ディストピア世界にTS転生したら、管理する側の上位存在だった   作:見てます見てます

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 卵が先か鶏が先かという話になるまでもなく、この世界に発生した順番は【人類】が先で【天使】が後だ。

 しかしながらこの世界の成り立ちを考えるとそうだと一概には言えなくなってしまう。

 そもそもこの世界は【魔界】と【天界】に分かれていて空間が複雑に歪んでいる。

 そしてそれはかつて【神】と呼ばれた存在によって引き起こされた現象によってこのような形に落とし込まれたらしく、そしてその【神】は現在における【天使】や【魔族】がこの世界を訪れたのと同時期に完全に消滅したのだそうだ。

 ある意味創世神話とも言えるが、しかしながら元々かつて私が生きていた世界とほぼ同じだったそれを【神】は文字通り破壊し、今の形に作り替えた訳だからある意味それは【破壊神】なのかもしれない。

 ともあれ、人類が世界を覆い尽くすほどに生息している事はそのままに、世界の支配者は【天使】と【魔族】に置き換わった。

 人類は愛玩されるべき存在となり、ただそれだけに生存する事を許されている。

 少なくとも【天界】ではそうであり、そして【天使】である私は【魔界】の情勢事情に関しては疎い。

 聞いた感じだと【天界】のように複数存在している都市をそれぞれ代表として【熾天使】が治めているというタイプではなく、一人の王――【魔王】がトップとして君臨してそれぞれ都市を部下に任せている感じに政治を行っているらしい。

 そこでの【人類】の扱われ方については――【天使】達からは不評を買っているみたいだが、それに関してはそもそもとして彼女達は【魔族】の事を嫌っているので、その延長線でマイナスの評価を下しているだけなのかもしれない。

 少なくともあちらの世界、【魔界】の方が人間にとっては間違いなく野性的な生活を送れている、らしい。

 ただまあ、【魔族】は【天使】と違い生殖能力を持っているため、中には【人類】との混血が発生している事が限りなく少ない例だが極稀にあるらしく、それは完全に【天使】の怒りの元となっていた。

 

【天使】には生殖能力はない。 

 ではどのように発生しているのかというと、分裂というのが正しいかもしれない。

 ……贄となる【人類】、その身体に【天使】の羽根を埋め込む事によってその存在が【天使】となる。

 その際に【人類】に宿っていた魂はどうなるのかというと――そこら辺は私にも言葉で説明するのが出来ない。

 ただ、元あったものは完全に歪み、そして【天使】のそれに成り下がると認識していれば間違いではないだろう。

 

【天使】はそれを『祝福』と呼んでいるが、同時にこの同族を生み出す生殖行為を忌避している傾向がある。

 そもそも彼女達は【人類】の事を愛している訳だし、だからそれをわざわざ自らの意思で【天使】にするというのはよっぽどの事がない限りしない。

 ただまあ、かつて『祝福』という行為に対して異様な性的興奮を覚える異常性癖者――【天使】がいて徒に【天使】を増やしまくったという事件があった。

 その時発生した【天使】は未熟で【人類】の形をとる事も出来ない異形の化け物として処断され、燃やされた。

 そして今では完全に【天使】の中でも禁忌として扱われている。

 そう言う事もあって『祝福』はその言葉とは裏腹に汚らわしい、低俗なものという認識が【天使】の中では広まっていた。

 

 しかしながら、【天使】は時に【人類】の事を『愛する』事がある。

 この場合の『愛する』とは多分人間のそれとは微妙に異なるだろう。

 とはいえ【天使】達が抱く感情の中では最も【人類】らしく、そして同時にはた迷惑な感情でもあった。

 

 それは本来【人類】という種そのものに対して愛おしいという感情を抱いている彼女達が、ある時何故か一個体に対して固執するようになった時に発生する感情だ。

 その人の事を知りたい、大切にしたい、自分の物にしたい。

 そのように思った【天使】は他の個体からすれば異常な行動をとるようになる。

 

 都市の運営方針に逆らってでもその個体に接触を図ろうとする。

 しかしながら『福音』を施そうとはしない。

 ただただ、接触する事に意味を見出し始める。

 独占欲と言えば聞こえは良いだろう。

 だがしかし、彼女達が最後に抱く感情は、『恐怖』。

 つまり【天使】はほぼ永遠に生きられる存在だが、しかし【人類】は違う。

 彼女達はその現実を受け入れられず、恐くなり、そして最終手段として『祝福』する道を選ぶ事が多かった。

 ……【天使】が産まれるのは、大抵こう言った理由が多い。

 

 そして、一応私の運営している都市では【天使】が『祝福』する行為を原則禁止としていた訳だったが、しかしながら例によってそれに対して反抗してでも一個体に対して『祝福』しようとする存在は、残念ながらいた。

 あるいはそれが『愛』なのかもしれないが、しかし【人類】にとってはただの殺人行為、魂の凌辱でしかない。

 

 私が駆け付けた時には既にコトはすべて終了していた。

 ――純白の光のように細く、ミルクのように滑らかで、しかしながら物理的干渉を一切拒む『繭』。

 この中に新しい【天使】がいるのだ。

 新しい厄介事が産まれてしまう事に私は溜息を吐きつつ、同時に何か違和感を感じざるを得なかった。

 その原因を探ろうと思い、しかしながらもうすぐ『繭』が孵るらしいので意識をそれに移し、そして中から現れた一人の少女の見た目をした【天使】を私は抱きとめる。

 産まれた当初、赤ん坊のように【天使】の自我は希薄であり、まともな会話をする事もままならない。

 しかしながらどのような情操教育を施したとしても、ここから他の【天使】と同じような感性、思考をするようになるのがとても残念でならない。

 

「あな、た」

「……、……」

 

 だから。

 

 いきなりその【天使】が私の事を認識し、言葉を発してきた事に関しては完全に想定外だったし、驚いたもののしかしながら前例がないわけでもなかったために何が起きているのかをすぐに理解する事が出来た。

 いや、その前例を知っていたからこそ逆に混乱しているのかもしれない。

 

 黒い髪に黒い翼の【天使】。

 彼女は私を見てこのように言った。

 

「天使、様……?」

 

 そのように私の事を『天使』として認識しているこの個体。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――まるで、昔の私を見ているかのようだった。

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