ディストピア世界にTS転生したら、管理する側の上位存在だった   作:見てます見てます

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腹を満たして

 ルナエルの言葉が的中するのだとしたら、その犯人である【天使】は近いうちにこの場所、つまり私が自らのテリトリーとしてほとんどの時間を過ごしているこの塔へと訪れる事だろう。

 ならばこちらは打って出る事はなく、ただその来訪を待つだけで良い。

 単純であるが極めて論理的な帰結である。

 しかしながらその『近いうち』というのがどれほど先なのかは分からない以上、これはなんだかんだで長期戦になりそうだ。

 その為とりあえず時間を潰すために、塔の中に作っておきながら全く使用した事のないレクリエーションルームへとルナエルを招待するのだった。

 

「はー。なんて言うかこう、普通に豪華な……」

 

 レクリエーションルームと言うが、実際はただ寛いだりするための空間として用意した場所だ。

 フィットネスの為の道具(当然のように【天使】には不要な代物)とか、スパ施設(生憎と【天使】は魔法で身体を清められるし、何なら老廃物が発生しない)とか、まあいろいろと思いつく限りのものを置いたのでそこそこ広い。

 しかしながら私が一度ここを訪れた時に使ったのは入り口のソファくらい。

 そこでぶらぶらと足を揺らしたあと、仕事を思い出して元の仕事部屋へと戻った。

 それ以来完全に放置しっぱなしだった。

 とはいえ作ったのは【熾天使】である私、埃が被ったりする事なく今の今まで清潔なまま保たれている。

 

「……」

 

 結構な広さを誇るレクリエーションルームをそこそこの時間かけて一回りしてきたルナエルだったが、しかしながら特に琴線に触れるものはなかったらしく、結局私が腰掛けているソファの前に置かれている一人用のソファにちょこんと腰掛ける。

 彼女が使わないとなると本格的にこのレクリエーションルームは無駄になるし、いっその事撤去してしまうかと思っていたが、ふとルナエルに「そう言えば」と尋ねられたのでひとまず思考を現実に戻す。

 

「はい、なんですか?」

「私的にはまあ受け入れがたい事実だけど、この世界の【人類】――この都市の【人類】は貴方に管理されているのよね?」

「そうですね」

「その……生々しい話になるけど、子供はどうやって生まれてくるのかしら?」

「それに関しては、SFでよく有りがちな話ですけど、子供を作る為の施設があります」

「……SF、ね」

「原則として、この都市に住む【人類】に対して勝手な出産は禁じています。それに関しては元々私が【熾天使】としてこの都市を管理する責任者になる前からあった規則であり、念のため継続しているのですが」

「いや、でも」

 

 と、彼女は疑問を口にする。

 

「え、えとその。【人類】のあれ――せーよくっては一応三大欲求の一つな訳じゃない? だから勝手に、その。ヤっちゃう事もあるんじゃないの?」

「そう、ですね」

 

 頬を少し赤く染めてどもりながら言う彼女の事を思わず可愛らしいと思いながら、現在この都市で行われている事を説明した。

 

「ルナエルさんは、前世で水族館に行った事はありますか?」

「……? それは、ええ。そこまで興味があった訳じゃないけど、学校の行事とか後は友達の付き添いとかで」

「では、鮫の入った水槽があったと思います――それらが他の魚を捕食したりする時を目撃したり、あるいは聞いたりした事は、ありますか?」

「それは、あれ? 言われてみればどうしてだろ。鮫って肉食なんだし、同じ水槽の中に入っている魚を餌として食べちゃいそうなのに……」

「実は簡単なカラクリなんですよ――沢山餌を与えて満腹にしているんです」

「え゛」

 

 そして、このタイミングでこの話をしたという事をすぐに理解した彼女は凄く複雑そうな表情をする。

 

「それって、つまり」

「ええ、はい。つまるところ食欲が湧かないようにするために沢山のご飯を食べさせて、睡眠欲が湧かないようにするために十分の睡眠を取らせて、性欲が湧かないようにするために私――」

「……止めて」

 

 額に手を当てて制止される。

 まあ、彼女の言った通り生々しい話である事は確かなので説明するのはそれまでにし、それから私の方から話題を変える事にする。

 

「当たり前ですが【人類】とは考える葦であり、その行動原理は複雑怪奇となっています。だからこそ我々【天使】がその行動を管理しようとしても、いずれどこかでエラーが発生する事でしょう」

「そうであって欲しいわね」

「ですがまあ、葦である事には変わり在りません。現状この【天界】において【人類】は【天使】の庇護下でなければ生存する事は不可能です。である以上、彼等彼女等を守護し見守る事はやはり【天使】としてなさねばならない事項なのは間違いないでしょう」

「……それも、そうね」

 

【天界】における【人類】の在り方。

 生物らしい、生き方。

 そして【人類】の尊厳。

 異世界である以上かつての常識を引き摺り続ける事が必ずしも正しいとは限らない。

 とはいえ、だ。

 

「……【天使】が上位存在として君臨するこの【天界】。貴方が最終的にどのような結論を見出すのかは私も分かりませんが、それでも貴方が元々【人類】であった者であるとして、【人類】の事を大切なものとしてくれる事を祈っています」

「前向きに、善処するわよ――それに私、一応【天使】である以前に心はまだ人間であるつもりだもの」

 

 そう胸を張って答える彼女に「若いなぁ」と思う。

 

 とはいえ、そのように平和な話し合いをしていられたのはそこまでだった。

【熾天使】として持っている感覚が告げている。

 

 

 

 

 ……この都市にいるすべての【天使】が、この塔の元へと集おうとしている。

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