崇永記   作:三寸法師

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最近、京都周辺の地図と睨めっこする時間が多くなっています。


▲4

〜1〜

 

 

 坂東一の弓取りと謳われた宇都宮公綱たち紀清両党の加入で気を良くしたのか、『太平記』に記されるほど甘く見ていた足利尊氏の予想に反し、新田義貞、楠木正成、北畠顕家らの名将たちを擁する官軍と園城寺(三井寺)の細川軍の合戦は一月十六日の早朝に始まった。

 半日程度で決着を迎えたこの攻防で特に目立ったのは新田義貞に仕える武将で、総じて四天王と呼ばれる実力者たちであった。

 

 

「ええい!三井寺の僧兵どもめ、余計なことを!細川なんぞに力を貸しおって。折角、誘い出した奴らが寺に戻り、すっかり守勢ではないか。誰ぞ、敵の防御を破り、斬り込む者はおらぬのか!?」

 

 

「脇屋様。我ら前軍一万五千騎は前哨戦の影響で、明らかに乱れております。ここは四天王たちに状況を打開させてみては如何かと」

 

 

「……堀口の進言、一理あるな。畑らに伝令を出せ!出撃だ!」

 

 

「は!」

 

 

 先月の竹下の戦で佐々木一族の術中に嵌まりながらも、途中で態勢を立て直して以降、一時は尊氏らの大軍を相手に互角の戦ぶりを演じたことで、将としての名を上げていた脇屋義助が命じた。

 一方、園城寺(三井寺)に立て篭もる細川軍は橋を引き上げ、堀を活かした見事な守りの構えを見せている。しかし、義貞の弟に当たる義助に突撃を命じられた新田四天王にとっては些細なことであった。

 

 

「全ての橋板が外され、あるのは橋桁。堀の深さはおおよそ二丈といったところか。定石通りかもしれないが、卒都婆を放置したのは失敗だったな、細川軍め。烏獲*1や樊噲*2、当国なら泉親衡*3や朝比奈義秀*4か……こうした今なお語り継がれる伝説的な豪傑たちすら目でない我らと戦うというのに、何と無防備であることよ」

 

 

「栗生殿の大口はともかく、畑殿らは後ろから兵を率いて続いてくだされ。まずは栗生殿とこの篠塚があそこの塚にある大きさ抜群の卒都婆を橋桁に掛け、味方を渡す仮の橋をお作り致します故に」

 

 

「お二方、かたじけない」

 

 

 四天王たちの活躍により、細川頼春、細川顕氏、細川定禅といった武将たちが立て篭もる園城寺は遂に陥落した。自害者が続出し、方向感覚を失って逃げ惑う中国や四国出身の兵たちは数知れず。

 俵藤太こと藤原秀郷に縁ありという鐘が焼失し、本尊さえもが首を取られるという園城寺(三井寺)にとって何とも無惨な結末が訪れた。

 

 

「何だ、この惨状は?野蛮であると度々揶揄される奥州武士(我が獣ども)でも、ここまではやらないぞ。全く呆れたものよ。自分たちが朝廷方の軍だという自覚はないのか?坂東武者にしろ、山法師にしろ……」

 

 

「顕家卿。本日は人馬共に疲労困憊というのに御足労頂き、かたじけのうござる!顕家卿御自ら奥州勢を率い、細川軍を上手く寺から誘引されたからこそ、湖畔や高台の伏兵が効果覿面。序盤での我が方の優勢が確定し申した。後は東坂本に戻り、お休みくだされ」

 

 

「そうさせて貰おう、楠木。しかし、返す返すも口惜しいのは佐々木六角よ。近江国での人馬への損害さえなくば、この後の戦にも加われたものを。確かに、元より急な上洛で疲労が蓄積していたが、現状では細川軍と戦うので精一杯。暫し休まねば、到底保たん」

 

 

 古典『太平記』には、細川軍との戦の前の官軍の諸将たちによる軍議について記述があるが、さしもの北畠顕家も奥州から坂本までの進軍で自軍の兵馬に現れた疲弊の色を無視できず、京の足利軍との決戦の前には最低限の休養が必要だとの見解を示したという。

 しかし、大舘氏明(幸氏の兄)の積極果断な速攻論に新田義貞や楠木正成らが賛同し、官位の上では彼らより遥か上の北畠顕家も最終的には共闘するため、園城寺(三井寺)を拠点とした細川軍との戦に身を投じたのだ。

 

 

「そう気になさいますな。この後の戦は新田殿の領分。拙者や山法師も参加しませぬ故……本当の決戦は洞院卿のご到着を待ってからという取り決めでござる。近江国での雪辱を晴らす機会もきっとござるよ。現在、六角千寿丸は京で羽を休めているとの話でござる」

 

 

「千寿丸か……足利方の守護とはいえ、あのような子どもを高貴なる余が敵とみなすことになるとはな。だが、敵となったからには、必ずやギッタギタに御ぶちのめし、這いつくばらせるのみよ」

 

 

「頼もしい限りでござりますな。近江国では千寿丸が龍神の化身だとして、領内の人々に密かに崇められていると聞くも、十分な休息で万全の状態を取り戻した顕家卿の前には決して敵いますまい」

 

 

「龍神……?ああ、赤龍の子と謳われた高祖の猿真似か」

 

 

 高祖、すなわち前漢の初代皇帝である劉邦の逸話の一つに、昼寝中だった劉媼という女性が水辺近くで蛟竜と交わり、後に数々の能臣たちをして中華を統一する劉邦を産んだというものがある。

 教養に通じる顕家は断定した。正成がキャッチした千寿丸にまつわる噂はこうした劉邦の生誕伝説に倣った箔付けに過ぎないと。

 

 

「しかし、無理があるにしても、折角箔を付けるなら、宇多天皇の即位時に現れたという黄龍にあやかればよいものを。西国武士なら多少の教養はあるものだが、単なる龍神では底が知れるわ。漢籍ばかりに気を取られて、最も大事な先祖の功徳への理解が浅いことがよく分かる。六角千寿丸は龍神の化身なりと吹聴する限りはな」

 

 

「六角千寿丸が龍神の化身?それはあるまい。だとすると、前近江国守護の時信も同じということになってしまうぞ。時信は個としては強そうだったが、龍神などという大層なものには見えなかった」

 

 

「おや、これは新田殿」

 

 

「……」

 

 

(出たな、阿呆め。何を当たり前のことを抜かしよる)

 

 

 後世で言うところのクエスチョンマークが頭の側に浮かんだ色黒男の新田義貞が現れ、北畠顕家は興醒めの感を拭えなかった。

 実際、この日の戦や二年後の再遠征での動向から、北畠顕家という公家将軍は同じ後醍醐方の有力武将の新田義貞に対し、必ずしも好印象を抱いていなかったのではないかと指摘されている。

 

 

「顕家卿、楠木殿。悪いが、拙者は我が部下の進言を受け、足利との戦を継続しようと思うが、どうだ?貴殿らも共に参られるか?」

 

 

「却下だ。余の軍の兵馬は既に限界に近い。ただ、幸いにして結城親子の軍は余力がある故、今日だけ貸してやれぬこともない」

 

 

「おお、それは良うござるな。しかし、新田殿。拙者の軍は万に遠く及ばぬ寡兵で、洞院卿の御到着後の決戦まで力を温存せねばなりませぬ。申し訳ござらぬが、今日の戦はここまでということで」

 

 

「……分かった。では、逃げる細川軍や向こうの高軍を新田軍のみで片付けるとしよう。義助、氏明、畑、堀口!軍を分けるぞ!」

 

 

「「「は!」」」

 

 

 弟の義助や力ある部下たちを集めた義貞が軍の再編について仔細を協議する最中、新田家家臣の一人である船田経政という武将が自らよりずっと格上の北畠顕家や楠木正成へと近付いていく。

 園城寺(三井寺)攻略戦が幕を閉じた後、他の軍と同じく坂本に帰還するか迷っていた義貞に対し、土壇場で継戦を提言したとされる経政は今は姿が見えない新田家の執事である船田義昌の弟であった。

 

 

「腹芸とは無縁の我が殿のためとはいえ、お手間を取らせ、お二方には申し訳なき限りです。しかし、ご心配無く。予定通り、後の戦は我々が請け負います。ただ、顕家卿。結城殿についてですが」

 

 

「悪いが、連れて行ってやってくれぬか?親光の死に様を聞いて、居ても立っても居られなくなったようでな。直ぐにでも戦で発散させてやらねば、最悪の場合、帝の臨幸先が血の海になりかねん」

 

 

 当然、建武政権の重要人物である三木一草に名を連ねていた結城親光の偽装投降の末の死に様は噂となって、広まっていた。

 シリアルキラーと言う割に、人間味があって涙脆い結城宗広は次男坊の親光の訃報に接し、布を取り出す程に目を濡らしていた。

 

 

「成る程、承知しました。どうやら結城殿の軍は愛知川宿で口惜しくも不覚を取られた他の奥州軍と違って、軍馬も比較的動けるようですし、脇屋様の率いておられる軍に加わって頂きましょう」

 

 

「だそうだ、結城。今日限り、お前は新田兄弟の指揮下に加われ」

 

 

「顕家卿。お心遣い、かたじけなく存じます」

 

 

(全く。愛知川宿で、結城軍のみ一部が主君(宗広)のための人集めに精を出していたのが斯様な形で功を奏するとは。万事、塞翁が馬か)

 

 

 朝廷軍として活躍する北畠顕家の軍勢において、結城宗広は異彩を放っていた。これよりそれなりの時が経った後、顕家軍に加入したとある少年武将とその仲間たちにドン引きされてしまう程に。

 ただし、他の追随を許さない残虐性が『太平記』において語り継がれる結城宗広も、後の世には忠臣として祀られることになる。

 

 

「さて、舩田義昌(汝の兄)の策。足利軍相手にどこまで通用するか、東坂本の地からじっくり見物させて貰うとしよう。楠木、余は行くぞ」

 

 

「は……長門守(経政)殿。くれぐれも深追いは無用にござるよ。あくまで本日の戦の主眼は中先代(昨年の乱)以降、摩耗し続ける足利の精鋭を更に刈り取ることに有り。よしんば尊氏の首を獲れると思っても、軽々しく飛び付かれることのないよう、新田殿の動きにご注意くだされ」

 

 

「お言葉、しかと胸に刻みます。では、拙者もこれにて」

 

 

 斯くして、今ある力を結集し、天下有数の実力者たちによる総攻撃を仕掛けた官軍の前に、細川軍六万騎は呆気なく敗れ去った。

 しかし、戦はまだ終わっていない。それどころか、午前中の()()()での攻防はこの一月十六日の戦いの前哨戦に過ぎなかった。

 細川軍を撃破し、波に乗った新田軍は逢坂山の師直軍や三条河原に京の軍勢を集結させた尊氏の本軍と干戈を交えることになる。

 

 

 

 

 

〜2〜

 

 

 

 

 

 官軍の総攻撃を喰らった園城寺(三井寺)から脱出した高重茂は長兄の師直の指示により、急ぎ京に舞い戻って足利軍の本陣に駆け込んだ。

 本陣には尊氏直義兄弟の他、錚々たる顔触れが並んでいる。

 大将級の郎党は勿論であるが、高経のような足利一族の有力者に加えて、佐々木や赤松といった外様の武将たちの姿もあった。

 

 

「重茂、苦労だった。疲れただろう?下がって休め」

 

 

「は……」

 

 

「伊勢、蜷川。連れて行って、重茂に粥を食べさせてやれ」

 

 

「「御意」」

 

 

 総大将の尊氏による労りの言葉に続き、足利家当主実弟の直義が下した具体的な指示で、園城寺(三井寺)から山科を経由して京までの道のりで這々の体の重茂は暫くの間、陣内で身体を労わることになる。

 重茂が伝えた官軍の攻撃に関する具体的な報告は居合わせた諸将たちに少なからず動揺を与えた。無論、千寿丸も例外ではない。

 

 

(やっベぇ。後手後手だ。向こうが攻勢に出るにしても、奥州軍の馬が回復するか、せめて洞院実世の東山道軍が来てからだと思ったのにさ。もしかして逆手に取られた?兵糧攻めは無理だ、これ)

 

 

 盛大に読みを外した千寿丸が気不味そうに名族の佐々木氏惣領として軍議に立ち会う中、重茂が退出するのを見て、総大将の尊氏の存在にすら憚ることなく、愚痴を溢したのは足利高経であった。

 斯波家長の父であり、千寿丸の母(長井時千娘)とは従兄妹という間柄に当たる高経は尾張守という官位や越前国守護という役職が証明する通り、人材が豊富な足利一族においても別格と言える有力者である。

 

 

「彼奴、血迷ったか?手持ちの二万騎のみで、細川軍六万騎を撃破した大多数の敵軍を相手にするつもりか?たとえ敵が新田軍のみだとしても、勢い付いた義貞の相手は幾ら師直(彼奴)でも荷が重かろうに、一体何を考えている?よもや東海道で喫した連敗を忘れたか?」

 

 

「まぁまぁ、高経殿。師直にも何か考えがあるのでござろう」

 

 

(流石は高経。皆の前で足利惣領の尊氏様に宥めさせるとは)

 

 

 逢坂山で対官軍戦を見据える師直は意外なことに、園城寺(三井寺)からの敗残兵の受け入れを行わず、元から手元にあった軍勢のみで朝っぱらから幸先の良い勝利を掴んだ敵軍と戦うと表明していた。

 数的不利はさることながら、未完成の逢坂山の防御施設に拘り、目の前で多くの味方が敵の追撃の餌食になる様を傍観することになるのだから、千寿丸としても、高経の意見に同意せざるを得ない。

 しかし、名将としての貫禄を漂わせる赤松円心は逆の意見を持っているようだった。つまり、師直の方針を擁護したのである。

 

 

高経(尾張守)殿。お忘れか?園城寺と逢坂山はそう遠くない距離にある。だと言うのに、四万騎から五万騎の園城寺の敗残兵を受けて入れていては軍を再編する間に、敵に攻め込まれ、あっという間に陥落してしまう。しかし、かと言って拠点を放棄し、細川軍と一緒に逃げたところで、大軍で新田軍の追撃を躱し切ることは難しい。結局は追い付かれて、共倒れになる。これでは逃げる意味がござらぬ」

 

 

「つまり、いずれにせよ共倒れなら、いっそ細川軍の受け入れを拒むことで、逃走する細川軍(彼ら)と残った師直軍(自分たち)の二手を以て、敵にも分散を強要する。師直にあるのはそうした意図だと申されるか?」

 

 

「然り。ご明察です、高経(尾張守)殿」

 

 

(かねてより、赤松円心の知謀は楠木正成に匹敵するのではないかと思っていたが、本当らしいな。差し詰め、孔明に対する龐統だ)

 

 

 数年前には六波羅軍の大軍を率いた実父の時信が散々に打ち負かされた相手でありながら、千寿丸は名将の赤松円心の披露した見識に舌を巻いた。当然、千寿丸以外の諸将たちもまた同様である。

 だが、円心が知恵者の高経に説明して見せたところの果敢な戦いぶりに感動したからと言って、高師直はみすみす見捨てられるような武将ではない。この火急の事態に際し、尊氏は即断した。

 

 

「直義。我は師直を助けに行こうと思う。師直は知勇を兼ね備え、兵も精鋭揃いだが、敵中で孤立無援となると、流石に危ない」

 

 

「……!?兄上自ら、ですか?」

 

 

 総大将自ら救援に行くのだという突拍子もない宣言に、常識というものをよく知っている直義は困惑し、驚きの色を隠せない。

 しかし、尊氏の目に迷いはない。ただでさえ、昨年には北条の軍勢に追い立てられた実弟の直義を救うため、敬愛する後醍醐天皇の制止を振り切ってまで、大軍で関東へと下向した御当主なのだ。

 

 

「そうだ。天下を取るのに、お前と師直がいなければ、我はどうなるというのだ。我は行くぞ。我が山科に姿を現せば、敵は逢坂山の師直どころではなくなる。我が行けば、師直は必ず助かるのだ」

 

 

「お待ちを。まだ師直が敗けると決まった訳では……!重茂も申していたでしょう。北畠軍も、楠木軍も、坂本へ撤兵する模様だと。逢坂山には師泰も師久も居ます。あの三人が一箇所で力を合わせたならば、たとえ義貞や義助だろうと、新田四天王だろうと、手も足も出ますまい。安保や野木のような猛者たちも居るのですから」

 

 

 設営開始からまだ一週間と経過していない逢坂山の防御施設は不完全で、白兵戦に強い新田軍を防ぐには心許ないかもしれない。

 しかし、それでも斜面の高低差があれば、天下無双と兄の師泰に言わしめる剛弓の師久を軸に据えた戦いも、存分に通用し得る。

 戦が弱いというレッテルを貼られているとはいえ、戦法に詳しい直義に言わせれば、必ずしも総大将の尊氏が執事に過ぎない師直のために無理をして救援に駆け付ける必要はないのである。

 

 

「道誉殿。少しよろしいか?」

 

 

「?……宗家。如何されました?」

 

 

 偶に外すことがある師久の弓の命中精度を槍玉に挙げ、師直への援軍に行きたいという旨を表明し直す尊氏とそれを頑なに許さない直義が一体どちらが兄でどちらが弟なのか分からないやり取りを諸将たちの面前で続ける中、千寿丸が同族の道誉に小声で囁く。

 婚約するに至った魅摩のこともあって、千寿丸は政治的な実力の差が明らかな道誉に対し、劣等感こそ抱いているが、それと同時に足利軍でも重宝されている道誉の知略には一目置いているのだ。

 

 

「敵の陣容を聞いていて思ったのです。山法師どもが数千騎程ならともかく、あろう事か二万騎も園城寺(三井寺)攻略のため姿を現したということはつまり、敵は細川軍との一戦に総力を注いだということ」

 

 

「……仰る通りかと」

 

 

「言い換えれば、今、我らが東の山科ではなく、北東の比叡山に通じる西坂本に兵を進めれば、敵は慌てふためく筈。まして、もぬけの殻となっている延暦寺を抑えられれば、敵は成す術がない」

 

 

「確かに、京と近江の間に聳え立つ比叡山を掌握すれば、麓の坂本に仮の御所を置いている敵軍は一溜りもないでしょうなァ」

 

 

「どうせ居るとしても、戦に不向きな老僧と武才に乏しい稚児たちのみなら、源氏の精兵が襲い掛かれば、園城寺(三井寺)を攻めたばかりの敵が駆け付ける前に、大勢が決します。楠木とて、覆すのは難しい」

 

 

 北近江に所領を持つ有力武将の道誉に対し、纏まり切っていない話をする千寿丸の口振りには徐々に興奮の熱が籠り始める。

 勿論、道誉はその様子を見逃していない。幼い惣領の弁を聞き、口角をスッと上げた道誉は突然立ち上がって、大声で叫んだ。

 

 

各々方!注目されよ!拙僧の一族の惣領、佐々木六角千寿丸殿が我に妙策有りと申されている!篤とお聞きあれ!

 

 

っ!?ちょ……!

 

 

 顔をドス黒く染めた道誉の突然の叫びに、尊氏を含む諸将たちの注目が一気に集まり、興奮していた千寿丸はまさしく興を削がれる思いとなった。程なく、軽率だったと額から冷や汗が流れ出す。

 しかし、千寿丸の焦りも虚しく、直義が怪訝そうにする一方で、穏やかな微笑を浮かべた尊氏はこれ幸いとばかりに問い掛けた。

 

 

「前にもこんなことがあったな。千寿丸、折角だ。近江国の守護として顕家軍を著しく損耗させた君の策、忌憚なく述べてくれ」

 

 

「……!は!」

 

 

 武家の棟梁、足利尊氏を信奉する千寿丸にとって、他の誰よりも心を落ち着かせる声が焦燥感に浸り始めていた身に掛けられた。

 途端に千寿丸の心身は冷静さを取り戻す。足利高経や赤松円心をはじめとする名将たちの視線を集める中、一体何を話すべきか。

 澄んだ目で見極めた千寿丸は一切の澱み無く、口を動かした。

*1
秦の武王に仕えた怪力の将。「烏獲之力」という四字熟語がある。

*2
言わずと知れた劉邦配下の猛将。鴻門の会での活躍はあまりにも有名。

*3
謎多き信濃武士。泉親衡の乱から間も無く、北条氏と和田氏の関係が悪化。

*4
和田義盛の三男。『源平盛衰記』では巴との子とされるが、生年と矛盾。




赤松円心という原作において、パッと見ただけで彼だと分かる鎧を着ていたとはいえ、諱名までは明言されず、登場する機会は本当に限られていたというのに、超有能であることが示唆された名将。
現在、次かその次の章で赤松軍vs新田軍に焦点を当てる予定です。

以下に挙げた武将たちであれば誰が好きですか?

  • 高師泰
  • 細川顕氏
  • 仁木義長
  • 佐々木道誉
  • 赤松円心
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