天狗の戯れ 作:葦名ご当地アイドル弦ちゃん
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(*・∀・)∠※・。゚:*:。・+。
そんなわけで初投稿です。
爆豪は焦っていた。
たった一度の敗北。八種類ある種目の内のたかがボール投げ一つ、記録を抜かれたというだけで今まで積み上げてきたものが爆豪の中で崩れつつあった。
その視線が睨む先、それは今日顔合わせたばかりの
(デクの野郎に個性だとッ……!? ありえねぇ……! 個性の発現は四歳までだッ!)
それが個性社会の現実。人は四歳でその後の人生が決まるのだ。
だと言うのに──。
(目障りなんだよ……デクぅッ……!!)
何の取り柄もない凡人と下に見ていた幼馴染が個性を手にしただけに飽き足らず、自分より上の記録を叩き出したことに虫酸が走る。
ウジウジしてて、泣き虫で、不相応な夢ばかり見がちなあのデクが、俺を超えた?
認めてたまるものか。
(モブ共は大人しくモブやってろッ! テメェもだクソジジイっ! せいぜい踏み台として役立て!)
俺が主役。俺こそが主人公。
そう信じて止まない自尊心の塊ともいえる爆豪。生意気な事を言う一心にムカついて暴言を吐いてしまったが、なんやかんやあって戦うことになったのは好機と見た。
無個性の老人が相手とはいえ、勝負に手加減は不要。完膚なきまでの勝利を得て
(──とでも、思っとるんじゃろうよ)
未だ興奮の収まり切らない爆豪の心情をそう読み取った一心。
爆豪勝己という男は多感な時期によくありがちな思い上がりに染まった男だが、テスト中の動きは決して悪いものではなく、むしろ頭一つ抜きん出てるほどの逸材と褒めてもやってもいいぐらいだ。
(ここまで勝ちに意欲的なのは久方よ。さて、どこまで足掻けるかの?)
一心と爆豪が相対する。
二人のちょうど中間の位置には相澤陣取っており、生徒らもその後ろで固唾を飲んで見守っていた。
「審判は俺が務める。勝利条件は……そうだな。背中や尻が床についたら負けにしよう。さすがに
「おうよ」
「ああ……!」
両者、睨み合う。
「では……、はじめッ!」
「死ぃぃねえぇぇぇぇぇッ!!」
最初打って出たのは爆豪だ。個性"爆破"を連続爆破させ、ターボエンジンの如く一気に加速し、一心の元までトップスピードで迫った。
一見攻撃にしか使えないと思いがちな爆破の個性。これを移動のための推進材に使うのは爆豪のセンスの賜物だろう。
すると突如視界が爆炎に包まれた。強烈なフラッシュと轟音に思わず一心も目を瞑り、眼球を保護する。
(目眩ましか。単純だが実に強力。……おっと)
「チィッ!
眼前で爆破による目眩まし兼軌道変更からのバックアタック。
いい作戦だが、この程度で
「まだまだァ!」
爆豪は攻撃の手を緩めることなく第二撃目を叩き込んでくる。その際、ただ攻撃するだけに非ず爆破で手の動きを加速させたり、または急停止させたりと個性で格闘術をアシストするという繊細な技術も持ち合わせているようだ。
考えるより先に手を出しそうな無鉄砲かと思いきや、戦闘時は緻密な計算を立てて戦っていることに一心は素直に驚く。
入学時でこれなら将来有望株になるのは間違いだろう。
だが。
「──及第点じゃな」
──ぐるり
「……はっ?」
得意の右の大振りをぶちかまそうとしたその直後、突然天地が上下逆になったような感覚に陥り、そのまま地面に叩きつけられる。
爆豪は何が起こったの分からないという表情をしたまま横たわり、呆気にとられている。
それは二人を見守るA組一同も同じ。
ただ一人、冷静に勝敗を見守っていた相澤だけが事態を把握出来ていた。
「……この勝負、じいさんの勝ちだ」
ここでようやく生徒らは現状の理解に追い付く。間違いなくこの日一番の歓声だろう。
「なんだよ今の!? 何をしたんだよあの爺さん!」
「俺には爆豪が転んだように見えたんだが……。葦名さんがやったのか?」
「私も何が起きたのかさっぱりわかんなかったよ~」
「おそらくだけど、柔術の一種だと思う……。だけど、あんな華麗な型は初めて見た……!」
圧倒的なまでの技術を目撃し、生徒達は興奮を抑えきれず、口々に感想を述べ合った。
困惑する者、その凄さを感じる者、
──ただ呆然と眺める者。
「………」
『かっちゃんの個性カッコいいもんなあ。僕も早く出ないかなあ』
『どんな個性でも俺には一生敵わねーっつーの!』
(……俺が、負けた……?)
『デクって個性がないんだってー』
『えー』
『ダッセー』
(……たかが、無個性風情に?)
『没個性どころか無個性のてめェがあ~、何で俺と同じ土俵に立てるんだ!』
(同じ土俵だと……? このザマでかよッ……!)
今まで積み上げてきたものが崩れていく音が聞こえてくる。
あまりの悔しさに拳で地面を殴るも、痛みは感じない。痛覚すら麻痺してしまう程に悔恨の念が強かった。
「くやしいか?」
一心の声が耳に届くと、爆豪はその姿勢のまま睨み付ける。
「他人を見下ろすために山頂を目指す者と、ただ山頂に辿り着きたい一心に登る者。どちらが先に頂上に辿り着けるかなど火を見るよりも明らかじゃろうて」
「……っせえ」
「緑谷と何やら因縁があるそうじゃのう。下に見ていた者が自分を追い越すのはさぞ気分が悪いことだろう。……だが、それもまた現実よ。受け止めねばならん」
「……うっせえ」
「『不朽』という名の驕りを捨てよ。それを捨てない限りお主は誰にも、そして自分にすら勝てなくなるぞ」
「うっせぇぇんだよッ! クソがッ!」
爆豪は声を張り上げて叫ぶと、その場に倒れ伏した。
「言い訳はしねェ! あんたの勝ちで俺の負けだ! 完膚なきまでの敗北だ! クソッ、クソが……! 無個性の癖に……オールマイト以外で初めてかっけぇって思っちまった! 畜生ォッ……!」
『だがよッ……!』と爆豪はその瞳に燃え滾る闘志を宿しながら、ギロリと睨み付けるようにして一心を見上げた。
「俺はヒーローになるッ! あんたもッ! オールマイトもッ! 全部全部越えて俺がトップに立ってやる! ……いいか、耳の穴かっぽじってよく聞け!
──次
これは一心への宣戦布告。
敗北を認めながらも、彼は決して打ちひしがれない。むしろ宣言通り前よりもっと強くなって帰ってくるだろう。
その意思表明とも言える言葉を受け止めた一心は去っていく彼の背中を見てフッと笑みを浮かべた。
「──若いのう」
何時の時代も若人はこうでなくては。
爆豪のこれからに期待を寄せながらその場を後にする一心であった。
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「いや、何してるんですか!」
個性把握テストを終えて用務員の仕事に戻ろうとした矢先、校舎の裏手で一心はオールマイトに絡まれた。
入学式を早くに終え、様子を見に来たのだろう。黄色の派手なスーツが筋肉で今にもはち切れんばかりにパツパツと張っており、その見た目のインパクトは絶大だ。
そんなオールマイトを前にしても一心はあっけらんな態度のままだ。
「おう八木よ。今年の新入生は粒揃いじゃのう」
「おおっ、やっぱりそうですか! 校長も近年稀に見るほどの──って違います! まだ新学期初日なのにどうして生徒と戦ってるんですか! 潜入任務で来たんですよね!?」
「かかかっ。活きのいいのがおるとつい味見したくなるものよ。性格に難ありだが、他よりも強く光る原石じゃったわい」
豪快に笑う一心に呆れたのか溜め息を吐くオールマイトだったが、この人のやる事なす事を一々気にしてたらキリがない。
オールマイトは諦めて本題に入ることにした。
「相変わらず破天荒なお方だ……。それで、爆豪少年は貴方から見てどうでしたか?」
「まあ、悪くはない。が、随分と緑谷のことを敵視しているようじゃ。同時に緑谷も爆豪のことを恐れておった。こやつら、過去に何があった?」
「……緑谷少年はいじめられっ子でした。その主犯が爆豪少年なのです」
「いじめか……。まったく、最近の童ときたら……」
「それは貴方が言えた立場では……ごほんっ、なんでもありません。と、とにかく、爆豪少年のことは私も何とかします。ヒーローを目指す上でコミュニケーションは必須ですから」
ヒーローに必要不可欠な要素とは戦闘力、判断力、応用力……そしてコミュニケーション力だ
この情報化社会ではどこに炎上の火種が転がってるか分かったもんではない。迂闊に失言しようものなら瞬く間にニュースで拡散され、バッシングの嵐だ。
だからこそヒーローはコミュニケーション力が必須なのである。オールマイトも新人時代に痛い目を見たから身に染みて理解しているのだ。
そんな折、一心の頭に噂で聞いた話が浮かんだ。
「そういや、初授業は明日だと聞いたが……真か?」
「……はい。しかも担当は一年A組です。……まさかとは思いますが、見に来ます?」
「ほう、わかっとるではないか。そりゃあ、あのオールマイトが授業ときた。見学せぬわけにはいかんだろう?」
ニヤニヤと愉悦に浸っている一心の表情を見て、オールマイトは頭を抱えた。
(明日の授業……。私の見せ場がなくなってしまうじゃないか!)
教師という職に密かに憧れていたオールマイト。明日のために『すごいバカでも先生になれる!』を熟読して教師とはどうあるべきかを勉強してきた。
すなわち、教師とはクラスというオーケストラを指揮する指揮者。それなのにその主役を食い潰す勢いのある人がここにいる。せめて、見学止まりにさせなくては!
「お言葉ですが! 明日の授業は一切手出し無用です! 私の邪魔をしないでいただきたい!」
(言い切ったー!!)
オールマイトがここまで下手に出ている場面などおそらく誰も見たことがないのではないだろうか。
それほどまでに一心へのトラウマは拭いきれないものなのだ。
ところが、一心の返答は意外なものだった。
「おう、いいぞ」
「ですから、公安からの使者である貴方が……い、今なんと?」
「お主の担当はヒーロー学であろう? ヒーローでもなければ個性も持ってないわしがしゃしゃり出れる幕などない。あくまで見学したいだけじゃからな」
「本当ですか! やったー!」
いい歳したおっさんがきゃぴきゃぴ喜ぶ様は異様だが、オールマイトなら許される。ここに緑谷がいたならそのギャップに悶絶してるところだろう。
しかし──。
「あの鼻垂れ小僧がのう……。教え子を持つとは、いやはや世の中何が起こるか分からん。志村の奴に弟子入りしたときもあの童共と同じぐらいだったか……」
「……恐縮です」
「明日の授業、どれほどのものか篤と観させてもらおうか」
「はい! 頑張ります!」
ナチュラルボーンヒーロー、オールマイト。その名は全世界に轟かせると同時に、平和の象徴として不動の地位を確立し、国民からの絶大な信頼を得るに至った。
しかし、彼がどんなに立派になろうとも、一心にとってはまだまだ手のかかる教え子のまま。オールマイトを見る一心の目は爆豪の時とは違い、どこか慈愛に満ちたような優しい目をしていた。
・一心
爆豪の一度目の打撃を見切り、二度目の打撃で掴み攻撃をして勝利を収める。この時点で爆豪のプライドをズタズタ。筋はいいので鍛えれば化けると評価する。
・相澤
一心の強さに合理性を見出だし、好感度が上がる。
・爆豪
戦闘訓練時より早く挫折を食らい、落ち込む。が、持ち前の向上心ですぐに立ち直り、強くなって再戦を誓う。
・緑谷
かっちゃんが負けるところを見てショックを受ける。同時に、無個性でありながら強い一心を見て自分と比べてしまい落ち込む。
・オールマイト
緑谷少年が心配で見に来たら爆豪と戦ってる一心を見て驚愕。とりあえず爆豪少年が五体満足で無事なことに安堵してる。