伊藤龍生 「小国!!!」
伊藤は零戦七八型をできるだけ白い隼に近づけた。白い隼は逃げることもなくそのままの高度を維持して飛行している。
伊藤龍生 「どうしてだ!?死んだはずじゃあ…」
伊藤が叫ぶと、つけていないはずの無線機から声が流れてきた。
『小隊長、すみませんでした。』
伊藤に対する謝罪の言葉。それは間違いなく小国の声だった。
伊藤龍生 「ど、どうして生きてるんだ…?」
『はは、そうじゃないです。僕はもう死んでいます。たださようならを言いたくてこちらに戻ってきました。』
伊藤龍生 「もしかしてシカゴの白い隼は…」
伊藤のその問いかけに無線機から小国の返信が流れてきた。
『はい、僕の機体です。小隊長が敵機に墜とされそうなのを見てると黙ってられなかったんです。他の白い戦闘機も同じだと思います。』
伊藤龍生 「小国…」
『僕は何度も小隊長から命を救われました。なのに死んでしまった。母さんにも妹にも悲しい思いをさせてしまった…。その償いです。』
伊藤龍生 「小国、戻ってきてくれ!私は小国なしじゃあこの国にいたってい居場所はない…!」
伊藤は生まれたときから父親を亡くし、戦火によって母親をも喪った。転生孤独の身の上であるため、伊藤は軍隊しか居場所がないと思いこんでいる。
すると無線機から優しい声が聞こえてきた。
『小隊長、その時計まだ持っててくれたんですね。』
その言葉に伊藤はハッとなって、操縦席の横を見る。操縦席の計器に銀色に輝く懐中時計が下げられていた。
『小隊長、もう居場所はできてるじゃないですか。海軍第一航空団…、いい飛行隊だと思いますよ。』
伊藤龍生 「!?」
『小隊長は陸軍では居場所がなかった僕にも居場所をつくってくれました。菅野さんたちもつくってくれたんですね、小隊長の居場所を。僕なんかいなくても大丈夫ですよ。』
そう言い終わると、白い隼はだんだんとその姿が薄れていった。
『あぁ、そろそろ時間みたいですね。もうここには居れません…。』
伊藤龍生 「小国!!待ってくれ!!」
伊藤は零戦七八型を隼に接近させたが、薄れていく隼を通り過ぎただけだった。
『大丈夫ですよ。僕はいつだって小隊長と一緒にいます。忘れない限りずっと、ずっと』
ーずっとー
2023年
首都東京
「父はそんな話を俺にしてくれたんだよ。」
中年の男性が若い青年にその話をしていた。
「そのおかげで今の日本があるんですね…。」
「まぁ、そうだな。今はアメリカとも良好な関係が続いてるし、今や航空機産業は世界一だ。その功績の裏には、多くの犠牲があることを忘れてはいけない。」
今でも空を見上げてみる。僕たちにとっては昔の出来事。だけど本当にあったこと。名も知らない多くの兵士たちが戦い、傷つき、そして散っていった。
南の島で撃たれた兵士、飢えた兵士、爆撃を受けた兵士、海へ軍艦とともに沈んだ兵士、そして空の上で散っていった飛行兵…。
必死で今いる祖国日本を守り抜いてくれた、名もなき英雄たちを忘れないでほしい。今を生きる人へあの大戦を戦いきった先人たちを忘れないでほしい。
今の日本は、彼らの犠牲の上に作られている。それに恥じないように生きていきたい。彼らは今でも空から日本を見守っているだろう。
蒼き翼を輝かせながら…
蒼焔の機影 ー完ー
蒼鉛の機影完結です〜!!!!最後まで読んでくださりありがとうございます!!
新作も制作決定しました!楽しみにしていてください!!