天狗の戯れ 作:葦名ご当地アイドル弦ちゃん
先日ようつべでボス強化MODで改造された一心なる動画を見ました。
すっげぇやりてぇ……!(PS5民)
というわけで初投稿です。
緑谷は絶望していた。
10ヵ月に渡るトレーニングの末、なんとか雄英に合格したと言うのに初日から除籍を賭けたスポーツテストをやらされるとは思いもしなかったのだ。
あまりの強力さ故に“0”か“100”しかパワーを引き出せないこの個性では甘く見積もってもあと一、二回しか使用することが出来ない。
(ど、どうする!? 再起不能を覚悟で……いや、駄目だ! 試験の時だって一回使っただけであの様だったんだ! 使い所を間違えたらテストを受け続けることさえ不可能になる! だとしたらどこで……)
そうこうしているうちに最初の種目、50メートル走がスタートし、中でも『エンジン』の個性を持つ飯田がぶっちぎりの一位を記録した。
他にも個性の力を応用して宙を飛ぶ者、バイクを創造して走る者と自分なりの個性の活かし方を見つけ、それを実行して好記録をたたき出している。
肝心の緑谷だが、特にいい案も浮かばず、7秒02という平凡な記録に終わってしまった。
(あと7種目……きっと皆は個性を活かして普通じゃない記録を出してくる……!対して僕は……一度使ったら身体が壊れてしまう力……! 調整……、イメージしないと……!)
オールマイトは調整のコツはイメージすることと教えてくれたが、反動による自傷を恐れて思うようにイメージすることが出来ない。
次の握力測定でも、その次の反復横飛びでも目立った成績を出せずに終わり、とうとう個性把握テストは折り返しを迎えた。
次の種目はボール投げ。これなら存分に『OFA』を使うことが可能だが、この後に控える残り三種目のことを考えるとフルパワーは難しい。
一体どうすれば──。
「久方ぶりじゃのう、緑谷」
「えっ?」
聞き覚えのある声に顔を上げるとそこには見知った人物が立っていた。
「あ、あなたは……お久しぶりですおじいさん!」
「これこれ、わしには葦名一心という立派な名が──おっと。そういや、あの時は名乗り忘れておったか」
懐かしの再会に思わず頬が緩む緑谷だったが、今はそれどころではない。
皆が競技に夢中になってる隙に、一心の方へ駆け寄った。
「再会は嬉しいですけど、すいません……今はちょっと授業中でして……」
「皆まで言うな、見ておったからな。
調整が難しいのであろう? それ故、力の使い所に悩んでおると。まるで個性が発現したばかりの赤子よのう」
図星を言い当てられ、ドキリとする。
相変わらずこちらの考えていることはお見通しらしい。やはり心を読む個性でも持っているのでは?と再度疑ってしまうほどの正確さだ。
「言っておくが、わしは無個性じゃぞ?」
『えっ』と渇いた声が漏れた。
一心が無個性なことに驚いている様子の緑谷。しかし一心にとって個性無個性論争はどうでもいい代物だった。
「話を戻すぞ。個性というものは身体が成長すると共に個性も成長し、身体に馴染んでくるもの。だが、お主は最近個性が発現した。個性ばかりが研ぎ澄まされ、身体は荒砥ぎの状態が今のお主じゃな」
「そ、そうですよね……」
「故に個性に身体が追い付いていない。故に身体が個性を扱いきれない。ではどうすればいいか。答えは簡単よ。個性を最小限だけ使って、最大限の成果を引き出せ」
「最小のまま最大って……えっとどういう……」
「受け身を知っておるか?」
知っている。
受け身は柔道などで相手に投げられた際に身体的ダメージを軽減するために行う防御術だ。
でも、それが一体何だと言うのか。
「受け身は胴体と地面が接触する時に手で叩いたりすることがある。それは身体に掛かった衝撃を少しでも逃がすために敢えて叩いておる。投げられた以上、衝撃をゼロには出来ん。だから手で叩いて力を逃がす。
最小の動きで最大の効果を発揮する。理屈はそれと同じよ。」
何となくだが、分かりかけたような気がした。
「力は腕っぷしだけに宿るものではない。普段意識してない所や指先一つ一つにも力はしかと宿っている。それをどう使うかが重要じゃ。
これが出来ないとなるとまた腕を壊すことになる。ヒーローが真っ先に故障し、誰かに助けられるようなことがあってはお主の本望ではなかろうに。そうならんためにもどうすればよいか考えてみるんじゃな。わしからの宿題よ」
言われ、緑谷は考える。
オールマイトからOFAを受け継いで二ヶ月は経つが、個性を行使したのは実技試験時のみ。身体を鍛えたとはいえ、個性を扱いきれてないのは誰の目から見ても明らかだ。しかし、この個性把握テストはOFAを使わないと乗り越えることが出来ない。だが、どうやっても自傷は防げない。現在判明してる事実はざっとこんなところか。
次のボール投げはOFAを発揮するにお誂え向きの種目。なので腕一本を犠牲にしてボールを投げるつもりだったが、その考えは改めることにした。
受験時、もしも二体目のゼロP仮想敵が現れていたらと想像してみる。あの腕では二発目は無理だったし、そもそも一発打って駄目になるヒーローなど世間は求め無いだろう。
目指すは最小にして最大! ただ個性を使うだけではヒーローになれない。個性をどう使うかが重要なのだと悟らせられた。
(そうだ……! 葦名さんの言う通りだ! これまで通りではやっていけない。やるしかない……僕なりの調整の仕方をッ!)
──迷えば敗れる。
そのことを思い出し、迷いを振り払った緑谷の目に再び闘志が宿っていた。
「かかかっ。よき眼よ。やはり粒粒辛苦に励む若者は愛いものよ」
「おい緑谷。次はお前の──あんたは……」
ここで相澤がやってきた。緑谷を呼びに来たであろう彼は一心の姿を見て歩みを止める。直後、しかめっ面のままため息を吐いた。
「おい、じいさん。あんたの仕事は用務員だろ? コネか天下りか知らないが、雄英に来た以上仕事はやってくれ。非合理なのは嫌いなんだ」
「おやおや厳しいのう。年寄りは労るものじゃぞ」
「知り合ったばかりのじいさんを労るほど俺は暇じゃないんでね。緑谷と何を話してた?」
緑谷の身体がビクッと波打つ。
自分が授業中に話し込んでたせいで一心にも迷惑をかけてしまったと責任を感じているのだろう。
謝罪しようとしたその矢先、先に動いたのは一心だ。
「なに、ただの助言じゃよ。こやつはまだまだ未熟でのぅ。助言の一つくらいは必要じゃろう」
「……緑谷、このじいさんと知り合いか?」
『は、はいッ。以前知り合った方です』と慌てて答える。相澤は再度ため息を吐いた。
「……知り合いだろうと何だろうと、担任は俺だ。邪魔しないでくれ」
「つれないのぅ。まあ、よい。ほれ、緑谷よ。しっかりやってこい」
「は、はい! ありがとうございました!」
一心に礼を言うと緑谷はボール投げのためにその場を離れていく。
聞こえない位置まで離れていくのを確認した相澤は一心を睨みつけた。
「校長とオールマイトさんの手前言えなかったが、この際言おう。何を企んでやがる?」
「企んでいる、とは?」
「ほとんどロボットで雑用を賄ってる雄英に用務員として新学期初日に赴任。明らかに何らかの意図があってやって来たとしか思えない。
おまけに緑谷が個性の制御が出来てないことも知ってるときた。まさか、あいつの補助のためだけに雄英に来たとか言うんじゃないだろうな?」
そう言って、相澤は目を凝らして見据える。
一心の反応次第でクロかシロか判断するつもりなのだ。
だが、一心は動揺するどころか不遜な態度のままだ。
「実を言うとな。死ぬ前に一度雄英の内部を見たかったんじゃよ」
「……なんだその答えは。ふざけてるのか?」
「いいや、大真面目よ」
取って付けたような返答に相澤は腹を立てたのか、顔が一層険しくなる。
しかし一心はそれに臆せずにこりと笑った。なんとも清々しい笑みだ。
「かかっ。疑うのは勝手じゃが、それをわしにぶつけてどうする? クビにするなら、雇用主の判断を仰ぐべきではないか?」
「……」
「それにのう。少なくともわしはお主達に何かしらの害を与えるつもりはない。信じてもらえんか」
証拠もなし。裏付けもなし。
言い訳としてありきたりな構文だったが、不思議と信じてしまうような言葉の重みというものがそこにはあった。
そばにいるだけで安心させてしまうオールマイトのように、その片鱗に触れるだけで惹かれさせる一心のその振る舞いは硬くなっていた相澤の気心を解していく。
人はそれをカリスマと呼ぶ。
「……わかった。今はそれで納得してやる。ただし、怪しい動きがあればすぐに報告させてもらうからな」
「わかっとるよ。そう怖い顔をするでない。童共に恐れられるぞ」
「余計なお世話だ」
そう言うと相澤は踵を返して、生徒の群れに混じっていった。
その後ろ姿を眺めながら一心はほくそ笑んだ。
(今のが相澤消太……イレイザーヘッドか……。ふむ、中々面白い男よの)
退屈しない。
まだ初日ながら、一心の目にとって雄英はそんな風に映っていた。
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「ちなみに除籍はウソ。君達の最大限を引き出すための合理的虚偽だ」
「「「えぇ──!?」」」
沸き上がるA組一同の驚嘆の声。
除籍回避のために奔走していたというのにあの頑張りはなんだったのかと揃いも揃って呆然としていた。特に緑谷は
しかし相澤はお構いなしに道具の片付け中の一心を手招きして呼び出す。
「そーゆーわけでこれで終わり……と言いたいところだが、一応紹介しとくか。
今日から用務員として働くことになった新人だ」
「葦名一心じゃ。よろしく頼むぞ」
一心は名を名乗ると先程までぽかんとしていた生徒達は一斉にざわつき始める。
「へぇー、雄英にも用務員っているんだー。なんか意外と庶民的っていうか何と言うか……」
「雄英で働くということは葦名さんも元プロヒーローか何かか? あんまつよそーには見えないけど」
「だよな……。結構ヨボヨボだし……」
「あの左目の傷……! まさか黒き刺客の刃から負った呪いの刻印とでも言うのか……!」
「うちのおじいちゃんと同じ歳ぐらいかしら?」
などなど、皆が口々に感想を述べていたそんな中、ピンク髪の少女……芦戸三奈が手をぴょんと上げる。
「はいはーいッ! 葦名さんって何の個性なんですかー!」
こういった質問が出てくるのは当然のこと。
個性社会とだけあって個性はその人の在り方を示すシンボルのようなもの。故に誰もが興味を持つ話題であった。
しかし、悲しいことに葦名一心はその手の話題には乗れない。
「期待させてすまんが、わしは無個性じゃ」
沸いてた生徒達から一転、静寂に包まれる。
質問した当人も気まずいことを聞いちまったという罪悪感に襲われて申し訳なさそうにしている。
そんな空気を察してか否か、一心はこう続けた。
「安心せい。これでも腕には自信があってのう。お主らぐらいなら軽くひねれるわい」
その言葉に全員が静かに憤慨する。
倍率300倍という熾烈な受験戦争を勝ち抜いた彼らはいわゆる雄英のエリート層だ。それなりの実力も有していれば当然プライドも持ち合わせている。その辺のチンピラ程度のヴィランなら相手にもならないだろう。
そんな彼らに向かって軽くひねれる? 無個性の老人が? 冗談にしても笑えなかった。
「いい気になってんじゃねぇぞッ、無個性風情がッ……!」
小声ながら聞こえてしまったあまりの暴言に爆豪へ全員の視線が集まった。
さすがの相澤もこれは無視出来ない。
「おい、爆豪。二度目の暴挙はないぞ。口を慎め」
「よいよい。威勢の良さは嫌いではないぞ。爆豪とやらよ。何やら言いたいことがあるようだな。申すがいい」
その一言に爆豪の情緒が決壊した。
「はっ! なら言ってやんよぉ! 無個性はなァ! 個性も持たねぇ道端の石っころなんだよ!! テメェみてぇなクソジジイが俺を一捻りだぁ? 調子こいたこと抜かすんじゃねぇ!!」
罵詈雑言の嵐。誰かに重ねてるのか、今の今まで溜まっていた鬱憤を晴らすかのように、ひたすらに罵声を浴びせ続ける様はもはやただの八つ当たりである。
しかし一心の表情は一切変わらず、寧ろますます笑顔になっているようにすら見える。
「ふむ。わしが道端の石っころ、か……。面白いことを言うではないか」
「はあ、はあ……! くそがっ……!」
「では、試してみぬか?」
「……ああ!?」
「わしが本当に石っころなのか、その身で確かめてればよかろう。構わんよな、相澤よ」
一心に話を振られた相澤は暫し考える。
「……いいだろう。あんたがそこまで前向きなら断るのも野暮な話だ。爆豪も了承でいいな?」
「上等だ! ぶっ殺してやらぁ……!!」
「かかかっ。これほど血気盛んな若造は久しぶりじゃわい」
急遽、行われることとなった一心VS爆豪。
入学早々起きた彼らの雄英生活は早くも波乱の幕開けとなった。
・緑谷
ボール投げで一回目から指先OFAで705メートルの記録を出す。二回目は棄権。
・爆豪
緑谷が好記録を出して情緒不穏。一心に喧嘩を売る。
・相澤
突然やってきた一心を怪しむ。緑谷への評価は原作よりは上。