艦娘の戦闘   作:コール-284

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第二話

 

 第一話の数時間前

 

 腕時計を確認すると、時計の針はどちらもほとんど上を向いていた。私たちの真上に上った太陽が、時より雲の間から姿をのぞかせ、少しの間だけ肌を照り付ける。榛名は編成された第三偵察任務部隊、第三艦隊などと呼ばれている部隊の旗艦として、この海域に潜む敵艦隊を探し出すという偵察任務に就いていた。

 

 今朝の鎮守府内は何やら慌ただしかった。幕僚室の人が廊下を駆け回り、部隊すべてに室内待機が命じられていた。朝の4時ごろ、北フィリピン海、伊豆諸島南方を通過しようとしたタンカーが正体不明の何かから攻撃を受けた。その海域は近頃深海棲艦が活発に活動している海域で、海上保安庁は一か月ほど前からその海域一帯に航行警報を発令していた。しかし、今朝のそれは、おおよそ通常ではない騒がしさで、ただタンカーが行方知らずになっただけの騒ぎだとは思えなかった。

 午前六時ごろに直々に参謀室から呼び出しを受けて、事を知らされた。伊豆諸島で深海棲艦の大規模な活動が観測された。聞いて、納得がいった。ただここ一か月はずっと深海棲艦の活動は活発だったから、何か決定的な動きが見られたとのことだった。例えば、敵艦隊が出撃した。とかだ。

 それから榛名は斥候部隊の旗艦を命ぜられ、艦隊を編成し、午前9時には相模湾をだいぶ南下した地点でチヌークから降り立ち、作戦を開始した。作戦目標は伊豆諸島近海の哨戒と偵察。敵がいればそれを叩き、敵がいなければ夕方にはディナーを食べられる任務だった。

 

 一〇分ほど前にグローバルホークのエンジン音を聞いた他、海上は波の音以外に音を立てるものはなかった。風も波も激しくなく、穏やかで晴れていて、天気はいい。しかし、右手側に分厚い雲がこちらに向かっていて、悪くなりそうな気配があった。本部に問い合わせて最新の天気予報を確認したい気持ちにかられたが、無線封鎖のため交信は禁じられていた。榛名は地図などが入ったジップロックにを取り出して、天気予報が書いてあるプリントを取り出した。晴れのち雨。降水確率は四〇パーセントほど。波は一メートルから二メートルで、うねりがある。波は艦隊行動に支障をきたすほどのものではない。せいぜい雨による視認性の低下が気がかりになる程度だった。

 たまに航空機発見の報告があるものの、それは今朝からひっきりなしに飛んでいる哨戒機や偵察機が、ジェットエンジンの轟音を響かせているのだった。敵は飛んでいない。しかし、いつ八丈島の敵から哨戒機が飛んでいてもおかしくはないのだ。

 駆逐艦が手ごろな波を見つけてはジャンプ台にしてトリプルアクセルをきめている。

『陽炎。あまりはしゃぐと始末書ですよ』

 耳につけているイヤカムが鳴った。不知火だ。

『いいでしょ。誰かが私たちを監視しているわけでもあるまいし』

『あそこのグローバルホークは見てるんじゃないの?始末書最多の陽炎のことだから』

『リーパーもグローバルホークもP-1もいます。いまごろ、P-1の乗員の話のネタにでもなってるんじゃないんですか』

 陽炎がそう言うと、霞が返し、不知火が続けて言った。

 陽炎は、ばつが悪そうな顔をして、隊列に戻った。

「金剛お姉さま、本当に私が旗艦でいいのでしょうか」

 私は、おねえさまのところまで近づいて、直接聞いた。

「榛名は、どう思うの?」

「榛名は、金剛お姉さまが一番適任だと思います。経験も、旗艦としての素質も、私がお姉さまに勝るところなんて一つもありません」

「私が旗艦を務めるベキ?」

「はい」

「そういうところですヨ。榛名。あなたは自分に経験がないと思っていますが、それは違いマス。榛名が旗艦を務めたところで、誰も困ることはありまセン」

「お姉さまを差し置いてまで、旗艦をやりたいとは思いません」

「いつも私が旗艦をすると、あなたの経験を奪ってしまう。でもそれは避けたい。いつ、榛名が旗艦をしても困らないようにネ」

「それは」

 それはまるで、お姉さまが自分の寿命を意識しているような言い方で、好きにはなれなかった。

 

 その時、ピーピーピーと、無線が鳴った。

 

『パトロール5よりHQ。パトロール5よりHQ』

 私たちに先行して偵察を行っている、第五警戒任務部隊からの無線だった。

『HQよりパトロール5、どうぞ』

『パトロール5よりHQ。敵艦見ユ。空母、戦艦を有す主力と思われる。繰り返す。敵艦見ユ。』

『HQよりパトロール5。もう一度報告を繰り返せ。』

『敵艦見ユ。数、多数。敵艦隊、空母、戦艦を有する主力。』

『了解。敵艦隊の位置、進路を報告せよ。』

『敵艦隊の位置、北緯三三度三二分十二秒、 東経一三九度五五分五四秒から南東に二.五海里。進路、現在解析中。おそらく北上中と思われる。敵速、およそ一〇ノット』

『HQよりパトロール5。了解。こちらでも敵艦隊を確認した。指示を待て』

 

 それからしばらくの間、待った。

 

『HQよりパトロール5。聞こえるか。』

『HQ、聞こえます』

『パトロール5は敵艦隊との接触を回避し、その場から離脱せよ。貴官らの西にパトロール3、第三任務部隊がいる。西へ航路を取り、その場から離脱。第三任務部隊と合流せよ。』

『HQ、了解。我々は西に航路を取り、その場から離脱。パトロール3と合流します。交信終了』

『了解。ご武運を。……HQよりパトロール3。HQよりパトロール3。聞こえるか』

「パトロール3よりHQ。こちら旗艦榛名。聞こえます。どうぞ」

『パトロール3、現在パトロール5がそちらに向かっている。合流し、これを援護。可能な限り交戦を回避し、海域を離脱せよ。また、現場海域にパトロール5を援護できる存在は貴艦隊しかいない』

「HQ、こちらパトロール3。了解しました。現在活動中の航空機を教えてください。」

『現在百里の第一陣。F-35がスクランブル。そちらに向かっている。コールサインはウィザード03、およびウィザード04。一〇分後に会敵する。第一陣は対空攻撃しか行えない。第二陣は対艦装備で出す』

「HQ、哨戒中の航空機による攻撃は可能ですか」

『現在館山基地航空隊へ援護を要請している。上空に待機中の無人機による攻撃は、限定的だがいつでも可能だ。機種はMQ-9、リーパー。装備はヘルファイアⅡ対地ミサイル四発。スティンガー対空ミサイル2発』

「HQ、了解」

『パトロール3、そちらが保有する誘導装置の有無と種類を報告せよ』

「レーザー目標指示装置があります」

『パトロール3、レーザーコードを報告せよ』

「コード、1688」

『パトロール3、1688、確認した。五水戦を頼む』

「了解、交信終わり」

 

「お姉さま、戻ります」

 私は元の位置に戻ろうと、お姉さまに言って、増速しようとした。

「ああ、榛名、マッテ。私が前に出るヨ」

「お姉さま、どうして」

「いいから。私は前。榛名は後ろ。OK?」

「は、はい」

 お姉さまに見えているものがわからない。旗艦は私なのに、前に出ようとするのは、おとりになるようなものだと思った。

 

 そのすぐ後のことだった。

『こちらパトロール5、こちらパトロール5。現在、敵航空機がこちらに接近中!こちらは発見されたものと思われれる!回避不能。交戦の許可を。どうぞ』

『HQよりパトロール5。進路維持。交戦を許可する。電波管制解除』

『了解。進路二八〇を維持。電波管制解除。これより交戦を開始する。交信終わり。全艦、対空せんとうよーい!』

 もう少し時間の猶予はあると思っていたが、もう五水戦が敵航空機と交戦を開始した。敵航空機の数がわからない以上、戦闘がどう推移するかは分からない。F-35による援護があるとしても、たった二機のF-35では、落ちることはありえないが、数十機相手に制空権の確保は無理だ。艦隊空システムがあれば、もっと楽に戦えるのに。

 

 

 榛名は耳に手を当て、部隊内用のトランシーバの電源を入れた。

「榛名からすべての艦へ。聞こえますか」

 榛名がそう言うと、すべての艦からの返事が返ってくる。

「続けます。簡易ブリーフィングを行います。各艦は私の周りに集まって、停止してください。」

 

 敵艦隊と五水戦の動きを説明する。

「敵艦隊は、私たちと同程度の艦隊で、二〇隻程度と見積もられます。ここまでで質問のある人はいますか」

 沈黙を聞いて、榛名はつづけた。

「では、作戦概要を説明します。味方の航空戦力により敵の航空機を撃墜し、空の脅威がなくなったのち、五水戦を追う敵艦隊に攻撃を仕掛けます。まずは航空機によるレーザー誘導爆弾を投下。私たちが敵の進行方向横から攻撃を加え、敵の混乱と撃破を狙います」

「レーザー誘導爆弾の誘導はだれが?」

 神通が言った。

「摩耶さんにお願いします。これで、重要目標へ照準してください」

「分かった。任せてくれ」

「最後に注意事項です。敵の後続が続いてくる可能性があります。迅速に攻撃を仕掛け、敵の増援が来る前に逃げます。これが最優先事項だと思ってください」

「敵に突撃した後、駆逐隊は独自で敵を殲滅すると思って良いと?」

 神通が聞いた。

「可能ならばそうしてください。ただし、退路を断たれるような真似は絶対しないようお願いします。榛名も、全員を統率することはできないと思います。ただ、単独での攻撃は行わず、必ず二人以上で行動するようにしてください」

「その際、私が十八駆の指揮を執ってよろしいでしょうか」

「おねがいします」

「了解しました。十八駆の皆さん、お願いします」

「他には」

 

「ではこれより、五水戦の援護に向かいます。両舷前進第一戦速。取り舵。針路九〇度」

 

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