崇永記   作:三寸法師

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来月発売の新刊の表紙、我が好みに夜襲の如く……という冗句は別にして、まさに古典的なヒール役の高兄弟の魅力と来たら。


◆3

〜1〜

 

 

 坂本にいる敵軍の状況の変化に合わせて帰京し、尊氏様との謁見を今さっき終えたばかりの俺は同じ佐々木一族の子で、昨年末頃より婚約者となった魅摩とおよそ二週間近く振りに顔を合わせた。

 わざわざ陣の外にまで出迎えに来た健気なところからも、魅摩はどこぞの肉食執事の言うような露出狂染みた格好で、博打に明るいという令嬢として玉に瑕なところは目に付くが、依然として尊氏様の側に居座る父親の道誉と違い、性根自体は好ましく思える。

 ただし、そんな魅摩が婚約相手というだけでなく、一族の惣領という立場にある俺のことをどう思っているのかはまた別の話だ。

 

 

「何で亜也子には神力を渡せて、私には渡せないのさ。私、今まで再三あんたに言ったでしょ。その膨大な神力、はよ寄越せって」

 

 

「それはあくまで俺が神力の存在を認める前の話だろ?当世に神秘があることを認識した今の俺に死角はない。換言すれば、俺も今や立派な神力の使い手。現に、怪我をしても神力があれば、あっという間に回復するのに、むざむざお前にくれてやる義理はない」

 

 

 箱根や竹下の合戦の後、重鎮として一族内でも多大な存在感を持つ道誉の無理な主張によって婚約することになった俺と魅摩の仲は鎌倉幕府が健在だった頃にまで遡る。つまり、幼馴染なのだ。

 しかし、建武政権になって暫く、魅摩は折に触れて神力を譲れなどと言うようになった。ただ自らの力を強化したいというよりも、ごく稀に先のコト(史実)を漏らすくらいでしか、神力持ちの片鱗を見せることがなく、あまつさえ信仰心の無さ故か、神力について見識を欠いていた俺に歯痒い思いを抱いていたのが主な原因だろう。

 にも関わらず、今更過ぎる要求とは一体どのような心境によるものなのか。どうにも測りかねたが、そこに拘っても意味がない。

 

 

「俺は相模川、浄明光寺、更に竹下で尊氏様の神威に触れ、佐々木城の戦を生き延び、分かったんだ。俺が力を持ってこの世に生まれてきたのは偏にあの御方を天下に推し上げ、武家の花が満開になって咲き誇る栄光の三代将軍にお繋ぎ申すため。尊氏様への想い(信仰)を胸に抱いた六角の当主として、佐々木の惣領として、俺は……」

 

 

「で、亜也子に神力を渡した理由は?」

 

 

「……理由も何も、偶発的な事故。以上だ」

 

 

「はぁ?」

 

 

 面白くなそうな顔をして、俺の心中の告白などまるで興味がないらしい魅摩はさて置き、昨夜一種の誓約の儀のような形で指を伝う俺の血を舐め取らせたことで、便女の亜也子の身体に意図せず宿った神力はやはり微量だとしか思えない。せいぜい師冬と同程度だ。

 この分だと、魅摩が納得し得るだけの量の神力を彼女に譲り渡そうとすれば、どうなるか。答えは簡単だ。俺の失血死である。

 無論、そんな結末は不承知である。大陸から元軍が久方振りに攻めて来て、船団を壊滅させる必要が生じたならば、まだしもだ。

 

 

「亜也子に聞いてもイマイチ要領得ないし、ひょっとして偶発的な事故ってのは、何か私に聞かれたらマズいことしてた時の事故だったとか?例えば……陣中でこっそり二人でヤってる最中に」

 

 

「は!?俺、今数えで十一歳だし、勝手に人を岩松扱いすな!」

 

 

「……岩松?馬淵のおっさんと甲賀に布陣してるって云う?」

 

 

「すまん、今言った岩松は頼宥(それ)の兄弟。去年の乱で亜也子の父親と師、違う。吹雪の連携の前に死んだとかいう奴の名前が誤って反射的に出てしまった……しかし、あの岩松経家(猫耳男)ももう過去の人か」

 

 

 下劣な人間というのはどこにでも居るものだが、その手の典型例の岩松経家は中先代の乱の戦死者の一人となった関東庇番衆の二番組筆頭である。世間的には討幕時に足利家と新田家の橋渡しを担ったことで有名な人物である筈なのだが、今となっては昔の話だ。

 そう言えば、討幕時に鎌倉で確保しまくった末に、妾にしたと経家が得意げに語っていた北条家の関係者の妻だの娘だのは今頃どうなっているのだろうか。考えても仕方のないことなのだが。

 

 

「取り敢えず、その岩松ってのが、あんたの趣味に合わない奴ってのは分かったわ……ま、そういうヤツは今のご時世、幾らでも居ると思うけど。つか、あんたが浮世離れし過ぎてるような気が」

 

 

「そいつはもう性分だ。諦めろ」

 

 

「けど、あんたも元北条党の亜也子とヤったからには、その岩松某を扱き下ろすのは筋違いってもんでしょ。気持ち良かった?」

 

 

「だから、ヤってねぇって!全く!」

 

 

 再会して早々の魅摩のあまりの言い様に憤慨した俺は何事かと瞠目してくる佐々木の兵たちに手で下がれと合図しつつ、惣領のために用意された最奥の間へと入っていく。仮にも戦時中なのだ。

 奥州産の軍馬たちが回復し、北畠軍が本領を発揮できる時期まで敵も軽々しく動けないだろうが、かと言って戯れている訳にもいかないだろう。要は油断大敵である。立場が立場なのだから尚更だ。

 

 

「亜也子は居るか!?」

 

 

「殿様、ここに!」

 

 

 前と変わらず、亜也子は六角家の当主付きの便女を務めている。

 だだ、少々異なる点もある。養父の元で精力的に働いている師冬とはまた別のベクトルで気力に満ちた様子であり、少し前まで感じ取れていた未熟さと一線を画したある種の艶まで漂わせていた。

 

 

「もう十分に休んだな?この後、俺は高貞殿や道誉殿と夕食の席を設ける。亜也子、お前は我が便女として伊庭に仔細の確認を」

 

 

「はい!では、早速行って参ります」

 

 

「ああ、任せた」

 

 

本当にただの端女か?これ……私に仕切らせろっつの

 

 

「聞こえてんぞ、お前。分かるだろ?ただの食事の席に非ずだ」

 

 

 日が暮れた頃には、足利軍の参謀と化している道誉も改めて惣領の俺と顔を合わせることになっている。他の分家の有力者である塩冶高貞も含めて、今後の方針について共有する場が必要なのだ。

 戦はまだまだ終わっていない。新田義貞、楠木正成、北畠顕家といった天下に名を馳せる強敵たちを如何にして討ち取るか。

 結局のところ、俺の頭の中にあるのは尊氏様のお作りになる政権に従う六角家の当主として何をすべきか、その一点のみだった。

 

 

 

 

 

〜2〜

 

 

 

 

 

 京極家、塩冶家、そして我が六角家という高名な佐々木一族の武家の当主たちが膝を突き合わせ、大事を語ろうとしている。

 しかし、それに水を差す知らせがあった。京極家当主の道誉が足利軍での用事のために少しばかり遅れるというのである。

 

 

「はぁ、それはまた。道誉殿は尊氏様(鎌倉殿)のところで、甚く頼りにされておられるようで……宗家?宗家!……如何されました?」

 

 

「ああ、いや。何でもない。我らは先に食べてしまおう。高貞殿」

 

 

「はい、宗家。そうしましょう」

 

 

 同族の武将で出雲国や隠岐国の守護職を兼ねる塩冶高貞は言わずと知れた実力者である。好ましい男振りだが、優れた武勇は足利一族の武将たちでも匹敵する者はそう何人も居ないだろう。

 幼齢ながら一族の惣領を務める俺とは高貞の妻(顔世御前)を含め、懇意にしているが、竹下での塩冶軍の後醍醐方から足利方への転身を機に、これまで以上に深まった交わりが出来ているように思えた。

 

 

「時に高貞殿。顔世殿のことだが」

 

 

「お気遣いありがとうございます。ただ、ご安心ください。既に宗家の重臣の伊庭殿より、今の情勢で身柄を動かすのは却って妻の身を危険に晒しかねないとお言付けを確かに承っております」

 

 

「……済まないな。水銀然りで商才すら備えた楠木正成に腕利きの間諜を使っている疑いがある以上、下手に移動させれば、万が一ということが有り得る。京も落ち着くのはまだ当分先だろうしな」

 

 

「はい。知っての通り、顔世は京でも比類ない絶世の美女。畿内に百年に一度の動乱の気配が渦巻いている中、人目に晒したくはありません。宗家、くれぐれも顔世をよろしくお願い致します」

 

 

 一見したところでは、妻思いの良い夫だが、高貞は少々常軌を逸している。というのも、箱根から畿内への長距離の行軍の経験が証明しているのだが、一日に一回は夫人に言及しておかないと落ち着きを失ってしまうのが言葉にせずとも、見え透いているのだ。

 しかも、分家の高貞の方から言うと体裁が悪いので、惣領の俺の方からしっかり言い含めておかないといけない。一日一回だ。

 本音を言えば、少し面倒なのだが、妻に生じるであろう危険よりも本家筋の六角家、ひいては源氏の大業への協力を優先して旗色を変えてくれた高貞の心中を思えば、何でもないことである。

 

 

「勿論だ。竹下で我らに味方してくれたこと。一族の惣領として感謝している。尊氏様への口利き含めて、十分に便宜を図らさせて貰うつもりだ。俺と道誉殿がいる限り、塩冶家は安泰であろう」

 

 

「ありがとうございます。宗家、これで肩が軽くなりました」

 

 

「高貞殿の奥方思いには感心させられる……いや、本当に」

 

 

「宗家。ここだけの話ですが、私が憂慮していたのは顔世のこと以外にもあるのです。既に宗家もお聞き及びのこととは存じますが、立花殿の御最期。あれがどうにも心に引っ掛かっておりまして」

 

 

「立花殿?……ああ、大友貞載殿のことか。偽装投降した結城親光の狂刃によって、不幸にもお亡くなりになったとか何とか」

 

 

 筑前国にあるという立花山城に因み、立花姓を称していたと聞く貞載は幼い弟の大友家当主(大友千代松丸)を補佐していたが、竹下で塩冶軍に続く形で突如として尊氏様に賛同し、脇屋軍を攻撃した武将である。

 その後も足利軍に従軍していたのだが、偽装投降で不遜にも尊氏様の暗殺を図った結城親光の殺意に気付いたばかりに、相討ちという形で周りにいた足利方の兵たち共々死んだという話である。

 

 

「親光は首だけになっても周囲の兵たちの腑を食い破ったらしいとかいう何とも妙な冗談を師冬殿がしていたが……いや、今ここで大切なのは三木一草の一人の親光ではあるまいな。俺も高貞殿の不安の種を察したぞ。どうやら大友(立花)殿の御最期、裏がありそうだ」

 

 

「はい。道誉殿から聞かされたのです。立花殿は元々、親光の投降が偽りであると見抜いた尊氏様の指示で、監視役として傍に付いていたところ、計画失敗を悟って自棄になった親光に討たれたと」

 

 

「……思った通りだ」

 

 

 東海道を進軍中の不自然な休息をはじめ、中先代の乱が終わってより勘が鈍っているように思われた尊氏様だったが、やはり本当に天下人の資格を持った御仁だ。偽装投降を見破る辺り、新田義貞という平野での戦が他の者より出来るだけの野獣と趣が異なる。

 しかし、それが裏目に出てしまったようだ。降将の大友貞載の命を犠牲に凶刃を免れたが、貞載とほぼ同じタイミングで脇屋軍から足利軍に鞍替えした勇将の塩冶高貞に不安を抱かせてしまった。

 

 

「しかし、いや……」

 

 

「宗家、何か気になる点がございましたか?」

 

 

「……道誉殿に試されたな。高貞殿」

 

 

「!?」

 

 

 正直なところ、尊氏様の意図があってのことかは分からないが、足利軍でも謀略家として重宝されている腹黒い道誉のことだ。

 貞載と親光の一件によって、塩冶高貞の心中が再び敵方に傾くのではないかと疑い、話を吹き込んで確かめてみたのだろう。

 

 

「宗家は常々、道誉殿の脅威に晒されているのではないかと憚りながら心配し申し上げていましたが……こういうところですか」

 

 

「さぁてな。確かなのは奴の腹黒さのお陰で、佐々木一族は今日に至るまで贅沢な日々を甘受出来たということだ。俺としても残り十五年と少しはあの謀略上手に生きていて貰わねば困ってしまう」

 

 

 少なくとも魅摩を通じて佐々木氏惣領の舅、ひいては次期惣領の外祖父という餌を道誉に与え続けている限り、高師直と足利直義の対立によって生じる観応の擾乱で万一俺が処世を誤ったとしても、あの腹黒坊主は六角家を盛り立てていこうと尽力するだろう。

 と言うより、そのために有益な男だと見込んだからこそ、俺は魅摩との婚約に思うところがありながらも、承諾したのだ。

 

 

「なぁ、高貞殿。お前の目には俺の婚約者になった京極魅摩(アレの娘)はどう映る?果たして、佐々木惣領の妻としてやっていけると思うか?」

 

 

「……さしてお話する機会もございませんでしたので、確たることは分かりませんが、能力的には間違いないでしょう。教養にしろ、実務にしろ、年齢離れしたものを感じると以前、顔世も褒めておりました。無論、齢のことなら、宗家も御同様とは存じますが」

 

 

「俺の話は良いわ。大体、少年武将なら北条時行(中先代)とかいうのが居ただろう?あ、これは尊氏様の前では禁句な。かなり腹を立てておられる御様子だったから……それにしても、道誉殿はいつ参られることやら。いつの間にか、膳の上のもの、全部食べてしもたわ」

 

 

 もう夜も更けてきてそれなりに経つ。余程、足利での軍議が踊っているのだろうか。いや、道誉という俄か坊主は超一流の謀略家であると同時に、かなり年季のある筋金入りの遊び人でもある。

 これで白拍子との戯れのために遅れたとでも抜かしたら、惣領として如何に落とし前を付けてくれよう。人を呼び、膳のお替わりを要求した俺は立ち上がり、敵が犇めく北東に見える空を睨んだ。

 

 

 

 

 

〜3〜

 

 

 

 

 

 翌々日の早朝。朝早くに起きた俺は便女の亜也子と共に稽古をしている。昼間は他家の武士たちとの連携の確認作業があるのは言うに及ばずだが、陣中で暇を持て余す魅摩が起きている間は何かにつけて彼女への対応になりがちなので、こうした時間を使うのだ。

 稽古の途中、亜也子と同じく、水分補給をするため手を止めた俺は竹筒に入った茶で口を潤し、戯れに嘆きの言葉を漏らした。

 

 

「それにしても、昨日の目覚めは本当に生きた心地がしなかった」

 

 

「あぁ……うっかり寝ちゃったと思って起きてみたら、魅摩と同じ褥で横になってて、しかも凄いガン見されてたんだっけ?」

 

 

「そうだ。それも、俺が寝落ちした頃合いに、尊氏様との猿楽舞見物が思ったより長引いたとかいう理由で、盛大に遅刻して来たヤツの差し金でな。もう俺は何が起こったのか訳が分からんかった」

 

 

 全く度し難い話だが、あの腹黒坊主が遅刻は不味いと慌てて顔を出したところ、俺が着席したまま寝ていたので、精強な六角党の制止を押し退けてまで、強引に自ら抱き抱えて運び、娘が寝ているところに安置しておいたと云うのだ。あまりにも気味が悪い。

 まして、居合わせた者によれば、道誉は帰陣して間も無く涙を流し始め、そうした奇行に走ったらしいのだから、尚更である。

 しかし、亜也子の反応は意外にもあっさりしたものだった。

 

 

「お詫びのつもりだったんじゃないの?道誉様は。ほら、自分のせいで惣領の殿様に無理させてしまったから、どうぞ娘を好きにしてくださいみたいな。丁度、二人は婚約してる訳だし、お早めに」

 

 

「んなアホな。実の娘にそんなことを強いる訳……ヤバい、否定できない。道誉(アレ)は梟雄。非道を征くことにかけては俺の比ではない。そもそも、魅摩(あいつ)は本当にそれで良いのか?仮にも姫君だろうにさ」

 

 

「どうだろ。殿様に夜這いされたって思ったとか?」

 

 

「……最悪過ぎる」

 

 

「まぁ、でも。もし私が父上にそんな無理矢理くっ付けるようなことされたら怒るかなァ。今じゃ絶対あり得ないことなんだけど」

 

 

「望月重信だっけか?そう言えば、洞院軍は鎌倉を出発してからも勢力を膨張させているらしいな。今では二万騎と専らの噂だ」

 

 

 昨夜改めて行われた佐々木一族の武家同士の膝の突き合わせが思い出される。道誉は首を捻っていたのだ。洞院軍に従った信濃国の武士たちの間に、名のある諏訪神党の姿が混じっていることに。

 曰く、信濃国守護の小笠原貞宗に指示した筈の諏訪神党を無力化するための策の実行が間に合わなかった可能性があると云う。

 

 

「殿様。父上が相手でも、私は遠慮せずに戦うよ」

 

 

「そう言うと思った」

 

 

「手を抜いて戦ったら、逆に父上に怒られちゃうもん。父娘で戦うなんて滅多にないことだしさ。あの保元の乱でもないのに」

 

 

「安心しろ、亜也子。実を言えば、俺も跡を継ぐ前、父上(先代)に隠れて利敵行為をやっていたことがある。思う存分、殺っちまえ」

 

 

「うん。殿様の家来になった姿、しっかりと見せなきゃね」

 

 

 鎌倉時代末期に道誉伝いに、こっそり足利軍に誼を通じたという実績のある俺に影響されているのだろうか。亜也子の目には躊躇いというものが一切見えず、むしろ張り切っている様子である。

 伝え聞くところによれば、洞院軍が畿内に到着するのは今月の二十日前後になる見込みだという。園城寺(三井寺)の細川勢によって陸路は既に封鎖されているため、恐らく敵は北畠軍と同じくまたしても船も琵琶湖を渡らせ、合流させる気だろう。しかし、である。

 

 

「命あらば、俺が魅摩を連れて琵琶湖に出撃する。道誉殿は尊氏様の傍を離れず、名代で息子を俺に寄越す気らしいからな。大丈夫、二万騎の船団程度、あいつならきっと簡単に沈める筈さ。お前と望月家本家当主殿の対戦の芽は消えて無くなるかも分からんぞ」

 

 

「えっ。でも、魅摩って去年、大仏殿を倒壊させた後、確か……」

 

 

「殿!大変です。急ぎの報告が」

 

 

「美濃部!?今度は一体何事だ?」

 

 

 ほんの数日前にも慌てて報告を持って来た美濃部が今度は何とも精の出ることに、早朝から主君の俺の元へ駆け寄って来る。

 本来なら京極や塩冶と同じ陣営で望ましくない行為だが、他の武士たちが大方寝静まっている時分なのだから、まぁ良いだろう。

 

 

「大津方面よりの急報です。敵の大攻勢が始まりました。関東残留組の合流で五万騎以上に膨れ上がった新田軍、殿の計略に嵌ってもなお二万五千騎はいる北畠軍。勿論、楠木軍や千葉軍なども加わっておりますが、他にも比叡山の僧兵二万騎。総勢十万騎以上の敵軍が動き出し、園城寺(三井寺)やその背後の逢坂山の御味方を狙う構えだと」

 

 

「……早過ぎる。奥州軍の馬はまだ全快には程遠かろうに」

 

 

 呆然として呟いた俺の計算は大きな狂いを見せている。園城寺(三井寺)で兵力を大きく増強し、六万騎にまでなった細川軍の他、園城寺(三井寺)とは目と鼻の先にある逢坂山において要害の設営に励み始めていた師直軍の二万騎で、敵の総攻撃を相手に一体どこまで耐え凌げるか。

 本日の日付は一月十六日。天下の英雄たちが織り成す大戦の第一ラウンドが繰り広げられる日はまだ始まったばかりであった。

以下に挙げた武将たちであれば誰が好きですか?

  • 高師泰
  • 細川顕氏
  • 仁木義長
  • 佐々木道誉
  • 赤松円心
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