ディストピア世界にTS転生したら、管理する側の上位存在だった 作:見てます見てます
現状、私は仮定として一つの推論、そして疑いを手に入れた。
それ自体は結論及び真実には程遠いものではあるが、それでもきっかけにはなり得る。
ここを起点として全てを展開する。
その為に、私はまず疑問を隠したまま彼女らへと質問をしなくてはならないのだ。
幸い、これは犯人当てゲームではない。
尻尾を出せばそこを掴めにいけば良いし、勝手に相手が自爆するのを待っていても良い。
相手は大前提として狂った【天使】。
その精神は不安定であり、簡単なストレスでボロが出る。
なんにしても、まず質問すべきなのは1人。
……ムトエルだ。
「ムトエルさん、貴方の【人類】に対しての考えを教えてくださいますか?」
私のいきなりの質問に対し、彼女は首を傾げて見せる。
「それは、えっと━━そうですね。私は人間さんの事をとても愛おしい存在だと思っています。これは間違いなく否定出来ない感情でしょう」
「その感情から『祝福』に至ったという可能性を否定出来ますか?」
私のストレートな質問に対し空気にプレッシャーが走る。
ムトエルも私があからさまに疑いの眼差しを受けて向けてきている事に対し少しだけ動揺するそぶりを見せた。
「わ、私が犯人だと思っているのですか?」
「はい」
例えこれが間違いだとしても彼女が私に対して反感を抱くだけである。
そして私が【熾天使】である以上、彼女との力関係は変わらないので、ぶっちゃけどれだけ嫌われても割とノーダメージだったりする。
大体、今まで私はこの都市にいる【天使】達に相当反感を買うような事をしてきたのだ。
今更1人に嫌われたところで困らない。
「私は……犯人ではありません」
「現状、それを証明できる者はいません」
「ですが、しかし! ルシエル様は私が新たなる同胞が生まれた場所にはいなかった事は確認している筈です!」
「まるで自らが作ったアリバイで身の潔白を証明しようとするようなそぶりですね」
「事実を述べたまでです!!」
「お、落ち着いてー、ムトエルさん」
キラリルが宥めようとし、それで彼女はハッとしたように落ち着きを取り戻した。
「……とにかく、私は犯人ではありません」
「そうである事は私も祈っています」
私は適当に相槌を打ちながら答える。
「しかしながら、今回の事件は非常に難解なものです。恐らく今まで起きた事のない前例のないものであり、だからこそ私はこの難題を最悪の場合不可能犯罪として未解決のままにせざるを得ないという事態を想定しています」
「それは、つまり犯人探しを諦めるという事で?」
クナエルの問いに対し、私は頷く。
「……生まれてしまった【天使】は私が保護し、安全になるまで時が経つのを待ちます」
「それはつまり、犯行に及んだ【天使】が自滅するのを待つ。そういう事ですか?」
「とはいえ、今回の事件において。私はあくまで完全な解決を諦めざるを得ないと思っているだけであり、次善の策はちゃんと思いついています」
私は言う。
「ムトエルさん、貴方を拘束します」
……沈黙。
そしてそれを破ったのは意外にも私が指名した本人だった。
「それはつまり、私が犯人であると断定しているのですか? でも━━」
「結論は今出さなくても良いんです、これはあくまで次善の策。私の中では貴方が最も犯人である確率が高く、そのため今後暴走する可能性を秘めている存在を無力化出来るというだけで大きな成果になるのですよ」
「……もし、私が犯人でないとしたら?」
「その時は素直に謝ります、ごめんなさい」
私の言葉に彼女は苦笑する。
「分かり、ました。それならば私を拘束してください」
「……随分とまあ」
意外な反応に私は少しだけ警戒する。
「聞き分けが良いですね」
「そもそも私は人間さんに対して心から『祝福』しようと思った事はないですし、だから別に拘束されても問題ないんです」
「その言葉が真実である事を祈りましょう」
私は彼女に対して魔法を使い、異なる次元にある空間に放り込む。
ひとまず、最も怪しい【天使】の確保は出来た。
私はひとまず集まった【天使】に対してひとまず解散してもらう事を指示。
それから、ルナエルが待っている部屋に移動する。
ルナエルはどうやら私のした判断に不満を抱いている様子だった。
「……確かに怪しい【天使】ではあるけど、あれで大丈夫なの?」
「牢獄である空間から抜け出す事は不可能です、安心してください」
「そもそも、あの【天使】が犯人だと断定出来てないし」
「ですが、最も怪しい容疑者です」
そもそも私は今回の事件の詳細を彼女らに正確に伝えていない。
だからこそ、今回犯人が行った『祝福』の手口がやや複雑である事は知らない。
なのに、ムトエルはこう言った。
ルールを破った上に、【人類】を苦しめた、と。
これは違和感のある言い回しだ。
『祝福』はルールを破った行為であり確かに【人類】を苦しめる行為。
しかしそれはセットで語られるべきものであり、だから『上に』という言葉が使われるのはおかしいのだ。
「……ムトエルの事をしばらく経過観察する必要がありますが。とはいえあとは消化試合ですね。彼女が暴走する危険性があるからこうやって投獄させましたが、そもそも犯行動機は貴方に対する『愛』なのは間違いないのですから」
「つまり、既に私が生まれている時点でこれ以上の大きな事件は起きないという事?」
「そのはず━━」
その時点で。
ムトエルを投獄したとはいえ、まだ彼女が犯人でない可能性はまだある。
他の【天使】のうち、誰かが問題を起こす可能性を考え、私は都市全体にスキャンをかけ続け、問題の発生がない事を確認していた。
だからこそ、それを発見する事が出来た。
「あ、新しい【天使】の『繭』が……?」
「じゃ、じゃあ犯人はムトエルじゃない━━?」
「い、いえ。そういう事ではありません」
『祝福』事件。
未だ分かっていない事は多いが、それでも1つ確定している事がある。
それは、動機。
つまりは━━
「なんで、ルナエルに対して向けられた『愛』を動機とする『祝福』という行為が、彼女以外に行使されているのですか……?」