ディストピア世界にTS転生したら、管理する側の上位存在だった 作:見てます見てます
新しく生まれた【天使】、しかしながらその扱いに関して私はどうしたもんかと頭を抱える事となった。
……そもそもな話、【人類】が羽根を埋め込まれ【天使】へと変質する時、魂の在り方は歪まされ形を変える事となる。
しかしそれはすべての生命が転生する際に一度は経験する事であり、そして理論上それは欠けたり何かが追加されるわけでもなく、だから理論上では元通りになる可能性はあったりする。
それはもう、バラバラになった時計の部品を海の中に投げ込み、それが自然の力だけで元通りになる可能性よりも低いだろう。
しかしそれでも『理論上は』という言葉を使えば実現可能と言えてしまうのが言葉の素晴らしい事だが、しかし実際はほぼ不可能として言っても良い可能性だろう。
その筈だったが、しかし私という【天使】――その前例がある。
いわば『転生者』。
ありえるはずのない奇跡、だが起きてしまった以上『二回目』が起きてしまうかもしれない。
――それがまさか、こんな数十年単位の間で起きてしまうとは、流石の私も想像していなかったが。
何が問題かというと、彼女はあくまで私のような【熾天使】ではなく一般的な【天使】であるという事。
それはつまり、遠慮する事無く一つの重要な資料として解体される可能性が高いという事。
【天使】は徒党を組んでいるのはあくまで【人類】の真似事をしているだけである。
その為、別に同じ【天使】だからといって同族意識とかも表面的にしかなく、だから何かしら理由があったら排除しようともするし、資料として解体する事も厭わない。
そもそも人間らしさなんて見た目しかないのだし、彼女達に人間らしさを期待する方が間違っているような気がするが。
さて、私は目を瞑り意識を失った彼女――一応名前をルナエルと名付けた――を自分が拠点としている場所へと秘密裏に連れて来ていた。
ちなみにその拠点は都市の中央部に位置する巨大な塔。
都市全域を見渡す事が出来るが、【熾天使】の力を使えばそう言う物理的なものに頼らなくてもすべてを知る事は出来る。
昔の人間だった頃の記憶を風化させないためにわざと前世で生活していた部屋と同じ作りにしたその場所。
少し硬めのベッドの上に横たわらせていた彼女。
ルナエルが目を醒ましたのは、私が彼女を発見してからちょうど3時間が経過した頃だった。
「ん、んん……」
ぱちぱちと眼を瞬かせ、そして私の方を見る。
そして、ぎょっと眼を見開いた。
「て、天使……?」
私はとりあえずこの数時間で脳内で纏めておいた話すべき事についてを改めて頭の中で整理しつつ、彼女に語り始める。
「とりあえずは、私が何者なのかはひとまず置いておいて。まず周りと自分の身体について自分の目で確認し、認識するところから始めてください」
私の言葉を聞き、彼女は素直に顔を動かして背後を見、そしてそこで自分の背中から生えている翼を見つけた。
びくりと身体を震わせ、急いで私の方を見る。
「な――こ、これって」
「先に言っておきましょう。私と貴方は同類です――いえ、正確にはちょっと違うのですが、同じく【天使】という枠組みの中にカテゴライズされる存在という認識をしてください」
「わ、私が……天使?」
「そして同時に『転生者』。前世の自我を今も維持している存在でもあります」
彼女は少し黙り込んだのち、ゆっくりと「……分かりました」と頷いて見せる。
それから彼女にひとまず「貴方はこれからルナエルという名前でこの世界で生活して貰います」と伝えた。
どうやら頭の回転が早いからか自らのこの世界での【天使】としての名前を受け入れる必要がある事は分かったようで、だからその事についても「分かりました」と頷いてくれる。
話が早くて、助かる。
しかしながら、彼女自身が聞き訳が良かったとしても他の【天使】達はそうとは限らない。
いや、むしろ話を理解するスピードは速いだろうし状況整理も早いだろう。
そして彼女を処断し解体するその手際も早いに違いない。
だからこそこうして彼女と一度会話をし、その処遇についてを考えなくてはならない。
「状況が状況ですから多分混乱している事は私も理解しています。ですが大前提とするこの知識をまず知っておいてください……『転生者』である貴方は、我々【天使】にとっても珍しい存在であり、だから研究対象として扱われる可能性は極めて高いです」
「け、研究対象って……?」
「最悪の場合だと、その魂の在り方、存在の仕方を調べる為に肉体から分離させ、いろいろな実験をした後に資料として保存される事でしょう」
その未来を想像してぞっとしたらしい彼女は表情を悪くさせる。
「え、え? 天使なのに同じ天使の事をそんな実験動物みたいに……」
「そもそもとしてここは貴方の知る世界ではなく、あくまで異世界なのです。異世界ですから異なる常識があり、更に言うのならば【天使】は人ではなく、それ故【人類】の常識は通用しません」
「そ、そんなの――い、いえ分かりました。と、兎に角その『転生者』だから珍しくて、それが原因で他の【天使】から貴重なサンプルとして扱われるかもって事です、よね?」
「話が早くて助かります」
もし嘆いて喚かれたりしたらどうしようかと思っていた。
もしかすると、魂は人間だった頃のそれと同じだったとしても、肉体は【天使】そのものになったのだから、思考パターンに変質が起きている、そんな可能性がある。
少なくとも私の場合、自分が【熾天使】である事を知らされた時は驚愕し意味が分からないと思いつつも冷徹に状況を理解していく理性があるという事に驚きを感じていた。
そして彼女もその違和感を覚えているらしく、しきりに頭を捻っていた。
あれ、こんな状況なのに自分の立場の事を理解出来ているのは不自然なのでは、と。
「……そして、これは先に伝えておくべきでしょうね。この世界にも【人類】は存在しますが、しかしながらその在り方は貴方の知るそれとはだいぶ異なります」
「それは、はい。異世界だからそうなのは理解出来ます」
「その在り様が、正しく愛玩生物のそれだったとしても、貴方は納得できますか?」
「……、……」
ぎくり、と身体を震わせる彼女。
流石にこの言葉は理解出来なかったらしい。
しばらく私の放った言葉を理解しようと頭の中で反芻したのち、やっぱり理解出来なかったらしく恐る恐ると言ったように私に対して「その、それはどういう意味で……?」と尋ねて来た。
私はどこから説明したら良いものやらと思いつつ、口をゆっくりと開いた。
「さて。まずは、この世界がどのように成り立っているかについて語り始めましょうか」
♪
それから一時間ほど彼女に話し続けた。
この世界の成り立ちからどのような構造をしているのか。
【天界】【天使】――【魔界】【魔族】。
そして彼女等がどのように【人類】の事を扱っているのか。
最後まで私の言葉を聞き切った彼女はしばし放心したような様子を見せた後、こう一言呟く。
「狂ってる」
「そうですか」
「そうですか、って。ルシエルさんも一応、【熾天使】である以前に『転生者』で元【人類】なのよね?」
「はい」
「なら、おかしいって思わないのっ!?」
私の想像通り叫ぶ、どうやら【人類】としての自我を完全に取り戻しつつあるルナエルに私は「落ち着いてください」と冷静になる事を勧める。
彼女はそれで渋々と言ったように口を噤んだが、しかしながら激情が落ち着いたわけでもなく「そんなのって」と思わずと言ったように漏らした。
「そもそも【天使】は【人類】からしてみれば上位存在であり、その思考は我々が想像するものよりも遥かに――そう、人外っぽいです」
「……【人類】をまるで愛玩動物みたいに扱うなんて、そんなの――」
「それは愛玩動物に失礼ですよ」
私は少しきつめの口調で言う。
「そもそもとして、その愛玩動物だって【人類】に好きで愛玩されている訳でもありません。あるいは、幸せを感じる以外の自由がないゆえに幸せであるかもしれませんけど。『動物園で飼育されている動物達は果たして本当に幸せなのか』――かつての世界でもこのような事が議論されていましたが」
「だけど、この世界の【人類】は」
「少なくとも、一定数の幸福を感じていますし。そして現在の状況について疑問を抱いてはいません」
「そん、な……」
呆然とする彼女に私は言い過ぎたかなと少しだけ反省しつつ、しかしとはいえ伝えるべき事はちゃんと伝えておくべきだと判断し、言い切る事にする。
「かつての世界では【人類】のエゴにより多数の獣が愛玩されていて、そしてこの世界では【人類】よりもより高度な生命体である上位存在の【天使】や【魔族】が【人類】を下等生物として愛している。状況としては、ただそれだけなんですよ」
「そんな、けど……だけど、そんなの、間違っているわ」
「それは、どうして?」
「……それは」
彼女は少し悩んだのち、しかしながらちゃんとした答えは見つからなかったらしく弱弱しい口調で「でも、間違っているとしか思えない」と言う。
私はそんなルナエルの頭を撫で、それから「状況は我々にとって極めて最悪です」と伝える。
「我々が考えているのは、そう。真水で満たされた大海を見てその事を『変だ』と言っているようなものなのです。そして、それに対していくら塩を投げ込んだとしても、その真水は海水に変わる事は絶対にないでしょう」
「……」
「貴方がこの状況をそのようなものだと納得するのか、はたまた無駄だと思っていても塩を投げ入れ続けるのか。それはあくまで貴方の自由ですが、とはいえ貴方は『転生者』として他の【天使】達からはただの貴重なサンプルとしてしか思われていない事を、第一に考えてください」
とりあえず、今はこの部屋を離れないでください。
そう念を押してから、私は一旦この部屋から離席する事にした。