天狗の戯れ 作:葦名ご当地アイドル弦ちゃん
原作ではホークスの出身校は明かされていませんが、今作では雄英出身という体で話を進めていきます。(2023/6/9、修正)
葦名一心。
年齢は六十代。好物は酒。
家系は名のある剣豪の末裔らしく本人もその先祖に匹敵、もしくは凌駕するほどの技量を持っており、その他槍術、柔術などにも精通。時たま、近くの道場で門下生相手に武道を教えている。家族構成は不明。
その昔、とあるヴィランによって左目に裂傷を負い、その時に左の視力を喪失する。現在抱えている持病や障害はなし。一月前の健康診断でも引っ掛かった項目はなしと判断されている。
何も知らない人間が見ればただ武術に長けるだけの老人。ただただそれだけ。
だが、本当の姿は別に存在し、その正体はヒーロー公安委員会
ヒーローは正義の象徴にならねばならない。弱者のために身を呈し、正義の拳で悪を倒す。それが人々の思い描いたヒーロー像であり、答えだからだ。
当然違法行為など以ての外であり、犯罪に手を染めた英雄など誰からも支持されるはずがない。事実、スキャンダルが原因で辞職したヒーローなど数え切れないほど存在しており、それだけ世間がヒーローという存在を如何に神聖視してるかがよく分かることだろう。
しかし、現実はコミックのように甘くはない。
あまりの邪悪さ故に逮捕ではなく、殺害を用いてしか止められないヴィランが世の中にはたくさんいる。誰かが手を汚さなければ悪を止められない状況が山ほどある。
だからこその
国のため、平和のため、人々のため、殺しを以てヴィランを止める。それが実働部隊に課せられた使命であり、その頭目ながら最終兵器を務めるのがこの葦名一心という老兵なのだ。
これまでの功績はオールマイトにも劣らないとされ、オールマイトが表社会の抑止力なら、一心は裏社会の抑止力ともいえる。決して人々に賞賛されることのない仕事だが、一心はこの仕事を誇りに思ってるし、何より気に入っている。
一心の本質は人斬り。
立場がヒーロー側なだけで、世界が今と少し違っていたら、一心は歴史に名を遺すほどのヴィランになっていたかもしれない──。
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東京都○△区の繁華街の路地裏にひっそり店を構える質素な喫茶店があり、一心はその店に足繁く通っていた。
店の名は"
店内に店主の他に客はおらず、一心一人しかいない。
人知れず経営している店なので客足は少なく、一心の他には常連と呼べる人間は数えるほどしかいなかった。
古めかしいクラシックのレコードが奏でられる店内に、ドアベルの音が加わった。
「どもーっす。繁盛してますかー?」
その男は──。
18歳で事務所を立ち上げ、その年のヒーロービルボードチャートに史上最年少でトップ10入りした。
マイペースで自由気ままな性格なため協調性に欠ける部分もあるが、それでも人気なのは彼の実力と人柄によるところが大きいだろう。
そんな彼を人々は"速すぎる男"と評した。
「繁盛しておったら隠れ家が意味をなさぬじゃろうて」
「ははっ。確かにそうですね。──久しぶりっす。一心の旦那」
ウィングヒーロー、ホークス。彼もまたこのシャレードに集う
「旦那。甘いもの食べたいんで注文頼んでいいです? あぁでも、もうお昼時だしランチも頼みたいかな」
「好きにするがよい。わしのおごりじゃ」
「ありがとうございます。んじゃ、遠慮なく……」
うきうきした様子でメニューを開くホークスと新聞を読む一心だが、二人がこのシャレードに居合わせたのは偶然などではない。
何故ならシャレードは表向きは隠れた名店として経営してるが、その実は公安管理下の活動拠点の一つ。主に情報交換や密会などに使われていたりする。
一心は近場まで出張中のホークスと顔合わせの名目でこの店に呼びだしたのだ。
「福岡はどうだ? 何も変わった様子はないか?」
「いやー、ぼちぼちっていうか、可もなく不可もなくってところですかね。東京よりは幾分平和ですよ」
一心の問いに対し、ホークスはあっけらかんとした口調で答える。
「遭遇するのはどれもこれもチンピラレベルのヴィランばっかでしてね。まあ、俺としては本気出しただけですぐに降参してくれるんで楽っちゃ楽なんすけど、張り合いがないんでちょっと退屈気味なんすよ。いいことですけど」
「ほほう? ならば久しぶりにわしと一戦交えてみるか? 昔と比べてどれ程成長したのか確かめてやろう」
「ああウソっすめちゃくちゃ忙しいっすこの後も仕事があるんで勘弁してくださいマジで!」
一心の誘いに対してホークスは大袈裟な身振り手振りで否定を示す。
一心は無個性なのにも関わらず、公安最強と呼ばれる男だ。その強さたるやオールマイトに匹敵すると言われているほどであり、生半可な気持ちで挑めば返り討ちに遭うこと間違いない。いや、本気でいっても勝てる見込みは限りなく低いのだが……。
何せ、剣一本で斬撃を飛ばしてくるわ、雷を飛ばしてくるわでホークス自慢の遠距離攻撃や飛行の優位性をかき消してくる御人だ。
その昔、うっかり『すいません。貴方人間っすよね?』と聞いてボコボコにされたのは今でもトラウマとなっている。
「冗談じゃ。そんな怯えんでもよかろう」
「旦那の言うことは全部冗談に聞こえないんですよねぇ……」
「かかかっ! いっぱしの小僧が口答えしおる。まあよい。とりあえず、いつものを渡してもらおうか」
『はい』と了承し、ホークスは茶封筒を取り出す。中身は諜報活動を経て得た裏社会の情勢を記した資料でこれを元に公安委員会は采配を決めるのだ。
「資料と報告書はこれだけです。目を通しておいてください」
「あいわかった。いつも助かるぞ」
「いえいえ。こちらこそ助かってますよ。この前の個性目的の人さらい集団の件、旦那が主要なヴィランを殺してくれたおかげでこっちは残党狩りが捗ったんですから」
「あれくらい造作もないこと。むしろ歯応えがなくて物足りなかったくらいよ」
「ははっ。流石は旦那。余裕っすねぇ~」
そう言ってホークスは頼んだランチセットをバクバクと食べていく。
歳のせいか、食欲が沸かなかった一心は注文はせず、ホークスの資料に手をかけた。
「して、他に気になったことはあるか?」
「気になったことですか? うーん……ないっすね……」
と言いつつ、ホークスはしばらく考えると『あっ』と何かを思い出した様子を見せる。
「この前、ひったくりで捕まえたヴィランなんですが、警察に引き渡す際におかしなことを言ったんですよ。『くそっ! こんなつまんねぇことで捕まるんなら俺も襲撃のやつについていきゃよかったっ!』ってね」
──ピクッ
書類を読んでいた一心の手が止まる。
優しげな好好爺だった顔つきは一変し、武士のような鋭い眼を放つものへと変わる。
たったそれだけの変化だが、場の空気をガラリと変えてしまうほどの凄みがあった。
一心が長年かけて身に着けた覇気。その威圧感にホークスは思わず背筋を伸ばす。
「──そのヴィラン、他に情報は持っていたか?」
「いえ、めぼしいものはそれだけ。事情聴取に立ち会いましたが、どうやらそいつはヴィラン仲間に『ある人からヒーローの卵を潰さないかと誘われたからお前もどうだ?』と勧誘されたらしいです。本人はその話に乗らなかったようですが」
「………」
「一応、そのヴィラン仲間ってのも調査してますが、詳しいことはまだ何も分かってません。ただ、気になったんで伝えておこうと思いまして……」
「そうか……」
「……」
ホークスの話を聞き終えると、一心は再び資料を読み始める。
しかし、その目は紙面を見ておらず、どこか遠くを見ているような感じであった。
「……その話」
「旦那?」
「ホークス、お主はどう見る?」
「……そうっすねぇ。ヒーローを憎んでるヴィランが復讐目的で仲間を募ってるってところじゃないですか? 実際、そういう事件は多いんで」
「確かにそれ自体は珍しくはなかろう。だが、その仲間は『ヒーローの卵を潰す』と言った。それが引っかかる」
「それは……確かに妙ですね」
「親鳥ではなく、卵を潰すとなると巣ごと潰さねばならん。となると最も狙い甲斐がある巣はどこか? ヴィランというものは凶悪になればなるほど悪評を広めたくなるもの。一度狙うだけでその名を知らしめることが出来る巣となると答えは一つ……」
「まさか……雄英とか、ですか?」
一心の言わんとしていることに気が付いたホークスはゴクリと喉を鳴らす。
ヒーローを語るなら雄英を語らずしては始まらないとまで言われるほど、雄英高校はオールマイトやエンデヴァーを輩出したまさしくヒーロー育成の名門校。
そこを襲撃となるとヒーロー社会への宣戦布告と同義。あまりの無謀ぶりに乾いた笑いが込み上げたホークスはそれを否定する。
「いや、いやいやいや……それはないでしょ? 俺もOBなんで知ってますけど、あそこのセキュリティーはプロでも突破するのは難しいレベルっすよ。それにまだそうと決まった訳じゃ……」
「阿呆。ただの杞憂なら空回りで済もう。だが事実なら大きく後手に回り、雄英の看板に大きな傷をつけることになろう。答えは二つに一つ、考えるまでもないぞ」
言われ、ホークスは押し黙ってしまう。
だが、仮に雄英襲撃が事実だとして我々はどうすればいいか。何せ、今年は去年までとは違い──。
「でも、今年はオールマイトが赴任する予定ですよね? オールマイトさんに任せとけば──」
「オールマイトがいることも折り込み済みで襲撃を仕掛けてくるやもしれん。よほどヴィラン側に強い個性か、あるいは策があるとしか思えんのう」
オールマイトは平和の象徴。彼ならばどんな敵が相手だろうと負けることなどありえないだろう。
しかし、そんな彼をも上回る存在が現れたとしたら……。そう考えた時、ホークスは背筋に冷たいものが走るのを感じた。
「で、どうします? 雄英側に警戒を促すように働きかけておきましょうか? それともいっぱい人員送って警護に当たらせます?」
「いや、わしが直接行こう」
「ああ、旦那が行くんですか……
はい? 今なんて?」
聞き間違いだろうか? ああ、そうだ。雄英に警告を促すという意味の『行く』と──。
「だから、わしが直々に赴いて出迎えると言っておる」
「ええええええ!?」
「うるさいぞ、ホークス」
「いやいやいやいや! ちょっと待ってくださいよ旦那ぁ! どうやって!? ヒーローでもない旦那が雄英にどうやって入るってんですか!?」
「そこは……ほれ、なんかあるじゃろ? 用務員として潜入するとか──、おおっ、それはよいのぅ。よし、それにするか」
「用務員って……わざわざ旦那がやらなくてもいいんじゃないですか? 適当な奴を潜り込ませるとか……」
「人員を送れるほど
そう言う一心の瞳はキラキラと輝いていた。
これが一心の悪い癖だ。思い立ったことは単独で即実行。それがたとえ無理難題であろうと関係ない。
なまじ、それを可能とする権力と実力を持ってるのだから尚更質が悪い。
きっと今日も公安委員会の上層部は一心の放浪癖に胃を痛めてる始末だろう。
けど──。
(これだから旦那にはついて行きたくなるんだよなあ……)
ホークスは思う。
この人はどこまでも自由だと。
権力や地位に縛られず、己が信念を貫く。それはヒーロー精神の極致。
だからこそこの人の背中を追いかけ、自分もそうありたいと願うのだ。
「……わかりました。旦那がそう言うなら俺からは何も言いません。雄英に話を通しておくのは俺に任せておいてください」
「おう、頼んだぞ」
「はい。旦那も気をつけてください」
こうして、一心の雄英潜入が決まったのであった。
・葦名一心
みんなのトラウマ。フロム・ソフトウェア最強のラスボス(当社比)
この世界の一心様は現代医療のおかげでゲームであったような病に伏してることはない。さすがに現代でちょんまげはあれなんで、総髪にしてる。ゲームで出来ることはヒロアカ世界でも出来るので斬撃を飛ばしてきたり、雷を飛ばしてきたり、挙げ句の果てに炎を操ったりする。これで無個性なのでマジもんの化物。
・ホークス
ウィングヒーロー。原作同様、公安のヒーローとして活動しており、一心様の小飼い。たまに使いっぱしりされる。