大英雄だけど陰謀とかムリすぎなので普通に働く   作:カラス男爵

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わんぱくな姪と甥

あの学園都市の一件があってから入学する筈の姪と甥を思い出し、老婆心ながらに警告するべきと判断してこの無駄に広い我が家に呼び出したのだが。

 

「ただいま参りましたサー・ランスロット」

 

確かに礼服を兼ねるパンゲニア学園の制服だが、軍服に見える程に立派な敬礼をする甥のジョージに頭を抱えたくなる。

 

「最近は休日にソファで新聞を読む叔父に対して敬礼するのが普通なのか?

そしてサーはよせ、ジョージ」

 

「貴方を知ればこそです。サー」

 

読んでいた新聞を横に置いて、甥に目を移せば未だに式典さながらの敬礼をしているので、ため息をついて仕方なく返礼する。

 

「大戦は過去であり、冷や飯ぐらいの軍に望んで行く必要など無い。

 ヴィクトリア家の栄光ですら既に過去の事、栄光に固執せずリザの様に好きに生きるべきだ」

 

「いいえ、サー。ヴィクトリア家が築いて来た英雄の血筋を私が絶やす訳には行きません」

 

「その結果、貴様の父は死に、貴様の母は身体を崩し倒れたのだ。

 そも英雄が現れると言うのは人々が困窮し助けを求めている時であり、その様な時代が訪れない様にする者が真の英雄である」

 

「…肝に銘じます、しかしその称号を諦めはしません」

 

彼の母に似て真面目な甥はヴィクトリア家の家督を継ぐ者として相応しく思えるが、そんな彼の母親は無理をして倒れているので心配ではある。

 

「ランス叔父さーん!!」

 

無遠慮に玄関扉が開かれたと思えば忙しない足取りでリビングに駆けてくるのは姪のリズこと、エリザベスだ。

 ソファに腰掛ける私を見た途端、おそらく全力で飛び込んで来たので、それを優しく受け止める。

 

「おいリズ!やめないか!」

 

「いやよ!むしろ貴方もやると良いわ!

 どんなに勢いよく飛び込んでも絶対痛くならないのよ!これは芸術よ!」

 

「…リズ、何度も言う様だが、自由でも淑女に見合った行動を心掛けるべきだ」

 

「ランス叔父さん久しぶり!まだまだ男前ね!足を広げて?座れないわ」

 

ご覧の通り、姪のエリザベスは彼女達の父である弟によく似て…活発だ。

非常に活発で、よくトラブルを起こすが、何でもそつなくこなす優秀さを持ち合わせている。

 

「リズ、もう淑女となったのだから子供の様に振る舞うのはよせ。何よりリズには立派な尻尾があるのだから、もう小さい頃とは違う」

 

そう言うや否や尻尾が腹を締め付けるように巻き付いて強引に足の間に座り込んで来た。

 

「もう、竜の血筋は結構だけどこう言う時は不便よね。良さげな服があっても穴を開けなきゃいけないのよ!?

 わたしも叔父さんや兄さんみたいに手か脚が良かったわ」

 

「ふんっそう言うお前には角が無いじゃないか、毎朝髪を整えるのが大変何だぞ?」

 

「角なんて!叔父さんみたいに削れば良いじゃない!」

 

「なっ!?なんてことを言うんだ!!だったらお前の尻尾も切れば良いだろう!!」

 

どうしてこんなことに…いや、呼んだのは私だが。

 

「ジョージ、落ち着け。私は気にしていない。エリザベスも、私が角を削ったのは時代による者で、望んだ事ではない。何より、知らない物に対しては思慮深くあるべきだ」

 

「わかったわ…貴方達の無駄にでかい身長も気にしない…

 いえやっぱ気にするわね!!175を超えてしまったのよ!?お母さんより大きいの!!

 なんなら兄さんは185を超えたの!!デカすぎて不便だわ!」

 

「落ち着きなさい、ジョージよりまだ私の方が大きいが不便と思った事はない」

 

このまま話してもよかったのだが、また口論になって話が進まないことは目に見えている。

 時間も少し早いがお昼ごろだったのでどこか食べに行く事にした。

 

「まぁ!まぁ!すごいわ!家族だけで食事なんて何時ぶりかしら!」

 

「…すまないジョージ、まさか免許が期限切れとは」

 

「問題ありません、サー。私は出前でも良かったのですが…

 というかリズ!行きたい場所があるといったから車を出したんだ!

 アテはあるんだろう?」

 

「当然よ!ほら!見えたわ!」

 

「いや、リズ、、そこは…」

 

「ファミレスよ!!」

 

彼女に終始振り回されっぱなしだが、私としては大して気にする事ではないので特に不満はない。

 だがヴィクトリア家の当主であるジョージは外聞を気にしてか、目立たない席を確保していた。

 

リズが注文をしすぎてテーブルから溢れさせる前に一度と止めて、料理が運ばれてきた辺りでようやく学園都市の話を切り出せた。

 

「さて、どれくらい学園都市について分かっている?」

 

「かなりの伏魔殿であると聞き及んでおります」

 

「最高の設備があって……ングッ高名な学者達が…いる?」

 

「どちらも正しい。…リズ、口を拭きなさい。

 昔の同僚からかなりの厄介事であると聞かされ、警告を、と思ってな…

とは言え学園内であれば私に出来る事は無い。強いて上げるとすれば警備部長には貸しがある、何かあれば頼ると良い」

 

「ありがとうございます。しかし話はそれだけでしょうか?いつもであればその程度は口を出す事は無かったと?」

 

「ああ、これから学園内の寮に住むのであれば気にすることも無いと考えていたが、そうでは無いと知らされた。

 そこで、これを渡すことにした」

 

ランスが懐から飴玉でも取り出すかのように気軽に渡されたそれには目を凝らさずとも緻密な意匠が施されている事に気付けるだろう、手のひらに乗ったその重量から純金であると感じさせ、意匠である獅子のその瞳は本物の宝石なのだとその輝きが伝えてくる。

 

「あら、お花みたいできれいですわね」

 

「これは?…勲章ではないですか!?受け取れません!」

 

「その勲章は既に意味も無い過去の遺物だ。

 売り払っても構わないが恐らく学園内で役に立つだろう、持っておけ」

 

「…しかし」

 

「もとより扱いに困っていたガラクタだ、こんな時くらいは役に立って貰う。目立つ場所につけてるといい」

 

しぶしぶ受け取るジョージと嬉々として髪飾りとして使うリズ、渡したランスは話を終えたからか黙々とコーヒーを飲んでいた。

 ステーキを一枚完食し、次の皿へと手を伸ばしたリズが思い出したかの様に質問する。

 

「ねぇ叔父さん。ずっと聞きたかったのだけど、どうして勤め人なんてしているの?

いくら議会が騎士を裏切ったとしてお金がないわけじゃないでしょ?こんな素敵な贈り物を持っているのだし」

 

「…あまり言いたくはないが大して金は無い、昔使ってしまってな。

勲章の売買は知られれば方々に睨まれる。故にクローゼットで軍服と一緒にほこりを被っていた。

とは言えあの無駄に大きい家を売ってしまえば金になるだろうから困ったら言うといい」

 

「まさか!?我が身可愛さに家を売らせたとあれば今後ヴィクトリア家として立つ瀬がございません!!」

 

「いいじゃない、叔父さんも家に来て住めばいいわ、昔みたいに!」

 

「お前達はすでに自分で責任を持てるようになった。何より、これから学園寮に行くのだからその意味は無い」

 

「もう、そういう事じゃないわよ」

 

突然始まったファミレスでの食事は彼女が注文した料理の第二陣を食べ終えた事で終わると、ランスは携帯を取り出して何処かと会話を始めた。

 

「すまないが、会社に用事が出来たので先に帰ってくれ」

 

「あら?今日は休日では?」

 

「…」

 

「…帰ろうリズ」

 

甥と姪が乗った車が曲がり角で視界から見えなくなった後、懐からファミレスで拝借したステーキナイフを取り出し、電柱の上へ切先を向ける。

 

「ララ、その尻にナイフを刺されたく無ければ大人しくこっちに来い」

 

すると、傍目からはまるで知覚できなかったエルフが突然現れて華麗に着地した。

 

「おかしいっす、これでも『影法師』を名乗れる程度には隠密技術があるのは間違いないんすけど?」

 

「私の近くで魔力を撒き散らしておいてバレないと思わない事だ。

そんな事より、なぜ学園都市でないのにも関わらず貴様がいる?まさか私の暗殺か?」

 

「いやいや、違いますよ、流石に勝てそうに無い相手に一人で向かわせるほど上は落ちぶれて無いっす。私はかちょ…支部長の監視と連絡と誘導と、、早い話が貧乏くじっすね。基本的に部長の事は私まかせっす」

 

「そうか、それは良かった。ならばさっさと行くぞ」

 

「行く?行くってなんすか?どこに?」

 

「?聞いていたのだろう、会社だ。仕事が出来たのだ」

 

「えっ!?あれマジなんすか!?いやいや!嫌!休日出勤はいやっす!!」

 

「私の監視が仕事なのだろう?近くでやらせてやる、喜べ」

 

不満を叫び、拘束を逃れる為に暴れるララを無視して引き摺りながらタクシーを拾って会社へ向かう。

 

新しい仕事場の支部長室はこういう時に便利だ。

そこそこに広い室内は誰かを近くに置いても仕事ができるし何より、それを見られる事はないのが素晴らしい。

 

「…しまった、おい」

 

「なんすか?」

 

「大口の仕事が取れてしまった」

 

「いいんじゃないすか?」

 

「期限が48日、、ではなく48時間後だった。やたらと感謝されるから納期を見直したら…な」

 

「はぁ!?なんなんすか!?はやく拒否して下さいっす!!」

 

「それでは違約金が出来てしまう…支部長責任を失念していた」

 

「えっえっ、どっどうするんすか!?」

 

「24時間戦え、私は走って必要な資材を融通して貰えないか他の部署に頭を下げて来る」

 

室内に情けない叫び声が響き渡る。

 

 

 


 

 

 

一人の女性が倒れていた。

 口と瞳を閉じることができず、力なく垂れ流しながら瞬き一つ動く事はない。

 朝を知らせる小鳥の囀りとカーテンに閉じられた窓の僅かな隙間から陽が差して朝の到来を優しく伝えるが、やはり彼女はぴくりとも動かない。

 金糸さながらの美しい髪と陶磁器の様な肌、悲しいかなその美貌はもう二度と動きそうにない。

 

途端に乱雑に扉が蹴破る様に開かれる。無遠慮に入って来た男が何の躊躇いもなくその女性を蹴り倒した。

 何の抵抗もなく、もたれかかっていた机と椅子から音を立てて崩れ落ち、、

 

「おはよう暗殺者」

 

「ゔぁあ"う、、絶対絶対絶対に訴えてやるぅ」

 

「構わんぞ、司法とお前の上司達が丁寧にもみ消してくれるだろうからな」

 

「ブラック、ブラックホール、暗黒、深淵…」

 

淡々と光の無い表現を思いつく限り呪詛の様に呟き続け、壊れたラジカセを彷彿とさせるが、エナジー飲料を手渡されまるで逆再生さながはの動きで起き上がる。

 

「おかしいっす、、なんでもう三日目なのに働いてるんすか私たち」

 

「突発した問題は往々にして解決よりも事後処理に時間が掛かるものだ、難易度はともかくとしてな」

 

「死ね……っす」

 

信じられない事に今回起きた修羅場を乗り越え、休日が終わり他の社員が出勤し始め事後処理を引き継げた事で、ようやく事態の収束が訪れたのだ。

 その代償として2名の尊い休日が完全に犠牲になったが些細なこと。

 

「良かったんっすか?そういえば今日入学式っすよね?」

 

すっかり紅茶よりもエナジー飲料が似合う様になってしまったエルフが告げるのはパンゲニア学園の入学式だ。

 生憎、弊社においては今回関わる事が無かったが、学園都市と言うだけあってかなり盛大に行われる。

 

何せ遠路遥々各国から入学するエリートを迎える一大行事であり、今後、学園での寮暮らしを始める生徒たちに別れの挨拶をと、ついて来る親族や友人の為に学園都市総出でお祝いする言わばパレードが開かれ、それに伴って民間の主にサービス業から様々な販促運動が繰り広げられる学園だけでなく都市における一大行事でもある。

 

「残念な事に学園都市で働く事になってしまった。感傷に浸る程の実感は無い」

 

「ああ、そうすか…今日は流石にもう帰りっすね?正直もう限界なんすけど…」

 

「別に構わないが、既に休日は終わった。有給届けを出しておく様に」

 

「…」

 

無言で投擲されたカッターナイフは正確にランスの眉間へ向かって飛んでいくがそれはランスの手によって流れる様な動作でペン立てに収納され、舌打ちの音が響く。

 というか今回彼女は完全に無関係だった筈の人であり、本来であればランスが方々に謝罪行脚をしなければならない事態だったのだが、哀れにも離れる事が出来ない身の上の都合上、完全に巻き込まれてしまった被害者である。

 

「今日ほど自分の弱さを呪った日はないっす…」

 

「…相応の金銭は支払われる、、はずだ」

 

白く滑らかな白魚の様な中指が蛍光灯の光を反射し神々しく輝く、笑顔と共に掲げられた渾身のファック・ユーは残念ながら何の効力も無い。

 

窓の外から騒がしい管楽器と花火の炸裂音が鳴り響く、どうやらパレードの列が近くまで来ているようだ。

 ララが大きく伸びをしてカーテンを開けば眼下には色とりどりのパレード服を着た列がちょうどこのビルの前を通る所で、その周りをみれば出店やらレストランが今日は特別に朝イチから開店しているらしいとわかる。

 

「えっ!?今何時?九時!!?え!え!働き始めたのが一昨日で寝たのが…寝た…?」

 

「素晴らしい働きぶりだったな」

 

「…。 パレード行きましょう。やってらんねぇっす」

 

不承不承に頷くランスを引っ張ってエレベーターに乗り、途中律儀にランスが早退届を提出するのをうんざりしながら待った後、パレードを楽しむ事になった。

 

パンゲニア学園、それがどの様な経過を辿っていくのかいまだ分からない、しかしその始まりは明るいものと言えるだろう。

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