ディストピア世界にTS転生したら、管理する側の上位存在だった 作:見てます見てます
ひとまずルナエルの事は【熾天使】の力をフル活用して隠しておき別室でやりとりを観察してもらう事にする。
現状、私が犯行に及んだ犯人の【天使】について知っている事はあまりにも少ない。
犯行動機━━【天使】はどのようにして対象に対して異常な感情を抱くに至ったのか。
犯行方法━━果たしてルナエルの推論通りに人間を操り羽根を埋め込んだのか。
唯一分かっている事━━それは今もなお狂っているという事実。
とはいえ、私はこれらの謎を全て解き明かす必要性は全くないのだ。
なんなら現状唯一、大前提とされる事実━━犯人は狂っているという事だけで結論を導き出せるとすら思っている。
これは推理小説ではない、故に犯人を見つけ出せればそれ以外は後からついてくる。
私にとって重要なのは、危険人物をしっかりと見つけ出す事。
事件の真実は二の次なのである。
さて、とはいえこの塔のもとに全ての【天使】が集う事になるとは思っても見なかった。
ある意味私らにとっては不幸そのものであり、これでやってきた犯人をその場で捕まえるという手段は取れなくなった。
それに関しては残念だが、私は思考を切り替えてやってきた【天使】の事を招き入れる事にする。
容疑者は例によって5人。
フラエル、ハミエル、クナリル、ムトナル、そしてキラリル。
名前は重要ではなく、そして彼女達の有り様は全て相似であると考えても構わないだろう。
彼女達はそれぞれ同等の能力を持ち、かつ同等のアリバイを持っている。
……彼女達はここに来た理由について「いきなり制限を受けて、何かしらの事件性を感じ取ったから」と答えた。
この時点で犯人は狂っていても嘘を吐けるほどの理性は残っている事は判明した。
それに関してはルナエルの推論通りならば納得がいく。
その【天使】は『一目惚れ』したばかりであり、狂ったばかりの状態だ。
だとしたらその進行はまだそこまで進んでおらず、だからこうして普通の【天使】の輪の中に紛れる事が出来ているという事だろう。
とはいえ時間の経過は私の味方をしてはくれない。
完全に狂った【天使】が何をするのかが分からない。
である以上、私は出来るだけ早期にこの問題を解決する必要がある。
さて、とはいえ犯人の精神は極めて不安定であり、それを気合いで誤魔化しながらこの集まりに集合している。
ならば、私がまずすべきなのは「揺さぶり」、これ一択だろう。
「今日、新しい【天使】が誕生しました」
私の言葉に対し、それぞれ異なる反応を見せる。
フラエルとハミエルは驚き。
クナエルとムトエルは目を閉じ。
そしてキラリルは特に反応を見せなかった。
「……それは、本当ですかー?」
と、真っ先に尋ねてきたのはその反応が薄かったキラリル。
「はい、これは本当です。そしてこれはつまりこの中にルールを破って【人類】を『祝福』した者が混ざっているという事です」
「それは、なるほどー……」
今度はムトエルが尋ねてくる。
「それは誰なんですか? この都市のルールを破った上に人間さんを苦しめるなんて……」
「現状ではまだ分かっておらず、だからこうして皆様にお話ししている次第です」
「ふむ」
クナエルが言う。
「その、新しい同胞はどこに?」
「犯人が見つかっていないので、今は私が保護しております」
「会えないのは、残念です」
ハミエルが祈る。
「ああ、恐れていた事が起きてしまったのですね……私はそれを未然にふせげなかったのですね」
「私でも防げなかった事ですし、そうですね。この凶行は許されざる事であり、直ちに処断されなくてはなりません」
「それもまた、悲しいことです」
最後に、フラエルが。
「理解出来ません。出来ませんが、出来ないこの事に対してその犯人は『狂っている』故に何かしら答えを見出したのでしょうか?」
「それは、分かりませんが。どちらにせよこの都市のルールから逸脱した行為です」
「なんていう……」
私は改めて皆の様子を確認する。
皆表情が固いが、その中のうち一つは偽物。
その犯人は何故ここに来たのか━━犯人は現場に戻ってくると言うが、しかしながら私にはその理屈も分からない。
分からない、が。
ひとり、ほんの少し変な言い回しの仕方をした【天使】がいた。
気のせいかもしれないがそれに対して私は追及するために言葉を選びながらゆっくりと質問をする。