崇永記   作:三寸法師

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◆1

〜1〜

 

 

 貞和三年(西暦1347年)七月中旬以降、俺は賊徒(楠木正行)討伐の準備に追われている。

 佐々木惣領として代々の近江国守護の職務を全うする事こそ我が本分であるが、必要とあらば他国の反乱鎮圧に手を貸すものだ。

 準備の一環として必要文書の作成に勤しむ矢先、近江国の佐々木六角邸が俄かに騒がしくなる。ただ、家人たちの声色は何やら明るいようだ。その理由は、庭に運び込まれた死体にある。俺が僅かに嘆息するや否や、三弟の光綱(六郎)がいつに無く有頂天に声を発した。

 

 

「三郎兄上、ご覧を!とれたてほやほや!熊にござる!」

 

 

「よくやった。光綱……その熊は雄か?」

 

 

「はい!信楽の山に分け入り、この打刀で仕留め申した!」

 

 

「……苦労。約束は約束だ。光綱、お前は狩りにて我が条件を見事果たした。正行(まさつら)征伐への参加を認めよう。退がって休むが良い」

 

 

「御意!」

 

 

 六角時信(亡き先代)の四男坊である弟・光綱(六郎)に労りの言葉を掛け、当主として威厳を示す。弟たちは時代柄、重用すべき郎党だが、当主の俺には子が居ない。必然、弟の誰かを後継代理に据える必要がある。

 そこで俺は兄弟で特段若く、文武のバランスのとれた光綱(六郎)に目をつけた。既に万が一のための諱名「氏泰」も用意している程だ。

 先々に思いを馳せつつ、俺は自室へ戻る。傍らには、とうの昔に甲賀三郎と名乗って久しい法体の元降兵・望月亜也子が健在だ。

 

 

「光綱は今年で齢十三……大乱に備えて合戦の経験を積ませておくのも悪くない。それに、ただの人質目的で京に置くのは惜しいか。本当は母熊を討って欲しかったが、雄熊退治もやはり立派。武芸は俺に及ばずとも、才能は確かだ。戦場経験で一皮剥かせようぞ」

 

 

「殿様。そしたら私は──」

 

 

甲賀三郎(望月亜也子)。前に言った通り、光綱の従軍希望を受け入れる場合、ミマを代わりの人質として京に置いておく。同時にお前の従軍は見合わせる。ミマの護衛だ。三井と共に京の六角邸に詰めるのだ」

 

 

「……分かった」

 

 

 久々の出陣と張り切っていた亜也子だったが、こうとなっては呑んでもらうしかない。ミマは形式上、我が側妾だ。京極家からの人質も同然である。父親(京極道誉)の意思で実家に連れ戻されては敵わない。

 それに佐々木氏(我が一族)は数年ほど前に、亡き二ヶ国守護の塩冶高貞(判官)のような女絡みの離反者を出した前科持ちである。どうにも釈然としないものの、惣領の俺も二の舞を避けるべく注意せざるを得ない。

 

 

「甲賀三郎、いや。亜也子。出陣の機会はまたある。三年以内に幕府で内乱の火種が暴発しよう。さすれば、近江国守護の俺も配下のお前も、壮絶な合戦の渦に飛び込まざるを得なくなるに違いない。その時のため、たかが小勢力の正行(まさつら)との戦で力を出し切る訳には参らんのだ。熊を退治せむと万軍を動かす道理が何処にあろうよ」

 

 

「熊……?」

 

 

「ああ、熊だ。南朝軍なぞ……言ってしまえば、人里に降りてきた熊も同じよ。政権のため、民草のため、有無を言わず確実に成敗しなければならない。しかし、迷惑は迷惑だ。正行(まさつら)めに如何なる復讐の激情があろうと関わり無い。片手間で叩き潰すのみぞ?大事は他に幾らでもある。亜也子、お前は後顧のために温存させてくれ」

 

 

 観応の擾乱という教科書級のビッグイベントが着実に差し迫っている今、正行(まさつら)軍風情に労力を使いたくないのは偽らざる本音だ。

 確かに戦は好きだ。あの血の香りの漂う空間が何とも心地良く、縦横に軍を動かす面白さは、囲碁や将棋にも勝り、武器を持って敵の身体に臨終を告げて回る充実感は、どんな球技より刺激的だ。

 しかしながら、出費という懸念事項は大乱(観応の擾乱)を前に無視できない。

 どんな戦でも銭兵糧や人命という浪費を多かれ少なかれ行わざるを得ないのが道理だ。武将とは戦争屋である。戦争屋という事は、元手を払って成果を得なくてはならない。どれだけの元手が必要なのか不透明な()()()()()が近い以上、出し惜しみは立派な策だ。

 

 

「うん……今は京で刃を研いでおくよ。魅摩の様子に注意を払いながらさ。でもさ、大事を前に殿様が足元を掬われたら嫌だよ?」

 

 

「はン。そんなヘマ、誰がしてやるもんか。此度の討伐軍は、数こそ多くないが、細川、赤松、そして我が六角……これらの大名の擁する精鋭から成る混成部隊だ。寡兵で衆兵を破る事を得意とする楠木党にとって、最も戦い難い陣容と言える。まして楠木党は我らの前に紀伊国守護の畠山国清と戦わねばならん。強いぞ?あれは」

 

 

 後から考えてみても、この時の見立てが然程間違っていたとは思えない。むしろ畠山国清の評に関して、三管領の畠山氏という先世の記憶からの推考を抜きにしても、かなり当たっていた。結論から言えば、畠山国清は……庇番の有望株であった故・斯波家長や上杉憲顕に勝るとも劣らない、関東の王たる資質の持ち主であった。

 しかし、俺は致命的なミスを犯していた。よりにもよって幼馴染の敵将・楠木正行(まさつら)を大幅に過小評価していたのである。戦国時代の真田昌幸が楠木正成に喩えられるなら、()()()()()こと真田幸村(信繁)軍神(楠木正成)の子の楠木正行(まさつら)に喩えられて然るべき。そうした認識を持って合戦に臨むべきであったと、俺は後に激しく後悔する事になる。

 

 

 

 

 

〜2〜

 

 

 

 

 

 結局、父母の逝去があっても、三郎(氏頼)の意思は変わらないようだ。

 未だ性懲りも無く、尊氏様の御息女を正室に迎える絵図を諦めていないらしい。弟の光綱(六郎)をあくまで後継代理とする辺り、三郎(氏頼)の本音が透けて見える。今となっては高望みにも程がある未来が罷り間違って叶った時、光綱(六郎)の継承権を簡単に取り消せるようにするための「代理」だろう。その魂胆は一族郎党の誰の目にも明らかだ。

 本当に将軍御息女が欲しいなら、追討軍総大将であったり河内国や和泉国の守護職であったり、そんな肩書をブタちゃん(細川陸奥守顕氏)から積極的に奪いに行くような危害を見せて貰いたいものと()()()()思う。

 とはいえ、佐々木六角党の結束力はこの期に及んで固いままだ。

 

 

「三郎兄上、守護以外に参陣の武将についてですが」

 

 

「ああ。面白い事に師直(将軍執事)殿配下きっての勇将の──」

 

 

「兄様。その者の腕前は如何程ですか?」

 

 

「ん?定詮、お前以上かもしれんぞ……いや、そんな本気で動揺する事ないだろ。お前の武勇の程は俺が一番よく分かっているぞ」

 

 

 近江国から京に向けての六角党の行軍に従う最中、私は再びの京生活を喜べずにいた。ただただ、ぼけっと目の前の宗家兄弟(三郎たち)の様子を見つめている。どうせ私は京に移っても亜也子たちの監視の元、人質生活を送るだけだ。つまり、今までとほぼ変わらないのだ。

 当代の佐々木四兄弟とは、三郎(氏頼)四郎(直綱)五郎(定詮)六郎(光綱)の事なり。

 女衆の噂によると巷でそう言われているらしい。本当は七郎(氏時)も居るのだが、省かれてしまっているようだ。佐々木氏といえば四兄弟という固定観念の犠牲になったのかもしれない。少し同情する。

 しかし、全く情を覚えるに値しない弟ちゃんも存在する訳で──

 

 

「だから案ずるな。定詮、今度の戦も頼りにしておる」

 

 

「はい!兄様!……おい、京極女!我ら佐々木兄弟に近過ぎるぞ!妾らしく身の程を弁え、もっと離れて歩け!ですよね、兄様!」

 

 

「全くだ。次弟・定詮は我が意をよく汲んでおる」

 

 

「〜〜〜!!兄様、そのお言葉。嬉しゅうございます!」

 

 

「ッ……!」

 

 

 惣領次弟の山内定詮(五郎)は、長兄の三郎(氏頼)に負けず劣らず頭がどうかしている。何を隠そう、反京極家筆頭と言える存在なのだ。その嫁はまともだが、彼女の目のない京への移動ともなると、定詮(山内五郎)は私への反感を露骨に表してきた。三郎(氏頼)の同意で益々調子に乗っている。

 定詮(五郎)は既に継承権を手放して久しく、六角家とは別の姓を名乗っている。にも拘わらず、己は今も京極家より格上と言いたげだ。

 今に見ていろ。私は歯軋りしたくなる感情を抑えて、こう思うばかりだ。何も定詮(山内五郎)だけでない。他の六角党たちにしてもそうだ。

 

 

「ん?光綱、皆のポー、ごほん。指の構えは何ぞ?」

 

 

「エンガチョです……ご存知ありませんでしたか?」

 

 

「うむ。自慢ではないが、中指だけの構えしか知ら……ん。親指だけとか小指だけもか……それと親指と中指を同時に立ててだな」

 

 

「……本当にご存知ないとは。三郎兄上、お察しを。まず──」

 

 

「……いつ迄やんだよ、コイツら

 

 

 西国の名門の嫡流……庶子ではない真性の元お坊ちゃんの三郎(氏頼)が世俗を知るための時間のせいで、空気が弛緩している。だが、六角党の面々は依然として、大概が魔除けの構えを私に向けていた。

 一応、目賀田衆のような、身内に京極家の郎党がいる者たちは、構えを控えている。とはいえ、総じて六角党の眼は、鬼気迫る程に厳つい。佐々木惣領に仕える武士としての誇りのせいか、庶流ながらに成長著しい京極家への反感で纏まっているようにも見える。

 こうも嘴、というより指を揃えられたら、親父(京極道誉)に訴えて報復するぞという脅し文句は益々(ますます)使えそうにない。元々、親父(京極道誉)は六角家における私への仕打ちに無関心を装い続けているようなのだ。今更この程度で動く腹黒坊主ではない。娘の私が誰よりよく知っている。

 危機感のカケラも無いらしい三郎(氏頼)は……呑気な口振りのままだ。

 

 

「しっかし、エンガチョとやら。どこかで見たような気もするぞ」

 

 

「兄様、絵詞にあるような……信西法師の生首を想念なさいませ」

 

 

 定詮(山内五郎)が言っているのは、『平治物語絵詞』の一幕だろう。頭がおかしい割に、こうしたところで教養があるのだからタチが悪い。

 一方、当主の三郎(氏頼)は、次弟(山内定詮)の助言でやっと得心したらしかった。

 佐々木氏嫡流という西国武将でもきっての貴種として、あたかも下々の風習より教養で説明された方が察しがつくと言いたげだ。

 

 

「ああ、アレか?お前ら意外と俗っぽいな……ま、我が一族は別格の存在だ。まして嫡流の六角家はそこらの野次馬に非ず。そのエンガチョとやら、京ではやるなよ?寺社と揉めるのとは訳が違う」

 

 

「は、はい……三郎兄上がそう仰るなら」

 

 

「……定詮も、右に同じく」

 

 

 当たり前だが、三郎(氏頼)は決して側妾の私を庇っている訳ではない。

 自分の配下が公家たちから、絵詞において穢れを避けるべく信西(藤原通憲)に手印を向けた野次馬共と同等に見られる事を避けたいだけだ。

 現に私の様子を全く気に留めず、三郎(氏頼)は楽しそうに声を張った。

 

 

「他の皆も聞いておったな?さあ!いざ京だ!西国の武家らしく、凛々しく参ろうぞ!此度の討伐軍の武将を見渡しても、家柄で俺に並ぶ武将は誰一人として居らぬ!佐々木源氏の威厳を示さん!」

 

 

「「「は!」」」

 

 

「……はァ」

 

 

 こんな連中、今に三郎(氏頼)の足を引っ張って、大切な御当主の自尊心を傷付けるに違いない。その時こそ私が巻き返す絶好機だろう。

 次の佐々木惣領の母となり、誰も彼もを見返そう。そう決意を固めてから心に余裕ができた。三郎(氏頼)の一挙手一投足に、決して手弱女みたく動揺せず、むしろ俯瞰する事ができている。少しでも隙が生じてしまえばこっちのものだ。即刻つけ込んで虜にしてみせる。

 自信あっての婆娑羅。私はそう己に言い聞かせながら久方ぶりの京に入る。いつの間にやら六角党の行列の後方に移されていた。

 

 

 

 

 

〜3〜

 

 

 

 

 

 貞和三年(西暦1347年)八月に入り、京の足利政権は緊迫感を募らせつつある。

 九日になって、副将軍の直義から山城国や近江国の武士たちに正式な催促状が送付された。南方の敵兵どもを鎮撫すべしと。総責任者は従四位下の豚カツ(細川顕氏)であった。紀伊国守護の畠山国清(阿波守)、摂津国守護の赤松範資(信濃守)、そして近江国守護の俺がこれを支えるのである。

 出陣直前、俺たち討伐軍の武将は、京の将軍邸で拝謁を賜った。

 

 

「既に国清(畠山阿波守)は南に駐屯し、楠木軍の動静を窺っております。紀伊国の山々では危ない故、摂河泉に誘い込むよう命じました。平地戦に持ち込み、数千騎の精鋭で正行(まさつら)以下を殲滅する戦略にございます」

 

 

「うむ。明らかに楠木軍残党の狙いは、昔年の軍神の戦術を踏襲して人心を集める事にある。紀伊国で全面衝突すれば、万が一の際、取り返しがつかぬ程、敵軍は勢いを増すだろう。直義。戦の方略については、お前と師直に任せた。この戦、我の望みはただ一つ」

 

 

 近頃は命鶴丸をはじめ寵童たちを侍らせ、往々に田楽三昧の尊氏様だが、その神才は全く衰えていない。ものの見事に正行(まさつら)の考えを看破しているようだ。正行(まさつら)の考えとは、要は二番煎じである。

 軍神と呼ばれた父親(楠木正成)の行軍履歴に倣おうというものだ。生前の正成は打倒鎌倉幕府を志し、二度目の挙兵で紀伊国から北上した。

 今度は息子(楠木正行)が同じ戦略を用い、足利氏を滅ぼすのでは。そう万民に思わせ、討幕の機運を作ろうとでも(南朝)は考えているのだろう。

 

 

「たとえ楠木党がかつての力を取り戻していたとしても、小勢である事には変わりない。彼らに近国を侵略され、洛中の人々がこれを畏れていては、天下人としても武将としても……これ以上なく恥ずかしく思う。急ぎ武将に敵を退治させ、人心の動揺を防ぐのだ」

 

 

「どうか御安心を。繰り返しになりますが、幕府でも五本の指に入る名将の顕氏(陸奥守)、新政以前から父・円心殿に従って百戦錬磨の範資(信濃守)、更に兄上の烏帽子子にして、幕府の若手で武勇最強の氏頼(大夫判官)。北朝有数の武将たちが今より下向し、敵に備えます。もしもこれで負けるような事があれば、不可思議としか言いようがございません」

 

 

 この人選は決して直義の独断によるものではない。守護未満の武将には師直派の代表格の一人の赤松貞範(範資の弟)に加え、執事(師直)直属部隊でも最強を噂される安保直実(肥前守)も居る。つまり、討伐軍は幕府において、直義派と師直派の垣根を越えて編成された精鋭部隊という事だ。

 弱将のレッテルがコンプレックスの直義も、今回ばかりは自信が顔に漲っている。一方、師直は相変わらずの仏頂面だ。道誉もいつも通り、顔面をドス黒く染め上げている。直義派と師直派の諍いも今はまだ、尊氏様の面前で大っぴらにする事ではないのだろう。

 場は解散となり、尊氏様や直義・師直の二人は退室した。その姿が見えなくなるまで待ってから、武将たちが各々離席する。途中、俺は道誉に声を掛けられた。上洛直後に挨拶されて以来である。

 

 

「宗家。此度の討伐軍の陣容、如何思われますか?」

 

 

「……概ね妥当かと。それが何か?」

 

 

「いえ……てっきり副将扱いに不服かと思いましたもので」

 

 

 瞬間、俺の双眸が険しくなる。急所を鋭く突いてくれたものだ。

 移動しようとしていた周囲の武将たちの注意が集まっているのを感じる。弟の定詮(山内五郎)に控えておけと視線で命じ、豚カツ(細川顕氏)には巧く収めると頷きだけで表した。そう、この戦の北朝総大将は豚カツ(細川顕氏)だ。

 豚カツ(細川顕氏)は元が足利氏の庶流でも下の部類とはいえ、数々の軍功を挙げて、今や従四位下の身だ。しかも合戦予定地の守護である。

 近江国守護の俺が、他国の戦で従四位下の守護大名の指揮下に入る事に異を唱えるつもりない。妥当だからだ……理屈の上では。

 

 

「そんな事はござらぬが……道誉殿。俺が不服に思うと事前に考えておられたのであれば、どうして幕府の詮議の場で懸念を申しておかなかったのか。よもや何かしらの魂胆あってのお振舞いか?」

 

 

「まさか……拙僧は、尊氏様の烏帽子子としての宗家の誇りを重々承っております。ですが、加冠で賜りし御約束に拘りなさるなら、(たと)え謁見の場でも御覚悟の程をお見せして頂きたかった次第にて」

 

 

「道誉殿。公私混同は本意ではない。不愉快だ。失礼する」

 

 

 俺は道誉に釘を刺す。戦を前に私事を持ち出し、御公儀を混乱させるべきではないと。庶流の武将が惣領の意思に口を挟むなと。

 前に六角邸で挨拶された時、先代(六角時信)の葬儀以来となる(ミマ)の姿を見て存外ガタガタ言われなかったとそのまま帰した。だが、よもや出陣直前にこんな興醒めな話を、将軍邸でされるとは思わなかった。

 実に身の程知らずだ。そもそも豚カツ(細川顕氏)が火急の際に他国の大名を統率できる格の武将になって久しいではないか。生前の時信(先代当主)も隠居済みだったとはいえ、大和国の西阿討伐のために、豚カツ(細川顕氏)の指揮下に入った。今更、庶流の道誉にあれこれ言われる筋合いはない。

 俺は憤慨し、あからさまにご機嫌斜めでバッと直垂を着崩した。

 

 

「おや、六角殿。暑くないのかと思っていたが、流石に……え゛」

 

 

範資(信濃守)殿?どうされた?」

 

 

 空気を悪くしたくないと思ったのか、摂津国守護の範資(赤松信濃守)に話し掛けられた。寒暖自体は、神力でどうにでもなるので問題はない。

 しかし、範資(赤松信濃守)は鎧に視線を遣った途端、()()()()()()になった。

 

 

「六角殿……その鎧は一体……?公私混同にも程が……」

 

 

「ああ、これは元服の折、尊氏様から賜った──」

 

 

「「それを着て戦場に行くなァ!」」

 

 

 不審な範資(赤松信濃守)に教えんとした矢先、ドタバタ音と共に怒鳴られる。

 振り返ってみると、尊氏様に従って移動した筈の両派閥の長たちが激しく息をしながら睨みを効かせていた。この十年は常日頃机仕事の直義(副将軍)と、既に老将の部類の師直(将軍執事)という両雄の共演であった。

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