艦娘の戦闘   作:コール-284

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第一話

 

登場人物

第三警戒任務部隊(通称第三艦隊)

榛名----金剛型三番艦。第一戦闘団。第一打撃隊。第三警戒任務部隊旗艦。

金剛----金剛型一番艦。第一戦闘団。第二打撃隊。第三警戒任務部隊

鈴谷――――最上型三番艦。第一戦闘団。第一二戦隊。

摩耶----高雄型三番艦。第一戦闘団。第一一戦隊。

神通――――川内型二番艦。第一戦闘団。第一〇二水雷戦隊。

霞----朝潮型一〇番艦。第一戦闘団。第一二一駆逐隊

霰----朝潮型九番艦。第一戦闘団。第一二一駆逐隊

陽炎----陽炎型ネームシップ。第一戦闘団。第一二一駆逐隊

不知火----陽炎型二番艦。第一戦闘団。第一二一駆逐隊

 

第三警戒任務部隊(第三艦隊)

榛名、比叡、鈴谷、摩耶、神通、霞、霰、陽炎、不知火

 

1

 

 真っ青な空の下、太陽が照りつけ光を反射して輝く艤装なんて、どこにも見当たらない。すべての艤装はボロボロに傷つき、内から外から外板がめくれあがって、すすがつき、乾いた血がべっとりと赤褐色に艤装の大部分を染めていた。

 足元は濃い青の深海が広がり、辺りは水平線以外何も見えいない中、けだるそうに肩で息をしながら進む。私、榛名は、陽炎と不知火にそれぞれ前後からロープでつながれてけん引され、激痛走る右足をかばいながら、水上を滑っていた。

 

 いや、「滑っている」のではなく、「ずるずると体を引きずられて」と言うほうが正しいか。引きずっているのか引きずられているのかは曖昧だが、なんにせよ、「滑る」では語弊があるのだ。

 いたるところで骨折や、小さくない傷があった。とくに酷く痛む右足の銃創が酷い。敵の十六インチをまともにくらい、外側の太ももがほどんどはじけとんで、骨が一〇センチにわたって完全に露出した。止血帯を巻き、ぽっかりと空いたクレーターに止血用のスポンジを大量に詰め込んで、止血用包帯を巻いて、さらに修復材を筋肉注射して、血が出てくるのをやっと止められた。本当に内ももでなくてよかった。

 腹部には、艤装の破片が刺さっている。無理に抜くと出血の原因になるので今は抜かない。

 艤装の機能はほとんど失われていた。油圧という油圧は完全に油が漏れていて、艤装の関節という関節はと音を立てるも動かなかった。砲身はそっぽを向いていて、タービンを回すのでさえ一苦労だった。

 激痛のおかげで意識をたもっていられる。頭はまともに回らない。ぼんやりとした感じだった。

 痛み、倦怠感。合わさって襲ってくる。目を閉じ、身をゆだねてしまいたい。今寝てしまうのはだめだ。かなりの長期間、または永遠に目を覚ますことがないかもしれない。

 

「お…ねえさま」

 金剛の様態は死んだかと見紛うほどに酷い状態であった。

 銃創や数十センチにまで及ぶ切創、とがったもので体を貫通されたであろう刺創まで、体のあちこちから出血しており、左手は使い物にならないほどで、肉と骨の区別がつかない。

 できる限りの止血をした。止血剤を大量に使い、修復材は上限を大幅に超える量を入れた。それで、何とか金剛お姉さまを生かしたままにしていられるのだ。右手もぐしゃぐしゃで変な方向に折れている。左腕は二の腕から下がない。

 艤装は四つある砲塔のうち二つが弾薬庫爆発で吹き飛び、マストはめちゃくちゃ。爆発で艤装が何万もの破片となって、お姉さまの体を突き抜け、または、突き刺さっている。

 激痛がお姉さまをおそっているだろう。腹のあたりは弾薬庫の火災の影響で焼きただれている。電探の片方はどこかに消えているが、そんなのは、もはや被害のうちには入らない。

 お姉さまの意識はほとんど無かった。刺激を与えると、かろうじて目を開け、こちらに反応を示す。動かすたびに激痛が走るはずの手足は、動く気配がない。もう冷たくなり始めていて、まるで腕が肩にぶら下がっているだけのようだった。

 白を基調とした美しい戦闘服はほとんど血で赤く染まっていた。失血量が多かった。

 戦闘が終わってから三十分は経つのに血は乾いていなかった。血圧と心拍数は時間が経つごとに低下している。ICU(集中治療室)に運び込まないと危険な状態だ。艤装がお姉さまを生かしているのだ。沈んでないのが奇跡のようだった。

 重篤で、助かったとしても後遺症がなく復帰できるかの期待は持てなかった。

 お姉さまは助かるのだろうか?間に合わないような気がした。お姉さまは霞と霰に支えられて、どうにか立っていた。霞と霰ともに弾は尽き、中破相当の被害で、もう戦闘は困難だと思う。

 

「金剛さんのバイタルは?」

 鈴谷の問いに、霞が答えた。

 榛名も金剛も旗艦機能を喪失して、次点に階級が高い鈴谷が、艦隊の指揮を取っていた。

「かなり弱いわ。心拍数、血圧共に低下。体温三〇℃。機関再始動の見込み無し」

「修復材はどのくらいいれた?」

「五〇〇mgは入れました。細かな傷はふさがっていますが、不明の出血箇所があるかもしれない。体力がだいぶ落ちているかもしれないから、修復材もどこまで効くか不明です」

「分かった。止血帯の再確認。緩めて止血できてたら、外して大丈夫。別に全部脱がしてもかまわないから、体についた水分をふき取って。そしたら、体温の維持と止血を最優先に」

「了解」

 

 お姉さまの止血を試みていた霞の服には、乾き始めた血がこべりついていた。体温は危険なほどに低下していたらしい。

 榛名も走ってはいられる程度に意識はあるが、すでに右足の感覚が薄れて来ている。左目はもう見えていないし、距離感が怪しい。

 こんな状況で深海棲艦にでも襲われようものなら、確実にこの艦隊は壊滅的な被害を受け、全滅するかもしれない。私とお姉さまは、艦隊の生存のために確実に切り捨てられるだろう。それか、最後まで榛名たちを母港に送り届けようと、必死に私をかばうだろうか。

 沈む。死と別れというものが、こんなにも近くにあるというのに、ちっとも実感がわいてこない。それどころか、私はやったと。生きて使命を果たしたのだと、そんなことを考えていた。

 なぜか痛みが引き始めた。

 頭が回らない。怪我の影響でもともと真っ青だった顔がさらに青くなったのか、それとも、表情が引きつっていたのか。それでも榛名はこの時、ひどい顔をしていたそうだった。陽炎と不知火が心配そうに榛名を見ていた。

 金剛同様、榛名もまた、限界を迎えていたのだった。

 眠りたかった。このまま意識を失ってしまえば、どんなに楽になるだろうと思った。

 喉から何かが込み上げてくる。気持ち悪さと胸に激痛が走るのと同時に、意識が戻った。

 

「うっ、ハァ!はぁ、はぁ、ぅっ、あっぅあ!いっッ」

 吐いたものを見た。赤い液体が海水と混じりあっている。口の中が鉄臭さかった。

「榛名さん!?」

「榛名さん、顔色が」

「お姉さま、に、比べれば、はるな、は、大丈夫、です」

「大丈夫じゃないじゃない!」

 陽炎はそう言いながら、私の脈を取り始めた。

 大丈夫ではない。痛いし苦しい。もうやめたい。帰りたい。寝たい。血を吐いた気持ち悪さと、意図しないからだの動きに、全身に激痛がはしる。予期しない痛みが突然勝手に襲ってくる。正直被弾よりも嫌いだ。呼吸がしにくい。息苦しい。被弾の影響で片肺がつぶれているのかもしれない。

 炎に焼かれていても、炎から離れることができないような、痛みだった。しかし同時に、少しはまともな意識も戻ってきた。ふと思い出した。ヒトは死ぬ間際に意識が明瞭になるのだと。

 私がヒトなら、これは死ぬ前の前兆なのか。そう考えながらも前後の二人に問う。

「……ここは?」

「もうすぐ味方艦の近くです。すぐに助けが来ます。頑張って」

「ありがとう」

 消えかける意識の端で返事を返す。どうすれば眠ってしまわないかを考えていた。打ってくれれば、痛みで意識は戻るだろう。しかしそのあと起きていられるかがわからない。それか、腕に巻いてある止血帯をもう一度強く締めてくれれば、おそらく起き続けられるだろう。

 交戦地域が本土に近くて助かった。館山基地から哨戒機を飛ばせば、もうすぐ見つけられるはずだ。もう味方の哨戒している海域に入っただろうか。リンク16もGPSも故障していた。味方の状況も、私たちが今どこにいるのかを確かめる術もなかった。私たちにできることは、なるべく館山基地の近くへと行くことと、味方に発見されるのを祈るだけだった。

 

 

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