蒼焔の機影 〜今を生きる人へ〜   作:蒼海 輪斗

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講和会議…トルーマン大統領の申し出により、戦艦長門艦上で講和会議が開かれた。この講和会議は長門の艦上で開かれたため”長門講話会議”と呼ばれる。
基本的内容は、日本は東南アジア全体を独立させ、満州国の独立、ハワイを租借地として渡すことを条件に戦争から離脱した。


今を生きる人へ
第九話 あの青空へ


 長門会議が終了してからも、帝都東京ではさまざまな会議が開かれ、戦争後の日米間の関係を修復するためイギリスが仲介役となり、”日米修好平和条約”が調印された。この条約は二度と太平洋戦争のような惨劇を繰り返すことのないように願いを込めて”太平洋平和条約”とも言われた。

 

 

 伊藤たち海軍第一航空団は、第一航空戦隊の空母雷龍、空母信濃に乗艦しハワイに到着、そこから輸送艦隊に乗り換え日本本土へと帰還した。

 海軍第一航空団の団員たちは、国民から救国の英雄ともてはやされた。大本営も対米戦によるその活躍を認め、各部隊長に恩賜の軍刀が送られたほどだった。

 

 

 

  海軍第一航空団には一週間の休暇がもたらされた。休みなく連日出撃していた団員たちにとっては、ようやく羽根を伸ばすことができた。伊藤たちも例外ではなく、各団員たちは自らの故郷へと帰っていった。

 

 

 

 

 

 

1946年 10月21日

 

群馬県 ある村

 

 一人の軍用外套を羽織った男が農道を歩いている。伊藤だ。青白い顔にはまるで生気が感じられない。なにせあの地獄のような戦争を一人の兵士として最前線で体験したのだ。数多くの戦友の死をみてきた。米兵の死もみてきた。

 

伊藤龍生    「(戦争では”死”ほど身近なものはない。兵士であればなおさらだ。…僕は一体何をしたのだろう…)」

 

 伊藤は自らの行いを振り返りながら歩く。その伊藤に声をかける人間は誰もいなかった…。

 

 

 しばらく歩くと、一軒の家の前についた。かまぼこ板を利用した表札には小国、と書かれている。

 …そうだ。伊藤のことを兄のように慕っていた伊藤の列機の一人、小国雅史の実家だ。戦争が終わったら必ず訪れようと伊藤は決めていたのだ。

 

 

 伊藤が玄関の引き戸を軽く数回叩いた。すると「は〜い」と声が返ってきた。そのまま足音が近づき、引き戸がゆっくりと開かれた。

 

 開かれた戸の先には、中年の女性が立っていた。その傍には10歳くらいの女の子がくっつている。

 

伊藤龍生    「こんにちわ。海軍少尉の伊藤龍生と申します。小国雅史の小隊長をしていました。」

 

 伊藤が喋りかけると、中年の女性は居住まいを正して言葉を返す。

 

母       「雅史の母です。戦時中、息子がお世話になりました。」

 

 母はそう言いながら、頭を下げた。それをみた伊藤は慌てて声をかける。

 

伊藤龍生    「い、いや!?大丈夫です!頭を上げてください。別に僕は偉くもなんともないですから…。」

 

 伊藤が必死に答えると、ようやく母は顔を上げた。そばにいる少女も顔を上げた。おそらく小国の言っていた妹だろう。

 

母       「息子の、雅史の最期を教えていただけますか?」

 

 母が意を決した表情で伊藤の顔を覗き込みながら言う。このさきどんなに残酷な運命が待っていようと、受け止める。…そう覚悟を決めた表情だった。

 

伊藤龍生    「…小国は、息子さんは…」

 

 伊藤は口ごもりながら、真実を伝える。あの時、笑顔で隼に向かって走っていった。

 

 『国を、家族を守れて死ねるなら、それで満足です!』

 

 小国はいつもそう言っていた。部隊が暗い雰囲気のときはよく芸をして皆をよく笑わせていた。

 

 …その小国はもういない。帰ってこない。

 

伊藤龍生    「小国はっ…。っ…」

 

 握りしめた拳にポタリと涙が溢れる。伝えなければならない。でも口がこれ以上動かなかった。涙があとからあとから溢れ出してくる。

 

 すると柔らかな感覚が伊藤を包んだ。

 

 

 …小国の母だ。泣きじゃくる伊藤を抱いているのだ。小国の母も泣いていた。しかし、先程のように覚悟を決めた表情のままだ。

 

母       「大丈夫。もう言わなくていいから。あの子のことを守り続けてくれてありがとう。それだけで十分よ。」

 

 ありがとう…。そんな感謝の言葉に伊藤は救われた気がした。お礼を言われただけなのに、温かなものが心のなかに入ってくる。

 

伊藤龍生    「…すみません。こんな情けなくて…」

 

母       「いいのよ。私達を守ってくれた英雄だもの。嫌だったことは全部吐き出しな。後は楽になっていいから。」

 

 しばらくの間、二人はそのまま寄せ合っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1947年 1月7日

 

帝都 東京

 

 年を越した東京では、対米戦戦勝パレードが開かれていた。天皇陛下の御前を陸軍兵が行進し、東京湾では連合艦隊が戦艦敷島を先頭に観艦式を行っていた。

 その上空をこの戦争を勝利に導いた、海軍第一航空団が編隊飛行をしている。零戦七八型、紫電改、さらには富嶽までも飛行している。

 

 空は青く晴れ渡っていた。

 

西澤広義    「たくさんの人がいますね。上空からだとよく見えます。」

 

岩本徹三    「だろうな。なんたって戦勝パレードだからな。俺たちが皇国の英雄だってよ。頑張ってきた甲斐があるんじゃないか。」

 

赤松貞明    「まぁ、頑張ったんだからこれくらい当然だよな。」

 

菅野直     「まて。俺たちだけのおかげじゃないだろ。死んでいった奴らのおかげでもある。あの時の白い日本機がそうだろう。」

 

坂井三郎    「そうだな。結局あれは何だったんだ…。」

 

 無線を介して話し合う五人をよそに、伊藤は零戦七八型の操縦桿を握りながらなんとなくちらりと横を見る。

 

 

 

 次の瞬間、伊藤は驚きで声が出なくなった。

 

 

 

 

 伊藤の零戦七八型の隣を、白い隼が飛行していたからだ。あの時アメリカ本土のシカゴで見たものと同じだ。多くの機銃痕があり、風防も壊れている。

 しかし今度は操縦席にしっかり人影があった。

 

伊藤龍生    「まさか…!?」

 

 伊藤が隼を覗き込むと、操縦士が気がついたようにこちらを向いた。その操縦士は伊藤が忘れもしない顔だった。

 

伊藤龍生    「小国!!!」

 

 そう。それは死んだ小国雅史だった…。

 

 

 

 

 

 

次回最終話   今を生きる人へ   




次回、蒼焔の機影、遂に完結!!
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