崇永記   作:三寸法師

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▲4

〜1〜

 

 

 元弘三年五月下旬、鎌倉近郊稲村ヶ崎。京極家の令嬢である魅摩は父親である道誉と共に、突如潮が引いて浅くなった海をここぞとばかりに進む新田軍を見下ろしていた。

 

 

「よくやった魅摩。これなら新田だけでも北条を滅ぼせよう」

 

 

「大したことはしてないよ。父上」

 

 

 指先に宿った光を魅摩はジッと見つめる。以前、焼け落ちた仏閣の敷地において宿した力は微かなものだ。しかし、工夫次第では人智を超えた領域にある事象を引き起こせる。

 目の前で新田軍が意気揚々と通る浅瀬が良い例である。史書には決して残ることはないだろうが、他でもない魅摩の神力によって北条政権は来る筈のなかった場所から不意打ちを受け、百年以上もの栄華に終止符を打つことになる。

 

 

「帰ろ。父上」

 

 

「おや、あと一日もあれば高時たち得宗家の亡骸が見れるのに。栄華を極めた者たちの哀れな末路だ」

 

 

「いいよ、そんなの。ねぇ、そんなことより千くんは今頃どうしてるかな?暗殺とかされてなきゃ良いんだけど」

 

 

「心配ないさ。当分の間……京に後醍醐先帝が戻り、体制が定まるまでは、足利軍で保護される手筈になっている。時信が全てを悟ったとしても、おいそれとは手を出せまい」

 

 

「そ。良かった」

 

 

 かくして足利高氏や赤松円心らによる六波羅探題陥落から約二週間後、鎌倉幕府最後の得宗である高時は北条家菩提寺の東勝寺にて一族や郎党八百余名と共に自害した。

 

 

「これより貴方様を……我が領地信濃諏訪にてお匿いまする」

 

 

「どうしてここに?」

 

 

 長らく傀儡とされてきた高時の最後の計らいによって、嫡子時行は諏訪頼重の手引きによって燃え盛る東勝寺の中から脱出。

 一週間後、時行の兄であり庶子の邦時が伯父である五大院宗繁の裏切りに遭い、義貞の執事船田義昌によって処刑される。

 

 

「私は必ず鎌倉(ここ)に帰る。そして、全ての元凶足利を倒す!」

 

 

 祢津弧次郎ら新たな郎党たちの助力を得て、自らの手で兄の仇である宗繁の首を斬り落とした時行は鎌倉を脱出し、頼重の本拠地である諏訪に身を潜めた。

 そして二年後。諏訪軍の力を大いに借りて宿敵・小笠原貞宗を破り、その勢いで足利直義の勢力を関東より撃退した時行は故郷である鎌倉へと帰還した。

 

 

「我々が出会った鎌倉は……ここですか?」

 

 

鎌倉だ……鎌倉だ……大好きな鎌倉だ」

 

 

 鎌倉奪還の過程における損耗は激しく、軍の再編や統治の実施を行う必要に迫られた北条軍主力は関東に留まった。

 その間、時行は頼重や郎党たちと共に故郷を巡った。兼好法師や岡崎正宗などと再会し、(シイナ)という女武者とも知り合った。

 

 

 しかし、平穏な日々は続かない。

 

 

 建武二年八月三日夜。出陣を翌日に控えた北条軍先鋒大将である名越高邦は十分に気力の充実した豪傑や知将と共に、頑丈な造りで雨風を凌げる鎌倉大仏殿に宿泊していた。

 自分たちの宿が、かつて稲村ヶ崎で鎌倉滅亡の引き金を引いた二人に見下ろされているとも知らずに。

 

 

「二年前、千寿丸殿が西で六波羅の栄光を散華させ、お前は東で鎌倉の北条を終わらせた。さぁ、魅摩。今度はお前の神力で天下を狙う時行軍の出端を挫こう」

 

 

「若ちゃん。液状になったあんたを見せて」

 

 

 普段と異なる黒い衣装に身を包んだ魅摩が自らに宿る力を構えた手よりゆっくりと解放した。烈風の勢いは何倍にも増幅し、堅牢である筈の大仏殿の建物が激しく軋んだ。

 そして遂に、火事でも地震でもなく、名越の将兵すら異常だと叫ぶほどの大風によって大仏殿は瞬く間に崩壊した。

 

 

「雫!本当にあっちに魅摩が居るんだな!?」

 

 

「間違いない。この気配は魅摩ちゃんのもの」

 

 

 急ぎ軽装に着替えた逃若党は雫の案内に従い、崩れ落ちた大仏殿と目の鼻の先にある山を急いで登った。

 果たして巫女である雫が言った通り、京で出会いし一期一会の友人だった魅摩の姿がそこにはあった。

 

 

「嘘だろ。雫。あれを魅摩がやったって?」

 

 

「……魅摩ちゃん」

 

 

「魅摩殿」

 

 

 魅摩の尋常でない雰囲気からして、大仏殿倒壊という前代未聞の大事を魅摩が引き起こしたのだと時行たちは嫌でも実感した。

 一方、戸惑う時行たちにまるで肥溜めでも見るかのような視線を送るばかりであった魅摩とは違い、父親の道誉は自ら敵前に姿を現した時行の胆力に口角を上げた。

 

 

相模次郎(時行)殿。お久しゅう。拙僧のこと、覚えておられますかな?」

 

 

「貴殿は……まさか」

 

 

「ふふっ。前にお父上のお屋敷でご挨拶を。先日は娘や宗家が大変仲良くして頂いたとか」

 

 

「娘!?てことは、あんたがあの佐々木道誉!?」

 

 

「……祢津小次郎殿ですな?その名は轟いている。兆若党でも一、二を争う勇者であり、先日は渋川殿を討ち取ったと」

 

 

 西国武士ながら道誉は稀代の謀略家と言われるだけあって耳が早い。その天下無双と呼べる不敵な笑みに時行たちは慄いた。

 父親と時行たちのやり取りを聞き、興が冷めたのか魅摩が眉尻を下げて儚げな笑みを浮かべた。

 

 

「若ちゃん。今はまだ殺さないでおいてあげる。それが三郎の望みだから」

 

 

「……魅摩殿」

 

 

「だけど、戦に勝つのは私たち。北条時行、あんたはせいぜい三郎の出世のため、その首を洗っておけば良いさ」

 

 

「魅摩。お前っ……!」

 

 

 敵方なのは承知の上だが、魅摩の時行に対する物言いは鎌倉武士ならではマインドを持つ弧次郎にとって看過し難い。

 反射的に手に持つ刀の束に手を掛けたが、魅摩は殺気立った弧次郎の態度に全く動じることなく背中を見せた。

 

 

(魅摩(こいつ)は危険だ!今のうちに消しておかねぇと!)

 

 

「待て!弧次郎!」

 

 

 風向きをはじめとする気象現象は戦の行方を左右する要素の一つであり、実際に兵法においても重視されがちである。

 つまるところ、魅摩は敵としては一人の豪傑より余程恐れて然るべき存在なのだ。

 佐々木氏宗家当主である千寿丸への配慮を理由とする躊躇など微塵もなく、自ら刀で魅摩を斬らんとする弧次郎は先日、主人の危機と見れば元仲間であろうと容赦無く斬ると正宗のお墨付きを得たばかりである。

 今ここで魅摩の首を切り飛ばすため必殺の一撃を繰り出すと決めた弧次郎の耳に時行本人の制止は届かなかった。

 

 

 しかし──

 

 

「ふんッ!」

 

 

「ぐはッ……!」

 

 

 ガラ空きとなった魅摩の背中に向けて今にも刀を振り下ろそうとした弧次郎に対し、一瞬で彼の背後に回り込んだ道誉による拳の一閃が舞い降りた。

 あまりの威力をもろに喰らった弧次郎は一瞬で気絶する。

 

 

 勿論、吹雪不在の逃若党にとっての最大戦力である弧次郎があっさり戦闘不能に追い込まれたことによって、時行たちが受けた衝撃の大きさは計り知れない。

 

 

「先代宗家には及ばぬものの、これでも拙僧は武勇誉れ高い佐々木一族の端くれ。この程度は訳ないよ」

 

 

「……!若様、下がって!」

 

 

 気を失った弧次郎の右手首を片足で押さえながらも不敵の笑みを見せる道誉に対し、亜也子が鎌倉で得た新しい武器である正宗作の四方獣を構えた。

 弧次郎と吹雪を当てにできない今、亜也子が一人でどうにかするしかない。例え相手が尊氏勢力において師直に匹敵し得る主力格である佐々木道誉だったとしてもである。

 

 

「どうする?父上。時行本人ならいざ知らず、その郎党は別に殺っちゃっても問題ないんじゃない?」

 

 

 逃若党の面々をどう対処するか魅摩に問われ、決死の形相の亜也子が手に持つ得物を見た道誉は撤退を口にした。

 逃すものかと獲物を握る手を強張らせた亜也子に対し、後背を突かれることを避けるべく魅摩は更に強い風を吹かす。あまりの勢いに逃若党の面々は身動きが取れない。

 

 

「じゃあね、北条時行。三郎がその気になったら、いつでも私はあんたを殺しに来るよ」

 

 

「……」

 

 

 帰り際に毅然と言い放つ魅摩の剣幕により、風圧に晒されて髪を靡かせた時行は気圧される。

 一方、魅摩と同じ神力使いである雫の淡い瞳はじっと彼女の様子を捕捉し続けていた。

 

 

 

 

 

 

〜2〜

 

 

 

 

 

 あまりにもタイミングの悪い鎌倉大仏殿倒壊は北条軍にとっては痛恨の一撃である。崩れた屋根が金属で出来た大仏像の頭部に突き破られている様は、痛々しさで溢れていた。

 

 

「頼重殿。大仏殿は鎌倉の象徴とも言うべき存在。足利と戦う前に倒れたとなっては、士気がどうなることか」

 

 

「……士気については諏訪大社前大祝(トップ)の私が祈祷を行えば、ある程度は取り戻せます。しかし、それ以上に問題なのが──」

 

 

「名越軍の良将たちの多くが死亡または重症を負ったことですな」

 

 

 元々、六千騎で参軍した名越邦時は迫る足利軍に対する先鋒部隊を編成するにあたり、天野家をはじめとする北条一族の者たちを加え、三万騎以上の大軍で出陣する予定であった。

 その中核を為すべき人材の大半が戦闘不能に陥ったことは質と量の両方を兼ね備えた足利軍を迎撃するにあたり、あまりにも大きな痛手であった。

 

 

「雫の話によると、京極道誉とその娘の魅摩が昨晩この鎌倉に来ていたようです。してやられました」

 

 

「道誉め……思えば昔から胡散臭いヤツだった。佐々木一族においては分流とはいえ、惣領の千寿丸は幼い。ヤツ相手ではやはり抑えが効かぬか」

 

 

 ここまでの戦いで温存されていた有能な将たちと大兵力を抱えた名越を危険な敵と見做し、最優先で潰すべきであるとする道誉の考えは当たっていた。

 高時の遺児である時行を担ぎつつ、北条軍の実質的な指揮を担う立場にある頼重と泰家は、今や文字通りの不測の事態に対処する必要に迫られていた。

 

 

「此度の戦、恐らく六角は頼れません」

 

 

「……何を言う?あれだけの見返りを約束したのだ。相応の働きをして貰わねば、割りに合わぬぞ」

 

 

「どうにも京極は我々北条軍と宗家六角の繋がりを知っていたようです。そこに、昨夜の一件です」

 

 

「となると、京極だけでなく足利も……」

 

 

「否定は出来ません。いずれにせよ、我々の状況はお世辞にも良いと言えたものではないでしょう」

 

 

 言葉こそ極めて冷静だが、頼重は当座の情勢が良くないどころか最悪とさえ言えるものだと承知している。

 しかし、軍の大将として大勢の命を預かる者は軽々に泣き言を口にしてはならないものだ。その点は頼重よりもむしろ泰家の方が身に沁みて知っていた。

 

 

「今は六角にばかり構ってはおられん。今こうしている間にも足利軍は関東に向かっているだろう。如何にする?」

 

 

「方針を変えるつもりはありません。名越様はこのような状況においても将兵を鼓舞し、前線で砦を築くべく出陣致しました。追って三浦勢も箱根の山中に布陣するため出立する手筈です」

 

 

「うむ……何としてでも彼らには足利の大軍を削って貰わねば」

 

 

 頼重たちの想定において、直義救援を急ぐ尊氏軍は五万以上の大軍を擁しているものとされている。

 北条軍はまず手始めに東海道にある複数の要所に名越軍による砦を建造し、敵軍の兵力を削り取り、箱根の三浦軍は険しい山々の各所に伏兵を置き、足利に壊滅的被害を与えようとしていた。

 

 

 言うまでもなく、名越軍や三浦軍の動向は"天狗"の知るところである。そして、天狗が得た情報は遠からず彼らを管理する足利家執事高師直に伝えられるのだ。

 

 

──八月八日 三河国矢作宿

 

 

 菜箸を持った師直が、本陣において軍議のために使われている部屋で広げられた地図の上に豆を置いている。

 軍議に参加する者全てが食い入るように豆を見ていた。

 

 

「北条軍先鋒は名越高邦。ヤツが率いる三万余騎が遠江駿河一帯にかけて四つの要害に別れて布陣している。これらと箱根の砦を合わせた計五つの砦で我らを仕留めようという腹らしい」

 

 

「どうやら時行は敵味方の実力差というものをよく分かっておらぬ様子ですな。名越ごとき、一捻りで片付けてくれましょう」

 

 

「時行ではないでしょう。泰家が二十万の軍勢を率いながら新田に敗れるような戦下手であることを考えると、北条軍の采配を担っているのは諏訪頼重に相違ありません」

 

 

 少なくとも表向きは官軍として東征している足利軍で開かれた軍議には外様の武将も招かれている。

 例えば、総大将尊氏直筆の書状による要請を受諾した赤松円心の元から派遣された赤松貞範である。円心の次男坊である彼は勇将としての働きを期待されていた。

 

 

 また、言うまでもなく陰ながら大仏殿崩壊による名越軍弱体化を実現させた道誉も参加している。陣中においては漢の陳平のような参謀としての役割を期待されているようであった。

 そして、京極家当主以外にも佐々木一族から乱鎮圧のための軍議に参加している者がもう一人。

 

 

(名越か。あいつとは二年前の戦で会ったきりだったが、戦場で相見えることもあるだろうか)

 

 

 かつての六波羅軍主力格だった大夫判官時信の嫡男として現在は六角家の当主の座にある千寿丸は、かつてを思い出して少しばかり気分を害した。

 一方、同じく軍議に参加していた孫二郎は、六角家当主として討伐軍総大将の尊氏にかなり近い場所に座る千寿丸と違い、庇番における同僚である上杉憲顕や吉良満義と並び、車座の中心にある地図からかなり離れた末席に居た。

 直義麾下の軍での軍師を担っていた身でありながらである。

 

 

『六角近江三郎殿、並びに斯波孫二郎殿が来られました』

 

 

『うむ。千寿丸、師泰と道誉殿の間に座ると良い』

 

 

『!?……承知しました。尊氏様』

 

 

 軍議においては主座に座る尊氏の席の両隣を実弟である直義と執事である師直が固めている。

 直義に連なる列には、孫二郎の父親である高経の他、足利一族として知られる細川家や今川家といった家の当主たちが座っている。

 一方、師直及び師泰の側の列には、千寿丸や道誉の佐々木氏以外にも円心の代理である赤松範貞や一際図体の大きい土岐頼遠といった足利一族でない者たちが固めている。

 概ねは師直が尊氏の執事として決めた配置であり、細かな箇所を直義が修正し、尊氏が承認した結果がこれである。

 

 

「孫二郎。そなたは久米川、女影原、小手指ヶ原とここに居る誰よりも頼重の軍と対峙して来た筈だな。頼重の采配をどう見る?」

 

 

「……的確です。定石を押さえつつ、時行やその直臣たちの若い力を見事に引き出し、奇策によって劣勢を勝ちに転じます」

 

 

 父親である高経からの問い掛けに対し、孫二郎は平素よりの自信に溢れた口の利き方を控え、一人の知将としての見解を示した。

 この一皮剥けた孫二郎の物言いに、直義や上杉憲顕といった気心知れた者たちは感嘆の息を漏らした。

 

 

「奇策……ということは頼重は鎌倉を出て我らを迎え撃つつもりだろうか?鎌倉に篭っていては奇策には走れまい」

 

 

「北条軍に援軍の見込みがない以上、鎌倉に立て篭もるということは先ずあり得んでしょうな」

 

 

「おそらく名越が東海道の各所で時間を稼ぐ間に、幕府復活を十分に喧伝し終えた本軍が鎌倉を出立し、箱根にて三浦軍と合流。然る後、伏兵によって決着を着けるつもりでは?」

 

 

 足利一門の重鎮である細川、父円心の采配を知る貞範、大江広元*1の系譜を受け継ぐ長井が次々とそれぞれの考えを披露した。

 

 

「関係ない。立ち塞がる敵は屠るのみだ」

 

 

「土岐殿……むざむざ敵の術中に嵌るのは如何なものかと」

 

 

 呆れた顔の長井に嗜められている武将こそ、後に人知を超えた伝説を残すこととなる土岐頼遠である。

 常人より五回りは大きいだろうかというガタイの良さや頰当てと兜の隙間から光る眼光の奇怪さは、各地の伝承に出てくる鬼もかくやという程だった。

 

 

「長井殿。大戦に小細工は無用だ。却って事を仕損じる」

 

 

「……それはそうかも知れんが」

 

 

「各々方。少し……時間宜しいか?」

 

 

 意外にも文官仕事を得意とする長井が、傍目にも明らかな武断派武将である頼遠に言いくるめられたところで、やっと六角の当主である千寿丸が口を開いた。

 ある者は幼さに似合わない落ち着いた口調に瞠目し、また別の者は何を言うつもりなのかと耳をそば立てた。

 

 

「六角殿。如何した?」

 

 

「これをご覧頂きたい」

 

 

 自らの鎧とその下に着る衣装の隙間に手を掛け、懐からいそいそと書状を取り出す千寿丸の挙動に諸将の視線が集まる。

 衆目を微塵も介すことなく、千寿丸は軍議に出席する者たちの面前で手に持った書状を掲げて見せた。

 

 

「……千寿丸殿。それは?」

 

 

「よくぞ聞いてくれました、高経殿。これは諏訪頼重から私宛てに届いた密書にございます」

 

 

 後に六角氏頼として名を馳せ、とある上級貴族や『太平記』の作者からも絶賛されることになるこの少年には癖がある。晩年になっても治らぬ生来の癖。すなわち、飛び込み癖である。

 自軍より遥かに数で勝る敵と戦う時、主君にとって最凶の敵と対峙した時、神輿を担いだ僧兵たちが御所に押し寄せた時、六角氏頼は犠牲を恐れず果敢に災禍の中心へと突っ込んだ。

 

 

 初めて公に千寿丸が飛び込んだ今、諸将たちは皆一斉に思った。

 

 

(((何故今それを言う……?)))

 

 

 諸将たちがこぞって疑問を抱き、佐々木一族である道誉ですら眉を顰める中、足利軍の中核を成す直義や師直、そして総大将である尊氏が真っ直ぐに千寿丸が提示した書状を見据えていた。

*1
鎌倉幕府初代政所別当




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