崇永記   作:三寸法師

123 / 202
◆3

〜1〜

 

 

 存外、粘り強い。この駿河四郎という男、兵を率いて当たれば、師冬の足止め位は出来るのではないかというだけの力があった。

 思えば、長崎氏は決して主君(得宗家)を操るような謀略だけが得意な一族という訳ではない。五年前の鎌倉滅亡の噂を思い出す。確かあの戦では長崎高光*1、及びその子で高泰だか為基だかの親子が奮戦し、新田義貞の大軍を散々手こずらせたという武勇譚があった筈だ。

 目の前の駿河四郎が果たしてその親子に匹敵する程の実力の持ち主かどうかは定かではないが、この半年間の時行(北条氏残党)の遠征を支えるに足るだけの才覚はあるようだ。簡単に討ち取れそうになかった。

 

 

「全く……!北条氏の郎党は鎌倉滅亡、更には三年前の反乱でまともに使えるヤツは殆ど源氏軍に討ち取られるか、潔く本分を弁えて尊氏様に帰順したかで、まだ居る反乱分子は殆ど死ぬべき時に死ななかった残り滓だと思っていたのに!何と面倒な輩共なのか!」

 

 

「舐めるな!何が本分だ!誰が残り滓だ!」

 

 

「六角の小僧!この南条を知っているか!?」

 

 

「知るか!」

 

 

 まだまだ慣れない戟を振るって、駿河四郎だの南条だのという敵将たちを跳ね除ける。だが、俺の振りは徐々に鈍くなっている。

 阿倍野で顕家を小笠原流の奥義を以て討ち取り、その場から去って以来、暫くの間、配下の忍びとのんびり京を目指し、それなりに疲れが取れていたが、その後の御左口神(敵の軍師)の余計な策が痛かった。

 不慣れな戟に頼り、ただ一騎で南朝方の関東武士の数千騎と戦う時間も中々どうして痛快だったが、父時信の率いた援軍が到着して思わず心の内で緩みが出ている。蓄積疲労を自覚したのである。

 

 

「千寿丸!これを使え!」

 

 

「ッ!……はい!父上!」

 

 

 だが、六角時信軍の到来は心強い。投擲された名刀「綱切」を片手でキャッチして思った。何よりも時信の後続の軍だ。尊氏様が大軍で来たのだろう。多くの旗が揺らめいており、御左口神(敵の軍師)もその全容を測り切れていない。未だ逃げ出さないのはそのためだろう。

 今焦って逃げ始れめば、隊列が乱れた隙を狙われ、それこそ全滅すると知っているのだ。思うに御左口神は事ここに至り、人智への拘りを捨て切った筈だ。神威頼みで窮地脱出を図る気のようだ。

 遅かれ早かれ尊氏様に呑み込まれるとも知らずに。俺は戟を駿河四郎の馬に投げ付け、もう片方の手で慣れている太刀を構える。

 

 

「駿河四郎!覚悟!」

 

 

「おい!六角、忘れたか!?俺もいるぜ!」

 

 

「チッ、祢津弧次郎……!」

 

 

 もう一息で駿河四郎を討ち取れるというところで邪魔が入った。

 流石に祢津弧次郎という新進気鋭の武将は、幾ら外様武将最強を目指す俺でも、複数回戦って全勝を期せるような相手ではない。

 今度ばかりは俺に不利らしい。疲労具合が肩に重く伸し掛かる。

 

 

「生憎だったな!刀の扱いなら俺の方が上だ!」

 

 

「戯言を!腰越の一戦を忘れたか!?当時、お前は馬の上から徒士の俺に切り掛かり、仕留め切れなかった!今日は両者ともに馬上の武者で、俺は馬術が最も得意だ!勝つのは一体どちらかな!?」

 

 

 常に馬を動かしながら互いに刀と刀で切り結ぶ。何でも諏訪頼重は生前、祢津弧次郎こそ嘉暦元年(西暦1326年)生まれ最高の刀の使い手とほざいていたらしいが、とんだ大間違いだと証明する良い機会だろう。

 大体、自称現人神で詐欺師同然の霊媒師は把握していなかったというではないか。西国の名門の六角佐々木家に生まれたこの俺がどれ程の力の持ち主なのか。それで良くも大法螺を吹けたものだ。

 ただ、弧次郎の気勢は何とかの正直狙いなのか、凄まじかった。

 

 

「あれから三年経った!十代の三年間は貴重だ!武芸以外に山ほど仕事のあった守護大名のお前と山籠りし続けて鍛錬に専念した俺!どちらが武の高みに近付けたか、比べるべくもないだろうよ!」

 

 

「雑魚の基準でモノを語るな!一見違う分野を連環させ、新たな境地へ至るのが真の実力者だ!そんな道理も知らぬとは、まさしく田舎者よ!所詮、お前は粗野で薄汚い坂東武者の成り損ないだ!」

 

 

「この野郎!都会育ちがそんなに偉いか!」

 

 

「当たり前だ!山猿より遥かに偉いわ!ボケ!」

 

 

「ガキか!?てめぇは!」

 

 

 戦場の熱気は高まり続ける。俺や弧次郎だけでなく、我が父の時信と宇都宮公綱も、元六波羅探題の武将同士で戦い合っていた。

 どうやら時信は本拠地(佐々木荘)から俺の趣味で作られた武器「紅蓮槍」を持ち出したらしい。ただ、あまり心配はしていない。引退してからこの数年で武力は多少落ちているだろうが、敵将の宇都宮公綱のように異様に老け込んでいるようには見えない。討ち取れるかどうかまで確信は持ち切れないものの、逆は決してないと断言できる。

 新手の六角時信軍は本国からあまり多くの兵を連れ出せないという事情のせいだろう。数で明らかに南朝方関東勢(新田・宇都宮・北条)連合軍に劣っているようだ。ただ、気迫は上だ。間も無く尊氏様の本隊が到着するという観測による心理的効果が両軍の明暗を分けているのだろう。

 

 

「どうだ!?祢津弧次郎!これが武将だ!これが大名だ!敵と撃ち合いながら、戦場全体を俯瞰する!お前に同じ事が出来るか!?」

 

 

「へッ。六角サマよ。じゃあ、()()はどうなんだ?」

 

 

()()……?」

 

 

「亜也子、こっちだ!戻って来い!俺たちのところへ!」

 

 

「ッ」

 

 

 全く寝耳に水だ。時信(先代)は俺の武器だけでなく、便女さえ持ち出したようである。この半年間、俺は決して外に出さなかったのに。

 だが、弧次郎は気付いていないのか。元お仲間は大きく様変わりしている。特に変わったのが、かつて多くの人目を引いたであろう長い黒髪だ。亜也子は今、尼頭巾を被っている。そのために気付かないのだろう。俺は溜め息を溢すと同時にアイコンタクトした。

 亜也子が尼頭巾を外した。弧次郎だけでなく、御左口神(敵の軍師)もまた驚いたようだ。果たしない困惑と驚愕が二人の表情から明らかだ。

 

 

「おい、亜也子。お前、その髪どうした?」

 

 

「し、神力が……明るい髪色。これじゃまるで大学デビュー」

 

 

 どうやら諏訪明神から未来を視るとかいう力を受け継いだのか、御左口神(敵の軍師)は「大学デビュー」というワードを知っているらしい。

 そんな言葉を予知するくらいなら、尊氏様の天下掌握の必然性を知って、諦めの悪い時行に幾ら世を乱しても無駄と諫言して貰いたいものだ。その方が時行も片田舎で平穏無事に過ごせるだろう。

 

 

「久しぶり。二人とも。だけど、訂正させて。私はもうあの頃の亜也子じゃない……ていうか、捨てたの。その名前。半年前にさ」

 

 

「捨てた?……千寿丸!お前の命令だな!夢窓国師(同族の高僧)からいち早く俺たちの再挙兵を知って、元北条軍の亜也子を出家させた!仮にも自分の便女としてこの数年間、良いようにしてきただろうに、都合が悪くなったら直ぐ()()かよ!?てめぇも俺の父親の同類か!?」

 

 

「……取り敢えず言える事は一つ。お前の父親とかマジで知らん」

 

 

 祢津弧次郎の出生については以前、亜也子に聞いた覚えがある。

 何でも祢津頼直の実子ではなく、妹が産んだ父無し子だそうだ。

 だが、信濃国の父無し子の父親を西国生まれ西国育ちの俺が知る筈がない。呆れて告げた途端、弧次郎は逆上の色を露わにした。

 

 

「てめぇ!ふざけて誤魔化そうったってそうはいかねェぞ!」

 

 

「うるさいなァ。亜也子、先に弧次郎(コイツ)を黙らせろ。出来るな?」

 

 

「うん……殿様。名乗って良い?私の新たな名前」

 

 

「ああ、好きにしろ」

 

 

 世間では出家したら法名を付けるものと相場が決まっている。

 当初は仮出家で済ませるつもりだったが、南朝(北畠顕家)軍が黒血川から転進して伊勢国から西へ軍を進めたことで混乱が長期化し、仮のままにする訳にもいかなくなった。今の彼女は僧侶だ。ただ、単純に尼になったのではない。俺が想起したのは戦国時代の井伊直虎(次郎法師)だ。

 

 

「甲賀三郎。それが殿様に頂いた私の新たな名前」

 

 

亜也子ちゃん……これを私は恐れてた

 

 

「六角の通称のモジリか。馬鹿馬鹿しい。それで満足なのかよ?」

 

 

「弧次郎。単なる言葉遊びなんかじゃないよ。私は、望月甲賀三郎は伝説になる。諏訪明神と同じ、ううん。近江国で諏訪明神そのものに私はなるの。殿様の隣に並び立つため、私は神様になった」

 

 

 陶酔の感と共に亜也子が胸に手を当て、元仲間の二人に告げる。

 弧次郎も雫も困惑の色を隠せていない。当然だ。俺だって何も知らずに聞けば、中学二年生特有の病気を疑う。しかし、亜也子はあの殿下(尊良親王)の葬儀の日以来、あらゆる形で神力を摂取し続けたのだ。

 今の亜也子は神を降ろした巫女、つまり武神そのもの。彼女の言葉に異存は無い。その力の本領を今から示してくれるのだから。

 

 

 

 

 

〜2〜

 

 

 

 

 

 ずっと佐々木城の曲輪の一つに閉じ込められていた。元主君の()()時行(次郎)の南朝降伏は単に天下を驚かせただけじゃない。六角佐々木家を動揺させた。原因は言うまでもなく元北条党の私にあった。

 中先代の乱の最終日に殿様──勿論、六角家当主・佐々木千寿丸様のこと──に降ってから、二年以上が経過していたが、家臣団は揃って心配したようだった。私が元鞘に戻るんじゃないかって。

 こうした動きに先立ち、殿様は西国武家の名門当主だけあって、誰より早く南朝の秘密事項(中先代降伏の報)を入手していた。某日の夕刻、佐々木城にある殿様の部屋に呼び出され、私は御食事前に何事だろうと思って赴いた。辺りに潜む手練れたちの微かな気配を感知しながら。

 

 

『殿様……これさ、部屋の外に討ち手が居るよね?それも沢山』

 

 

『ほう。心当たりがないとでも申すか』

 

 

『……タハハ、調子に乗り過ぎちゃったかな?私、殿様の意に染まない事やり過ぎちゃったもんね?とうとう堪忍袋の尾が切れた?』

 

 

 金ヶ崎城の尊良や京に居たその妃が死んでから半年以上、私は慢心していた。毎日のように殿様から神力のお恵みを貰い、武力も想いも増していく。六角家臣団の同情も首尾よく勝ち取り、安泰だと思っていた。京極家(魅摩や道誉)がどんなに手を尽くしても、私を排除できる筈がない。殿様に対しても乱世の本質を突き付け、心理的優位で実質的に主従逆転させ、私を優遇せざるを得なくしていた筈だった。

 それがどうだ。部屋の天井からも恐らく毒入りと思しき吹き矢を討ち手が構える隙の無さだ。私はしくじった。殿様の、六角家当主の気性を神経質と甘く見ていた。本当のところは北条時行(相模次郎)と違い、必要と判断すれば、便女でさえ容赦なく粛清する支配者なのに。

 ただ、私は諦めていなかった。こんな絶望的な状況であっても。

 身体が出来上がった今の私に毒なんか効く筈がない。私は自分でもデカいと思う図体に似合わない速度で、殿様に飛び掛かった。

 

 

『ッ!』

 

 

『『『殿!?』』』

 

 

『動かないで!骨折るよ!』

 

 

 叫びつつ口から涎をあるだけ殿様の顔に垂らし掛ける。殿様の両手を胸と股で固定し、貪り尽くす。殿様の用意した討ち手、甲賀衆の人たちは困惑すると同時に、京風の高度な行為かと誤解した。

 殿様の口を塞ぐと目論見通り、彼らは引き揚げて行った。周囲から余人の殺気が消える。あるのは殿様の可愛らしい怒気だけだ。

 ここまで来て、私は分かった。殿様も甲賀衆も本気で私を殺すつもりは薄かったらしい。そもそも今や基本的に野心旺盛な吹雪(吹雪)の圧力があるので、殿様はもう簡単に私を切り捨てる事が出来ない。

 理由は不明だが、今回は何かしら試す意図があるみたいだった。

 

 

『ぷはっ!お前なァ!』

 

 

『うんうん、忍びの皆が悪いね。じゃあ……挿れるね?』

 

 

『……俺の話を聞いてもか?中先代(北条時行)の逆賊認定が解除される』

 

 

『え?』

 

 

 聞き間違いかと思った。この数年で足利家と密接な関係を築いた持明院統の北朝も、中先代の乱で政権破綻を加速させられた大覚寺統の南朝も、北条時行の存在を認める筈がない。腰越の投降以来、そう信じ込んでいた。だが、その前提条件自体が違ったらしい。

 殿様は認めた。読み間違えたと。鎌倉北条氏が再び世を席巻する未来は無く、そのために両朝の赦しは金輪際、中先代(北条時行)に与えられる筈がないと思ったと。私は驚いて、手も腰の動きも止めていた。

 

 

『更に言えば、後醍醐の帝の型破りな生き様、北条時行の反骨精神を甘く見ていた。ひとえに我が判断の落ち度だ。亜也子、今までの功労もある。俺はお前がどう選択しようと咎めるつもりは無い』

 

 

『えい』

 

 

『っ!』

 

 

 腰を下ろして私は含羞(はにか)む。殿様の言葉にどれだけ欺瞞が詰まっているのか、西国暮らしで勘の良くなった私は、直ぐに分かった。

 殿様は私が北条党に戻ると言えば、尊氏様のためと言って限界以上の力を出し、手討ちにする筈だ。ただ、殿様は分かっている。

 そもそも私と逃若党の道はもう二度と交わらない。否、交わる事など有り得ない。私は金ヶ崎城やその後の京で、南朝との手切れの在り方について、殿様やその側近たちに示しているのだ。ここで殿様を討ち、その首を手土産に東を目指そうと、直ぐに西で噂が広まる筈だ。親王及び妃の弑殺の噂が。そうすれば、私もきっと私を庇うに違いない逃若党の皆も、全員が再び南朝から敵視される可能性が高い。つまり、前の主君に配慮するなら後戻りは尚更無理だ。

 

 

『全部神様の思し召しなんだよね?』

 

 

『は……?』

 

 

『私の行動を後押ししてるのは殿様がくれた力だよ?良い?殿様は神様なの。私はその横に並びたい。ねぇ、これから私はどうすれば良いかな?北条時行(相模次郎)の南朝軍と戦ったら、私は二度と巴御前を目指せない。だけど、戦わないと私の選択を示せない。板挟みだよ』

 

 

 一通り殿様を床に振り回して、私は囁いた。殿様は考え込んだ。

 殿様は言った。状況次第で直ぐ白紙にできる仮出家で、世間の非難を避けるのが良いだろうと。その後、黒血川への参陣は私が出陣する事で懸念される、家臣団の動揺や足利家の反応を考慮して許されなかった。そして、戦が終わる。何と殿様が実権を奪われた。

 

 

 

 

 

〜3〜

 

 

 

 

 

 当然、六角家の人々は怒りを露わにした。矛先は主に分家の京極家に向けられた。須く道誉のため、足利政権の判断が狂ったと。

 南朝軍が畿内周辺へ来た頃から、私は城の曲輪で幽閉生活を送っていたが、番人から詳らかに話を聞いていた。軍の猛将の目賀田弾正忠を連れ、様子を見に来て心配してくれる殿様の母君(長井時千娘)からも。

 

 

『大奥様。殿様はまだ京に?』

 

 

『いえ、それが……一向に情勢が良くならないので、私の実家の()()邸よりの尊氏様のお屋敷への通いを止めて、石山寺へ移ると』

 

 

『……もしかして殿様は、出家して足利様に誠意を示すつもりで』

 

 

『分かりません。ただ、心の準備はした方が良さそうです』

 

 

 私は決断した。髪を下ろそうと。「仮」じゃなくて良い。神様の隣に並び立つなら、世俗的観念に囚われ、京極家との後継者争いに拘っても仕方がない。そもそも京極家は、新たな近江国守護の地位を狙うため、大きな失態を犯した。殿様の心象を損なったのだ。

 こうした折に、殿様から忍びを通じて来た打診はまさに渡りに船だった。京極家の警戒を緩め、殿様との心理的距離を再び縮めるためにはどうすれば良いか考えれば、身分上「女」を捨てるのが最適に違いなかった。殿様は魅摩に対して、更に他の自分に近い女に対しても不信感を抱いた。だけど、男として出家してしまえば──

 

 

「おうおう。千寿丸の寵愛を得られるってか?変わっちまったな、亜也子。昔の若のお手付きがどうのと夢見てた頃とは大違いだ」

 

 

「それだけじゃないよ。弧次郎」

 

 

「あ゛?」

 

 

「私ね……巴御前はもう良いの」

 

 

 今の弧次郎の武勇がどれほどの高みにあるかは既に聞いている。

 だが、長尾景忠を退けようと、私だって建武の乱で幾度も武功を上げた。殿様の元で顕家(規格外貴族)の一射を防ぎ、共に名和長年(三木一草の一人)を討った。

 そして、私は当時の何倍も強くなっている。神様になったから。

 

 

「通常、諏訪明神は巫女に降りない。ただ、今の私は身分上は甲賀三郎法師という男でもあるから、神様になれる。甲賀望月家の私が諏訪明神になるの!弧次郎、これって凄い事だと思わない!?」

 

 

「ああ、凄ぇイカれてるわ。千寿丸の神力のせいでな!亜也子!」

 

 

「もうその名前で呼ばないで。それが通るのは殿様だけ!六角家の御先代(佐々木時信様)さえ、動かせない主力の方々の代わりに私を出陣させる時、望月甲賀三郎として事務処理した!弧次郎、あんたも弁えて!」

 

 

「弁えるのはお前の方だぜ?亜也子……」

 

 

「だからァァァァァ!」

 

 

 「四方獣(よものけだもの)」の刃の一つに、地面に転がる北条軍の死体を突き刺して自慢の力で振り回す。昔の父上(望月重信)やあの土岐頼遠(一騎当万)の戦い方を発展させたものだ。昔より成長した弧次郎でも防戦一方になる。今の私は武神だ。土岐頼遠のように戦える。祢津弧次郎(北条軍の猛将)すら圧倒できる。

 飛び散った死体の欠片が幾つも弧次郎の方へ降り、落馬させた。

 

 

「イテテ……くそ、これが神武?頭は守れたが、骨が折れたか」

 

 

「弧次郎、まずはあんたに消えて貰うから」

 

 

「……おい、甲賀三郎さんよ?何が良いのか知らないが、千寿丸なんかの寵愛が欲しいんだって?だったら、あれは良いのかよ?」

 

 

「え?」

 

 

 油断大敵な弧次郎から絶対に目線を切らさないよう注意しつつ、その指先が向けている方を確認した。直ぐ様、私は唖然とした。

 弧次郎と戦っている内に、いつの間にやら後続の尊氏軍本隊が来ていたようだ。殿様はあろう事か、直義と師直という両腕の進言であっさり自身の地位を剥奪した天下人(足利尊氏)に、今なお首っ丈らしい。

 (直義)の目を盗み、蝶がどうと言って手空きの武士たちに声を掛け、名目上威力偵察を目的とする救援部隊を結成した天下人(足利尊氏)の手腕は素直に凄いと思う。ただ、あれは良くない。殿様は馬上の大君(足利尊氏)の手で脇を持ち上げられ、白昼堂々その口に神力を多く注がれていた。

*1
円喜の叔父。古典『太平記』によれば、鎌倉が火の海に包まれた際、息子と共に直属の六百騎で、燃える将軍邸近くの小町口に赴き、義貞軍に幾度も猛攻を仕掛ける。蹴散らされた義貞軍は、素早く若宮小路に退却して休憩したという。




今考えたら甲賀三郎伝説×一寸法師の御伽草子コンボで匿名ネームの三寸法師になっているというミラクル。最初はそんな計算全く無かったんですが、近江の伝説を調べている内に気が付きました。
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