崇永記   作:三寸法師

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◆3

〜1〜

 

 

 皇統が南朝と北朝に分裂した異常な環境、それが今の俺の生きる南北朝時代である。若狭国金ヶ崎城の陥落とそれに伴う北陸王朝構想の頓挫により、足利方の多くが天下の静謐を確信していた一方、六角家当主(佐々木惣領)の俺はいずれ再び世が乱れると悟りの心意気である。

 いや、むしろ望むところであった。観応の擾乱で足利政権の二大巨頭の足利直義と高師直の両者が倒れる時機を待つ構えなのだ。

 俺と本当に相応しい臣下のみで尊氏様の周りを固める日が心底待ち遠しい。さりとて、焦っても何も変わらないのもまた事実だ。

 

 

「明日、尊良親王(一宮殿下)の葬儀なんだってね。三郎」

 

 

「ああ。禅林寺でな……一応聞くけど、魅摩姉。お前も来る気?」

 

 

「来て欲しくないってか?……邪魔になるなら行かないよ。親父から来いと言われてる訳でもないしさ。大体ね、そんな興味無いわ。勝手にやってろってもんよ。世間話の一環で言ってみただけ」

 

 

「……そっか。なら良いや」

 

 

 京に凱旋後、俺は自身の佐々木六角邸で、同族武将・京極道誉の令嬢の魅摩と特に気不味いという事もなく、顔を合わせている。

 何事も無かったかのように振る舞う程度はお茶の子さいさいだ。

 

 

親王妃(御匣殿)の話の顛末、ネタが上がってたんだけどなァ」

 

 

「……あったね、そんな話も。聞かせてよ。あれから私の方でちょろっと公家の娘に聞いてみたけど、親王妃(一宮御息所)は故人の筈だってさ」

 

 

「はン。聞いて驚けよ、魅摩姉。実は──」

 

 

 翌日、後に南禅寺と改称する禅林寺で、当寺の長老にして国師とも呼ばれる夢窓疎石によって、尊良親王(一宮殿下)の葬儀が行われている。

 参列者たちの顔つきは実に神妙だ。反応に困っているのだろう。

 この京の葬儀で参列可能なのは北朝方の人間に限られる。初めてとなる哀れにも自害、もとい戦死した南朝の皇族将軍の葬儀ということで、表立って嘆き悲しんで良いか参列者同士探り探りなのだ。

 

 

「宗家もご参列ですか。ご苦労に存じます」

 

 

「塩冶殿……成る程、奥方の代理ですね」

 

 

「はい。多くが集まるところへ顔を出すのは如何なものかと言ったところ、せめて夫の拙者だけでも、不幸にも戦死された一宮殿下の葬儀へ足を運んでみてはどうかと顔世()に詰めれましたもので」

 

 

「おお、顔世殿は流石に気が強くいらっしゃる」

 

 

 同じ佐々木一族の武将で出雲国と隠岐国の守護を兼任する塩冶高貞の妻、顔世御前はかつて後醍醐天皇の後宮に居た女性である。

 今は塩冶と同じ北朝陣営に身を置く人間とはいえ、後醍醐天皇の第一皇子の死を偲ぶ気持ちがあるのだろう。北朝方の貴人でも後醍醐天皇を高く評価する人間は何故か少なくない上、参列者の数を考えても今更だったので、特に目くじらを立てるつもりはない。

 端的に言ってキリがないからだ。そもそもあの御方ですら──

 

 

「そう仰せの宗家は、殿下のご遺体の第一発見者として?」

 

 

「まぁな……が、それだけではない。先代の折、殿下を六角邸でお預かり申し上げた縁もあるからな。せめて御供養はしなければ」

 

 

「その情け深さ、敬服致します」

 

 

「……止せ。尊氏様の方が俺の五百倍情け深くいらっしゃるわ」

 

 

 あまりの居た堪れなさから長居するつもりは毛頭なく、俺は早々に退出して、近くにある双林寺という名の廃寺に密かに赴いた。

 敵方でも最高級の大将首だったとはいえ、せめて弑殺した相手を悼むくらいしてはどうかと便女の亜也子を甲賀忍軍の一部の面々と共に置いていたのだ。だが、待っていたのは思わぬ結果だった。

 

 

「まさか……一宮殿下(尊良親王)の親王妃と鉢合わせるとは」

 

 

「殿様、甲賀衆の顔を見られた。解放なんてもっての外。秘密裏に葬るなんて掌を返すくらい簡単なこと、出来ない訳ないよね?」

 

 

「……まだ家人で通せたのに、その一言で台無しだ」

 

 

 全く自省の様子なく神力で風貌を変貌させ、あたかも金色の夜叉さながらの亜也子に耳元で囁かれ、俺は苛立って顔を歪ませる。

 これではどちらが主人か分からない。さながら逆転状態である。

 それでも、俺は欲望に限り無き便女の言葉が道理だと知ってた。

 

 

「くそッ……大納言典侍殿、そういう事です。御許しを」

 

 

「どうぞ思うがままに。あの方が死んでからまだ四十九日と経っていない今なら、冥土にて再会が叶います。それにしても、私の正体に気付いていたとは。六角、お抱えの間諜がさぞ優秀なのですね」

 

 

「ええ。貴女はとっくの昔に亡くなられた西園寺家出身の親王妃(御息所)ではない。二条為世(一宮の外祖父)を父に持つ……つまり、一宮殿下(尊良親王)の叔母君だ」

 

 

 殿下の屍を一目でも見れないものかとせめてもの希望を持って双林寺に現れた親王妃。北陸遠征からの帰京前に甲賀忍軍から報告されたことで漸く知ったその正体に、俺は愕然とせざるを得ない。

 あまりに尊い血筋だと近親交配は古代日本や海外のように事例がないでも無いが、今時このレベル(二親等の婚姻)ではあまり聞かざる話である。

 後の軍記物語『太平記』でツラツラと記されたような尊良親王の御匣殿に対する一途さを認めていただけに、驚きはひとしおだ。

 

 

「やっぱヤバいじゃん、殿様……言ってたよね?一宮(尊良親王)御息所(御匣殿)ただお一人だけに愛情を注いでたって。なのに叔母君のこの人が妃って冗談キツいよ。本当に下らない……それで私を振ったんだ?」

 

 

「あのさぁ……俺もこの間知ったスキャンダルだわ。先の世で言うところの……何時からか不明だが、(一宮)叔母(典侍殿)で関係を持った挙句、御息所(御匣殿)が死んだ後、この者がそれ(一宮御息所)に成りすましていたという寸法だろうさ。大昔と違い、近過ぎる血縁同士は忌避されがちだから」

 

 

「どうでも良いよ。結局、殿様には関係ない事でしょ?魅摩とだって遠縁の誼ってだけで……良いからさっさと殺しなよ。その女」

 

 

「ッ……あ゛あ゛あ゛!」

 

 

 間近で体感する便女の亜也子の凄みは強烈極まりないものだ。

 あるいは直義や師直の比でないと思える危険因子の存在に胃が痛くなる。叶うなら大声で師冬に言いたい。違うのは亜也子だと。

 

 

「よく出来ました……なんてね、殿様」

 

 

「はァ、はァ……美濃部。後の掃除、よろしく頼む。(典侍殿)一宮(尊良親王)の葬儀の後、衰弱死したという体で決着させるから、そのつもりで」

 

 

「承知……」

 

 

「亜也子、話がある。場所を変えるから、着いて参れ」

 

 

「!」

 

 

 早急に手を打つべきは足利政権の幹部たち相手ではない。身内に居る不穏分子だ。あの師冬との結託云々はこの際問題ではない。

 最強の幕臣という目標に達するために試行錯誤している段階で、便女に劣勢なのは立腹ものあり、何より他に示しがつかない。

 いい加減、力関係というものを改めて理解させる必要がある。

 所詮、土岐頼遠の下位互換のような武力では俺に敵わないと。

 

 

「んんんんん!」

 

 

「カハッ!?」

 

 

「喰らえ!……我が敬愛する御方よ!俺に力を!」

 

 

 体術を交え、亜也子を倒しつつ、ガッポリ開いた彼女の口に手持ちの瓢箪の中身を流し込む。これで彼女は従順になる筈である。

 激しく痙攣し続ける亜也子の身体を馬乗りになって抑え、俺は口元を歪ませる。俺の心身を捧げる相手は既に決まっているのだ。

 当然ながら、一介の便女が眼中に入る道理など存在し得ない。

 同族の婚約者ですら、尊氏様に比すれば霞んで見えるのだから。

 

 

 

 

 

〜2〜

 

 

 

 

 

 葬儀が終わってほとぼりが覚めた頃、俺は再び禅林寺へと赴く。

 目当ては勿論、当寺の長老で我が同族(佐々木一族出身)の夢窓疎石であった。

 

 

「国師。此度は御手間を取らせまして」

 

 

「何を申されます。宗家……いえ、千寿丸様。佐々木一族の後ろ盾にあやかれたお陰で、今日の拙僧があるのです。手間でも何でもございません。今後もご入用があれば、遠慮なくお声掛けくだされ」

 

 

「……忝い。これで殿下の御霊も落ち着かれるというものです」

 

 

 正直、一族出身で北朝と南朝の双方に伝手のある夢窓疎石を動かすのは気が進まなかった。他氏族に夢窓疎石は佐々木氏の回し者と思われるのは心外である上に、そうなれば夢窓疎石の周りに配置している間諜の得られる情報への期待値が下がりかねないのだ。

 しかし、今回ばかりは違った。六角党の一部を落ち着かせるためには尊良親王の魂が鎮められたと思わせねばならなかったのだ。

 

 

「それで国師。昨日の今日で申し訳ないのですが、どうやら隠れ潜んでいた殿下の親王妃……かの御方の死を嘆かれ、亡くなられたようなのです。あまり公にも出来ぬので、近江国で荼毘に伏したいと存ずる。鎮魂のため誰か適当なお弟子を派遣して頂けませぬか?」

 

 

「造作なき事です。信頼できる者を選び、派遣致しましょう」

 

 

「有り難い。追ってその分の返礼もさせて頂きます」

 

 

 これも擾乱で機敏に動くために必要な事だと俺は睨んでいる。

 一宮(尊良親王)の元寵妃の密葬が可能な僧の一人や二人、他に伝手が無いでもないが、夢窓疎石の弟子を狙い撃ちして取り込む良い機会だ。

 既に間諜を周りに配置しているとはいえ、追加できるならそれに越した事はないし、後に出世して擾乱期、今ですら老齢の夢窓疎石の後継者となっていようものなら、これ以上ない収穫であろう。

 

 

「返礼とは畏れ多い。敵に回られ戦死した親王への心配りは尊氏公にも似た宗家の御心の広さの表れ。まこと敬服するばかりです」

 

 

「おお!国師も私がかの御方に似ていると!」

 

 

「……え、ええ。まぁ」

 

 

 後の『梅松論』において夢窓疎石は時の天下人、足利尊氏公の勇敢さや大胆さに加え、慈悲深さに至るまで高く評価している。

 その夢窓疎石からのお墨付きを得て、俺は思わず舞い上がった。

 

 

「殿!お取り込み中、失礼します」

 

 

「む。何ぞ火急の報告か?……国師。それでは」

 

 

「は、宗家。愚僧に構わず、お行きくだされ」

 

 

「恐縮です」

 

 

 このずっと後に京周辺に留まらない軍政の大混乱が起こった際、俺は夢窓疎石を頼り、その寺に拠って情勢を俯瞰するに至る。

 とはいえ、さしもの俺でもこの建武四年時点で、そこまで見通せている訳ではなかった。今の俺の関心は、忍びながら表向き単なる家人として振る舞う美濃部の持ち込んだ報告に向けられていた。

 

 

「この物資の流動具合……始まるな。信楽谷で近日中に」

 

 

「は。伊庭様への御指図は……」

 

 

「無論、当初の予定通りで行く。一週間以内に方を付けよ。京極軍と連携の上、南北から挟み撃ちにし、確実な勝利を目指すのだ」

 

 

「御意!」

 

 

 建武四年三月中旬、それまで行っていた水際警備を若狭国からの撤兵に伴って敢えて中断したことで、信楽谷における南朝勢力が反乱の準備を本格化させる。しかし、これぞ飛んで火に入る夏の虫。

 翌月中旬、五辻宮を旗印に信楽谷で立ち上がった南朝方の豪族たちは佐々木両家(六角家&京極家)の連合軍により、僅か三日足らずで鎮圧された。

 

 

 

 

 

〜3〜

 

 

 

 

 

 近江国における一族の本拠地の佐々木荘を客人が訪ねている。

 すなわち、他でもない一族の有力者の道誉だ。勿論、信楽谷で発生した反乱の顛末に関して、惣領の俺に報告するためである。

 

 

「我が君。京極殿をお部屋に通しました」

 

 

「ああ、今行く今行く……よし、全部出た」

 

 

「は。それでは」

 

 

「ちょっと待てちょっと待て……うん、良いぞ」

 

 

 今更ながら、この歳でも樋箱という名の「おまる」を使わざるを得ない中世の環境には涙が出そうになる。一応、郎党以下の者たちのための厠もあるにはあるが、臭いが酷い。ただ、不幸中の幸いなのは慣れてきた神力の活用で、温水洗浄が可能な事だろうか。

 ただ、不満なのは自分の排泄物が肥料にされてしまう事である。

 

 

「なぁ、三井……そういうのやっぱり止めた方が」

 

 

「何を今更仰るのです?我が君の()()は至極評判。これで育てた作物は食べれば天にも昇る心地だと。地方にある六角家の荘園の地頭たちからも今年の分が早く欲しいと要望が多数来ております」

 

 

「あ゛あ゛、聞きたくない。聞きたくない」

 

 

 執事(三井)の言葉にうんざりした俺は盛んに耳を抑える仕草をする。

 熱烈な主君命令により肥料未使用の上納用の作物を領内で特別に育てているのだから、別に良いでは無いかとまで言われたのだ。

 

 

「だから、聞きたくないって!」

 

 

「失礼しました……ところで、我が君。首を長くしている者が」

 

 

「そうであったな。あまり待たすのも忍びないというものだ」

 

 

 正直、道誉が俺よりも長い時間、尊氏様のお側に友人面で侍っているのは腹立たしいので、多少は意趣返ししたいところであるが、京極家より高一族の方がヤバい疑いがある今、加減が重要だ。

 戻った先の部屋に居たのは道誉だけではない。ここ暫く、京極家に戻るタイミングを失っている様子だった魅摩も同席していた。

 

 

「宗家。お待ち申しておりました」

 

 

「……」

 

 

「頭をお上げください。道誉殿……同様に魅摩も」

 

 

 何食わぬ顔で俺は二人に居住まいを自然にするよう告げる。

 程なく膳が運ばれ、自然と三人で食事する格好になる。説明不要と主座に座る俺に追随するかのように魅摩が隣に移動して来る。

 相変わらずドス黒い顔の道誉の双眸が一瞬だけ光った気がした。

 

 

「さて、道誉殿。信楽谷での我が武将の伊庭との共闘戦線、惣領として感謝する次第です。お陰で守良親王(五辻宮)軍は僅か三日足らずで見る影もなく壊滅……周辺諸国でまたも我ら一族の武名が轟いた」

 

 

「勿体無いお言葉にございます。此度の合戦、守良親王殿下の事を多少知っている拙僧に思い至り、お呼びになった宗家のご慧眼あってのものと承知しております。策も地勢を知り、実に的確でした」

 

 

「軍略は黒田殿からよく仕込まれました。ですが、天下の参謀たる道誉殿からそのように褒められたとなると、より一層の自信が」

 

 

 表向き聞こえの良い言葉を並べつつ、腹の内は全く違っている。

 道誉に遠回しに詰られたと感じたのだ。かつて討幕時に六波羅軍北条討滅のため手を組んだ守良親王とよくも戦わせてくれたと。

 

 

「宗家。尊氏様も此度の反乱鎮圧にお喜びです。天下静謐の流れは依然続いている。九州や東北はさることながら、生き延びた新田義貞たち残兵が斯波(尾張)高経殿の軍に駆逐されるのも時間の問題だと」

 

 

「……ふふ。尊氏様のお見立て、まず違いないでしょう」

 

 

「そういや、三郎。前に寝惚けてポロっと言ってたね?尊氏様が来年遂に正真正銘の征夷大将軍になられるって。めでたい話だよ」

 

 

「!?ゴフゴホ」

 

 

「!ほう」

 

 

 不意に魅摩の放った発言で俺は思わず咽せ、目の前の道誉は口角を上げる。ここ最近、気が大きくなっていた自覚こそ多少あるが、寝惚けた状態でそんな事を口に出していたとなると話が変わる。

 今一度、魅摩が京極家に情報を流し得る存在である事を思い出さなければなるまい。もしかしたら目の前でならば無問題と魅摩が判断した可能性は無きにもし非ずだが、どこまで信用に値するか。

 

 

「尊氏様が征夷大将軍に任じられるとならば、新田と北畠の両名の首が条件となるでしょうなァ……宗家。お聞きしたいのですが」

 

 

「……顕家の方は知りませんが、新田義貞は来年までかと」

 

 

「承知しました。拙僧の腹の内に留めておきましょう」

 

 

 そう言えば、顕家の方は今再び東北の地に居るが、その父の親房の方は後醍醐臨幸に従って、南朝の総本山の吉野に身を置いているらしい。記憶が正しければ、親房は常陸国で『神皇正統記』を執筆する筈である。このままだと辻褄が合わない。そう遠からず親房が息子(顕家)の苦戦にヤキモキして、関東に下向すると見て良いものか。

 しかし、東海道では吉良満義らの足利軍が立ち塞がっている。

 確かに遠江国には宗良親王や今は南朝方らしい井伊家が根を張っているものの、東海道を南朝の公家が降るのは危ない。となれば使うのは海路だろうか。俺は京極家の二人の眼前で頭を捻らせた。

 

 

「道誉殿……魅摩ですが、この先も六角家で預かる事に異存はございませんな?遅かれ早かれ正式に当家に迎え入れる訳ですから」

 

 

「……無論。壊れぬ程度に可愛がってくだされば」

 

 

「壊れぬ程度?何を物騒な……」

 

 

「三郎。日に日に大きくなってるあんたの体躯を見て、親父は気が気でないらしいよ。あまり夜が激しいと私の身が保たないって」

 

 

「は?」

 

 

 食事を口にしながらの席で何を言い出すのかと俺は耳を疑った。

 しかし、魅摩にしろ道誉にしろ思ったより本気の様子である。

 

 

「だからさ、私の身体のためにも、亜也子や他の女子に関して絶対に口を挟まない……それで良いんだよね?父上。二言は無いよ」

 

 

「そ、そうです。宗家。まして拙僧は分家の身。本家当主であらせられる上、我が愛娘を大切になさる宗家に余計な口出しは……」

 

 

「???」

 

 

 急に俺の周りが宇宙空間にでもなったような錯覚に囚われる。

 いざとなれば親兄弟はおろか、愛娘ですらも谷底に突き落としかねない腹黒坊主の道誉らしからぬ物言いだ。不審極まりない。

 隣の魅摩の方を見ると存外深刻そうな顔付きだ。さては思ったより暴れん坊だと見做されていたのだろうか。俺の気付かぬ内に。

 

 

「二人とも何か思い違いをしているようだが──」

 

 

「!宗家、言い忘れていた事がございます。丁度良いから、魅摩も聞きなさい。今年の夏が終わるまでに拙僧は引っ越しをする所存」

 

 

「「は!?」」

 

 

 建武四年、佐々木一族にとって重大な出来事が起こる。分家(京極家)当主ながら一族きっての有力者となっていた道誉が、自身の本拠地をそれまでの米原から南方にある甲良へ移し、体制を刷新したのだ。

 理由は簡単。京の足利政権への出仕が遥かに便利になるからだ。

 しかし、これは同時に別の事を意味する。京極家の本拠地と我ら六角家の本拠地の佐々木荘との距離がグッと縮まったのである。




原作最新刊で公開された道誉のステータス、知力と政治が孫二郎(斯波家長)に少しだけ劣る数値なのが意味深だなぁと思いました(小並感)
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