天狗の戯れ   作:葦名ご当地アイドル弦ちゃん

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オラッ! 連日投稿だ!

そんな訳で初投稿です。



七話

 

 

 一心が使う"葦名流"は戦国時代に発足し、当時の思想を色濃く残した流派だ。

 

 群雄割拠、竜闘虎争の戦国乱世においては戦場で敵を殺し、生き残ることこそが第一。そのため他の流派よりも極めて実戦的であり、人を壊すための技術に徹底的に特化していた。

 

 発足には槍から刀、弓矢や鉄砲。さらには柔術に至るまで当時使用されていたありとあらゆる武器や戦闘技術を元手に生み出され、葦名流の使い手は時の大名が喉から手が出るほどに欲しがる逸材だったという。

 

 時は流れ、江戸時代。

 平穏な世が来てもその性質は変わらず他流派から技を盗んだり、日々の鍛練の中で新しい技を生み出したりと葦名流は常に最新にして最強を目指し続けていた。

 

 云わば、時流によって変化する技法こそが葦名流の真髄。

 

 そしてその継承者である葦名一心は葦名流を極めた達人でありながら未だ技の追求に走る剣法家だ。それと同時にホークスやオールマイトといった多くの戦士を陰ながら鍛えた教育者でもある

 

 

「甘いぞ小童。そんなことではこの先、生き残れんぞ」

 

「はいッ!」

 

 

 大半の生徒がまだ登校もしていない朝早くから体育館では模擬戦が繰り広げられていた。

 相対するは尻尾の生えた少年。その後ろには彼を見守る同級生が数人。彼らの共通点は近接戦に主体をおいた個性の持ち主だということだ。 

 

 無論、眼前に立つ尾白猿夫も武術を嗜んでおり、個性柄接近戦を得意としている。

 その鍛練で培った鋭い手刀を繰り出す尾白。高い跳躍力を以て一気に距離を詰めたものの、同じ手刀で軽くいなされた。

 

 

「しぃ! やぁッ!」

 

「いいぞいいぞ。もっと攻め込んでこい。手数の多さは相手の手数を減らすことに繋がる」

 

 

 続けて正拳突きを繰り出すも難なくいなされれ、そのまま腕を捻られて体勢が崩れたところに一本背負いを食らった。

 受け身を取りすぐさま立ち上がるも、そこにはすでに次の攻撃が迫ってきている。

 

 

「倒れたならすぐ立て。心の臓が止まらぬ限り、死ではない。それとももう止めるか?」

 

「っ! まだです!!」

 

 

 返しとして放った尻尾。

 尾白の個性『尻尾』は手にも足にもなる第三の四肢。身体全体を回転させ、回し蹴りの要領で尻尾をお見舞いせんとするも、それを見越していたのかスウェーバックでかわされる。

 しかし今なら体勢を崩してる。好機と見た尾白は第二の攻撃として抜き手を繰り出そうとしたが、それが間違いだった。

 

 

(……っ! 誘われたッ!?)

 

 

 気づいた時にはもう遅い。

 伸ばしきった腕を掴まれ、返す刀の手刀が顎に直撃。脳天まで響く衝撃と共に視界が揺れ、気付けば地面に叩きつけられていた。

 立てない。悔しくも尾白は敗北を認めるしかなかった。

 

 

「中々鍛え込んである。良き師に巡り会えたようじゃのう。師の顔に泥を塗りたくなくば、日々鍛練に励め。基礎基本が武芸の肝よ」

 

「……あ、ありがとうございました……」

 

 

「す、すげぇ……!」

 

「あんなに一方的になるもんかよ……!」

 

「これが、オールマイトの師匠……!」

 

 

 たった数分間の戦い。なのに目を見張るものがあった。

 なによりも驚くべきはその体捌きで尾白が繰り出した攻撃は全て最小限の動きで回避された事。逆に彼の動きに合わせた反撃は一撃一発が重く、それでいて動きは俊敏であり、急所を的確に狙った攻撃ばかり。

 格の違いというものを教え込まれたような気がした。

 

 

「何をしとる。まだ時間はあるぞ。授業に差し支えない程度に痛めつけてやろう」

 

「「「は、はい!」」

 

 

 こうして彼らは始業ベルが鳴るまでの間、地獄の猛特訓を受けることとなった。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

「あー、だからデク君と飯田君、傷だらけだったのかあ」

 

 

 あれから数時間。午前の授業をすべて終えた後のランチタイム。

 緑谷が今朝の訓練のことを麗日に話したところ、彼女は納得したようにうなずいた。

 

 

「たしか希望者だけの朝稽古だったよね? デク君も参加したんだ」

 

「うん……。僕って個性が発現したのが最近だから、まだ使いこなせてないんだ。だから、葦名さんのあの柔術でカバー出来たならいいなって思ってね」

 

「僕もだ。無個性と言えど、あの人の戦闘技術は素晴らしいの一言に尽きる! 是非とも学びたいと思って参加したが……トップスピードに乗る前に対処され、為す術もなくやられてしまった……。手も足も出なかったよ」

 

 

 『さすがは雄英だ!』と賞賛しつつも、悔し気に顔を歪ませる飯田。クラス一の速さを以ってしても()の老人には勝てない。

 

 そもそも朝稽古は一部生徒の嘆願から始まったものだ。個性の特性上、やれることが少ないため少しでも強くなりたい──そう聞いた一心は稽古を提案した。

 

 

『床の味を舐めてもいい者だけが来るといい』

 

 

 オールマイトの師匠に直接指導してもらえるという好機を逃すわけにはいかない。近接戦が主な生徒がこれに参加し、皆こぞってコテンパンにやられた。

 

 

「やはり俺はまだ未熟だ。だがいつか必ず追いついてみせるぞ! そしていつかは兄のように立派なヒーローに……!」

 

「ん? 飯田君のお兄さんって……」

 

「ああ、ヒーローをやってる。ターボヒーロー、インゲニウムって知ってるかい?」

 

 

 その名を聞いてヒーロー通の緑谷が反応する。

 

 

「もちろん知ってるよ! 東京の事務所に65人ものサイドキックを雇っている大人気ヒーローじゃないか! まさか……!」

 

「それが俺の兄さ!」

 

「「あからさま!」」

 

 

 眼鏡をクイっとして胸を張る姿に思わずツッコむ二人。

 とはいえ、有名ヒーローを身内に持てばちょっと自慢したい気持ちも分かる気がする。

 

 

「規律を重んじ、人を導く愛すべきヒーロー。俺はそんな兄に憧れ、ヒーローを志したんだ。二人も憧れのヒーローはいるかい?」

 

「うん! 僕はオールマイトのようなヒーローになりたいんだ!」

 

「緑谷君はコスチュームからして分かりやすいな」

 

 

 最強で無敵のヒーローこそが緑谷の原点。一方、身近で頼りがいのあるヒーローが原点の飯田。

 偶像こそ違えど同じ理由で志した者同士、何か通じるものがあるのだろう。二人の会話は弾む一方だ。

 

 

「麗日君は? 君も誰かに憧れてか?」

 

「や、私は──」

 

 

 その瞬間、けたたましい警報が鳴った。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんはすみやかに屋外へ避難してください』

 

 

「なんじゃあ、騒々しのう」

 

 

 樹木の剪定中だった一心の元にも警報が流れ、彼は作業の手を止める。

 この放送は校舎内への不審者の侵入を知らせるもので、外からは慌ただしく動く群衆の声が聞こえた。

 

 

「かかかっ。雄英に侵入とは……、余程の命知らずか、あるいはただの馬鹿か……」

 

 

 ──はたまた、何らかの目的があってのことか

 

 ホークスから聞いたヴィランの言葉が頭に過る。これがそれなのかと、確認するためにも一心は側に置いてあった刀袋を取ると正門へと歩を進める。

 そこには大勢のマスコミに群がられたイレイザーとマイクの姿があった。

 

 

「オールマイト出してくださーい! いるんでしょうー!?」

 

「一言コメント頂いたら帰りますから!」

 

 

 迫り来るマスコミらを何とか宥めようとする二人。

 その光景を見て、一心は呆れたようにため息をつく。

 

 

(やれやれ、人騒がせよのう)

 

 

 興味を無くしたのか、そのまま踵を返して帰ろうとするが、鋭敏な感性が何者かの存在を感知した。

 それはまるで、野生の獣が草むらに潜む獲物を狙うかの如く。

 

 

「──鼠が一匹……いや二匹か?」

 

 

 一連の騒動からそう遠くなく、それでいて人目のつかない林の中。

 そこに二人の男が佇んでいた。

 

 

「おい見ろよ黒霧。ヒーローがマスコミに押しかけられてやんの。だっせェ」

 

「天下の雄英と言えど、メディアには弱いようですね。ですが、死柄木弔。事態を聞きつけた他のヒーローが駆けつつあります。その前にお暇すると致しましょう。」

 

「まぁ待てよ。せっかくここ(雄英)まで来たんだ。もう何か一つ手土産でも持ってこうぜ?」

 

 

 そこまで言い終えたところで二人はこちらに向き直る。

 

 

「例えばよ、あのジジイなんかどうだァ?  丁度、目の前にいるしな」

 

 

 薄気味悪い笑みを上げつつ、死柄木と呼ばれた全身手首男がこちらに向かってくる。

 パンチでなく、五指を開いた状態の手で向かってくることを考慮すると、おそらくは掌から個性を発動させるタイプと見た。

 対する一心は刀袋を──取ることなく、剪定に使ってた刈り込みハサミを手に臨戦態勢を取った。

 

 

「死ぬ準備は出来たか、ジジイっ!」

 

「ぬかせ若造」

 

 

 間合いに入った瞬間ハサミを突き出すものの、死柄木はそれを難なく掴み取って防いでみせる。

 とはいえ、天下の雄英と聞いて呆れるほど勢いも殺気もない突きに受け止めた死柄木自身も拍子抜けするほどだった。

 

 

「なんだこりゃ……? 力よっわ。そんなんで俺たちと戦う気だったのか?」

 

 

 掴まれた箇所から徐々に崩れ始めるハサミを見て、これが死柄木の個性なのだろうと確信を得た一心は心の中で笑う。

 

 ──やはり、若造よのう

 

 

「萎えた。こんなのチュートリアルにもなりゃしねぇ──ぅがっ!?」

 

「っ!? 死柄木弔ッ!!」

 

 

 腹に蹴りを入れられ、吹き飛ばされる死柄木に黒霧が慌てた様子で駆け寄る。よほど鋭い一撃だったようで死柄木は胃の中身を吐き出しながら悶絶していた。

 その様子を横目に一心は小さく笑う。

 

 

「いかんのう。敢えて掴ませたのにそれを見抜けぬとは……ヴィランとしては青二才じゃな。勝ちを確信するのは相手を完全に無力化した時のみよ」

 

 

 世代が進むに連れてあらゆるものが複雑化・多様化していく現代で、個性もまた複雑で多様なものへと進化していった。

 そんな中で一心は相手の個性が分からずに突っ込むほど老いさらばえてもなければ慢心もしていない。一心はハサミを犠牲にすることで死柄木の個性を特定することに成功したのだ。

 

 

「さしずめ、触れたものを崩壊させる個性か……。実に強力な個性じゃのう。ウチ(公安)にも欲しいぐらいよ」

 

「ゴホッ、ゴホッ……! ッ、クソっ! なんだこのクソジジイっ! 元ヒーローかなんかかよ……!」

 

「わしか? わしはただの用務員じゃ」

 

「なんだっていい! 黒霧、手ぇ貸せ! このジジイを殺して帰る!」

 

「いえ、残念ですが……」

 

 

 黒霧が別の方向を見据えると、二人の教師がやって来た。

 

 

『本当二コッチカラ嗅ギナレナイ臭イガシタノダナ?』

 

『はいエクトプラズム。三人の内、一人は葦名さん。もう二人は不明。マスコミの可能性もありますが、グルルゥゥゥ……一応用心して向かいましょう』

 

 

 マスコミ対処に駆り出され、周囲の警戒にあたっていたエクトプラズムとハウンドドッグだ。

 個性『犬』がもたらす嗅覚が不審者の臭いを嗅ぎ付けたようで、まっすぐこちらへと向かってくる。

 

 

「さすがにプロヒーロー二人が相手となるとこちらが不利です。目的は果たしましたし、こんな老人に構ってる暇はありません。この辺で我々は退きましょう」

 

「ダメだ黒霧! こいつは殺す! 骨も残さずボロボロに崩してやるッ!」

 

「死柄木弔ッ!」

 

 

 癇癪持ちの子供のような死柄木とそれを諌める黒霧。雄英に不法侵入したのがこんな奴らとはと一心は思わず失笑する。

 とはいえ、相手が誰であれ容赦はしない。刀袋の紐を解こうとすると黒霧は霧を広げていく。この男の個性は不明なため、念のため一心は距離を取った。

 

 

「……さて。名残惜しいですが、ここでお別れと致しましょう。近い内にまた会えることを楽しみにしてますよ」

 

「ほほう? まるでまた会いに来るかのような言い種よのう。表で暴れとる記者共もお主らの仕業であろう?」

 

「さあ? 仮にそうだとして『はい』と素直に答えると思いますか?」

 

「かかかっ、然り」

 

 

 二人を包み込めるほどの大きさに広がった黒い渦はそのまま二人の身体を飲み込んでいく。逃がすわけにはいかぬと崩れかけのハサミを放り投げてみたが、モヤを割くようにハサミは後方へと飛んでいった。

 飲み込む寸前、『命拾いしたなぁジジイッ!』という死柄木の捨て台詞を最後に渦は完全に消え去った。

 

 直後、ハウンドドッグが来た。

 

 

ガウゥゥ葦名さん! ご無事でしたか!」

 

「怪シイ不審者ノ姿ハ無シ……。ココニ誰カイマセンデシタカ?」

 

 

 心配してくれる二人に一心は──。

 

 

「すまぬのう。逃がした」

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 その後、一心からの報告によりすぐさま緊急会議が開かれ、雄英バリアの破壊とマスコミ騒動は死柄木と黒霧と呼ばれる二人組が引き起こしたものと結論付けられた。

 

 被害を確認したところ教師が使う授業用カリキュラムの一部が紛失していることが分かり、これ以外に被害は確認されていない。このことからヴィランの目的はカリキュラムの強奪ではないかと推測。

 教師陣はこのことを重く受け止め警備体制の見直し、ヴィランの捜査を最優先事項とした。

 

 

「今のところ、この方針で進んでおる。お前のところでも調査を頼む」

 

『ははっ、本当に襲撃するバカがいたんすねぇ。まっ、任せてくださいよ』

 

 

 事の顛末をホークスに話すと彼は大見得を切って引き受けてくれた。

 公安職員の中には飄々としているホークスをあまり信頼していない者もいるが、一心はこの男に絶大な信頼を寄せていた。

 

 

『それで、旦那はどうします? 公安に戻って指揮をとりますか?』

 

「いや、引き続き残る。奴等がこのまま引き下がるとは思えん。第二、第三の襲撃があるやもしれんからな」

 

『旦那とオールマイトが勤めてる場所に襲撃だなんて、どんな頭してりゃそんな発想に至るんすかねぇ。……っと』

 

 

 電話の向こうから何やらギャーギャーとざわめいた声が聞こえた。

 

 

「……かけ直すか?」

 

『いえ、大丈夫っす。うちの相棒(サイドキック)と捕まえたヴィランがちょっと揉めてるだけなんで。ほら、旦那が連れてきたあいつですよ』

 

「サイドキック……()()()()()()か!」

 

 

 『正解っす』とホークスが返す。

 

 

 ──数年前、一心はとある路地裏で一人の男を拾った。

 

 

 緑谷と出会った時と同じ、夏真っ盛りの熱い日。男は頭に紙袋を被って年甲斐もなく咽び泣き、不安定な独り言を呟く。そんな男を見て、一心は興味本意に声をかけた。

 飯を奢るついでに話を聞くと男は『個性を使って自分自身を増やした』こと、『そいつらが反乱しだした』こと、『俺が本物の俺なのか分からない』ことを泣きながら語った。

 

 事情を知った一心は男をしばらく身を預かるとプロヒーローとして活躍している部下に監視の任も兼ねて預けた。

 その僅か半年後。何の因果か、二人は恐ろしいほど馬が合い、男はすっかり事務所一の三枚目としての地位を確立し、人気者となっていた。

 

 

『今電話変わりますねー……ほら

 

『葦名一心!? 誰だそれ!? 久しぶりだな!』

 

 

 分身ヒーロー、トゥワイス。

 男はホークスのサイドキックだった──。

 

 

 

 






・一心
 師範と庭師の兼業中。敵連合の個性を見て公安にスカウトしようかと思ったほどのスカウト厨である。

・ホークス
 トゥワイスの預かり先。

・トゥワイス
 この世界ではヴィランではなく、ホークスのサイドキックとして活動中。詳細はその内。
 


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