天狗の戯れ   作:葦名ご当地アイドル弦ちゃん

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梅雨ばっかで気が滅入るよ~。

そんなわけで初投稿です。


*6/29一部改変


八話 

 

 

 

 

 

 マスコミ騒動から数日明けても雄英の職員室は異様な雰囲気に包まれたままだった。

 創設以来、何人も侵入を許さなかった国立高校に初めて侵入者を許した挙げ句、情報を盗まれるという失態を犯したのだ。

 プロヒーローである雄英教師からしてみればこれほど屈辱的なものはない。これまでに侵入を試みた者がいなかったため、マスコミに気をとられていたため、気が緩んでいたというのもあるだろう。

 だが、どんなに取り繕うともそれは言い訳でしかない。入れられたこと事態が問題なのだ。

 

 

「──」

 

 

 そんな中でも変わらないのは一心だけだ。何の咎も背負わなくていい用務員だからと言うわけではなく、もちろん侵入については一心なりに思うところはあった。

 だからこそ、平常心でいなくてはならない。心の乱れは技の乱れ。動揺すればそれだけ相手に隙を見せることになることを一心は知っている。故にあの程度のことで彼に浮き足立たせることは敵わなかった。

 

 

「やあ、おはよう皆!」

 

 

 同じく、平和の象徴もいつも通り元気だ。オールマイトの登場により職員室の空気が変わり、少しばかり明るくなる。

 が、それも束の間だった。

 

 

「──ぐぅ……! ギリギリセーフ……!」

 

 

 オールマイトの身体から煙が吹き出し、萎んでしまう。日を増すごとに短くなっていく制限時間。それがなければどんなによかっただろうか。一心でさえ、思わず哀れみの目を向けてしまう。

 

 

「……またどこかでヒーロー活動をやってきおったな」

 

「一心さん…すいません。見苦しいものをお見せしました……」

 

「阿呆。そう思うなら一々事件に首を突っ込む癖を治さんか。お主のことを待つ者は何も校外だけと限らん」

 

「その通りです」

 

 

 険しい表情の相澤がやって来た。

 

 

「今日はヒーロー基礎学があるってのに何やってるんですか? 人助けもいいですが、今は教師として活動してる以上、教師の仕事を優先してください」

 

「で、でもだよ、相澤君。ヴィランが……」

 

「知ってます。速報で見ました。ですが、貴方ほどの人がわざわざ出向く必要はないでしょう? この街に何十件ヒーロー事務所があることやら。それぐらい向こうに任せましょう。

 

 ……貴方はもう少し養生することを覚えるべきです」

 

 

 ボソッと漏れた本音に『ツンデレかよイレイザー!』とからかうマイクの声が聞こえたが無視する。

 

 

「マスコミ騒動の反省から生まれた『校舎以外の施設を使用する際はヒーローを三人配備する』という取り組みをNo.1ヒーローにおじゃんにされちゃあかないません。幸い、今日のヒーロー基礎学は一年A組だけなのでとりあえず身体を休めて出れるようにしてください」

 

「相澤の言う通りよ。オールマイトが弱ってるということを生徒を通じて世間に知られれば不安が広がるもの。それはお前の望むところではない。ここはこやつの言う通り、一休みするのが一番じゃろうて」

 

 

 オールマイトはそれでも申し訳なさそうな顔を浮かべたが、一心の言葉にも渋々と従うことにした。

 

 

「……分かりました。しばらく休ませてもらいます」

 

 

 とぼとぼと仮眠室に向かっていくオールマイトを見送るとイレイザーは一心に向き合う。

 

 

「助かったよ、じいさん。あの人は変なところで強情だからな。あんたの言うことなら一発で聞いてくれる。オールマイトの師匠って噂は伊達じゃなさそうだ」

 

「かかかっ。わししか知らぬ秘密なんかもあるぞ」

 

「やめてください!」

 

 

 ミッドナイトなどは聞きたがっていたが、部屋を出たばかりのオールマイトが飛んできたのでやめることにした。

 

 

「最初はあんたのことを悪く言ったが……、あれは撤回する。大方、オールマイトさんの体調を案じてここに来たんだろ?」

 

「──うむ」

 

 

 そのつもりは微塵もないが、勝手にそう解釈してくれるならこちら側としては説明しなくて済む。一心はイレイザーの勘違いに便乗することにした。

 

 

「この前の事件にも臆することなく、むしろ率先して動いてくれたらしいな。おかげで被害を最小限に抑えることができた。礼を言う」

 

「気にせんでいい。あれぐらい造作もないわ」

 

「そうかい……。刀を使うそうだな。剣術とかいうやつか?」

 

 

 世界が個性社会になってから、過去の遺産と成り果てた『普通』がある。

 その一つが武術。百年前まで我が国で国内有数の競技人口を誇っていた武術は個性の出現と共に廃れていくこととなった。数十年鍛えた達人が個性が発現したばかりの子供に負ける。超常黎明期ではそのような光景がたくさんあっという。

 そんなこともあって武術をする物好きは減り、今では文化保護団体の元で無個性者達が細々と伝承していくのみとなってしまっていた。

 

 

「ヒーローにも刀剣の類を使う奴はいるが、どいつも個性ありきの使い手だ。あんたみたいに純粋な"術"はいない」

 

「だろうよ」

 

 

 使い手全員を知っているわけではないが、その内の何人かを見繕った時はまるでなっていなかったのを一心は憶えている。

 

 

「……まあ、なんだ。色々言ったが、うちの生徒達はあんたに懐いてるし、尊敬している奴もいる。もう疑ったりしないさ。これからもよろしく頼む、じいさん」

 

「こちらこそ、よろしく頼むぞ」

 

 

 二人は別れ、一心は草花の手入れ、相澤はホームルームをしにA組へと向かう。

 これを見ていた根津校長は最初は一心が雄英に来ることが懐疑的だったが、結果的にはよかったと心から思う。

 何せ、彼が来てから職員室が少しだけ明るくなったようが気がするからだ。

 それは根津校長が人間を客観的に見れる動物だからこそ、気付いたことだった。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

「こういうタイプだったかっ!くそっ!」

 

「意味なかったなー」

 

 

 救助訓練を行う施設に向かうバスの中で目論見が外れた飯田がうるさくない程度の声で叫んだ。

 しかし他の生徒はそんなことに気にも留めず、わいわいとこれから行う救助訓練に期待を寄せていた。

 

 

「私、思ったことは何でも言っちゃうの、緑谷ちゃん。あなたの個性ってオールマイトに似てるわね」

 

「ひょあッ!?」

 

 

 隣の席になった蛙吹から突然そんなことを聞かれ、緑谷が変な声を上げてしまった。

 

 

「そ、そそそそうかな!? 全然似てないっていうか……なんと言うか」

 

「待てよ梅雨ちゃん。オールマイトは怪我しねぇって。似て非なるアレだぜ」

 

 

 言い淀んでいたところを切島に救われ、緑谷はホッとする。

 そして内容はいつの間にか切島の個性の話になった。

 

 

「増強型みてぇなシンプルな個性はいいよな。出来ることが多いし、派手だからな。その点じゃ俺の"硬化"はただ硬くなるだけで対人戦じゃ地味だしよ」

 

「そんなことないって! プロにも十分通用する個性だよ!」

 

 

 緑谷のフォローに切島は『あんがとよ』と返した。

 

 

「けどよ、ヒーローって人気商売だろ? そう考えるとやっぱ地味なんだよなあ」

 

「僕のネビルレーザーなら派手さも強さもプロ並み☆」

 

「お腹壊しちゃうのはよくないね!」

 

 

 その内会話は誰が人気を集めれるかに焦点が向けられた。

 

 

「派手で強ぇってなりゃ、やっぱり爆豪と轟だよな?」

 

「でも爆豪ちゃんはキレてばかりだから人気出なさそう」

 

「んだとコラ! 出すわクソッ!!」

 

 

 今まで会話に交ざらなかった爆豪がここにきて参戦した。

 どうやら爆豪のキレっぷりはすでにA組内では周知の事実なようで蛙吹の意見に揃いも揃って頷いていた。

 

 

「この付き合いの浅さで既にクソを下水で煮込んだような性格って認知されてるのはすげぇよ」

 

「テメェのボキャブラリーは何だコラ! 殺すぞッ!!」

 

(かっちゃんが弄られてる……! 信じられない光景だ! さすが雄英……!)

 

 

 けど、前と比べれば誰にでも噛みつく癖は少なくなったようにも感じる。それは幼馴染みだから分かる感覚なので、クラスメイトには信じてもらえないだろう。

 特に葦名さんに負けてからは。

 

 

「でも爆豪ちゃんって葦名さんの言うことは聞くわよね」

 

「え、そう?」

 

「うん。この前葦名さんに挨拶してたわ」

 

「「「えっ!?」」」

 

 

 皆が揃って爆豪を見る。当の本人は面倒なこと聞かれたのか、わざとらしく外の景色を見るようにそっぽを向いた。

 

 

「……今まで爆豪に挨拶された奴っている……?」

 

「……ないな」

 

「私もー」

 

「……俺もない」

 

「僕は……最後に挨拶したのいつだろ?」

 

 

 あらかた出揃ったところで再び爆豪に視線が向かう。

 本人はまだ景色を見ているが、耳が真っ赤になっている。

 

 

「誰にでも噛みついてある人には懐くって爆豪ちゃん犬っぽいわね」

 

「表に出ろやカエル女ぁ!」

 

 

「もう着くぞ。静かにしろ、お前達」

 

 

 

 イレイザーの注意によってバス内のおしゃべり会はお開きとなった。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

「皆さんに一言、二言……いや、三つ……四つ……言いたいことがあります」

 

 

 ウソと災害の事故ルーム、通称USJにやって来たA組を待っていたのは一心ともう一人、スペースヒーロー13号だった。

 災害救助のスペシャリストとして知られる13号の登場にクラス全体が黄色い声を上げ、麗日などは声援を飛ばすほどのミーハーっぷりを見せた。

 浮足立つ生徒達を前に13号は高説をし始める。

 

 

「皆さん知ってると思いますが、僕の個性は"ブラックホール"。どんなものでも吸い込んで塵にしてしまう個性です」

 

「その個性でどんな瓦礫も吸い上げて人を救ってるんですよね?」

 

 

「はい。ですが、簡単に人を殺せる個性でもあります」

 

 

 和やかな雰囲気から一転、13号の真剣なトーンに騒ぎ立てる生徒はいなくなった。

 

 

「皆さんの中にもそういう個性をお持ちの方がいるでしょう。この超人社会は個性の使用を資格制にして厳しく規制することで成り立ってるようですが、一歩間違えれば誰でも人を殺せる能力を持っているということを忘れないでください」

 

(言うではないか、こやつめ)

 

 

 個性の危険性。それをどう扱うかの人間性。それらを隠すことなく、真正面から突きつける13号の姿勢に一心はそれを横目に見て満足気に笑った。

 個性とは人には行き過ぎた能力。

 多くのヴィランを斬り捨ててきた一心にとって13号の言葉は身に染みるものがあった。

 余談だが、一心は初対面で13号が女性であることを看破した。

 

 

「相澤さんの体力テストで秘められた自分の力を知り、オールマイトの対人戦闘でそれを人に向ける危うさを体験したかと思います」

 

 

 『ですが!』とまたもや一転。13号ははつらつとした声で生徒に語る。

 

 

「この授業では人のために個性をどう活用するかを学んでいきましょう! 君達の力は人を傷つけるためにあるものでない。助けるためにあるのです!」

 

「13号先生……!」

 

 

「お前さんより焚き付けが上手いではないか」

 

「……悪かったな」

 

 

 少し気にしてるのか特に反論することなく、イレイザーは不貞腐れた。

 

 

「僕からは以上です。どうも、ご静聴ありがとうございました!」

 

「ブラボー! ブラーボー!」

 

 

 ヒーローとしての在り方を改めて認識させられた生徒達は高説前と比べ、自然と背筋が伸びていた。

 これなら高い志を持って訓練に取り組めるだろう。

 そう確信し、拍手を送る一心。

 だが。

 

 

「──?」

 

 

 何かを感じ取ったのかセントラル広場を見やった。

 同じように異変に気づいたのか、イレイザー、13号も見やる。

 突如中央の噴水近くに現れた黒い渦。それは紛れもなく数日前に見たばかりのあのモヤだった。

 そしてそこから顔を覗かせる()()()

 

 

「──相澤ッ」

 

「ひとかたまりになって動くな!」

 

 

 ()()は瞬く間に大きくなっていき、やがてそこから大量の人間が姿を現した。

 いち早く反応出来たのは一心の他、プロヒーローであるイレイザーと13号のみ。生徒達は事態に追いつけず、首を傾げる者もいた。

 

 

「何だありゃ? 入試ん時みたいにもう始まってるパターン?」

 

「気をつけろ!! あれはヴィランだ!」

 

「皆! 僕の後ろに!」

 

 

 教師達の緊迫した雰囲気に事態を把握したのか、言われるがまま13号の後ろを張り付く。

 即座に行動に移った一同を見て黒霧はやや不満げに呟いた。

 

 

「13号にイレイザーヘッド……それにあの時のご老人も……。しかし、先日頂いたカリキュラムによるとオールマイトもいるはずなんですが……」

 

「やっぱりこの前のはクソ共の仕業だったか……!」

 

「おいおい。どこだよ、オールマイト……せっかくこんなに大衆引き連れてきたのにさ……まあ、子どもを殺せば来るのかな?

 

 

 ──ゾクッ。

 

 授業では味わうことない途方もない悪意を前に生徒達は震え上がり、中には腰が抜けて座り込む者も現れ始めた。

 何が起きてもいいように、一心は構えをとった。

 

 

「おい、じいさん」

 

 

 イレイザーが声をかける。

 

 

「13号をつける。じいさんは生徒達と一緒に逃げろ。ここは俺が引き受ける」

 

 

 良くも悪くも合理的な判断だ。

 敵はUSJに侵入出来るほどの個性を持っている。おまけにあの数となるとイレイザーと13号だけでは生徒たちを守りきれない可能性が高い。

 なら、誰か一人残れば? 彼はその役割を自ら買って出たのだ。

 

 だが、一心の答えは否だった。

 

 

「いや、わしも残ろう」

 

「は……?」

 

「どう見てもお前さん一人では分が悪い。ここはわしとお前さんで足止めし、13号は生徒達と共に逃げる。これが最善手よ」

 

 

 突然の提案にイレイザーだけではない。13号までもが驚いていた。

 驚愕する二人を置き去りに、一心は荷物の中から刀袋を取ると紐を解いて一振りの太刀を露にした。

 

 

「彼奴等に見せようではないか。ここがどこで、わしらが何者なのかをな」

 

 

 

 

 

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