第一話 ハワイにて
1946年 6月1日
ハワイ 真珠湾
連合艦隊の多くの艦艇が真珠湾に停泊している。秋月型防空駆逐艦、丁型駆逐艦、甲型魚雷艇、乙型魚雷艇、帝国海軍が秘密裏に建造した大型空母雷龍、大和型戦艦から改造された巨大空母信濃、い号潜水艦、戦艦榛名、伊勢、日向、空母天城、葛城、鳳翔などが停泊している。
その中には、沖縄突入作戦を成功させ無事に帰還した戦艦長門の姿もある。
岩本徹三 「もうこんなに軍港が整備されているのか。」
赤松貞明 「一時は故郷がどうなるかと思ったが、まさかここまで巻き返せるとはなぁ。ビビったぜ。」
坂井三郎 「零戦七八型のおかげじゃないか?」
西澤広義 「まあ、そんなところでしょうか。」
伊藤以外の海軍第一航空団のエース団員四人が飛行場で話している。
岩本徹三 「そういえば伊藤はどこに行ったんだ?」
西澤広義 「練習生の訓練に付き合ってるらしいですよ。」
赤松貞明 「ははは、あいつらしいぜ。」
ハワイ オワフ島沖
三機の零戦七八型が急降下訓練を行っている。先頭の機は先程、岩本たちが話していた伊藤龍生海軍少尉の機だ。その後ろを二機の零式練習機七八型が飛行している。
ちょうど急降下訓練を終えたようで、飛行場に向かって飛行していく。
伊藤龍生 「ふぅ、今日の練習はこれで終わりですね。」
狭い操縦席で伊藤がつぶやく。
飛行場が見えてきた。降着装置を降ろし、飛行場に着陸する。後に続いていた二機の練習機も着陸に成功したようだ。
伊藤が操縦席から降りていると、今日訓練を行った二人の練習生が走り寄ってきた。
練習生1 「伊藤少尉。本日はご指導ありがとうございます!」
練習生2 「おかげで助かっています。」
伊藤龍生 「いいえ、気にしないでください。これは私が個人的にやってることなので…」
練習生1 「そんなことありませんよ!私達にこんなに丁寧に教えてくれる教官はいません。」
練習生2 「いつも丁寧に教えてくれる少尉には感謝しています!」
練習生たちはそう言って、深々と頭を下げた。そして、兵舎へと走っていった。
伊藤龍生 「…感謝しています、かぁ…」
菅野直 「信頼されてるじゃねえか。」
伊藤龍生 「うおっ!?菅野大尉!いつの間に…!?」
菅野直 「へへへ、気づかなかったか。お前もまだまだだな。」
伊藤龍生 「菅野大尉、午前中はどこにいってたんですか?」
菅野直 「ああ、近海の哨戒だよ。まだここらへんをうろついてるアメ公共がいるからな。」
回想
ガガガガガガガ!! ガガガガガガガ!!
菅野の操る紫電改と米海軍のF4Uコルセアが空戦をしている。
菅野直 「へっ、こんな射線じゃああたるわけ無いだろ!!」
菅野が急旋回し、コルセアの背後につく。
米搭乗員 「なっ、いつの間にっ!?」
菅野直 「くらいやがれ!!」
ドガガガガガガガ!!
紫電改の20mm機銃が火を吹く。機銃弾がコルセアの右翼に次々と射し込まれていく。
コルセアはそのまま火を吹いて落ちていった。途中、搭乗員が落下傘で脱出したが、菅野は深追いはしなかった。
回想終了
伊藤龍生 「さすが菅野大尉ですね。自分はとても追いつけません。」
菅野直 「なーに言ってる。別に俺に追いつかなくてもいい。自分なりの戦い方を見つけろ。」
そう一言、菅野は言うと、そのまま兵舎に向かって歩いていった。
伊藤龍生 「自分なりの戦い方を見つけろ、かぁ…」
伊藤が独り言をつぶやく。伊藤もそのまま兵舎へと歩いていく。
夕日が真珠湾を照らしていた。
その夜 海軍第一航空団 兵舎
すっかり暗くなった夜、兵舎の前で海軍第一航空団の団員たちが囲碁をうっていた。
大東亜戦争の初期、1942~1943年の前期までは整備兵や搭乗員たちは囲碁をうったりする余裕があったが、サイパンの戦いの頃はそんなことしている余裕がなかったため、伊藤たち搭乗員たちが囲碁をうてる余裕ができたのは久しぶりのことだ。
赤松貞明 「お前、なかなかやるじゃねえか…」
岩本徹三 「赤松、お前もな…」
赤松と岩本が囲碁盤を睨みつけながら、対局をしている。赤松が黒石をとり、囲碁盤に置く。続いて岩本が白石をとり、囲碁盤に置く。戦局は一進一退のようだ。
西澤広義 「ラバウルでもこんなことがありましたね。」
坂井三郎 「ああ、そうだったな。」
伊藤龍生 「なんだか囲碁って、今私達がしている戦争みたいですね…。」
伊藤はなんとなく呟いた。すると坂井が言った。
坂井三郎 「昔、ラバウルでも同じようなことを話していたな…。」
伊藤龍生 「えっ、そうなんですか?」
坂井三郎 「ああ、だよな西澤。」
西澤広義 「ええ、そんなこともありましたね。」
坂井三郎 「あのころはいろんなやつがまだ生きていたからなぁ。」
坂井が空を見上げる。空には満天の星空が広がっていた。
西澤広義 「早く終わらせないとですね…、こんな戦争…。」
坂井三郎 「ああ、同感だよ。」
坂井がそう言い終わると、
赤松貞明 「お〜い!坂井!!次はお前とだ!負けねぇからな!」
悔しそうな顔をした赤松と満足げな顔をした岩本がこちらを見ている。赤松の様子だと、どうやら岩本に負けたようだ。
坂井三郎 「はいはい、分かったよ。」
坂井が歩いてゆく。
伊藤龍生 「早く終わらせないとですね。」
西澤広義 「ええ、子供たちの未来のためにも。私達のためにも…」
伊藤はいつまでも空を見上げていた。
次回 第一次北太平洋海戦
次回、作戦開始…!