴殿を我が学園の教職員としてお招きさせて頂きたく」

 

「愚問だ。私は今やただの一般人、教職の資格を持ってすらいなければその熱意も無い」

 

「いえ、貴殿には学園の関係者となり学園の付近に在籍して頂ければ良いのです。

 貴殿が教鞭を振るう事を求めるほど厚顔無恥では御座いません。

 失礼…パンゲニア学園についてはどれほどご存知で?」

 

「国が散々最高位の学園を創ると宣伝していたな、確か…姪と甥が通いにいく学園のはずだ。設備が良いとか、各界の教授が招かれている…だったか?」

 

「なんと!?サー・ランスロットのご親類が!?それはそれは…

 失礼、パンゲニア学園の説明をさせて頂きます」

 

グレート・ウォーと呼ばれるかの大戦争は誰も勝者は居なかったが、その終わり方には差があった。

 

 

 

鋼鉄の戦争機械ゲルド=プロシア帝国

大戦中、常に2カ国以上と苛烈な戦闘状態にあり、戦争機械の名の通り猛威を振るい続けたが、最も優秀な参謀達は早々に勝てぬ戦争であると見切りをつけ長く続く膨大な戦争によって溢れた傷痍軍人達を率いて革命を起こし、皇室が処刑された現ゲルド=プロシア共和国。

 

 

 

古代魔法帝国の後継国ベーメン=ルーメン二重帝国

兵器と魔法の差が均衡状態になり、戦線が膠着し日に日に膨大な死者が積みあがった。元より確執のあった二つの民族は膨大な被害の原因を押し付けあい、二つの民族によって完全な内戦を始め、戦争継続が不能となった元ベーメン=ルーメン二重帝国のベーメリアとルーメニア。

 

 

 

東の災害覇王ボストク帝国

周辺国を下し続け災害と恐れられたボストク帝国は度重なる敗北と国内の不和が積もりに積もって構成国が独立を宣言、同時に宗主国において革命が発生、皇族はなんとか脱出したが革命政権と独立国が今尚、紛争中の元ボストクスラヴ帝国、ペレスト連邦。

 

 

 

栄光輝くロクバル帝国

最も酷いとされるのは元から宗教対立と民族対立が強かったロクバル帝国は戦争が続き国家そのものが不

安定になった時、民族戦争と宗教紛争そして独立戦争が併発し現在は無数の軍閥に分裂した後、ラティウムに逃れたロクバル亡命政権。

 

 

 

深海の盟友大旭華帝国

低い工業力だったが、強い団結と確かな戦争の才能によって何度も技術差を跳ね除けた大旭華帝国は、広がり過ぎた戦線と装備の差を埋める為に人を使った戦法は国内から成人男性が消え、戦線維持に囚われ身動きが出来なくなり終戦に応じた現、旭華国。

 

 

 

眠れる獅子キングス自治連合

眠れる獅子と名高かったキングス自治連合はその素質を遺憾なく発揮した。

しかし、尋常では無い死傷者と利益の出ない戦争は構成州の独立を招き、今では完全に四つの国家として分裂、強固な経済同盟こそ有るものの統一は進んでいないキングス経済連合圏。

 

 

大公と法王の連合ボザナヴィル共和国

来たる大戦争に備え一時的に統一したボザナヴィル共和国は防衛に徹した。

 だが例によって膨大な戦死者を出し、大戦の終結と共に元通り南北に分かれ、現在は過激な統一主義者が国内に蔓延っているボザナ大公国とヴィルベリア。

 

 

世界帝国グレートラティウム大帝国

唯一、被害が少ないと言える我らが祖国グレートラティウム大帝国はそこまでの混乱は無かった。

 とはいえ戦費・戦死者は膨大で、敵国を制圧する力は無くなり戦争継続は不可能になった現ラティウム連合王国。

 あったとすれば平和な政権交代程度で、後は全ての参加国と同じ様に悲惨だった。

 

 

 

そんな中、参加国が共通して合意したことが一つある。

 

"もう戦争はごめんだ!"

 

これはどこまでも無益な戦いの果て尋常ならざる被害による共通認識だったが同時に抱えている問題もあった。

 

"何のために戦ったのか?"

 

これを解決するのがパンゲニア学園都市計画だった。

 

大戦終結時、比較的余裕のあったラティウム連合王国が主導となり、各国共同で推し進めた平和同盟締結をより強固にする為の学園。

 パンゲニア学園設立と同時に同盟条文に明記された参加国は必ず自国民を入学させなければならないという条文、つまり学園に通う生徒は各国の交流と平和の象徴であり、人質だ。

 

はっきり言ってそんな物は陰謀の渦中であり、諜報の最前線となる様な場所だ。

 なせそんな所に行かなければならないというのが私の感想であり、そんな権謀術数の能力は持っていないというのが真実だ。

 

「こちら、現在の教職員の名簿となっています」

 

そう言って渡されたのはびっしりと名前と写真が貼られた一枚の紙。

 触ってわかった事だが、非常に燃えやすそうで水に溶けやすそうで変色しやすそうな破けやすい紙は端的に言って禁忌感が満載だ。

 

受け取った際に握った部分が破けかけたので支えるよう手を広げた。

 

「…見知った顔が多いな」

 

一瞬、同好会かと見間違うほど多いその面々はグレート・ウォーの時、将校として勇猛果敢に活躍した英傑が勢揃いしている。

 

しかもそれが敵味方入り乱れているカオスだ、超カオスだ。

 

何故、教務課長に秘密警察長官がいるんだ。

何故、警備部長に第一先鋒師団長がいるんだ。

 警備課長に至っては各国のエースオブエースみたいな面々が揃っているじゃ無いか!

 

大戦中バチバチに殺し合いしてた様な奴らの筈なんだが?一にも二にも戦闘みたいな連中だぞ?

というか

 

「貴様、思い出したぞ。なぜ懲罰師団の憲兵大佐が理事長なぞをしている?あのタルタロスの番人が」

 

「覚えて頂いていたとは恐悦至極に存じます。

 理事長に関してなのですが厳密には理事長は4名でありまして、私の他に四年ごとに各国から理事長が選任され其方が学園の運用にを担当します。

 私の仕事はあくまで学内の平穏でありまして。」

 

「そうか、では最初の質問に戻ろう。なぜ私が必要なのだ?」

 

「…抑止力です」

 

「抑止?」

 

「はい、パンゲニア学園はラティウムの最高学位ではなく世界の最高学位です。

相応の試験を突破した生徒は後の経済、政治、或いは文化。

 いずれにしろ国家を牽引していく力を待ちます。

 そんな生徒達をどんな手段であれ消してしまえば国家の未来に大打撃を与える事が可能でしょう」

 

「警備課を見るだけでも三個連隊程度は無ければ可能とは思えない、これ以上の武力が必要だと?」

 

「ええまぁ、一個師団程度であれば容易に準備するでしょう。

 何せその程度の犠牲で敵国の未来に大打撃を与えられるなら有り金を叩きつけてでもお得だと、かの大戦で知っておりますから」

 

「愚かな、そんな事をすれば平和同盟に従った他の締結国に滅ぼされるだろう。

ラティウムから旭華に至るまで未だに武器を疎かにする国はない、いずれにしろ私に興味はない」

 

「そうで御座いますか。

…であれば、申し訳ないと言わせて頂きます」

 

「…」 

 

いつの間にか無駄に大きい我が家についた車から運転手によって退出を促される。

 大人しく車を降りて、おそらくこれで自身の平穏が守られた事に安堵しつつ、帰りが遅くなった事に落胆したが、明日は休日だ。今日は映画でも見るとしよう。

 

既に空は夜の帳に覆い隠され、星空が煌々と煌めいていたが、何故か欠けた月の部分がいつもより暗くなっている様でならなかった。

 

速さを目的としない高級な車というものは静音性に優れており、快適さを有している。

 故に今、人を乗せているにも関わらず無音というものは中々に辛い、ラジオの一つでもと考えたが、なにぶん、その様な事を言える空気ではない。

 

「良かったのですか?理事長殿?」

 

運転手はランスが降りた後、暫くしても神妙な顔のまま微動だにしないのゲオヒルト理事長を見かねて話しかける。

 

「何がだ?」

 

「いえ、かの大英雄の意見を無視しても問題は無かったと」

 

「バカを申すな、これがせめてもの礼儀だ、誰が敵であるかを示し被害を少なくする為の国家へのサー・ランスロットへの礼儀だ」

 

食ってかかる様に否定され、さも当然であるかの様に告げるその口ぶりからは確証がある様に思える。

 被害と言うからには何かある筈だが、あの冴えない男に何が出来ると言うのか全くわからない。

 

「左様で御座いますか。…ちなみにそれはどの程度に収められたのでしょうか?」

 

「国家存亡から私の首一つだ。功績の一つも欲しい物だな…いや、死ねば変わらんか」

 

「首ですか!ははっ!普段あの要塞の様な学園にいるというのにですか!」

 

「ふんっサー・ランスロットにとって鋼鉄の扉や万全な警備という物は障害にならない、何せ本物の要塞を一人で落としたのだから」

 

大戦期の終盤は多くは語られない、なぜ終わったのかは伝わっていてもどの様にしてそこに至ったのかについては謎に包まれたままだ。

 その経緯に深く関わると噂されるのは円卓と呼ばれる大英雄だと言われるが、真相が語られる事はない。

 

 

 




本当はムリナールの二次創作が書きたかったのですが、ムリナール自体がイベストにおいてサブとは言えなくとも準メインキャラという扱いのなので実力が計り知れない(強いという事しかわからない)としか分からず、今後メインはおろか、イベントにおいても登場が望めないので、このように二次創作ではなくオリジナルという形になりました。

結論:公式の供給が足りてない
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