崇永記 作:三寸法師
〜1〜
一月十六日の午後。足利方の別働隊の次鋒として北東方面へ進軍していた筈の六角家当主の俺と塩冶家当主の高貞による佐々木軍は不意に比叡山から駆け下った新田軍別働隊との遭遇戦に陥った。
尤も、数自体はこちらに有利だ。幾ら敵将の新田義顕と舩田義昌に力があろうと、落ち着いて戦えば対処出来なくはないだろう。
迫り来る新田軍別働隊の主将と思しき義顕と視線を交錯させた俺は即座に佐々木軍の武士たちに命じた。まず、定石を試すのだ。
「射かけよォォォ!」
「新田家執事、舩田義昌!参る!」
薙刀を振り回す義昌は噂に違わぬ武力の持ち主だった。六角家や塩冶家に仕える郎党たちが放った幾本もの矢を弾いたのである。
ただ、この程度は想定通りだ。恐らくだが、逃若党の吹雪と名乗っていた頃の師冬でも、似たような芸当は十分に出来ただろう。
所詮はあくまで肩慣らし。奴の力を見極めるためのものである。
「高貞」
「は」
敵の狙いはある程度察するものがある。きっと俺たちが別働隊として比叡山を狙うことは敵軍の想定外だったに違いない。
あくまで義顕たちの軍勢は新田本軍と足利本軍がぶつかり合うのを待ってから、下松を経由して後方を突く算段だった筈だ。
しかし、俺たちが比叡山の西で好き勝手する様子を見て、叡山の老僧たちからの催促もあり、出撃せざるを得なかったのだろう。
頷き合った俺と高貞は各々の郎党たちに向かって叫んだ。
「「掛かれェ!」」
「「「「「応!!!」」」」」
直接、刃と刃を交えないことには何も始まらない。また、物量的な意味でも弓矢攻撃をいつ迄も続けるのは厳しい。今は船田義昌に場を譲ろうとしているらしい義顕が敵軍に居る以上は尚更だ。
何はともあれ、両軍がぶつかり合う血で血を洗う攻防戦の始まりである。まずは二ヶ国守護の塩冶高貞が本領を発揮した。
「塩冶ァ!貴様の裏切りのせいで、竹下で奮戦された脇屋様が敗れることと相成った。某が貴様を斬って捨ててやる!覚悟しろ!」
「ごちゃごちゃと……我、宗家のため力を尽くさん!」
太刀を抜いた高貞は良馬を走らせ、敵との距離を一気に詰めた。
敵の薙刀の懐に入り込んだ高貞はすれ違い様に太刀を振る。
「グハッ!?」
「塩冶判官、敵将をまず一人討ち取ったり!」
「な、三左が一撃で……塩冶め。地位に違わぬ強者か」
討幕に際しても功を立てた高貞は流石に強かった。彼の力を存分に引き出すために一日に一回は顔世御前の話題を出さなければならないのが少々面倒だが、それを補って有り余る程の強さがある。
六角党の者たちも高貞の活躍に触発されたらしく、次々と敵と組み合い、成果を上げていく。塩冶軍との連合がここまで俺に仕える郎党たちの士気高揚に寄与するとは思ってみなかったことだった。
「さて、俺もそろそろ……」
「殿!船田入道の相手はこの弾正忠にお任せあれ!」
「ッ!?目賀田!?……仕方ない。三井、立ち会ってやれ」
「は!」
武人の血が騒いだのか、目賀田弾正忠は主君の俺が命令する前から敵の勇将である舩田義昌に向かって勝負を挑みに行った。
心配は別にしていない。これがもし勝負する相手が新田義貞だったとしても、俗に言う四天王たちだったとしても、同様である。
ただ、万に一つでも余人に横槍を入れられ、目賀田の身が危うくなれば、形勢が一気に敵に傾いてしまう恐れがある。故に、目賀田の同族で、俺の副執事の三井を立ち会わせることにしたのだ。
「船田入道!この目賀田弾正忠が相手ぞ!」
「目賀田弾正忠か……千葉殿から噂を聞いている。
「ちょっと待ったあ!」
「「!?」」
今にも干戈を交えようとしていた船田義昌と目賀田弾正忠の両名に突然の待ったが掛かり、双方が驚いたのは言うまでもない。
声の主は新田義顕であった。彼の一声に戦場中の注目が集まる。
目隠しとしていた鉢巻を外してからというもの、義顕の頭の傍に浮かぶクエスチョンマークは一転して小さくなっていたが、覇気自体には目を見張るものがある。この俺ですら嘆息する程だ。
「義昌!そいつの相手は俺がやる!面白そうだ!お前はまず千寿丸を討ち取りに行け!佐々木両名の首を獲ってくれるんだろう?」
「……御意。しからば」
主君の息子から命じられた義昌がギロリと睨んでくる。狙いを目賀田から俺の方へと切り替えたのだ。俺は勿論、周りの郎党たちも瞬時に身構える。何せ、新田家執事の勇名は天下に轟いていた。
信憑性こそ不明だが、渡ろうとしてた浮橋が壊れた際、義昌は主君の義貞との阿吽の呼吸で飛び越えて、対岸に到着したという。
間違いなく当代一線級の武将だ。だが、言うまでもなく、戦う相手としても上等である。口角を上げた俺は「綱切」を抜いた。
「亜也子、小太郎、太郎左。俺一人で船田義昌と戦うのは少し厳しいものがある。時間稼ぎに徹するつもりだが、一騎討ち重視の風潮が徐々に廃れ始めていることを鑑み、適宜手を出すことを許す」
「は!」
「承知!」
「お任せを!」
側近たちが次々と応諾の意を示す。当主として実に誇らしい。
得意とする馬上での戦で遅滞狙いに集中すれば、たとえ高兄弟だろうと我が術中に嵌まる筈。そうした考えを胸に抱いて、伝家の名刀を構えた俺は一息に距離を詰めてくる敵将と向かい合った。
〜2〜
しかし、実際にはそこまで甘くなかった。確かに並の武将なら、普通に一騎打ちで討ち取ることも俺なら十二分に狙えただろう。
だが、船田義昌という武将は個の武人としては高兄弟をも上回るのではないかという声すらある猛者だ。一撃一撃が強烈なのだ。
「くっ……この武力、噂に違わぬ」
「口ほどにも無しか!六角よ、お前如きに討ち取られたとは
「挑発ゥ」
「箱根竹下合戦の敗因は佐々木一族の腹黒さを惜しくも見誤ったことにある!あの時の雪辱、お前たちの首で晴らしてくれるわ!」
「ああ、もう!」
刀の腹で受け止めるというより、人馬一体で織り成す柔軟性で、船田の空気を裂くかのような威力の攻撃をまともに喰らわないよう気を付けているが、これでは幾らも保つか知れたものではない。
そもそも、他軍の豪傑に劣らない側近たちが戦闘の中で、都度タイミングを見計らって、船田の集中を散らしてくれていなければ、とっくの昔に終わっていた可能性が否定できない勝負なのだ。
あるいは死を覚悟して、一世一代を賭けた真っ向勝負に出るべきなのか。少しずつ脳内に熱が籠っていく俺の中に血生臭い発想が浮かんで来る。これが逃げ上手にして受けにも長けていたと云う時行であれば、満足していただろうが、生憎と俺の趣味ではない。
「私が!」
「!?……何と。斯様な女武者が六角軍に」
新田家の猛将ならば惜しく無いと判断した俺が切り替えようと息を深く吸い込んだ時、亜也子が力任せに四方獣を振って殴った。
瞬時に鎧の大袖で受け止めるのはマズいと悟ったのだろう。
有数の武勇を誇る義昌は手首を捻り、最優先目標の俺に向かって振り下ろした筈の大太刀で、亜也子の攻撃を確かに受け流した。
しかし、新田家執事の顔には驚愕の色が浮かんでいた。
「今の攻撃、防げる者は新田党にも然して居らぬ。まさに逸材だ」
「殺ったと思ったのに……」
「小太郎、気のせいか?ここ数日、亜也子殿の武力が急激に増したような気がする。殿の寝所に呼ばれた辺りからだ。もしかすると」
「ああ、太郎左。我らが主家の前途は明るいと見える」
「おい、そこの二人!敵の前だぞ!暇があるなら、攻撃せい!」
「「は!」」
満足そうに頷き合う粟生田小太郎と楢崎太郎左衛門の両名の無駄口を見逃さずに注意した俺は深く吸い込んだ息を吐き捨てる。
さっと戦場の動きを見渡し、
「そこの娘、名は何と申す?父は誰だ?新田四天王が一人、篠塚殿の御息女に劣らぬ潜在能力。父もさぞ高名な武者に違いない」
「……千寿丸様の便女、望月亜也子。実父とはもう縁を断ってる」
返答の許可を求める視線に俺が頷いたことで、亜也子が名乗る。
これが今は亡き関東庇番二番組筆頭の岩松経家と同じ穴の狢だったなら、許可しなかっただろうが、どうやら船田義昌にあるのは邪な心ではないようだ。見ていて不思議と心地良いものがある。
「左様か。武者の性だ、許せ……望月?その名は確か」
「執事殿!ご覧ください!」
「!?」
「粟田口より西の各地から、我ら新田軍の狼煙が次々と!」
「……全く。早くも尊氏軍と雌雄を決するおつもりとはそれでこそ我が殿よ。若殿の動きを知り、
六角家当主の俺など歯牙にもかけず、まるで警戒していないらしい新田家郎党が叫んだことで、両軍の兵士たちも事態を知る。
双方の別働隊同士が突如として交戦状態に入った一方、尊氏様と義貞という両大将の本軍同士もまた接敵しようとしていたのだ。
「新田義貞……どういうつもりだ?見たところ、二万五千騎も居らぬようだが。逢坂山の師直軍に兵を裂いたのだろうが、伏兵戦を仕掛けるならまだしも、真っ向勝負で尊氏様に勝てるとでも?」
「千寿丸、お前も
「何?」
「確かに義貞公はバカ殿かもしれん。だが、それと同時に天下一の獅子でもある。獅子は端から知っているものぞ。一人一人が精鋭の二万五千騎弱で、ほぼ寄せ集め同然の八十万騎を破れることを」
新田家執事の船田義昌の口振りからは彼と義貞が一蓮托生であることが窺える。夫婦関係よりも強い主従の絆が実際にはあるのだろうと感じられたのだ。だからこそ、バカ殿という義貞への愚弄も受け入れたりあるいは口にしたり出来るのかもしれない。
しかし、俺は改めて悟った。船田義昌を討ち取れば、英雄の新田義貞は片腕を捥ぎ取られたも同然だ。準備は既に整いつつある。
「本能型の武将、新田義貞はまさにその鑑だな」
「本能型?聞き慣れない言い回しだが、成る程。言い得て妙だ」
どうやら船田義昌という執事は師直とは別のベクトルで悦に浸りやすい性質の持ち主らしい。さては執事の職業病なのだろうか。
俺は冷めた目とは裏腹に、爽快な声を出し、敵の執事に問うた。
「舩田入道。試みに一つ聞きたい。義貞の才能は息子にも受け継がれているのか?武才というより、将としての嗅覚という意味で」
「それはもう。余りある才覚が……待て。若殿は何処へ?」
「どうやら更なる戦の気配に釣られたようだな。あまりに強過ぎる将の嗅覚が災いして。とうの昔に向こうの方へ駆けて行ったぞ」
「!?」
分断は成功した。流石に船田義昌と新田義顕の両方が同じ戦場に居るとあっては勇者を揃えたところで、真っ当な対処は難しい。
だが、ここからは我ら足利方の独壇場であるに違いない。まず最初に討ち取るべきは勇猛を誇る新田家の執事、船田義昌である。
〜3〜
謀られたと知り、あからさまに悔しがった船田義昌であったが、やはり新田家の執事である。敵の眼前だからと、揺れる感情を押さえ込んだようで、すぐに佐々木軍との交戦を打ち切り、南進した。
一方、俺は焦るどころか、むしろ余裕綽々だった。当然ながら、郎党たちには訝しまれる。仮にこれで船田義昌が無事に義顕ないし義貞との合流を果たせば、失態にも程があるというものだからだ。
「道俊。義顕を引き付けて、先に南へ行った目賀田に急ぎ伝えてくれまいか?適当なところで切り上げて、戻って来てくれとな」
「承知」
「殿、本当にこのまま船田入道を見逃して良いのですか?」
「船田たちとの交戦で、精強を誇るお前たちにも少なからず疲れが溜まっている。義顕と離れて、必死になった奴らと無理に戦っては流石に危ない。だが、心配無用。もう既に罠は設置されている」
四半刻程掛け、塩冶たち共々、休憩がてら態勢を整え直した我ら佐々木の軍勢は南へ行く。急くことは無い。ゆるゆると行く。
ただサボっているのではない。各地から甲賀忍軍が集めた戦況報告を統合して考える時間に充てたのだ。だが、少し焦りを覚えた。
「激戦です。御味方と敵方の間で行われている騎馬戦は早くも何十回という数を数えようとしております。しかし、どうやら」
「マズいな。思ったよりも分が悪い。船田入道の言っていた通りかもしれん。今の足利方はほぼ数頼みの混成軍。一方、新田軍は多くが気心知れた郎党たちだ。箱根や竹下の時とは状況が異なる」
「宗家。そう悲観なさることはありますまい。今に良い報告がやって参ります。さしもの船田も、赤松殿の敵ではないでしょう」
「そうだな。が、気になる。様子を見たい。全軍、歩みを早めよ」
「「「は!」」」
新田家執事の船田義昌が敗死したとなれば、今は押せ押せ状態になりつつある新田本軍も動揺するに違いない。勿論、その機を逃す尊氏様ではないだろう。吉良軍や仁木軍、上杉軍らをして逆襲を開始する筈だ。そうなれば、新田義貞に状況を打破する術はない。
兎にも角にも義昌の首が必要だ。一息吐いたことで、佐々木軍は当座の戦いに復帰するには十分な程、回復することが出来た。
もしも、赤松軍や細川軍が手間取っているようなら、少々遅ればせながら参戦する必要がある。あくまで「もしも」の話だが。
「どうやら必要なかったか。あと一息だ」
「船田義昌、一騎当千で知られた執事もここまでのようですな」
北白川の辺りには炎が蔓延していた。名将である円心の計略が存分に嵌ったのだろう。その証拠に船田義昌が追い込まれている。
幾ら天下に名高い猛将とはいえ、円心や同じく勇名を馳せるその息子たち、そして細川定禅の知勇の前には厳しいものがある。
距離を取って囲まれた義昌は矢の雨に晒されていた。確かに主君の義貞にも劣らぬ見事な矢弾防御を見せているが、徐々に疲労の色が見え隠れしている。遠からず崩れ去ることは明白だった。
「だが、こんなに火を付けては新田本軍からも文字通りの火急の事態が起こっていることが丸分かりだ。足利本軍に前掛かりになっている義貞たちに北白川を顧みる余裕があるとも思えんが……」
「宗家。我らも加わりますか?」
「いや、今は赤松殿が緻密な布陣を敷いている。突然、加わっては却って邪魔になってしまうだろう。だが、このままというのも」
考え込んだ俺は近臣たちを集め、命じた。お前たちの身体を使って山を作るのだと。当然、彼らは戸惑う。俺は詳しく話した。
詰まるところ、矢の雨の中に、一石を投じてしまえば良いのだ。
「死を恐れぬ武士たちの作るピラミッド……これを使う」
「……殿様がまた頼重公みたいな訳の分からないこと言ってるよ」
「亜也子。お前に大事な役割を預ける。良いから、聞け」
一体、惣領は何をやるつもりなのかと目を丸くする高貞に見守られながら、俺は配下たちに現代日本の運動会でやれば、確実に危険だとして問題視されるであろう高さのピラミッドを作らせた。
仮にも女子の亜也子を男たちのピラミッドに混ぜるのは気が引けたので、彼女にはピラミッドを挟んで俺と向かう位置に立たせた。
「そ、宗家?まさか」
「見ておれ、高貞殿。これが我が若党たちの力よ」
「崩れでもしたら、大惨事に……目も当てられませぬぞ」
「ふッ。そうはならぬ。さぁ、皆!岩となれ!いざ、参らん!」
巨大ピラミッドを勢い良く駆け上り、助走とした俺は手に持った石を思い切り、矢に気を払う船田義昌の居る方向へと投げる。
遠投の反動により、ピラミッドの頂上から空中へと飛び込んだ格好の俺を便女の亜也子がスライディングキャッチした。
しっかり受け止めた亜也子に礼を言いつつ、改めて赤松軍や細川軍に囲まれた舩田義昌の方向へと目を遣った俺は口角を上げる。
「何と!瞬く間に船田の全身に矢が刺さっていきまする!」
「今まで悉く矢を打ち払っていたのが嘘のようです。どうやら千寿丸様の投げられた石に目を奪われたのが効いたようですなァ!」
「殿の石が奴の膝に当たったように見えましたぞ!あのような不安定な足場から遠くへ投げて、しかも命中させるとはまさに神業!」
佐々木一族の武士たちが沸き立つ一方、後になって聞いたことによれば、天の助けと解釈したらしい円心は息子たちに命じた。
天下でも敵う者が滅多に居ない船田義昌ならば、全身に矢が刺さろうとも、油断できない。まずは範資と貞範の二人で、船田の両腕を斬るべしと。恵比寿顔の二人は
「殿。我が命運はここまでのようにございます」
「新田家執事、船田義昌」
「貴殿の類い稀な武勇に敬意を払い、まずは謹んでその両腕を」
「願わくば、貴方が将軍として鎌倉に君臨されるお姿……見てみたかった」
鎌倉幕府滅亡前より勇名を馳せた二人の太刀が船田に迫った。
己に待っているのは無惨な死に違いないという諦観で心を満たした義昌が目を瞑った瞬間、勇将たる兄弟の身体が一気に弾かれる。
桁違いの力を以て、尋常ならざる芸当を披露した武者は目元の鉢巻を左手の中指で上げ、片膝を震わせる執事の方へと見返った。
「大丈夫?義昌」
「……若殿?どうして」
「遅れて済まぬ。気付いた時には迷子になっててさ。けど、もう心配ない。俺が来たから。赤松も細川も必ず討ち払って見せるから」
突如として現れた新田の若様の姿に赤松軍も定禅軍もこれ以上なく響めいた。また、円心は完璧に仕掛けた筈の包囲網を敵将にヌルリと飛び越えられていたことに、恵比寿顔のまま息を漏らす。
一方、渾身の投石で気を良くしていた六角家当主の俺は冷や水を浴びせられたかのようである。思わず溢れたのは乾いた笑いだ。
「何たることだ。誰にも邪魔させることなく、単騎で囲みを擦り抜けるとは。奴の武才は抜けている。あるいは父親の義貞以上か」
「宗家。彼の将は先週、手勢三千騎のみ率いて尊氏軍八万騎と繰り返し戦い、圧倒しながら遂に重傷を負って撤退した筈。ですが」
「ああ。新田義顕、彼奴もまた人の理が通じぬ将であるらしいな」
新田家執事の船田義昌こそ今では弁慶のような有り様になっているものの、若き豪傑の義顕は未だにピンピンしている様子だ。
続けて、中国・四国勢の囲いを義顕が集め直したらしい新田家の郎党たちが侵食して来る。果たしてこの戦がどう転ぶのか。
今となっては事の顛末を完璧に予想できる者など、敵と味方が入り混じって鎬を削るこの京には誰一人として居なかった。
年末年始の期間を以て、第一次京都合戦を終わらせる予定です。
感想や