天狗の戯れ   作:葦名ご当地アイドル弦ちゃん

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気づいたら三週間近く経ってて驚いた。
というわけで初投稿です。


多忙の身なので返信が遅れがちですが、出来る限り返信しますので感想、評価などお待ちしてますのでどんどん送ってください。モチベーション向上に繋がります。


三話

 

 

 

「というわけでよろしく頼むぞ、根津」

 

「いきなり急すぎじゃないかな!?」

 

 

 雄英高校校長室に響き渡る根津校長の悲鳴。それもそのはず、目の前にいる白髪の老人は今、とんでもない事を言い出したのだ。

 いや、確かにこの人はとんでもないことをする人だけれども、まさか新学期直前になって雇えと脅されるのは予想だにしなかった。これには根津もツッコまざるを得ない。

 

 

「公安から疲れ果てたような連絡が来たときは『ああ、あの人案件か』とすぐに察したよ! なんたって僕は"ハイスペック"だからね!」

 

「かかかっ。ならそこから先、何をすべきかも分かっとるじゃろう」

 

「簡単に言ってくれるけどね! ワケありを一人雇うのは結構大変なんだよ!」

 

 

 公安からの派遣となると身元をひた隠しにし、極力他者と接触しない役職に就かせる必要がある。

 とは言うものの、プロヒーローばかりが所属している雄英に無個性で60代の老人が就くとなるとその役職は限られたものとなる。

 

 

「別に教師として雇えといってるわけではないわい。用務員なら爺の一人二人、雇っても問題なかろうて」

 

「それはそうだけどさ……! うちは雑用をロボットに頼ってるから用務員を雇うのは不自然に見えちゃうんだよね!」

 

「そこはお前さんの腕の見せ所じゃろ。親族の無職爺に職を与えたとかなんとか適当に話を作れぃ」

 

「動物の親族が人間とか無理があるって!」

 

 

 ここで同室していたオールマイト(トゥルーフォーム)が『あの~……』とひっそりと挙手する。

 

 

「わざわざ一心さんの手を煩わせなくともヴィラン如き、私が返り討ちにしますが……。それでは駄目なので?」

 

「六年前の怪我の後遺症に加え、OFAの譲渡……。昔のお主を知ってるわしからすると随分と弱くなったのう、八木よ。大黒柱にヒビが入ってる家ほど不安なものはないぞ」

 

 

 正論を突かれ、オールマイトは『ぐぬぬ』と悔しげに歯噛みする。

 事実、彼はもう全盛期の半分も力を発揮できない程衰えている。

 そんな彼にいつまでも前線に立たせるわけにはいかない。一心はヒーロー公安委員会に後身育成を呼び掛け、次世代の平和の象徴を設立を急がせた。

 

 

(わしもいつまでも戦えるわけではないからのう……)

 

 

 オールマイトと同様、一心にも衰えが来ている。

 栄枯盛衰、盛者必衰。それすべての理と心得る一心にとって、人生が終わりに向かっていることに今さら恐怖など覚えたりしなかった。

 

 だが、一方的に理不尽に蹂躙されることに関しては抗わせてもらおう。

 それこそは誰もが行使することの出来る平等な権利であり、誰にも侵されることのない不可侵領域なのだ。

 

 

「今回の案件はわしが勝手に考案し、勝手に実行したまで。問題が起きたのならわしを処罰するなり好きにすればよかろう。

 まあ、雄英の内部を見れただけでわしの目的は半分達成されたんじゃが」

 

「横暴が過ぎます!」

 

「事実、えらいからな」

 

 

 『かかかっ!』と笑う老人を前に根津校長は諦めのため息をつくしかなかった。

 この人の暴走を止めることなど誰にも出来やしない。オールマイトでさえ、『もしあの人がヴィランだったら? うーん! 腕一本犠牲にしてギリ止められるかな?』とガチトーンで語る始末である。

 

 

「……わかった。この雄英も公安委員会のお膝元。逆らうことは出来ないよ。

 

 一心さん! くれぐれも生徒達を危険に巻き込むような真似はしないようにお願いするよ! オールマイトはどうだい?」

 

「……不安な要素もありますが、貴方ほど心強い味方は他にいません。マッスルフォームがいつまで持つか不明な現状、そのカバーが出来る人間が多いと助かります。私も賛成です」

 

「うん、決まりだね! それじゃ一心さん! 超常黎明期から戦い続けてきた先輩にこう言うのは烏滸がましいのかもしれないけど、

 

ようこそ、雄英高校へ!」

 

 

「かかかっ。世話になるぞ、二人とも」

 

 

 この日は入学式の前日。

 他教員に悟られないよう、根津とオールマイトは徹夜で用務員採用手続きの準備をしたのだった。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 いよいよ迎えた雄英高校新学期。

 この日の職員室は朝から大忙し。半ドンだけの予定とはいえ、入学式から新クラスの統制、ガイダンス。さらにはマスコミへの対応など予定がぎゅっと詰まっているのだ。こうも慌てふためくのは仕方がないことと言えよう。

 そんな中でも毎朝恒例と化してるミーティングは欠かさない。各々が仕事を一段落済ませると一ヶ所に集まり、いつも通り根津校長が進行を勤めてた。

 

 

「さて! とうとうこの日を迎えたね! 君たちも分かってるだろうけど、今日から新学期だ」

 

 

 根津が声高らかにそう言うと、その場にいる全員が神妙な面持ちになる。

 

 

「今年の新入生は皆優秀だ。彼らがこれからのプロヒーロー界を引っ張っていく存在となるだろう!そしてその導き手を担うのが僕達の役目さ!」

 

 

 うんうんと他の先生方が納得したように首を縦に振る。

 しかしその後、『で、それでだけど……』と声を潜めて話を続ける根津校長に全員が眉をひそめる。

 明らかにテンションが下がっている。いつも陽気な彼からは想像もできないほど暗い表情をしていた。

 一体何があったのか? 周りの教師たちは固唾を飲んで続きの言葉を待つ。

 

 

「実はね……唐突だけど新しい用務員を雇うことになったんだ」

 

『えぇっ!?』

 

 

 突然のカミングアウトに全員が目を丸くする。

 

 

「それはそれは……珍しいですね。雄英の雑務はロボット任せですし、用務員なんて今まで必要なかったはずなのに……」

 

「ええ、セメントスの言う通りね。それにこの時期に雇用だなんておかしな話ね。何か理由でもあるんですの?」

 

 

 セメントス、ミッドナイトが疑問を口にすると根津校長が困ったような顔を浮かべた。

 

 

「とりあえずまずは入室してもらったほうが早いかな。どうぞ」

 

 

 扉が開き、作務衣に身を包んだ一心が職員室に入ってくる。年老いた風貌ながら背筋は真っ直ぐ伸び一切淀みがない歩き方を見て、まるで長年に渡って修行を積んだ達人のような雰囲気を纏っていた。

 ただの老人ではない。彼らの目にはそう映っていた。

 

 

「今日から世話になる葦名一心じゃ。よろしく頼む」

 

 

 そう言って丁寧にお辞儀をする姿からはとても好々爺然とした親しみやすさを感じる。

 だが、その内に得体の知れない不気味さを孕んでいた。

 

 

(なんだよこのじいさんは……。左目の傷なんかどう見てもカタギの人間じゃねぇだろぉYo! イレイザー、なんか知ってっか?)

 

(いや、俺も知らねぇ。が、気になるな……)

 

 

 マイクと相澤が小声でそんなことを言い合っていると、それを見かねたオールマイトが咳払いをした。

 

 

「えっとだね、この人は昔私が色々と世話になった人でね。まあ色々あって私の紹介でここで働くことになったんだ。だからみんな仲良くするように!」

 

『はぁ……』 

 

 

 あやふやな説明に誰もが釈然としない様子だったが、オールマイトに絶対的な信頼を寄せる彼らはそれ以上言及することはなかった。

 

 

「さて! 新入りの紹介はここまでにしてさっそく入学式に行こうか!  時間があまり無いよ!」

 

 

 根津は強引に話を打ち切り、皆を急かす。 

 あまり素性をおおっぴらにしないことに教師陣に拭いきれない不安を残してしまったが、それぐらいが丁度いい。

 元より一心は雄英の安全保障を確認するためだけに来ている。それさえ達成してしまえばあとは去るだけ。

 よくも悪くも一心はさっぱりした性格の持ち主なのだ。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 一心の仕事は主に雑用だ。

 校内外の清掃、敷地内に生える草木の手入れ、授業で使う道具の準備など、業務内容は多種に渡る。

 だがそれらの作業は基本的に全てロボットが行う。彼がやることと言えばせいぜい機械が取り零した仕事をする程度。つまりは暇なのである。

 

 しかし、暇とは言えど完全に暇となると周囲の目に怪しく見える。だが、忙し過ぎると本来の目的に手がつかなくなる。

 雄英の仕事をこなしつつ、公安の仕事を並行させるには現状がちょうどいいと言える。

 

 

「なるほど……。お主の担当はなるべく同じ時間帯に被るようにしてるのか。まあ、ボロが出ないようにするにはそれがよかろう」

 

「恥ずかしながら、根津校長や他の皆に助けられてばかりです。ヒーローとして情けない……!」

 

「何を言うか。長い間、この国はお主に助けられてきた。奴さん達からすれば恩を返すにはそれたけでは物足りんわい」

 

 

 夏に会ったのを最後にあの後のことをオールマイトの口から直接聞くべく、二人は並んで歩く。

 国民的ヒーローと見知れぬ老人が並んで歩く様はすれ違う人々に奇妙な印象を抱かせる。

 

 

「OFAを受け継いだあの小童……緑谷だったか。あやつも無事雄英に入れたようだな。しかし、パンチの反動で腕をやられるとは……まだまだ精進せねばならんな」

 

「はい。……しかし、珍しいですね。一心さんがこうも誰かに興味を持つなんて……」

 

「よくも悪くもOFAの後継者じゃからのう。気にならないわけがないわい。それよりしっかり育てよ。子は大人を見て育つもの。今のままだといつまで経っても半端者の出来損ないにしかならん」

 

「手厳しい……。確かに緑谷少年は個性をまだ扱いきれていません。ですが、その点は私が重点的に教えていく所存です」

 

「ほほう、ならお手前拝見といこうか。出来次第ではわし自ら戦闘のイロハを叩き込んでやろうと思っておったが、まあお主に任せた」

 

(よかった……、本当によかったな、緑谷少年……!)

 

 

 心の中でオールマイトは安堵した。

 かつて一心から対敵戦闘の手解きを教わったことのあるオールマイトにとって彼の訓練の厳しさは三人の師匠の中でも群を抜くほど厳しいもので、トラウマとしてその体に長年染み付いてるほどだ。

 そんなスパルタ教育を個性が発現して二、三ヶ月の緑谷少年が受ける。想像したら当時のトラウマが蘇って吐きそうに鳴るオールマイトだった。

 

 ここでオールマイトのスマホが鳴った。

 

 

「失礼……はい、もしもし。……はい、はい……分かりました。すいません。そろそろ登壇するのでここで失礼させていただきます」

 

「おお、そうか。ならば健闘を祈るぞ」

 

「ありがとうございます。では」

 

 

 そう言ってオールマイトは駆け足でその場を去った。

 一人残された一心はしばらくその場で佇んでいたが、やがてゆっくりと歩き出した。

 

 

「さて、わしも入学式を見に……うむ?」

 

 

 

 

『個性把握テストって……、入学式は!? ガイダンスは!?』

 

『ヒーローになるのにそんな悠長なことしてる暇なんてないよ』

 

『そんな……!』

 

 

 

 

「ほほう、面白そうじゃのう」

 

 

 何やら楽しそうなことをしているなと興味を持ち始める一心。

 老人ながら見せる笑顔は子供のように純粋で無邪気なものだった。

 

 

 

 

 




 
【作務衣】

 その名の通り、ただの作務衣

 季節に限らず、一年に渡って使える

 質素なその装いは着る者を無心にさせる

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