崇永記   作:三寸法師

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▲5

〜1〜

 

 

 六月下旬、後醍醐軍は先の思わぬ勝ち戦で足利家執事(高師直)の実弟の高師久を討ち取ったことにより、敵軍との抗争に光明を見出した。

 亡き楠木正成が生前に提言した策を今こそ実行に移す時であるという機運が後醍醐天皇やその側近たちに蔓延していたのである。

 息子の顕家が北方の地で斯波軍と対峙している北畠親房もまた、例に漏れず、皇室の臣として虎視眈々と巻き返しを狙っている。

 

 

「親房。首尾は上々か?」

 

 

「ご安心を。敢えて敵兵を誘い込んで殲滅するための空白地帯とした唐櫃越を除き、男山、宇治、嵐山、鞍馬路、勢多など京周辺の各地を占拠したことで、京の内部は着実に干上がっている様子」

 

 

「ふふ。四条たちも中々やりおる。のぉ?親房よ」

 

 

「……は」

 

 

「新田や名和ら主将たちを呼べ。出撃前に朕自ら鼓舞しよう」

 

 

 補給路を掌握することで、足利軍を糧秣不足に追い込むという策は皮肉にも、提案者(楠木正成)の敗死を以て日の目を見ることになった。

 現在、四条隆資をはじめとする多くの公家大将たちや額田為綱ら新田家の郎党たちによって実行されている。京に取り残された大勢の民をも巻き添えにし、賊軍(尊氏)を窮地に追い込もうというのだ。

 

 

「尊氏めの反乱軍は賊徒(高師久)を斬首した皇軍を恐れ、多くの兵が逃走している。また、先に興福寺が内応の意を示し、これまで静観していた武士たちが男山の四条軍や宇治の中院軍に参じた。官軍が勢いを盛り返す一方、賊軍は物資が不足し、意気消沈するばかり。今こそ汝らの気概を示す時である。尊氏を討ち、朕に安寧を献じよ」

 

 

「「「は!」」」

 

 

「それでは余より敵を撃滅する策を伝える。心して聞け!」

 

 

 出撃前夜、後醍醐軍の主だった将たちが宮中に参内した。

 機は熟したとする大覚寺統の首脳部の命に従い、翌朝から東寺にある足利軍本陣を目指し、出撃することと相成ったのである。

 しかし、何も後醍醐軍の主将たちの全員が全員、前向きであった訳ではない。湊川の戦いの終幕後、真っ先に雪崩れ込んだ足利軍の前軍との戦で、辛くも生き残った名和長年が良い例である。

 

 

「名和殿。何を浮かない顔をされている?明日には決戦だぞ」

 

 

「……新田殿」

 

 

「俺や当家の郎党たちを除けば、宇都宮殿と千葉殿、そして名和殿が明日の戦の鍵だ。浮かない顔をされていては士気に関わろう」

 

 

「申し訳ない。ただ、考えていたのだ。老骨の身にして、三木一草の中でただ一人未だ生き残っている拙者が何を成すべきなのか」

 

 

 今年に入ってから、建武政権になって一躍脚光を浴びた三木一草は偽装投降して敵と刺し違えようとした結城親光、公家の武を示そうとして討ち取られた千種忠顕、そして湊川の戦いに臨んだ楠木正成と次々に世を去っている。いずれも足利軍との戦いで散った。

 最後の三木一草、名和長年も彼らと同様に足利軍の前に早晩散るであろうことを予感していた。もはや諦観の域に達していた。

 しかし、新田義貞には分からない。まるで子どものように純真な眼差しで、同じ後醍醐軍の主将である名和長年に問い掛けた。

 

 

「?……名和殿、迷われることなどあるまい」

 

 

「と申されると?」

 

 

「武士の意地を見せる。これに尽きよう。何でも合戦は時の運と云うらしいが、俺は勝敗に然程拘らん。明日の決戦で、尊氏が本陣にしているらしい東寺に矢の一本でも射込んでくれる。俺の中にあるのはこれだけだ。達成できなければ、此処へ戻るつもりはない」

 

 

「……フ」

 

 

 この時、総大将の新田義貞の言葉で口角を上げた名和長年の脳裏には在りし日の討幕運動に力を尽くした頃の記憶が溢れていた。

 かつて海を基盤に富を築いていた身ながら、後醍醐天皇を船上山に迎えてからというもの、()()という名前を与えられ、巨万の富を投じて王業を助けた。政権樹立後は多くの要職を担い、中原氏の世襲の筈の東市正に任じられる異例の出世を遂げるにまでなった。

 成り上がり者にも意地がある。名和長年に再び闘志の火が灯る。

 

 

「新田殿。拙者とて弓矢の名手を自負する身だ。世間では本間殿や顕家卿、敵では小笠原や佐々木(筑前守)の弓矢ばかりが取り沙汰されるが、拙者の強弓こそ最強だと今回の決戦で知らしめよう。たとえ敗れて最後の一人になってでも、踏み止まって戦い、武名を示さん」

 

 

「……その意気だ。名和殿。ただ、名和殿が殿(しんがり)をすることはないだろう。今回の決戦、勝つのは尊氏ではなく、俺たちだからな」

 

 

「新田殿。結局、勝敗に拘っておられるではないか」

 

 

「?名和殿、必勝を見込むのと勝敗に拘るのは非なるものだろう」

 

 

「……ハハ。そうであるか。新田殿」

 

 

(勝って当然……ということでござるな。良いだろう!)

 

 

 吹っ切れた風の名和長年は老体に鞭打つことを心に決めた。

 たとえどんな結果に終わろうと、この人生に後悔はない。

 短い栄華に有終の美を飾ろう。名和長年の双眸に光が宿った。

 

 

 

 

 

〜2〜

 

 

 

 

 

 建武三年六月三十日の早朝、後醍醐軍が意気盛んに動き始めた。

 まず動いたのは南西の部隊である。すなわち、東寺に移る前の尊氏や光厳院たちが拠っていた男山の石清水八幡宮を押さえ、南西から足利軍(在京勢)の喉に刃を突き付けるような形となっていた四条軍だ。

 

 

「ふほほ。麻呂たちの弓矢に敵軍が尻尾を巻いて逃げよるぞ」

 

 

「高師直、末弟(師久)が討ち取られて弱気になりましたかな。もう少し歯応えがあるかと思っておりましたが、口ほどにもありません」

 

 

「左様。口ほどにも無し。間髪置かずに追撃じゃ!」

 

 

 各地から集った武士たちから成る四条軍三千騎は攻撃開始予定時刻よりずっと早くに男山を出撃し、鳥羽一帯の畦道を経由して羅生門を目指した。その先にある東寺に狙いを定めたのである。

 道中、遭遇した師直軍を矢で威嚇した上、意外にもあっさり退却させることに成功したことで、気勢は高まるばかりであった。

 

 

(新田軍め。予定より早く京を攻め落として手柄を分けまいとしてもそうは参らぬぞ。火煙など立ておって。専行ぶりが一目瞭然よ)

 

 

「良ぉし!高櫓に火が付いた!このまま一気に!」

 

 

「ご苦労であった。四条並びに後醍醐方の畿内武士たちよ」

 

 

「「「!?」」」

 

 

 北白川の辺りから立ち込める火煙から、既に味方が洛中に侵入していると見込み、断じて遅れまいと急行していた四条軍の周りに、敵方の精鋭たちが現れる。あっという間に四条軍は包囲された。

 狼狽し切りの四条たちに白い目を向けている武将は先程、退却させられた筈の師直だ。嘆息するや否や味方の老将に視線を送る。

 

 

土岐頼貞(伯耆入道)殿。折角、拙者が誘き寄せたのです。四条の命など至極どうでも良いが、周りの畿内武士たちは逃してくださいますな」

 

 

師直(執事)殿の信頼に応えましょう。あんな囮の煙すら見極められないボングラ共の集まりでは不足だが、肩慣らし程度にはなる筈だ」

 

 

父上(伯耆守)の仰せの通り。ここはこの悪源太(頼直)が力を振るいましょう」

 

 

「な、な……!何と無礼な」

 

 

「四条、戦場でも公家の威を振り翳す気か?下らん。失せろ」

 

 

「師直ぉぉぉ!」

 

 

 足利家執事(高師直)だけでなく、怪物(頼遠)を息子に持つ土岐源氏惣領の老将(頼貞)にも見下された四条隆資は息巻いたが、あまりに相手が悪過ぎた。

 外様最強武将を自負する頼貞を父とし、悪源太という異名を持った土岐頼直という武将の前に、散々に蹴散らされたのである。

 

 

「尊氏殿。四条軍が撃退されたようで」

 

 

「撃退?殲滅ではないのか?道誉殿」

 

 

 戦局の経過報告が鎮守八幡宮(東寺敷地内)で道誉の口から尊氏に伝えられる。

 友人から伝えられた情報に、読経中の尊氏は目を丸くした。

 

 

「はい。詳細は不明ですが、四条卿は男山方面へ逃げ帰った由」

 

 

「……そうか。師直も詰めが甘いな。土岐頼貞(伯耆入道)殿の方は(七男)土岐(弾正)()()を五条大橋の防備に差し向けているから、致し方あるまいが」

 

 

「実力より自信が先行しがちな四条卿ならば、いつか再び我が軍の前に姿を現し、勝利を与えてくださる。敵の凡将は徒らに殺さず、生かしてこそ意味が有ると師直殿は考えておられるのでしょう」

 

 

「これは可笑しなことを申されるな、道誉殿。天下一統が成れば、四条卿が出陣されることもあるまい。生かしてどうするのだ?」

 

 

「……は。失礼しました」

 

 

(宗家(千寿丸殿)の"南北朝時代"という物言いによらば、両統の対立は今後何世代も続いて行われるのだろうが……尊氏殿は違うお考えなのか)

 

 

 顔に黒い影が差す道誉がこの先の天下の趨勢の行方に思いを馳せる一方、一族惣領家当主の千寿丸は直ぐ目の前にある潰れた家屋から天に向かって立ち込める高い火煙に厳しい目線を送っていた。

 その傍らには自身の一族や郎党たち以外に、高師冬の姿がある。

 

 

「師冬殿。お義父上(師直殿)たちの軍勢が四条軍を撃破したらしい。四条軍は囮の煙にまんまと釣られた訳だ。もう俺は東寺に撤退するぞ」

 

 

「ええ。高櫓に火が付いたみたいですから、魅摩殿を連れてお早く東寺の本陣に戻られるのが良いでしょう。それに、四条軍以外の敵もこの煙で血眼になって、早晩洛中へ押し寄せてくる筈です」

 

 

「ああ。では、この後の戦、武運を祈る……魅摩、行くぞ」

 

 

「はいはい。全く人使いが荒いねぇ……よっ」

 

 

(早く神力を意のままに操れるようにならないと。今回はまだ何とかなったが、度々魅摩を前線に出すのは我が本意とは言えん)

 

 

 煙を煽ることで、師直の計略成立に貢献した魅摩が愚痴っぽく言葉を溢しながらも、馬上より差し伸べられた千寿丸の手を取った。

 一方、千寿丸は無事に魅摩が馬に乗ったことを背中から手に回された感触で確認し、彼女の言葉に辟易するような様子を見せた。

 

 

「魅摩、馬を飛ばすぞ。舌を噛みたく無いなら、黙ってろ。や!」

 

 

(((そんな道誉(腹黒坊主)の娘、亜也子殿の後ろにでも乗せれば良いのに)))

 

 

「……殿に遅れてはならん!参るぞ!」

 

 

「「「応!」」」

 

 

 どこか釈然としていないらしい六角家の郎党たちを連れ、千寿丸は両軍の合戦の本格化を前に、本陣のある東寺へと帰還する。

 その頃、尊氏は既に陣の敷地内の八幡宮での読経を終えていた。

 

 

 

 

 

〜3〜

 

 

 

 

 

 六月三十日、満を持して新田軍が宇都宮氏、千葉氏、そして名和氏などの同陣営の諸武家と連合軍を成し京へ向けて動き出した。

 比叡山を出発すると、下鴨神社の北を通過し、大徳寺の付近で南の方角へと向きを変えた。丸太町通と千本通の交差する地点である内野へと進んだまま南下し、六条大宮に侵攻したのである。

 

 

「殿。二条卿の率いる北陸勢が賀茂河原を南下し、火を放ちながら五条河原へ向けて進軍中とのこと!間も無く当地において土岐頼遠や少弐、更に大友らの敵勢と合戦に入る見込みのようです!」

 

 

「そうか。ならば、此方も負けておられんな。俺に続け!」

 

 

「「「「「応!」」」」」

 

 

 後醍醐方の諸武家を従える新田義貞の軍勢二万騎は破竹の勢いで東寺に向けて南進していった。これを迎え撃つ足利軍はおよそ二十万騎の大軍勢である。しかし、勢いは明らかに新田軍にあった。

 京に両軍の兵たちが鍔迫り合いを繰り広げ、金属音が鳴り響く。

 東寺では弟の直義が緊張の糸を張り詰めずには居られなくなっていたものの、兄の尊氏は依然として微笑を浮かべ続けていた。

 

 

「そんなに師直の策が不安か?直義」

 

 

「いえ、ここまでは概ね策の通りだと分かっております。ですが」

 

 

「?……何か問題があるのか?」

 

 

「兄上。我々の軍勢は仁木、細川、佐々木、土岐、武田、小早川その他と連合軍の様相を呈しています。幾ら敵軍を分断し、各個撃破を図るためとはいえ、京の彼方此方に兵を配置し尽くしたこの状況は良くないかと。結局、敵に比べ一致団結し難い。師直や師泰が出撃している今、東寺(本陣)を餌にするやり方はあまりに危険過ぎます」

 

 

(個人でも強い兄上はまだ良い。問題は持明院統の方々がどう思われるかだ。もし敵軍に連れ去られでもしたら、エラいことだ)

 

 

(足利直義……日和ってるなァ。もう怒りすら感じないけどさ)

 

 

 足利軍の本陣に居合わせている千寿丸の抱いた呆れはさて置き、苦虫を噛み潰したような顔をする直義の憂慮はどんな窮地でも生き延びることが出来るであろう兄の尊氏の安全より、やっとの思いで担ぎ上げることの叶った持明院統の者たちの方に向けられている。

 今の東寺は単なる足利軍の本陣ではなく、持明院統の皇居も兼ねている。直義に言わせれば、今回の策の立案者の師直はその辺りの理解が薄いのだ。しかし、この主張に堂々と反駁する者が居た。

 先の戦で知略の限りを尽くし、新田軍を退けた赤松円心である。

 

 

直義(御舎弟)殿。この東寺は存外、防御機構として優秀です。さしもの新田軍も一日足らずで攻め落とすには厳しいものがありますぞ」

 

 

(凄ぇ。ナチュラルに新田軍は自分たちに及ばないと宣言してる。赤松軍は六波羅北条軍との戦でこの東寺を陥落させてた訳で)

 

 

「赤松。軍神(楠木正成)亡き今、防御戦がお前の独壇場だということを承知で言わせて貰うが、この東寺はお前の本拠地の白旗城の如き山城に比べれば、流石に脆いだろう?噂に聞く中華の城に比べても、塀の高さや堀の深さという点で、随分と見劣りする筈だ。つまり、決して鉄壁の要塞という訳ではない。今更万が一があっては困るのだ」

 

 

「弱りましたなァ。直義殿(御舎弟殿)。鎌倉殿の弟ともあろう御方がそこまで気弱では。そも合戦に完全無欠の勝利を求めてはならぬものです。如何なる戦にも万が一というのは付き物。その理を知らぬ将は却って足元を掬われましょう。それに今更、師直殿の策を取り止めになど出来ますまい。ここはどっしり構えて頂きたいものですなァ」

 

 

(佐々木道誉……!よくも抜け抜けと!大体、命じておいた小笠原貞宗ら甲信勢の道案内の件はどうした!?何故まだ動かん?)

 

 

 策士の身で飄々と語る道誉をキッと直義は睨み付ける。婆娑羅大名の代表格と絵に描いたような真面目ではまさに水と油である。

 かつて斯波家長が道誉たちに抱いた「怪しげな西国武士」という印象を直義も同じく持っている。そのような人物が尊氏の親友面をする上に、師直にも接近していることが歯痒くて仕方なかった。

 

 

「まぁまぁ、直義。そう焦ることもあるまい。仁木や細川たちが今に新田軍の後背を突いてくれる。そうすれば、我らの勝ちだ」

 

 

「……だと良いのですが」

 

 

(せめて高兄弟が東寺(此処)に戻って来れば良いのだが、あの二人は何をしている?師直は鳥羽作道で四条軍残党の掃討、師泰は竹田で宇治からの中院軍の迎撃……いつまで時間を掛けるつもりだ?どちらも所詮は公家に率いられた軍だ。高兄弟の敵ではないだろうに)

 

 

 果たして尊氏の言葉通り、南下する後醍醐軍の後ろに仁木頼章(義長の兄)や細川一族の部隊が現れる。神祇官に伏せていた彼らは敢えて新田軍の通過を待ち、後方から襲い掛かった。また、京の市街地に潜伏していた武家たちも各々が敵の各部隊に狙いを定め、襲撃した。

 物資不足が祟って足利軍に逃亡兵が続出していると誤認していたこともあり、新田義貞たちは思わぬ抵抗で困惑の色を隠せない。

 

 

「これは……?東西南北で総勢二十万騎は居るか」

 

 

「新田殿、すっかり囲まれた!このままでは全滅するぞ!」

 

 

「……名和殿。申した筈だ。東寺に矢の一本でも射ることが出来なければ、拙者は帰らぬ覚悟だと。きっと今がその時なのだろう」

 

 

「な!?新田殿、無茶だ!やはり此処は拙者に任せて「新田義貞、ここに推参!大将首が欲しいか!?足利兵ども!」おい!?」

 

 

 鬼切と鬼丸と呼ばれる二刀を愚直に振り翳した義貞は同じく後醍醐軍の大将の名和長年の制止も聞かず、足利軍の囲みに正面から挑み掛かった。しかし、これが却って功を奏した。敵の各部隊より遥かに高い士気によって、足利方の諸武家を圧倒したのである。

 とはいえ、敵軍を蹴散らし終えて東寺の目の前に辿り着いた時には新田軍は散り散りとなり、総大将(新田義貞)の周囲の兵力は傍目にも明らかに摩耗していた。それでも、彼らは意気盛んに鬨の声を上げた。

 

 

(あーあーあー、遂に門前かよ)

 

 

「言わんこっちゃない!新田義貞がすぐそこまで!」

 

 

「……いえ、直義殿(御舎弟殿)。数は然程のようです」

 

 

「京極殿の見立て通りかと。この赤松が手勢を率いて出撃すれば、軽く一捻り出来るでしょうが、如何されますか?鎌倉殿よ」

 

 

「……うん。一考に値しような」

 

 

 ここは円心に手柄を立てさせ、建武政権で生じた赤松家と新田家の因縁に決着を着けさせるのも良いかもしれない。そんな考えが尊氏の脳裏を過った時、外から新田義貞の叫び声が聞こえてきた。

 東寺の足利本陣に向かって、義貞は弓を番えながら言い放った。

 

 

「尊氏よ!両統の争いのせいで、無垢の天下万民が戦禍に喘ぎ苦しんでいる!だが、両統の戦も元を辿れば、俺とお前の戦が発端だ!ここは俺とお前が一騎討ちをして、決着を着けよう!そうすれば、天下の民たちはこれ以上、苦しまずに済む!さぁ、出て参れ!」

 

 

「「「!?」」」

 

 

(((無垢な天下万民が戦禍に喘ぎ苦しむ?本当に新田義貞か?)))

 

 

 三年前の鎌倉襲撃の実行犯とは思えない義貞の仁徳を知る物言いに足利軍の皆が当惑していると、本陣に一本の矢が降り注ぐ。

 目の前の柱に深々と刺さった矢を見る尊氏の目が爛々と輝いた。

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