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それから艦載機を放ち、本部がとらえている敵の位置を頼りに、東へと向かった。五水戦が交戦を開始してから三〇分程度は経っていた。順調に向かえば私たちもそろそろ接敵する頃だ。
しかし、五水戦の状況は非常に悪かった。
道中で、五水戦から発せられた悲鳴が、無線に乗って聞こえてきた。
名取は敵に捉えられて被弾し、航行不能に陥った。朝風、神風、皐月がそれぞれ死亡。F-35、MQ-9、MQ-4のセンサーすべてで、確認しているそうだった。
『HQよりパトロール3』
「パトロール3よりHQ。どうぞ」
『館山基地より、上空待機中の無人攻撃機の攻撃準備が整い、現在攻撃中。た、五分前に館山基地よりペイブウェイ装備のMQ-9が離陸。および百里から対艦誘導弾搭載のF-2が先ほど離陸した。F-2隊のコールサインはグローリー1、2、3、4。現在そちらへ向かっている』
「HQ、了解。おねがいがあります」
『HQよりパトロール3。それは旗艦か、それとも個人的な頼みか』
「旗艦としてです」
『了解した。パトロール3。言え』
「戦闘が混戦状態に入り、私たちが航空隊の誘導を行えなくなった際、各機の判断で攻撃をしてください」
金剛が振り向き、こちらを見る。
『パトロール3、それは誤射の危険がある。許可できない』
『こちらグローリーリーダーよりパトロール3、聞こえるか』
グローリー隊が突然無線に割り込んできた。
「パトロール3、榛名、聞こえます」
『グローリー隊は攻撃可能だ。同士討ちはしないが、万が一だ。パトロール3、それでもよろしいか』
願ってもなかった。
「はい。おねがいします」
『グローリーリーダー、了解した』
戦の用意は整った。
「敵、艦隊の南四.五三マイル、水平線越え射撃です。いけますか?」
戦艦組が射程に入ったことを、鈴谷が伝える。
「ありがとうございます。鈴谷さん。大丈夫です。そのまま、敵の詳細な位置情報をお願いします。お姉さま!」
「ハイ。どうしましたか?」
「敵艦隊、われわれの射程に入りました。これより、金剛、榛名による砲撃を開始します」
「了解デス」
「敵、距離四.五三マイル。方位、ちょうど正面」
鈴谷はそのまま射撃に必要な諸元を伝え続ける。
「射線を確保します。艦隊、とーりかーじ、進路一二〇度、第一戦そーく」
「とーりかーじ、進路一二〇度、第一戦そーく」
榛名の操艦号令に合わせて、各艦が復唱する。
「主砲斉射後、各艦砲撃を行いながら突撃します。もう一度確認しますが、最優先事項は味方艦隊の救出です。それと、これは旗艦命令です。皆さん、死なないで」
私はそういってから顔を上げて、言った。
「合戦用意。戦闘、左砲戦、左六〇度、六〇度、距離四.五海里の目標。敵艦隊旗艦、戦艦棲姫」
号令をかける。
「初弾観測、急斉射。交互撃ち方。斉射間隔一〇秒」
「測的よし。射撃用意よし」
「発射用意、撃てーー!」
榛名と金剛の主砲、合わせて三六.五cm連装砲八門が火を噴いた。一瞬目の前が自らの砲撃のマズルフラッシュで遮られ、反動が榛名の体を襲う。後ろに引っ張られるような反動。足を中心として回転を始めようとする反動を何とか抑え込もうとする。
空気を揺らす大音響と、砲弾が赤い尾をひきながら落下していき、そしてある一点に集まる。
「だーんちゃく!誤差修正!右三、下げ六!急げ!」
高く上がった水柱のてっぺんが顔を出す。
「了解!右三!下げ六!急げ!第二射発射用意!撃て!」
「ぅてえ!」
「第二射、だーんちゃく!誤差修正、左一、上げ二!」
「修正!左一、上げ二!、修正射、撃て!」
「うてえ!」
「鈴谷さん、どうですか!」
「待って、来た!第三射夾叉!」
「効力射!用意!」
「効力射用意!よし!」
「効力射!うち―方始め!」
「てえぇ!」
水平線の向こうから、うっすらと黒い影が顔をだす。
「敵艦影見ユ!」
「パトロール3からグローリー隊へ。攻撃は可能か。おくれ」
『こちらグローリー隊。到着まであと五分』
「了解。ありがとう」
「パトロール3からHQ。応答願う」
『HQよりパトロール3。どうぞ』
「上空待機中の無人機による全力攻撃を要請します」
『現在実行中。どうぞ』
「了解。支援感謝します」
グローリー隊は間に合いそうにないようだったが、無人機による攻撃で、いくらかの敵は削れているだろうと願う。
そして、残った敵を私たちが叩く。
「効力射続行!接近戦ようい!」
「艦載機、応答なし、堕とされた!」
相手が目視できる距離に入ったとほぼ同時に、鈴谷の艦載機は墜とされた。
「わかりました。私たちの弾は確実に効いています!駆逐艦隊は打ち漏らしの敵の排除!各戦隊、戦艦は砲撃を続行!」
「敵との距離、五〇〇を切る!」
敵の影が動く。来た。敵艦が加速していく。
「敵艦加速!敵艦隊、陣形乱れる!」
「砲撃続行!この陣形で敵に突撃、その後各々の判断に従い敵を各個撃破せよ!」
敵が、真横を通過する。距離は二〇〇メートルを切っていた。
「魚雷、撃て!撃て!」
神通が叫んでいる。その数秒後、水柱とともに爆音が聞こえた。
「吶喊!」
駆逐隊が動いた。全艦が一斉にほぼ九〇度回頭。隊列を離れ、敵の右舷側から側面をつく。それぞれ、一番近くの敵に突撃していった。
「お姉さま!」
「榛名!」
同時に、私たちも取り舵を取る。金剛お姉さまとともに動き、すれ違った敵戦艦の後ろにつこうとする。目標は三隻の敵戦艦。敵は散開し、私は一番左の敵を狙う。敵が取り舵を取った。しかし、機動力はこちらが上だ。敵がこちらをとらえるより、私が敵を正面にとらえるほうが先だ。
主砲を照準する。距離は五〇メートル。
波を使い飛び上がる。左右一基ずつ発砲。敵の装甲に当たって、火花を散らしながら弾がそれていく。
二発当たった。が、一発しか貫通しなかった。敵で小爆発が起こる。砲弾が貫通して、信管が作動し、中の炸薬が破裂したのだ。敵は体制を崩したが、倒れなかった。
敵が反転して、突っ込んでくる。ヘッドオン。
距離、三〇メートル。
とっさに小銃を構える。
引き金を引く。
ほとんどけん制目的で、あわよくば貫通してくれればいい。
小銃の弾を限界まで強化し、何発かが敵の防壁を貫く。
二〇メートル。
主砲を当てなければ次はない。外せば長い装填時間が待っている。
十五メートル。
敵の砲門が真っ黒な円になって見えた。正確に、こちらを狙っている。
敵が撃ってくる。
右にスライドすると、左に大きな水しぶきが上がった。
敵の表情がよく見える距離。敵は撃ったから、しばらくは撃てない。
一〇メートル。九、八、七、六。
ちょうど弾が入った。主砲を照準し、発砲。
斉射した砲弾は、すべて的に命中した。敵の装甲と艤装を粉みじんにし、敵の血肉はバラバラになってあたり一面に散らばった。
それと同時に、右舷にたいた敵が爆散する。お姉さまの射撃だ。
次の敵に目標を定める。
面舵を取っていた敵が、大きく回って、私たちの後ろにいた。
上で黒い影が動いた。
ひゅううという甲高い、音が聞こえた。
はっとして空を見た。
私の真上。その黒いものは、まっすぐに私に突っ込んでくる。
横から何者かに押し倒された。
誰が。私を押し倒した者の方を見る。
ブロンズの髪に、私を同じ装束と、艤装。
お姉さまと目が合った。お姉さまはほっとした顔をしていた。かすかに笑っていたように思えた。
だめだ。そんなこと、絶対に嫌だ。なんで、お姉さまが、私を。
わたしは、バランスを崩して倒れこむ中、手を伸ばす。
時間が引き延ばされる。
爆弾はお姉さまに直撃した。
視界が真っ白に染まる。爆音が周囲の音を消し去り、衝撃が私を吹き飛ばした。