伊藤がこの戦争に対して、何かを感じる…
そして米軍の新鋭機が投入される…
1946年 6月15日 日本軍 アメリカ西海岸上陸
アメリカ西海岸に上陸した陸軍と海軍陸戦隊が橋頭堡を確保するのに3日もかからなかった。敷島以下戦艦部隊の艦砲射撃により、市街地戦に備えていた米軍は壊滅的打撃を受け、さらに後方へと撤退、最終的にはロサンゼルスの放棄がアメリカ大統領トルーマンによって決定された。
1946年 6月20日 ロサンゼルス陥落
上陸した陸軍、海軍陸戦隊含む第一波部隊約17万6000人は橋頭堡が築かれたロサンゼルスを中心に戦車を前に進撃し続け、上陸二週間後に3万人の死傷者がでたものの、ラスベガス、サンディエゴを陥落させた。
1946年 6月30日 ラスベガス陥落、同年7月11日 サンディエゴ陥落
もちろん米軍航空機による上陸部隊攻撃を数回受けたものの、零戦七八型の性能と海軍第一航空団の練度の高さにより撃退。ほとんど支障なく上陸二ヶ月後には西海岸全体を制圧した。その後上陸した部隊合わせて約87万3000人が三手に分かれ、ロッキー山脈横断が始まった…。
1946年 8月15日 西海岸一帯を制圧
1946年 8月30日 ロッキー山脈横断開始
この日から、本格的に首都ワシントンへの侵攻が開始された。これと同時期にオーストラリアの首都キャンベラが陥落、ニュージーランドも日本陸海軍の猛攻に耐えきれず降伏。ガダルカナル島を包囲し無力化した後、大日本帝国は南太平洋の覇権を確立した。
半年前には中国への侵攻を再開し、三週間で首都重慶を占領、中国大陸全域を支配下に置いた。さらにシンガポール、中国からの二方向で英領インドへ侵入、イギリスの支配からインドを解放した。
これにより大戦初期に掲げられていた”大東亜共栄圏”がここに誕生したのである。
1946年 9月1日 ロッキー山脈上空
数十機の大型陸上攻撃機連山が海軍第一航空団の零戦七八型、紫電改の護衛を受けながら飛行している。ロッキー山脈を横断する上陸部隊を迎え撃つアメリカ陸軍守備隊の拠点の一つであり、第二の防衛拠点であるシカゴを空襲するためだ。
当然米軍の迎撃も激しいため、連山の未帰還機が続出。零戦七八型も強力な戦闘機とは言え数で勝る米軍戦闘機との交戦により、海軍第一航空団全体の約二割の機体と搭乗員が失われた。
そのため伊藤たちも搭乗員損失の穴埋めのため、連続で出撃することが多くなった。疲労が溜まり始めたある日のことだった。
その日はシカゴでの空襲を終え、帰路についていたときだった。
西澤広義 「今日も手ひどくやられましたね…」
連山は空襲前後を含め、半分の機が敵機や対空砲火によって撃墜され、残った機も傷だらけといった有様だった。直掩にあたっていた零戦七八型と紫電改も撃墜されたものは少なかったものの、かなりの機が被弾し穴だらけであった。零戦七八型の中には消火のための炭酸ガスが今だに吹き出ている機もある。
坂井三郎 「やっぱりシカゴの空襲は効率が悪いな。敵戦車部隊の掃討に切り替えたほうがいいんじゃないか?」
岩本徹三 「しかしな、山間部の急降下爆撃は非常に危険だぞ。水平爆撃は精度も悪いし、ここの連中は空戦ばっかで爆撃なんてできるやつがいるわけ無い。丸腰の敵兵相手に機銃掃射をするのも気が引けるしな…。」
あまりにも困難なロッキー山脈の攻略に上陸部隊だけでなく、海軍第一航空団も頭を抱えていた。敵拠点の爆撃すら満足にできないため米軍の増援も止めることができない。
赤松貞明 「まぁ、山中なのに関わらず戦車破壊しまくってるドイツ空軍の魔王さんもいるから少しは支援になってるらしいが…。」
赤松が言う魔王さん、とはもちろんハンス・ウルリッヒ・ルーデル空軍大佐だ。ソ連軍戦車を大多数破壊し、戦艦をも沈め、空戦でも撃墜記録がある急降下爆撃手でありエースパイロットだ。ドイツ降伏後は日本に亡命し海軍第一航空団に配属、急降下爆撃隊隊長に任命され北太平洋海戦では空母も撃沈した。
どうやらまだまだ飽き足らず、今だにロッキー山脈で戦闘を行っている米軍の戦車を破壊しまくってるようだ。「相変わらずとんでもないやつだ」と菅野は呆れている。
その時だった。
突然、一機の連山が火を吹いて降下していった。そしてものすごい速度で何かがそばを飛び去っていく。
坂井三郎 「なんだ!?」
視力がずば抜けていい坂井が目を凝らす。ガダルカナル航空戦で片目を負傷したものの、まだ見える方の目で必死に高速で飛行するものを確認する。
それは米軍の国籍標識をつけたみたことのない戦闘機だった。プロペラがどこにも見当たらないため、レシプロ機ではない。あの高速性だ。おそらくジェット機だ。
坂井はそう判断すると、飛び去ろうとする米不明機を追跡する。それをみた伊藤はとっさに坂井を追った。
スミス 「こいつはいい戦闘機だな。すごい加速性だぜ。お前にも乗せてやりたかったぜ、エドワード。」
アメリカ陸軍エースパイロット、スミス・カーデル少佐は亡き戦友に語りかけるように呟く。搭乗しているのはアメリカ陸軍が開発したアメリカ初のジェット戦闘機、”ロッキードF-80シューティングスター”だ。
ジェット戦闘機特有の驚異的な高速性とブローニング重機関銃による強力な武装、優秀な上昇力を持った戦闘機だ。零戦七八型が出現してから量産体制はできていたものの、大日本帝国による猛反撃を前に一時的に混乱に陥り、生産ラインがストップしていたが、本土まで踏み込まれた以上、主要航空機生産をF-80に変更したのだ。
坂井三郎 「だめだ!!追いつけない…!」
流石の零戦七八型も最高速度は723kmが限界だ。それに対してF-80は最高速度は900kmを超えた。ドイツ空軍のメッサーシュミットMe262ですら最高速度は870kmだ。すなわち現時点ではF-80に追いつける戦闘機は存在しなかった。
米粒にしか見えなくなった敵機を坂井はとうとう追うのを諦めた。伊藤も驚きの表情を浮かべている。
坂井三郎 「伊藤、編隊に戻るぞ…。」
坂井はそう伊藤に無線で告げる。伊藤も「はい」と返し、二機は編隊に戻っていった。
飛行場に帰還すると、米軍の新鋭戦闘機の話題で持ち切りだった。「どうやったらあんなのに勝てるんだ?」、「零戦七八型でも追いつけない」、「一瞬で大攻が一機落とされた」と団員たちから声が上がっている。
その様子を伊藤は少し離れたところで眺めていた。数時間前のことを思い出す。一瞬で大攻を撃ち落とし、レシプロ機最速の零戦七八型をも振り切る米軍のジェット戦闘機のことを。
伊藤龍生 「(あんな戦闘機に、勝てるのだろうか…。今の日本の技術では零戦七八型が限界…)」
新兵器が旧式化していく苦い経験が伊藤の頭をよぎった。一時は世界最強の座のついた零戦七八型の原型、”零戦”。その圧倒的な戦闘力も時代が進むにつれ、敵の新鋭機にその座を譲った。零戦七八型が開発された現在は世界最強に返り咲いたものの、その座もまたも米軍に奪われようとしていた…。
菅野直 「伊藤、しけた面すんなよ。」
気がつくと伊藤の前に菅野が立っていた。いつも一人でおり人と話してるところをみたことがない伊藤にとっては今の菅野は珍しい。
伊藤龍生 「菅野大尉…。」
菅野直 「奴らの戦闘機のことだろ?」
伊藤龍生 「そうですね…。零戦七八型でも紫電改でも撃墜どころか追いつくことさえ…」
菅野直 「できるぞ。」
菅野の驚きの言葉に伊藤は「え?」と声を漏らす。
菅野直 「奴らの新型はジェット戦闘機なんだろ?なら速度に全振りしてるはずだから旋回性能は極端に下がってるはずだ。零戦七八型や紫電改は旋回戦ならまず負けねぇ。」
伊藤は菅野の話を驚きながらも、聞き逃さずに聞いていた。
菅野直 「あと着陸にも離陸にもジェット戦闘機ならかなりの距離が必要だ。それは橘花の試験飛行で分かったことだ。」
橘花、とは史実では日本海軍が試作し特殊艦上攻撃機としてドイツのMe262を手本に作られた日本初のジェット機だ。攻撃機型だけでなく、30mm機銃を装備した戦闘機型も開発されたが、量産体制が整う前に終戦となってしまったため試作に終わってしまった。
しかし零戦七八型の活躍により、物資に余裕ができた今は量産が開始されており、速度はF-80に及ばないものの、シンガポールや沖縄戦で驚異的な活躍をしていた。
菅野直 「それに舗装された飛行場しかジェット戦闘機の発着陸はできない。橘花がそうならアメ公のジェット戦闘機もそうだ。それに離着陸時は完全に隙だらけだ。離着陸時を狙えばお前でも撃墜はできるはずだ。」
伊藤龍生 「そ、そうなんですか…!?」
菅野のどこで蓄えられたのか分からない程の情報を持っていることに伊藤は驚く。伊藤は知るよしもないのだが、実は菅野は喧嘩っ早い性格とは裏腹に勉強ができる秀才なのだ。今までの撃墜の多くも、学習によるものが多いのだ。
菅野直 「かと言って零戦七八型や紫電改で挑んだとしても、俺たちほどの技量があるやつでも撃墜は難しい。若い連中は弾を当てることもできないだろう…。」
伊藤龍生 「じゃあどうすれば…」
結局打つ手はないのでは、と再び頭を抱えた伊藤に菅野は自信満々な顔をして答えた。
「ジェット戦闘機にはジェット戦闘機をぶつけんだよ。」と…。
次回 決戦!!アメリカ本土上陸作戦 中編2 〜生まれ変わりし特攻機〜
???…日本海軍が開発したとある特攻兵器を戦闘機に改造したもの。連山から射出され、さまざまな任務にあたる。アメリカ本土にまもなく到着予定。
公開可能情報では、最高速度900km、武装は40mm機関砲二門、ロケット弾12発。乗員1名。
次回、新兵器が現れる…