崇永記   作:三寸法師

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最近、ネット検索したところ、六角氏頼が1383年に開基したとかいう寺の情報が出てきました。これが本当にあった怖い話……?


◆13

〜1〜

 

 

 山中道俊に属している甲賀出身の忍びたちは今回の戦で、京極一族の黒田宗満や普段は足利家の郎党として働く武士たちが数多く参陣していることから、ごく一般的な偵察兵の振りをしている。

 宇多源氏の後胤で、日本全国でも指折りの武家の名門である六角佐々木家の当主の座にある俺はそうした忍びたちが偵察地より持って帰った情報を聞き、忸怩たる思いに駆られていた。

 

 

宇都宮勢(紀清両党)の離脱は実に喜ばしい。だが、北畠顕家の軍勢が印岐志呂宮から進路を変え、支那浜方面へ向かっただと……」

 

 

「殿。支那浜と申せば、近江国でも屈指の湖港があります。もしかすると、北畠軍は数日前に後醍醐の帝が拠られた叡山周辺、それも坂本の辺りまで、船で移動するつもりかもしれません」

 

 

「馬淵。では尋ねるが、北畠軍は宇都宮勢(紀清両党)を欠いた今でも五万は下らない数を誇る大軍だ。それ程の人員を対岸に渡すためには、一体どれ程の船と日数が必要だ?ざっと見積もってみてくれ」

 

 

 六角家の郎党たちの中でも筆頭格である馬淵義綱は日頃、近江国の守護代として、幼君である俺を献身的に支えている。

 馬淵を古の人物に喩えるのであれば、俺は真っ先に高祖劉邦の帝業成就に大きく貢献した漢の三傑の一人である蕭何を挙げる。

 要するに、馬淵は飛び抜けて優れた内政の才を持っているのだ。

 

 

「先にも申し上げました通り、支那浜の港は当国屈指で、停泊している船は数多ございます。公家の北畠親子なら、官軍の威を誇示することで、支那浜にある船を悉く奪い取ることは容易い筈です」

 

 

「続けよ」

 

 

「どんなに作業が緩慢でも、支那浜と坂本を往復し続ければ、十万騎の軍勢と言えど、三日で渡し終えることが出来ます。ただ、もし北畠親子が奥州統治に見合う優秀な執事を伴っているのなら、本日中にも全ての作業を完了させることも有るやもしれませぬ」

 

 

「……何たる事だ」

 

 

 もし北畠軍が何事も無く支那浜から渡航し、坂本に辿り着いてしまえば、この先の戦は一体どうなるのだろうか。

 端的に言えば、顕家対策のために我ら佐々木六角の払った犠牲が全て灰燼に帰してしまうだろう。新田軍や楠木軍と合流した北畠軍は坂本で、疲れ切った兵馬に十分な休息を取らせる筈だ。

 今の足利軍は二十万騎以上と言えど、軍神と呼ばれる名将の楠木正成を擁し、要害に籠った宮方への強攻は簡単ではない。

 この上、全快した北畠顕家の軍が加われば、幾ら足利軍に所属する将たちが多士済々と言っても、間違いなく不利だろう。

 新田義貞、楠木正成、北畠顕家。この三者を決して一堂に会させてはならないと、己の直感がこれ以上ない警鐘を鳴らしていた。

 

 

「これでは、昨日死んだ我が郎党たちは一体何のために死んだのか分からんではないか。あり得ない。顕家軍に損害を与えるため、俺はどれだけの忠義に溢れる郎党たちの命を代償にした?勝利に繋げられたなら、胸を張れたが、手に入れられる筈だった成果が露と消えた今、俺は彼らの家族にどうやって顔を合わせれば良い?」

 

 

「殿……」

 

 

 強く震えた俺は重臣の一人である青地氏重をはじめ、昨日の戦で死んだ者たちの顔や名前を次々と思い出していた。

 そうした中で、一人の武将が口を開いた。京極軍を率い、俺の指揮下に入った円熟の感のある知将の黒田宗満である。

 

 

「成る程、これか……」

 

 

「……何が()()()なのです?先生。斯様な折に」

 

 

「失礼しました。ですが、宗家。思い出してくだされ。ここ直近の京方の動静を。どうして敵はあんなにもあっさり尊氏様に首都たる京を譲り渡すことにしたのか。仮に、軍神と謳われる楠木正成が考案した誘引策だとして、新田勢に三木一草を合わせても、五万に届くかどうかという敵の兵力……いずれ引き返して来るであろう東山道軍を頼みとするにせよ、どうしても限界があるのではないかと訝しんでおりましたが、今ようやく合点がいきました」

 

 

「先生。まさか今回の顕家軍の西進は楠木正成の勘定の内だと?」

 

 

「お察しの通りです。楠木正成は一つの物事に拘るような人物ではありませぬ。あえて京を捨て、坂本を拠点に、西に叡山、東に琵琶湖という地の利を活かし、二十万騎を超える多勢の足利軍の攻撃に備えつつ、顕家軍が遠方より来たるを待っていたのでしょう」

 

 

「……そうであれば、支那浜では大軍を渡すための準備が楠木党によって行われているだろうな。洞院実世はともかく、遥か遠い奥州の北畠顕家を頼みの綱とした楠木正成の方略が武家方の諸将全ての読みを上回ったということか。無論、この俺も例外ではない」

 

 

 青天の霹靂とはまさにこのことだろうか。幼君の俺が六角家の当主として今できる最善をと力を尽くしてきたつもりが、所詮は軍神の掌の上で踊っていただけに過ぎなかったらしい。

 もはや乾いた笑いしか出てこない。ひとしきり笑った後、俺は改めて悲痛な面持ちをしている六角家の重臣たちに向き合った。

 

 

「見ての通りだ。我が策は破れ、危急存亡の時を迎えようとしていた筈の敵方に、新田義貞、楠木正成、そして北畠顕家という当代の英傑たちが今にも集結しようとしている。軍神・楠木正成の策略が徐々に身を結ぼうとしているのだ。楠木正成は後世にも広く名を轟かせる名将中の名将。この戦、簡単には終わらず、荒れると見た」

 

 

「「「……」」」

 

 

 南北朝時代の武将たちの中で、二十一世紀に生きていた頃の俺が具体的な逸話を伴う形で名将だと聞いた覚えがあるのは稲村ヶ崎の海岸線に目を付けて鎌倉を地獄の炎で包み込んだ新田義貞と千早城で鎌倉幕府の大軍を引き付けた楠木正成ぐらいである。

 実際には魅摩の神力に裏で手助けされていたらしい新田義貞はこの際置いておくとして、楠木正成という武将の名前は戦国時代の名将の真田昌幸を称賛する際、引き合いに出されていた筈だ。

 ならば、楠木正成はただで転ばないだろう。織田信長に攻められた武田勝頼に岩櫃城行きを提言したという昌幸の姿と、尊氏様に攻められたヒゲ親父に坂本臨幸を勧めたであろう正成の姿が、今の俺には重なって見える。まして今の大覚寺統は遥か遠方の奥州から馳せ参じた北畠顕家の大軍の助けを得ようとしているのだ。

 

 

「されど、皆の者。この近江三郎、六角千寿丸はこのままで済ますつもりは毛頭ない。まだ手はある。敵はこれまで以上に連合軍の様相を呈しようとしている。間諜が入り込む余地も増えような」

 

 

「……間諜」

 

 

「だが、今から送り込めるなら苦労はしない。そこでだ。目賀田に命ずる。精鋭五百騎を選抜せよ。この千寿丸自らその者たちを率いて敵の目を惹きつけ、撹乱するうちに、比較的訛りの緩い関東勢に間諜たちを紛れ込ませる。それこそが新たなる勝利への道だ」

 

 

「「!?!?」」

 

 

 驚きを露わにする六角家の重臣たちの反応を見て、やはりそうだろうなと俺は心の内で溢した。正直なところ、間諜を送り込むということのために今更突撃を仕掛けるくらいなら、佐々木城を攻められた昨夜のうちに実施しておくべきだったからだ。

 ただ、あの時は顕家が支那浜を使った渡航策により、勢多の師直軍や園城寺の細川軍をスキップするとは想定していなかった。

 ならば、もう仕方がない。源氏による武家社会の実現のためを思えば。今更だろうが、このまま敵の勝ち筋を見過ごすより、軍神による策を崩すバグを敵に植え付けることを優先すべきだろう。

 それも、ただ植え付けようとするだけでは駄目だ。昨夜の忍びに扮した甲賀忍軍棟梁の山中道俊による命懸けの六角時信救出劇を目撃した北畠軍は忍びへの警戒を強めているに違いないからだ。

 

 

「殿。顕家の弓はかつて見た小笠原殿の弓にも匹敵すると、聞いたことがございます。もし本当にそうであれば、この目賀田も殿をお守りし切れるとは限りません。あまりに危険が過ぎます」

 

 

「危険は承知の上だ。命は惜しまぬ。目賀田よ。昨日の俺と今日の俺とでは見ているものが違うのだ。尊氏様に髪をお切り頂きたいという我儘のために、敵の勝ち筋を放置するのは本望に非ず。たとえ単騎であろうと、俺は敵に向かって行くぞ。俺の戦死時には無理矢理にでも先代を引き摺り出して、軍の差配を一手に担わせよ」

 

 

「……どうやら殿は決死の覚悟を固めておられるようですな」

 

 

「左様。源氏の大業のためなら、この命。惜しくない」

 

 

 死を一心に定めることを断言した当主の俺に対し、皆は顔を見合わせた。とはいえ、何だかんだでこのまま従ってくれるだろう。

 だが、その読みは奇しくも外れることになる。佐々木一族の長老格と人々に目されている黒田宗満が口を開いたのである。

 

 

「宗家。ご提案しても?」

 

 

「……先生。何でしょうか」

 

 

「折角、宗家が命をお賭けになるのです。ならば、たかだか間諜のためと言わず、いっそ全軍で敵将を狙ってみては如何でしょう?」

 

 

「!?……何と」

 

 

 老練さを漂わせる好好爺の黒田宗満とは思えない勇壮な発言に俺は目を見開いた。予想通り、六角家の重臣たちも困惑している。

 だが、黒田宗満が瞬時に考えついたという顕家を滅ぼすに至るために辿るべき道筋を披露した時、俺は強く決心していた。

 そして、六角軍は再び追走し始める。数多くの足利兵を含めた皆が騎乗する俺の掲げた伝家の名刀である「綱切」の放つ光に照らされ、北畠顕家の軍勢を捉えるべく、西へ西へと進んでいった。

 

 

 

 

 

〜2〜

 

 

 

 

 

 守山から一気呵成に、北畠顕家に従う武士たちが続々と大船に乗り込んでいる支那浜の港を捉えた俺は大きく息を吸い込んだ。

 もしかすると、顕家は真っ先に船に乗り、一分一秒でも早く坂本の地を踏むため、既に支那浜を後にしているかもしれない。

 だが、それでもこの突撃にはやる価値がある。紛れも無い大軍である北畠軍の姿を補足した今、俺がやるべきは本来であれば足利軍として働くべき武士たちを改めてその気にさせることだろう。

 

 

「顕家軍は疲弊し、騎兵による戦は望むべくも非ず!我らは敵に比べ寡兵と言えど、勝機は十分!顕家の首を獲った者には尊氏様が幾つもの荘園を与えてくださるだろう!たとえ死すとも、相応の手当てを惜しみなく出してくださるのが尊氏様だ!まずは弱卒を狙い、既に乗船のために乱れている敵の隊列を更に突き崩せ!」

 

 

「「「応!!!」」」

 

 

 紅蓮槍は衆目を引く眩い朱皆の槍で、俺の手によく馴染む。

 昨夜てんやわんやの脱出のうちに、佐々木城に忘れたが、敵を撹乱させる効果のある天狗衆の姿に化け、先代を救出した山中道俊が手を回したことにより、既に俺の元に戻ってきていたのだ。

 紅蓮槍を握った俺は腕を大きく翳し、兵を鼓舞した。

 

 

「神は我らと共に在り!いざ、突撃ィィィ!!」

 

 

「「「うおおおおお!!!」」」

 

 

 渡航準備備中の北畠軍は外周こそ敵の襲来に備える形になっていたものの、俺に言わせれば、張りぼても同然である。

 予想通り、新たな土地の獲得という餌に目が眩んだ足利方の武士たちの勢いは凄まじく、今にも大遠征に終止符が打たれると心に隙を生じさせていたであろう奥州武士たちの防壁を突き破った。

 

 

「弱卒の首は無用だ!押し退けて、敵の布陣を掻き回せ!そうしていれば、程なく大将首がお前たちの前に姿を表すぞ!」

 

 

「そら、者共!掛かれ!掛かれ!」

 

 

「宗家の御命に従うのだ!電光石火の速攻こそ彼の御方の本領!得意中の得意!江州の王者・佐々木の意地を敵に見せてやれ!」

 

 

 敵を蹴散らしていく最中、俺はおよそ一月前に見たさる武将の勇姿を思い出していた。すなわち、敵方にいる武将たちの中でも屈指の実力者にして、後世にも名高い新田義貞である。

 あの色黒の武将は緻密な思考こそ持ち合わせていないが、無双の武力と戦場で発揮する直感は敵ながら目を見張るものがある。

 箱根で目撃した手元に残った五百騎のみで、十万以上の大軍の包囲を突き破る様は一人の武将として手本にすべきだろう。

 

 

「美濃部!」

 

 

「は」

 

 

「此度の戦、俺の安全は気にせんで良い!道俊の手助けを!」

 

 

「……承知!」

 

 

 あくまで次善の策として、間諜もとい甲賀忍軍のメンバーを顕家に従軍している新田党に紛れ込ませる手筈になっている。

 言語や文化の事情から、関東武士は薩摩隼人とは別ベクトルで訛りの強い奥州武士に比べれば、格好の潜入工作の対象で、顕家の坂本到着を契機に、敵の数が一気に増えるのであれば、その難易度は却って遥かに低下するというものだろう。

 つまり、渡航を完全に阻止することが困難であれば、いっそのこと北畠軍の敵本軍への合流を逆手に取ろうという魂胆だった。

 

 

「殿!」

 

 

「道俊、首尾は!?」

 

 

「申し訳ありません。関東勢は既に多くが乗船し、人員の目標数を達成するには難しい状況です。また、事前の見立て通り、奥州武士たちは言葉をはじめあまりにアクが強過ぎ、我々では潜入させるに相応しい人材に欠く始末……次善策は不首尾に終わりそうです」

 

 

「致し方ない。だが、次善策"は"……か」

 

 

 あくまでも本命は別にある。そのことを念頭に置いた俺は敵の弱点を次から次へと嗅ぎ分け、各部隊のリーダー格に指示を飛ばし、正真正銘の六角党を率いる時ほどでなくとも、大軍であるが故の動かしにくさに嵌った敵を上回る機動力を実現させ、攻めに徹した。

 そして、遂に北畠軍が大規模な動きを見せ始める。

 

 

「!?」

 

 

「殿、これは……」

 

 

「さぁ、皆!喜べ!遂に大将首のお出ましだ!」

 

 

 離れていても中核部隊だと分かる程の精強な武士たちが、大軍の中を分け入って進む俺たち目掛け、近付いてくる。

 また、それと同時に疲労が祟って突き崩されるばかりだった敵の雑兵たちが一斉に、湾岸の方へ駆け出し、逃げて行った。

 

 

「北畠顕家……!!」

 

 

「あれが噂の。成る程、確かによく目立つ」

 

 

「殿、顕家はあの距離から矢を射る気です。仮に小笠原殿と同等の実力なら、あそこからでも矢が届きます。殿、我々が先行を」

 

 

「必要ない!初めから覚悟の上ぞ。むしろ……大将たる俺の方に敵の目を引き付ける!それが我々の勝利への糸口となろう!」

 

 

 高揚感と共に顕家の本隊との距離を縮めた俺は噂に違わぬ煌びやかさの顕家が弓を構えると同時に、紅蓮槍を地面に突き刺し、金切り声を上げ、腰に差していた太刀を抜いた。今こそ、天下に広く知られた名刀「綱切」がその真価を発揮する時である。

 

 

『宗家。宗家はその「綱切」の謂れ。しかとご承知でしょうか』

 

 

『無論です。誰でも知っています。かの宇治川合戦、()()の高綱公と麿()()の梶原景季の心踊る先陣争いに由来するのでしょう?』

 

 

『ええ、まさしく。では、その前は?』

 

 

 信綱以来の佐々木一族の嫡流が受け継いできた「綱切」は源氏と平家の熾烈な争いが繰り広げられていた頃、謂わゆる佐々木四兄弟の一人で、信綱の叔父に当たる高綱の手にあった。

 名馬「生食」に乗り、名刀「綱切」を手に持つという天下最高の備えで戦に臨んだ佐々木高綱の獅子奮迅の活躍は今の時代、少し学のある者であれば、誰もが知っているであろう有名な故事である。

 

 

「宇治川合戦にて、景季公に先んじた高綱公の宇治川の先陣譚はこの刀を切れ味鋭く、えらく頑丈な()()たらしめた……が、宇治川の戦いが起こるまで、この刀は()()とは別の名前を持っていた!」

 

 

── 佐々木源氏重代太刀「面影(綱切)

 

 

「源為義公が佩刀であった()()よ!!今こそ、源氏の正当後継者に天下を齎らす我がために、余す所なく真価を発揮せよ!朋友たちを加護する光で照らし、仇敵どもを破滅に誘う光で焦がせ!」

 

 

 北畠顕家から感じられるオーラさえ、俺の振るう「綱切」もといかつての源為義の佩刀であった「面影」の前には無意味だ。

 尊氏様に思いを巡らし、俺は刀を握り締める。為義の猶子兼娘婿の秀義を通じ、佐々木一族に縁深いものとなった名刀に、神にも通じる力を漲らせた。竹下での戦の最中に与えられたあの弓のお陰だろうか。感覚頼りにならざるを得ないが、ある程度要領は分かる。

 錆を知らない刀は傾いた太陽の光を強く反射した。源氏による武家社会の再臨のため、刀の側面から発せられる眩い()が、弓を引き絞って訝しみながら狙いを定めていた北畠顕家の目を焼いた。

 

 

「ッ……!」

 

 

「ぐっ!な、何だ!?目がチカチカする」

 

 

「??……一体何が」

 

 

「عيني عيني----!!!」

 

 

 顔を顰めた顕家の放った弓は俺の顔から数十cmほど上空へと逸れていく。ただ、人智を超えた弓に特有とはいえ、想定外の強烈な衝撃波の威力を直に感じたことで、冷や汗を掻かざるを得ない。

 だが、むしろ面白い。また、戦場に立った将が死の恐怖に喘ぐようなことがあっては話にならない。響めく味方の武士たちを勇気付けるべく、俺はありったけの声と共に、刀を正面に振り翳した。

 

 

「者ども!真なる王に身命を捧げた我が前に、蛮族どもの姫の如き貴族が恐れをなした!千載一遇の好機を逃すな!討ち取れぃ!」

 

 

「「「応!!!」」」

 

 

 源氏の天下を目指す血気盛んな武士たちによる突撃に対し、奥州武士たちが盾になろうと立ち塞がったが、もはや我々の勢いを止めることは天下に居並ぶ武将たちの誰にだって出来やしないだろう。

 残り幾許もせずに、北畠顕家の首が獲れる。深く息を吸って吐いた俺は「綱切」を鞘に収め、再び紅蓮槍を持って馬を走らせた。




この作品では南部師行の台詞においてアラビア文字を便宜的に使用しています。最もそれっぽい文字だと感じましたもので。
そう言えば、原作で通訳の人って結局……
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