ディストピア世界にTS転生したら、管理する側の上位存在だった 作:見てます見てます
故にどれだけ愛を囁こうともその心が理解される事はないだろう。
「私達が出会った日の事をとても鮮明に覚えています」
ムトエルは言う。
「貴方の瞳は水晶玉のように綺麗で透き通っていました。その輝きは私の心を惑わし、狂わせ、しかし歪んでいく自らの魂の悲鳴はとても心地よいものでした」
私に近づき、頬にそっと触れてくる。
華奢な指、柔らかい【天使】のそれ。
拒む事が、出来ない。
力を込めても鎖は固く、雁字搦めになっているそれは私の力を吸い取っているようだった。
間違いなく、そして彼女の言葉が本当ならば私が生まれた時から計画は進められていて、ならばこれもまたその当時から製作された特注品であると思って良いだろう。
【熾天使】であろうとも抗えない拘束力。
それはまるで彼女の心のようでもあった。
「貴方の魂に触れた瞬間、我々のあり方に変化が起こりました。それは多種多様でありそれぞれ異なるものでしたが、それでも貴方の及ぼした影響は計り知れないものです」
ムトエルは言う。
「キラリルは貴方の存在を『壁』と認識し、超えられない存在であると絶望しました」
「クナエルは貴方を『友』と認識し、共に歩める存在と共感しました」
「ハミエルは貴方を『災』と認識し、いずれ排除すべき存在であると恐怖しました」
「フラエルは貴方を『知』と認識し、把握すべき存在であると学習しました」
ムトエルは、言う。
「そして私は貴方を『愛』と認識し、全てを捧げるべき存在であると心酔しました」
ああ、そうか。
そもそも前提からして間違っていたのか。
みながみな、共通して最初から私を中心に狂っていた、だからこそムトエルの異常に気づかなかった。
デフォルトからして間違っていたのだ。
「各々が貴方に対して異なる認識をし。しかしながら貴方の事を最も理解しているのは私でしょう」
「……」
「ふふ。ルシエル様、私がこの時をどれだけ待ち焦がれていたかを貴方に理解してもらおうとは思いません。今の今まで私の想いは独りよがりのそれであり、だからこそ私は『狂っている』と評されるべき存在なのかもしれないでしょう」
彼女は「しかし」と続ける。
「そんな日々は今日でおしまいです。私は貴方に想いを伝え、そして愛し合う事となるのです」
「そう、か」
私は慎重に彼女に提案する。
刺激しないように、トーンは抑えて。
「それなら、この拘束を解いてくれませんか? 貴方の事をもっと近くで感じたい」
これに関しては当然突っぱねられると思っていた。
慎重な彼女、狂っていながら長い年月を耐え忍んできた【天使】。
私の言葉一つでその意思を変えられはしないだろう。
……そう思っていたからこそ、私の身体に巻きつく鎖が消えて解放された時は驚き、そしてホッとしてしまった。
にこやかに笑うムトエルの笑みを微笑ましいと思い━━待て。
「私は自らの『これ』を愛と定義し、そして貴方にもそれを私に感じてもらいたいと思いました━━故に」
遠くで声が聞こえる。
「
ああ、だめだ。
まずい。
目の前の【天使】、それがどうしようもなく大切に思えてしまう。
我慢しなきゃ。
自分が自分じゃなくなったような感覚。
目の前の【天使】が、愛おしくて仕方がない。
微笑みながら近づいてくる彼女。
だめ、ダメだ。
私は私が抑えきれない━━!
とす。
「……え」
ムトエルの胸に私の羽根を刺した。
とす、とす。
それでも、彼女は『祝福』させてくれない。
とすり、とすり、とすり。
「い、ぁ。い゛、いい、いだ、あ……!!??」
彼女が私から遠のいていく。
寂しい。
心が痛む。
苦しい。
だから、私は彼女に申し訳ないと思いつつその手足を『手折り』。
翼を捥いで、一安心。
他の【天使】とは異なる姿をした彼女。
それをしたのが私である事に優越感を感じる。
しかし。
だけど。
ムトエルは『祝福』させてくれない。
泣きじゃくるだけで私のものにならない。
ああ、嫌だ。
胸が苦しい。
心臓に羽根が突き刺さるようだ。
「貴方がいけないんですよ?」
とすり。
とすり、とすり。
とすり。
「た、たひゅけ……」
今。
彼女は私じゃない誰かを考えた。
嫌だな。
苦しい。
私を感じて欲しい。
だから私は羽根を持ち、より強く愛を感じてもらう為に振り上げた腕を━━
♪
ルナエルは犯人が何者であるかを理解した時点でルシエルが危険な状況である事を理解し、賭けに出た。
自らの感覚を信じ、ルシエルが用意した異空間へと、飛んだ。
そしてそれは運良く成功し、彼女は2つの【天使】がいるその場所へと辿り着く。
そこには既に1つの【天使】しか、見つける事が出来なかった。
とす、とす、とす、とす。
床に羽根を突き刺し続ける【熾天使】。
彼女の虚ろな呟きが聞こえる。
「大好き」
しかしその言葉が誰に向けられたものなのかは彼女にも分からず。
ただ、目の前の【熾天使】がどうしようもないほど『狂って』いる事しか、彼女には分からなかった。