ディストピア世界にTS転生したら、管理する側の上位存在だった 作:見てます見てます
「それでその……どうだった、かしら?」
現場から帰ってきた私を出迎えたルナエルがそのように恐る恐る尋ねてくる。
私は出来るだけ冷静に、客観的に見た現場の顛末についてを彼女に語った。
「まず、第一に。今回の『祝福』は不完全でした。『祝福』に使われたと思われる羽根が中途半端に埋め込まれた所為で完全に【天使】が産まれる事はなかった……その子は残念ですが既に死んでいたため、焼却しておきました」
「焼却……それで、やっぱり」
「ええ。おおよそ八割がたですが、犯人は【人類】に対して魔法を行使しその行動を支配。そして自らの手で羽根を自らに突き立て埋め込ませ、そして『祝福』を行ったと見て良いと思います」
「……【人類】そのものが勝手にやったという可能性は?」
「ないでしょう。少なくとも同時多発的にそういった行為が行われる為には、それこそ【天使】が偶然落とし、そしてそれに気づくことなくその場に放置されていた羽根が複数必要になってきます。それ故にその可能性は限りなくゼロに近い」
「そっか……」
彼女は「うーん」と唸り、それから首を捻る。
現状から犯人を推測する事はほぼ不可能に近く、そして状況は振り出しに戻ってしまった。
それにより状況整理は一からやり直す必要が出てきたため、私は改めて手元にある事実に対して確認する事にした。
「まず、第一に。大前提として『祝福』は【天使】が【人類】に対して行う行為です。それはこの都市でもその他でも間違った行為であるという認識が【天使】内で広まっており、それを行うのはまず正気でない者です」
愛に狂い正気を失った者。
「しかしながら、最近まで行ったメンタルチェックにおいてその傾向はどの【天使】からも見つかりませんでした」
「その、具体的にそのメンタルチェックというのはどのような事をしたの?」
「そうですね、実際に『祝福』を行った【人類】を愛し狂う【天使】にはそれぞれ特徴的な精神の異常が発生しています。それを確かめる術を私は持っているのですが」
「ふむ……だけど、今回の一連の事件には明確な計画性があって。だから犯人は時間を掛けて今回の一件を考えていたように思えるけど」
「確かに、それはそうですね」
しかし、そもそも狂った【天使】が明確な犯行を企てる事が出来るのだろうか?
「話を続けましょう。そして今回の事件は、【天使】が【人類】を操り自らの手で『祝福』を行うようにさせた。だからこそ二回目の今回は中途半端な結果になったと考えられる――そして現在、異空間に投獄されているムトエルは犯人である可能性は低くなったと言えるでしょう」
「それはどうして?」
「……【天使】の『繭』が発見されたのは、我々が解散してすぐでした。そして現場のコントロールを行っていたのは私である以上、犯人はあくまで後手でそれを行ったと考えられます」
「あ、そっか。そう言えばルシエルさんはみんなに今回の事件は【天使】が【人類】を操って行った事件であるとは言ってなかったものね」
「私がその事を知っていない、その事実に辿り着けていないかもしれないのに、みんなが集まった状況で『繭』の発生が行われたら犯行方法を暴露しているようなものですから」
「だから、犯人は解散してすぐ【人類】に対してゴーサインを出し、『祝福』を行ったと」
「恐らくはそうでしょう」
うーん、と少しだけ納得がいかないように唸った。
実際、これらは論理的な思考に基づいた推論であるが、しかしながら一つの問題点を無視して行われている。
「……そもそも【天使】が狂う原因は【人類】――いや、一人の個人的な人なのよね?」
「ええ。だからこそ、【天使】が狂い抱いてしまった感情の事を『愛』と表現している訳ですからね」
「なのに、今回は何故か犯人は『祝福』を連続して行っている、と」
「だからこそ、今回の事件は一筋縄ではいかないでしょう」
前にも言った通り、多数の【人類】に対して『祝福』を行った異常な【天使】がいた。
それの事は私もあくまで一つの資料として知っただけなので、だからその【天使】が具体的にどのような事情があってそのような行為を行ったのかは分かっていない。
そして今回の事件はそれに近い。
だとすると、参考にするために資料を取り寄せた方が良いだろうか?
「とはいえ、これ以上ムトエルさんを異空間に投獄し拘束し続ける事に意味はないですね」
「そう? 最悪犯人が捕まるまでそこに置いておいても良いと思うけど」
「……力関係では一応【熾天使】である私は圧倒的に彼女達の上に君臨していますが。しかしだからと言ってしっかりと時間を掛けて対策をされたら負けるのは確かです。なので彼女達の反感を買うような行為は避けておきたいのです」
「そ、っか……」
再び顔を伏せて考え始めてしまったルナエル。
彼女の事はひとまず置いておき、私はムトエルを開放するためにひとまず異空間へと向かってみる事にするのだった。
♪
ルナエルは思考する。
思考し、靄が掛かったように不明瞭な疑問点を改めて整理する。
(そもそもな話、犯人である【天使】は狂っているのかしら。それこそ悪戯で『祝福』を行ったとか――いや、そもそもルール外の事だし、彼女達も忌避している行為らしいし、やっぱり狂っていると考えておいた方が良さそう)
(二回目の『祝福』、そのタイミングは間違いなくルシエルさんの判断によって左右されるものだった。みんなが集まっているタイミングで『繭』が発見されてしまえば、犯行方法を自白しているようなものだ)
(だけど、本当に?)
(何らかの手段でルシエルさんの思考を誘導し、タイミングを操作した可能性はないだろうか?)
(いやでも、魔法などの手段は効かないだろうし)
(それに、犯人が出来る事なんて)
(……)
(……)
(……待って)
そこで。
彼女は。
至る。
(……そうだ)
(よくよく考えてみれば、犯人は犯人であるが故に、思考を誘導する事が出来る手段がある)
(犯人はそう、唯一あの場で真実を知っている者だった、だから)
(
(いやでも、疑われたとして、それでどうなる)
(それだとただ普通に捕まってしまうだけ――)
「……ま、さか」
♪
意識を取り戻すと、私の体には複数の鎖が絡まっていて身動きが取れなかった。
異空間が広がっている筈の視界の先にはとても見慣れた私のプライベートルーム、自室があった。
しかしながらそれは見かけだけであり、ここが牢獄である異空間である事は間違いない。
そして、そこで気づく。
【天使】が笑顔で私の事を見ている事に。
まるで、そう。
狂ったようなニコニコ笑顔を浮かべる彼女に対し、私は尋ねる。
「……どうして貴方は、これを何時から計画していたのですか?」
「そんなの、決まり切っています」
彼女は当然の事実を述べる様に、滑らかな口調で答える。
「貴方と出会った、その運命の時から」