大英雄だけど陰謀とかムリすぎなので普通に働く   作:カラス男爵

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台風の目

盛大な入学式が終わり、自身がこれから住む寮の自室を把握したジョージはそのうんざりするほど広大な学園の敷地に辟易していた。

 

「寮が八棟もあって各寮が言語圏で分かれているのは分かるが、まさか生徒会まで分かれているとはな」

 

ジョージの手に握られている便箋には仰々しくも公的書類として使える形式で生徒会役員への招待状が綴られていた。

 

初代生徒会メンバーの選出とあってかかなり気合が入っているご様子、初代生徒会長がラティウムの王太子とあっては流石に断るとしても何か一言あって然るべきだろう。

 とは言え、断るつもりは無い。英雄になろうとしているにも関わらず責任や苦難程度を恐れていては何も成せないのは分かりきっている事。

 

招待状をちょうど読み終えたその時、コンコンコンと丁寧なノックが自室に響いたかと思えば返事を待つ事なくゆっくりと扉が開かれる。

 まず目に入ったのは特徴的な髪色と角、透き通った空を思い浮かばせる淡い青色の髪と角であるり瞳も青かった。

 しかし今は瞳は下を向いて俯いており、髪は光の加減か曇り空である様にも見えた。

 

その人物を俺は知っている。いや、知っていなければならないと言うべきだろう、何せこの人こそが生徒会長であり、現ラティウム連合王国の第一王太子であるのだから。

 

だが、なんというか、顔色が悪い、、?

 

バタンと音を立てて崩れ落ちる殿下。

 

「殿下!?」

 

「うぅ…ああ、すまない、今立つから待っていてくれ」

 

見るからに辛そうな殿下を不敬であるかもしれないが抱え上げて自身のベッドへと運んだ。

 すると何ということか、すやすやと寝息を立て始めたでは無いか。

 

正直、大混乱であったが今日はまだ予定がないので取り敢えず据え置きの内線電話で医者を読んで待つ事にした。

 王子のかかりつけ医曰く、先週に定期検査を終えたばかりだったらしく何の異常も無ければ持病も無い。

 強いて言えば常備薬の胃薬が懐にあるだけで安静にしていれば大丈夫だと言われ、何故か俺のベットでそのまま寝ている。

 

今の所は授業が決まっている訳では無い為に時間はあるが、流石にここを離れて訳も聞かずに殿下を一人にするにも行かず、大人しく本を読んでいると、半分程読み終えた辺りでようやっと王子が起きて今の状況に混乱してキョロキョロと見渡す最中に目があった。

 

はっと思い出したかの様に慌てて立ち上がろうとする殿下を制止してそのまま話を伺う。

 

「殿下、お身体の方は大丈夫でありますか?」

 

「あ、ああ、大丈夫だ、むしろ久しぶりに、、いやすまない」 

 

「今回は何故私の部屋にお越しになられたので?」

 

「いや実はな、助けてほしいんだ。包み隠さず言うとな」

 

助け?何故ラティウムの王太子ともあろう方が何を力に困る事があるのかと、そう口に出そうとした時に殿下は語り始める。

 王族である事も忘れてか、何と言うか年相応の姿でひたすらに愚痴を含めて吐いた言葉は要約するとこうだ。

 

立場とか形式とか色々あって初代生徒会役員は事前に決められていたんだけど生徒会室に誰も来ないの、マジで、誰も。

 一人でやろうにも激務でこれじゃ何もできないし何とか集めようとしたけどメンバーには亡命した皇族とか亡国の皇族とか特に皇族とかに一人で会いに行くなんて何されるか分からない。  

 軍人の一人や二人簡単に連れてこれるけどそんな事したら仲が悪くなるなんて言葉じゃ済まされない。

 

ああもう!お前ヴィクトリア家だろ僕を守れバカやろー!

 

最後ら辺なんかもう半泣きでヤケになっていた気がしないでも無いが、こちらとしては既に取り決められた生徒会役員に特例で入れるなら願っても無い。

 

いかんまた泣きそうになってる。

 

「モーガン・ノルマン・アーサー・ラティウム王太子殿下、困難において我がヴィクトリア家に頼って頂けるとはそれこそヴィクトリア家の本懐と言うもの、謹んでお受けいたします。

このゲオルギウス・ヴィクトリア、解決の一助となりましょう」

 

殿下に喝を入れるべく、わざと音を鳴らし直立した後丁寧な騎士礼で手を差し出した。

 殿下が慌ててベットから立ち上がるとかなり動揺したのか立てかけてあった俺の剣を引き抜いて肩に当てようと、

 

「殿下それは騎士爵の授与です。爵位を戴けるのは大変喜ばしいのですが、それは功績が認められた暁に是非」

 

「えっ!あっ!そうだね、、そうだな、貴殿の働き次第ではあるが、考えておこう。

ラティウム王家に誓い、此度の事象の一助になってくれるな?」

 

差し出された手に乗せられた殿下の手を優しく掴み、深く頭を下げる。

 

「粉骨砕身の覚悟で持ってそれに答えます」

 

一応の臣従儀礼が終わったので立ち上がり、指摘した際に殿下が適当にほっぽってしまった俺の剣を腰に佩き、口に手を当ててさもやっちゃいましたみたいな顔をしている殿下を見なかった事にして学帽を被りジャケットを羽織る。

 

「ああえっと、じゃあ行こうか、今日明日中には解決したいんだ」

 

「殿下、お言葉が」

 

「いや、流石にずっとそれだと息が詰まるからね、時と場所は選ぶよ。あっモーガンでいいよ」

 

「ではモーガン殿下、まずはどちらに?」

 

「先にロクバルの皇女かな、あれを一人にするのは問題だ」

 

読んでも来なかったのは向こうだけど、そう言いながら部屋を出て寮の長く広い廊下を歩いていると見慣れた尻尾の生えた女生徒がこちらに走って来た。

 

「まぁ!流石ですわよお兄さん!もう彼女をおつくりになったんですわね!」

 

あろう事か王太子殿下にとんでもない事を言う愚妹をぶん殴って叱ろうとしたがその尻尾にまるで手で払う様に受け流された。

 

「リズ!この方はラティウムの王太子殿下であらせられるぞ!失礼な事を申すな!」

 

「あら?これは大変申し訳ありません、王太子殿下。

私、エリザベス・ヴィクトリアと申します。この度は石部金吉な兄についに春が来たとついつい舞い上がってしまいましたわ。

どうか無礼を働いた事,ご容赦くださいませ」

 

「いや、構わないよ。まぁ僕の一族はそう言うとこあるし…」

 

「わかったのならリズ、今はロクバル皇族探しで忙しい。後にしてくれ」

 

「仕方ありませんわね、それではご機嫌よう」

 

優雅にカーテシーをしたかと思えば、走って食堂のある方向へとかなりの速度で駆けて行く愚妹に頭を抱えたが、気を取り直して殿下に向き直る。

 

「モーガン殿下、貴方に付き従っておりましたが行き先はどちらで?」

 

「いやぁ、実は食堂なんだよね。お抱えの料理人が来ているとは聞いてないし、わざわざ食事を我慢するとも思えない」

 

「では、急いだ方がよろしいかと…おそらくウチの愚妹が揉めておりますので」

 

「えっ!?いやいやいくらロクバル人を探してると伝えたからと言って揉めないんじゃ?」

 

「だといいのですが、、私としては事態がさらに悪化する前に急ぐべきかと」

 

「じゃ、じゃあ行こう、か? うわっ!!」

 

「掴んでいて下さい」

 

一人で先に走って行く方が早いが、食堂についてロクバルの皇女あったとしても自分だけでは事態をさらに混乱させるだけで、ましてやウチの愚妹に絡まれていた場合は尚更だ。

 非常に申し訳なく思うが、殿下を傷つけないよう優しく抱き上げて走って行く。

 

食堂について殿下を下ろして周りを見渡せば、案の定と言うか人だかりが出来ていて、中心からは聞き馴染みのある声が聞こえて来た。

 

「あなたロクバルの蝙蝠族でしょう!?話を聞いて下さいな!!」

 

『いきなりなんだ!?離してくれ!!』

 

何と言うことか、ウチの愚妹とロクバル人の男が揉み合っていた。

 片方はおそらくロクバル語でなにかを叫んでいるのに対して妹はラティウム語で話しかけ続けている様だがそれが伝わらないせいでさらに実態を悪化させていた。

 

尻尾を使って独特の動きをするウチの愚妹はともかく、ロクバル人の身のこなしは確かに只者では無いと思うが、何も最初から争うほど野蛮では無い筈なのに何故こんな事に…

 

「殿下、妹を引き剥がしに参ります。ロクバル人を宥める際にはご助力を」

 

少し助走をつけてロクバル人に絡んでいる愚妹に対してキックを喰らわせる。

 リズは尻尾を巧みに操ったのかバレリーナさながらの回転で衝撃を逃がしついでに俺に反撃をしてきた。

 

『今度は何だ!?』

 

「イッテェですわね!!あら、兄さん?」

 

「申し訳ない、どうか許して頂けないか?」

 

尻尾の反撃を喰らっても動じずに割って入ってきた俺を見上げて少し冷静になったのか

 

「…いや、こちらこそ、すまない、突然掴まれて、とりみだし、!?『敵襲だ!!』」

 

突然どこからか更に二人のロクバル人が現れ、囲まれていた。手には食堂の物だろうナイフを握っており、異常に身を低くしているがあれは明らかに戦闘体制だろう。

 ここで一戦交える事になるかと剣の柄に手を伸ばした瞬間。

 

『そこまでだ!!これ以上ロクバルの栄光を落としてはならん!!』

 

俺と妹とロクバル人達によって騒然としていた食堂であっても芯のあるその声はよく通った。

 カーキ色の布地に鮮やかな朱色の装飾が施された制服は、本来ならロクバル言語圏用の制服。だがしかし、目を見張るのはその胸につけられた黄金と宝石で彩られた三つの三日月と一つの星による紋章はロクバル帝国の国章だ。

 

きっと彼女こそが殿下の探していたロクバルの皇女だろう、彼女が片手をあげればこちらを囲んでいたロクバル人達は彼女の後ろへと瞬時に移動し、何やらお叱りを受けている様に見えた。

 

こちらにその鋭い眼差しを向けたかと思えば規則正しい足取りで近づいてくる。

 もしや難癖を付けられるのかと考えていたが、その考えは彼女が深く頭を下げる事で霧散した。

 

「申し訳ない、どうやら此方に非があるようだ」

 

流暢なラティウム語であった。彼女の家臣と思われる彼等のラティウム語が片言であったのに対し、その声には確かな学があるのだと感じられる。

 

彼女が言うには食堂でいきなり肩を掴まれて離れようともがいている所に武装した大男、つまり俺が来たので暗殺と勘違いしてしまったらしい。

 

「やぁ、ようやく終わった様だね。君がロクバルの皇女かい?」

 

殿下は早々に自分に出来ることはないと悟っていたのか、何やら飲み物を片手にしている。

 

「これは、ラティウム王太子殿。申し遅れたロクバル5世、アイセル・ロクバルだ。貴国の支援には感謝している」

 

「感謝しているなら生徒会の仕事を忘れないで欲しかったね」

 

「それは…いやその通りだ。申し訳ない、護衛の配置転換で少し手間取っていた」

 

「護衛の、かい?君の所には『影の主』がついているのではなかったかな?」

 

殿下が告げるロクバル語の『影の主』とはロクバル王家に代々仕える暗殺者組織『栄光の影法師』の長であり、もっとも優秀であるとされている人物だ。

 大戦を調べればその名を目にしてしまう暗殺者集団ですらロクバルの崩壊から皇族を守りきれなかった事からどれほど混乱が極まっていたかが伺える。

 

「その者は今、最も重要な任務に就いている。警備に囲まれている学園の生徒などにわざわざ付けておく余裕はないのだ、残念だがな」

 

「ボストクの災害師団を何度も翻弄したかの暗殺集団が人手不足か?世知辛いものだ。

 さて、ボストクと言えばその皇族も呼びに行くのだが、手伝ってくれるな?」

 

「勿論だ、生徒会役員になれば対等な立場になれると言う約束だったからな」

 

「嗚呼よかった、それじゃこれからよろしくね」

 

突然ラフな口調で話し出した殿下に戸惑いながらも皇女は差し出された手を握り返した。

 

「それじゃあ行こう、と言いたいけど実のところお腹がペコペコでね、食堂で食べてからいこうか」

 

何とも気の抜けた話である。しかし殿下は今日明日中には解決したいと仰られていたと言うのにそうも時間を潰して良いのたまろうか?

その様に考えていると殿下と目が合い、小悪魔的な微笑みを向けてくる。

 

「 何やら考えるている様だね、ゲオルギウス。僕にはそれを理解できないがそうだな、こちらの方が都合がいいんだ。

 いやぁ、ビュッフェ型式とは中々新鮮だね!調理を待つ時間が無いなんて結構な事じゃないか」

 

興味深げに配膳トレーを覗き込んでいた殿下の横でトレーの束を引っ掴んであっちへこっちへとどんどん食品を載せて行く愚妹の姿があった。

 サラダからデザートに至るまで曲芸師さながらな技術で一度にテーブルに運ばれる彼女の食事だけでテーブルの一面が占領され、その光景から思わず目を逸らす。

 

「所でロクバル5世、ここで食事をとるという事は庶民と肩を並べる事になるのだが、何故ここに?護衛に食事を持って来させれば良かったのでは?」

 

自分も料理を運んで席に着けば、そこは当然ながら殿下の近くとなる。

 つまりはロクバルの護衛と皇女の近くでもあるのだが、

 

「アイセルで構わん。護衛に食事を、とは言うがな。私の護衛はそこの奴らだけだ。取りに行かせたら私が一人になってしまう。それでは護衛の意味が無いだろう」

 

「三人いる様ですが?一人に行かせたら早いのでは?」

 

「ん?ああそうか、ふむ。三位一体、三神一体、ラティウム語でなんと言えば正しいのかわからないが『栄光の影法師』にはその様な考えがある。

 様々な理由が存在するが、簡単に言えば彼等は単独で行動するのを禁忌とする程に極端に嫌う、6割程度の実力しか出せないだそうだが…

そんな事で護衛と揉めるなどバカバカしいという訳だ」

 

殿下の口ぶりからするにお抱えの料理人等が呼べないわけではなさそうであった。それまでの間の多少の不便を受け入れる余地があるのであればそれに越したことは無い。

 むしろその程度の我慢すら耐えられないような貴族連中が多いとすら考えていたが、よく考えれば学外に安易に出られないような殿下やアイセルはともかく、普通の貴族たちは学外の高級レストランにでも行っているのだろう。

 

右に王族、左に皇族という何とも形容しがたい席で黙々と料理を口に運んでいると、怒号と共に食堂のドアが開け放たれた。

 

『屈辱だ!私がこのような場所で食事をするなど!!』

 

開け放たれた扉の先には自分よりもさらに大柄な熊の獣人が入ってきた。隙間なく宝石がはめ込まれた大きな王冠を被り豪奢なローブ、肉厚な刃を持つ黄金のハルバードは紛れもなく災害皇帝の王錫だ。

 

「ほら、来たよ。これ食べたら対応しようかゲオルギウス」

 

何やら微笑む殿下を見て、彼が懐に忍ばせていた胃薬を思い出した。いま執り行っているのはラティウムの生徒会をまとめる為に奔走している筈だ。

 生徒会が揃ってからはようやく他寮の生徒会と睨み合いが始まるのだろう。

 

ああ全く、学園の情勢は複雑怪奇なり、だな…

 




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