天狗の戯れ 作:葦名ご当地アイドル弦ちゃん
GW中暇なんでノリで書いたものです。
でも後悔はしていません。
ちなみにあらすじのフロム最強ボスは個人的な意見なのであしからず。
「毎日毎日飽きずにようやるのぉ! 小僧!」
「……へっ?」
その日はとても暑い日だった。
朝から雲一つない晴天の空の下、潮風にのって聞こえてくる蝉の大合唱をBGM代わりに緑谷出久はオールマイトが示したトレーニングの一環として、海浜公園に漂着した廃棄物を掃除している最中だった。
肝心のオールマイトはまだ来ていない。No.1ヒーローのことだ。またどこかでヴィラン退治に勤しんでいるのだろう。
限られた時間を無駄にしないためにもテキパキと清掃活動をしている緑谷が話しかけられたのは太陽が真上に来る正午頃のことだった。
「こんな暑い日にゴミ掃除とは最近の若者にしては殊勝なことよのう。うちの若いもんに見習せたいわい」
「えっ、えっと……(誰だろうこの人……?)」
歳は60代そこらだろうか。和服に身を包んだ老人が緑谷のわずか二、三メートル先に立っており、枯れ木のようなしわくちゃとした顔に似合わない鋭い目でじっとこちらを見ているではないか。
「あ、あの……もしかしてこの公園の管理人でしょうか……?」
「わしか? あいや、わしは──単なる物好きのじじいよ。海を眺めていたらちょっとお主の姿が見えたんでな。興味を持った次第じゃ」
そう言って逞しく生えた顎髭を撫でる老人。
風に靡く白毛の中で口元は何故か笑っていた。
「さて、次はお主のことを聞かせてもらおうか。お主、ここで何してる? 見たところ、清掃業者には見えぬが……。ボランティアというやつか?」
「い、いえ、違います……」
「違う? ではお主には何の利もないと言うのに、何故ここを掃除してる?」
「トレーニングでこの海浜公園を綺麗にするのがオール……あ、ある人の課題でして……それで掃除してたんです……」
「トレーニング? こんなゴミ置き場でか? ──かかっ! 面白い師よのう!」
老人は笑う。豪快かつ愉快そうに。
笑い終えると傍らに捨ててあった冷蔵庫の残骸に腰かける。背景がゴミの山だけれども、不思議とその老人が座っている様は絵になっていた。
「──どうした? 座らぬのか? 休憩も立派な鍛練の一つぞ?」
「え、あ……は、はい!」
ただの善意なのかもしれない。しかし老人の言葉には何故か底知れぬ圧を感じた。深い闇のように、燃え盛る大炎のように。
とは言え、その優しさを無下に断ることも出来ず、言われるがまま緑谷は老人の横に座る。
「ふぅ……。トレーニングもよいが、この暑さだ。体調には気をつけぃ。身体を作る前にへばってしまっては元も子もなかろうに」
「あ、ありがとうございます……」
「気骨な
「き、肝に銘じておきます……あれ?」
老人の台詞に少し引っかかりを覚えた緑谷は一言一句を思い出す。そして驚愕した。
「な、何で僕がヒーローになりたいことを……知ってるんですか? もしかしてッ、心を読める個性……!? すごいっ! 初めて見ました!」
「ふっ。残念じゃが、ハズレじゃ。種明かしすると、お主くらいの歳になれば誰彼構わずヒーローになりたがると言うものよ。考えるまでもないわ。かかっ!」
「あっ、そ、そうなんですか……あははっ、なんか一人で舞い上がってすいません……」
知らない人の前で突っ走った上に勘違いしてしまったことに顔が熱くなる。
恥ずかしさを誤魔化すためにしばらく空笑いしてると老人の服装が目に入った。
着物についてあまり知識はなかったが、質感からしていい生地を使った高級な一着なのだろう。著名な文化人が着るような装いだった。
特に胸元にあしらえた家紋がいい味を出しており、緑谷はこのことから昔から続く名家の出身なのかも知れないと自己完結した。
「──わしの服に何かついているか?」
「あ、いえ! 立派な和服だなーっと思いまして!
えっと、おじいさんは落語かなにかやってる方でしょうか? 僕、その辺のことはよくわからなくて……」
「落語? いやいや、わしはそんな大層なものに就いてはおらん」
「ではお仕事はなにを?」
「仕事? ──むぅ……」
すると老人は押し黙った。緑谷は何かまずいことでも聞いてしまったのかとすぐさま後悔した。
だが、老人は少し考えると職業を教えてくれた。
「仕事は……そうだな、ちょいと鼠狩りを生業にしておってな。今日もその帰りよ」
「鼠?」
鼠狩り……鼠狩り……。もしかして害獣駆除のことだろうか?
「おう。それも困った鼠でな。我が物顔で入ってきては人様の大事なモノを蝕もうとする下衆な輩でのう。5、6匹ばかり始末しておいたがな」
「へ、へえ…そうなんですか……」
そんなに面白い内容ではなかったが、老人はうきうきしながら害獣駆除を語っていた。
だが何故だろう。話をしている時の老人は目つきは得体の知れない恐さがあった。
近くにいるだけで安心感を感じられるオールマイトとは対照的に、この老人の側にいると心臓を握られたかのような……そんな感覚だった。
しかし緑谷は初対面の人にそんな感想を持つなんて失礼だと思い、すぐに気持ちを改めて再び視線を戻すと──老人と目があった。
視線を離すことが出来ない。今まさに、緑谷は蛇に睨まれたカエルといえる。
「良き目をしておる……」
「え?」
「覚悟に満ちた眼よ。弱々しくも、己の信念を貫き通さんとする強い意志を感じる。
じゃが……危ないところもあるのう。自己犠牲の精神か……。誰かを守ることに固執するあまり、己を慈しむことを忘れる節もある……。身体は大事にせい。主が死んで悲しむ者もあるだろうに……
小僧、名はなんという?」
「緑谷、出久です……」
「よいか、緑谷。長く生きただけのジジイから若人に一つ助言してやろう」
老人は立ち上がり、緑谷の目の前に立つ。その瞳は先程よりも真剣そのもので、有無を言わせない迫力を放っていた。
「──この個性社会を一言で言うならば大きな渦よ」
「ヒーローやら、ヴィランやら、個性に関わる者の願いや企てなどが渦を巻きおる」
「お主のヒーローになりたいと言う夢もまた一つの渦……」
「迷えば、その渦に巻き込まれ──命を落とすことになる」
「かかかっ、そうじゃ。肝に銘じておくがいい」
「緑谷よ。──迷えば、敗れるぞ」
「迷えば、敗れる……」
「おーい! すまない緑谷少年! 遅刻してしまった!」
静粛な空間を裂くように、突如として聞こえてきたのは第三者の声。
緑谷が振り返るとそこにはいつも通りの笑顔で駆けてくる
「いやー、申し訳ないッ! 隣町でヴィランが暴れてたせいですっかり遅れてしま──っ!?」
そこまで言うと、オールマイトは突然言葉を止めて驚いたような表情を浮かべた。
心の底から絶句してるオールマイトなんて珍しいと思いながら、その視線の先には老人がいた。
「え……なッ……何故、貴方が……!」
「──ふむ。なるほど、そういうことか。この小僧がか……。
緑谷よ」
「は、はい!」
「つい長話してしまったな。お主の師も来たところだし、わしはそろそろ退散するとしよう。よいか、先程の言葉、忘れるでないぞ?」
「はい! ご教授、ありがとうございました!」
「かかかっ! 早う立派に個性が使えるようになるといいのう!」
踵を返し、去ろうとする老人に深々と頭を下げる。
今の今ままで無個性の自分がヒーローを目指すことに背中を押してくれる人物なんてオールマイト以外いなかった。
にも関わらず、この老人は応援してくれただけに飽き足らず、助言までくれた。
緑谷の頭は感謝の念でいっぱいだった。
だが。
「……あれ? なんで僕が個性使えないってこと知ってるんだろう……?」
それだけが疑問に残った。
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「オールマイトよ……いや、八木と呼ぶべきか」
「はい……」
「お主……あやつに
「──いえ、これからです。私の提示したトレーニングをこなし、この海浜公園を掃除出来たのならば渡す約束をしてます」
「そうか……」
「………」
「……お主が選んだなら文句は言わぬ。せいぜい鍛えてやれ。あれは光るぞ?」
「……っ! 了解です!」
「かかかっ! 9代目がどうなるか、楽しみじゃのう。年甲斐もなくわくわくしておるわ!」
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「出久ー! ご飯よー!」
「はーい! 今行くー!」
あの後、オールマイトと合流してからその日のトレーニングをつつがなく終えた緑谷だが、帰宅した頃には日も沈み始めており、ちょうど夕飯時だったので急いで汗を流してから食卓につくことにした。
ちなみにこの日のメニューはカツ丼だ。久々の好物の登場に喉を鳴らしてると点けっぱなしのテレビが目に入った。
『──では次のニュースです。本日正午頃、○○市△△港にて男性の数人の遺体が見つかりました。
遺体の身元はいずれも殺人やテロ行為など、凶悪犯罪の疑いがあるヴィランたちで警察側は仲間割れによる同士討ちではないかとみて調査を進めています』
「へぇー、△△港か……って海浜公園の近くじゃんか!」
緑谷は思わず声を上げてしまった。
何せ、海浜公園と△△港はさほど離れておらず、十数分歩けば辿り着ける距離。時刻もちょうど同じ時間帯。つまるところ、下手したらこのヴィラン達が海浜公園までやって来た可能性もあった。
もし、オールマイトが来るのがもっと遅かったら……。
──ゾワッ
「出久ー! ご飯なんだからテレビ消しなさーい!」
「はーい!」
(世の中はまだまだ物騒なんだ……! オールマイトみたいになるには……人一倍頑張らないと、誰も守れない……!)
幼い頃からの夢のため、オールマイトの期待に応えるため、緑谷はより一層の決意を固める。
まずはこの後控える室内トレーニングのため、カツ丼を一気にかっ食らうのであった。