崇永記   作:三寸法師

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▲7

〜1〜

 

 

 かつて義貞が近江の戦いで弓上手の貞宗を前に撤退を即断して証明したように、天下の名将たる者、たとえ郎党らから公然とバカ殿呼ばわりされる有り様でも、引き際の見極めを誤らないものだ。

 その息子の義顕もまた、昨年初頭よりの数々の戦を通じ、今では数えで齢二十という若輩にして天下最高峰の猛将として名高い。

 しかし、目の前で起こった惨状を目にし、諦観に駆られていた。つまり、義顕をして戦に見切りを付けざるを得なくなったのだ。

 

 

(間に合わなかった……やっぱ、バレちゃうかァ。俺たちの兵糧がとっくに枯渇してること。救援部隊(瓜生軍)に呼応できなかった位だから)

 

 

「若殿。大殿はまだ」

 

 

「もう当てにしちゃダメでしょ。今日でこの城はお終い。中途半端な時機に戻られたら、共倒れになる。でも、親王様たちを巻き込ませたら、新田家の名折れだ。脱出までの時間稼ぎをしないとね」

 

 

「は。春宮様()は既に。ですが、一宮様(尊良親王)がまだ……」

 

 

「うーん。仕方ない。あの御方はたとえ負けても、一昨年の戦(箱根竹下合戦)で戦死した為冬卿の後を今度こそ追うって覚悟を決めておられるから。だけど、ここは俺が。俺が説得して見せる。死なせちゃダメだ」

 

 

 生の腿肉を咀嚼しながらも、義顕は前線で何時迄も急場を凌ぎ切れないことを悟り、敵軍の対応を郎党たちに委ね、後方へ退く。

 最後の仕事さえ終わってしまえば、自分の人生に幕引きだという思いを胸に目を閉じた時、野生的な義顕は異変を感じ取った。

 

 

(この気配……居る、敵が!いや、俺はあの敵を知っている?佐々木六角千寿丸?名門のあいつ自ら乗り込んだ?僅かな兵と?信じられない舐めっぷり……いや、でも確か……殿下が以前仰っていた)

 

 

『時信の屋敷に預けられていた間、千寿丸こそが、妃と会う事すら叶わなくなった余の慰めだった。しかし、時代の変化から敵味方に別れて、千寿丸は尊氏に穢された。身体だけでなく、精神までも。遊び(詩歌管弦)を通じて育んだ縁を出汁に、為冬が先の戦(箱根竹下合戦)で蹴落とされた』

 

 

『尊氏の魔力とは……それ程』

 

 

『今思えば、護良(大塔宮)の言うことを聞き入れるよう、父帝に申し上げていれば良かったのかもしれぬが……知っての通り、余は政道をずっと昔に諦めた身でな。後の祭りよ。事ここに至って出来る仕事はただ一つのみ。恒良(春宮)を支え、汝ら新田家の天下奪還を見守る事だ』

 

 

(お迎えなら……行かない方が良いのかも)

 

 

 数ヶ月前の若狭国到着当初に行われた宴における尊良親王との会話の記憶が、北陸王朝軍の主力武将、新田義顕の脳裏を掠めた。

 直ぐに駆け付けようと思っていた義顕は思い直す。幾ら逆賊と盛んに言われる足利軍の一味の千寿丸でも、親王を弑殺するような大罪は犯すまい。敵方の皇統(大覚寺統)の所属と言えど、親王は親王なのだ。

 まして千寿丸と尊良親王の間には縁がある。二条為冬が竹下で謀略に遭った時と異なり、千寿丸は若狭国で、尊氏は今も京だ。

 足利軍の捕虜となろうとも、精々京で幽閉生活だろう。尊良親王はかつてこの城で催された宴の席で楽しげに語った、戦乱と無縁の遊ぶ日々を再び送るのだ。義顕は死地に身を置き、そうした幻想的な光景に囚われ、六角党の潜入行動を見過ごそうとしていた。

 

 

「なのに、なのに、何故……千寿丸、貴様!」

 

 

「語り合う事は何も無い。お前にも早く引導を」

 

 

「ほざけ!せめて……せめてお前だけでも道連れに!」

 

 

(感傷に浸るんじゃなかった!妄念を甘受する間に、あってはならない事態が……あの惨状、殺ったのはデカ女か!だけど、足利政権に与える衝撃は女武者より、佐々木惣領の死の方がずっと大きい)

 

 

 とはいえ、怒髪天を突く勢いだった義顕の不意打ちは千寿丸に簡単に防がれていた。残る勝ち筋を、義顕は見付けられずに居る。

 義顕は改めて自覚した。長き空腹で力が衰えたと。まだまだ成長の余地を残していた筈の若手武将としてあり得べからざる事態だ。

 もう最後の力を振り絞るしかない義顕は口周りを舐め取った。

 

 

「その血……まさか」

 

 

「想像の通りだよ。仲間の屍を俺の血肉とし、お前を葬る。これが俺の捧げる最後の一仕事だ。さぁ、受けて見やがれ!千寿丸!」

 

 

「……消化が間に合う訳ねぇだろ。バカが」

 

 

「ッ!?」

 

 

 昨年の正月合戦での圧倒的実力差は逆転していた。単に義顕の武力が食糧の枯渇によって大幅に弱体化していたからだけでない。

 今年で齢十二の千寿丸の実力が目に見えて向上していたのだ。

 

 

「お前に目眩しは逆効果……だから、純粋な強さで討ち取る!」

 

 

「カハッ……」

 

 

(これが西国最強とされる佐々木氏嫡流の真骨頂……一撃が稲妻のように鮮烈で、繊細で、骨太だ。まさか八年前の俺より、コイツの方が強い?土岐と違う強さ、徳寿丸でも追い付けるかどうか)

 

 

 義顕は地に倒れ伏す。抵抗の芽は千寿丸の早業で奪われた。

 瞬く間に四肢を斬り落とす剣術は一体誰のためのものなのか。

 

 

「終わりなんだよ。お前も北陸王朝も……チ。残党が来やがった」

 

 

もう良い、お前たちじゃコイツには

 

 

「ああ、この感覚……四年前と同じだ」

 

 

 表情に恍惚の色が現出し始めた千寿丸の様子が新田義顕の見た最後の光景だった。力無く目を閉じ、次第に感覚が薄らいでいく。

 雷鳴の轟く最中、微かに神様と呟く澄んだ声が聞き取れた。

 

 

 

 

 

〜2〜

 

 

 

 

 

 建武四年三月六日、若狭国金ヶ崎城で勃発している足利軍と新田軍の争いは佳境を迎えている。正月を跨ぐ籠城戦で新田軍は深刻な兵糧不足という苦境に陥り、その惨状を察知した足利軍が総攻めを敢行したのである。その猛攻ぶりはまさしく破竹の勢いだった。

 寄せ手の足利軍における総司令官代理の高師泰を義理の叔父とする師冬は突如として城の奥に見えた閃光に息を呑んだ後、程なく上がった煙を仮面の穴を通して、冷え切った眼差しで捉えていた。

 

 

(結末としてはほぼ予想通り。しかし、あの光は一体?十中八九、千寿丸(六角近江三郎)の仕業だとしても……確かに千寿丸(六角近江三郎)の振る刀が雷を纏っているように見えることは今までも度々あった。とはいえ、あれ程では無かった筈だ。私が知るのは唯の片鱗に過ぎず、まだ他に何かしら(六角)寿(近江)(三郎)に隠されているものがあると見るべきか……実に興味深い。これなら逃若党に居る間に、秘術使いの雫から千寿丸(六角近江三郎)に関する話を聞き出しておけば、良かったかもしれない。あの力、無関係の筈の諏訪明神とどことなく相通ずるところがあるように感じられる)

 

 

「おい、師冬。お前の言っていた六角軍に頼んだ別件とはこの事じゃねェだろうな?だとしたら、とんでもなく大胆な話だぜ?」

 

 

「……お察しの通りです、師泰様(義叔父上)。開戦前、千寿丸殿に精鋭を率いて内から攪乱するようお願いしました。謂わゆる潜入工作です」

 

 

「はン。お前は千寿丸(時信のガキ)と随分仲良くしてるみたいだが……まさかそんな雑務まで頼める仲だとは思わなかったぜ。で、師冬。このまま力押しを続ければ、問題無くオレたちの勝ちで良いんだな?」

 

 

「はい。義顕(嫡男)の方は兎も角、義貞(総大将)義助(当主実弟)の目撃情報が未だ何処からも来ないのが気掛かりではありますが……城中からの火の手で敵の反撃の芽はかなり薄くなっています。今こそ金ヶ崎城を陥す最高の好機であることに変わりはありません。決して逃されますな」

 

 

「違いねェ。おい、山口!オレの執事として全軍に伝えろ!仕上げの時は来た!このまま一気に総掛かりで城の本丸へ駆け上がる!」

 

 

「御意!」

 

 

(それにしても悲惨な戦だ……六花)

 

 

 足利軍は念の為、土岐頼遠を第二陣に置き、いつ何時、新田親子のような天下屈指の猛将たちが出撃して来ても良いように備えていたものの、最強の剛将が出るまでもなく、城方は崩れていった。

 師冬は仮面の裏で無意識の内に歯を食いしばる。飢えに苦しんでいた敵兵たちは戦死した仲間の死骸すら糧にして、寄せ手の大兵力に抵抗しようと試みたものの、それで急に多勢で波に乗る足利軍と無勢で空腹に襲われている新田軍の差が埋まるものではなかった。

 古典『太平記』によれば、新田軍数十騎が味方の腿の肉を切って一口ずつ食べた上で、防御戦を継続したものの、およそ半刻で限界を迎えている。敵の底力が師冬には酷く味気ないものに思えた。

 

 

「師泰様、師冬様、先陣の今川軍が敵本営に乗り込みました!」

 

 

「「!」」

 

 

 幸先の良い知らせに師泰も師冬も身構える。今や最も警戒すべき敵方の武将と目されている新田家嫡男(越後守義顕)の姿こそ確認されていたが、まさか義貞(新田左中将)義助(脇屋右衛門佐)が姿を現さないまま、ここまで勝ちに大きく近付けるとは想定せざるところだ。つまり、話が美味過ぎるのだ。

 念の為、更に味方が本営に乗り込むのを二人は待つことにした。

 

 

「師泰様、大勝利です!既に敵本営は死屍累々!先に別働隊として乗り込んでおられたという六角様が申されるに、かの北条氏の如く集団自害したようだと。今川軍は六角様の勧めに従い、姿の見えない恒良親王ら敵方の要人の捜索に乗り出す許可を求めています!」

 

 

「無論、是非もねェ。島津、今川を手伝ってやれ」

 

 

「は!」

 

 

「……師冬。お前の策、見事に嵌ったな」

 

 

「はい。ただ……新田親子の生死が気掛かりです」

 

 

 一昨年の矢作川合戦以来、足利軍と熾烈な戦を繰り広げ続けていた新田義貞は散々バカだバカだと蔑まれながらも、依然として敵方の将兵たちに警戒心を抱かせていた。しかし、今やそれ以上の存在が天下に居る。勿論、新田家嫡男の若き闘将の新田義顕である。

 昨年冬に叔父の義助や四天王の栗生顕友らから成る、たった十六騎のみを以て足利軍数万騎を突破したことで、京の尊氏すらも動揺させたことからも分かるように、その名は天下に広く轟いていた。

 緊張感と共に、師泰と師冬は城の敵本営跡に足を踏み入れた。

 

 

「お待ちしておりました……お二方」

 

 

「お、応。千寿丸(時信のガキ)、かなり荒れた様子だな」

 

 

 明らかにヤツれた顔の千寿丸は大事そうに御首級を抱えている。

 直ぐ近くに控えて、眼差しの奥に燻った明かりを灯す亜也子の異様な姿に目を遣った上で、近年の六角家の動向について想起した師冬は即座に判断した。その御首級が一体誰のものであるのかを。

 

 

「千寿丸殿……それはもしや」

 

 

「はい。尊良親王(一宮殿下)の御首にございます。間違い有りません。新田義顕の死骸の上に被さるように御遺体が倒れておられました。ここからは単なる憶測に過ぎませんが、恐らくあの二人は最期──」

 

 

 古典『太平記』には後醍醐天皇の第一皇子で、それまで幾度も戦場に御輿として現れていた尊良親王と、箱根竹下合戦で戦死した二条為冬に代わる股肱之臣に、武家の身で成った新田義顕の最期が悲劇的なものとして描かれている。すなわち、足利軍に捕縛されるのではなく、自害する道を選んだ一宮(尊良親王)が、自ら命を断つ作法を実演した義顕に倣う形で己の白い柔肌に刃を当てたと綴るのである。

 しかし、師冬の目は誤魔化せない。敵本営跡では幾つもの敵の屍が火に包まれている。その中に、一方が胴も酷く傷付いて重なる遺体があった。師冬は明晰な頭脳で真相を悟り、確信に至る。これで己が天下へ昇る夢がまた一歩、着実に実現へと近付いたのだと。

 

 

 

 

 

〜3〜

 

 

 

 

 

 金ヶ崎城で勃発した足利軍と新田軍の戦いは一応の終幕を見た。

 自害という形で決着した尊良親王と新田義顕の首が寄せ手の将によって確保された他、近隣の漁師の家に隠れ潜んでいた大覚寺統の(北陸王朝の)皇太子(現人神)の恒良親王が発見され、師泰に武勇を見込まれた島津忠治という武将が護衛する形で、総司令官の尾張(斯波)高経の元へと送られた。

 しかし、師泰たちには未だ痼りが残っている。義顕(新田越後守)の首級を確保したのは良いものの、義貞(新田左中将)義助(脇屋右衛門佐)の死亡が確認出来なかったのだ。

 

 

「チ。千寿丸のヤツの放った火が敵の死体の山に燃え移ってさえいなければ、安心できたものを……師冬。判官(道誉)殿曰く、アイツは今、心身の平衡を崩して、寝込んでいるらしい。軟弱者の様子を見てやる序でに、少し小突いてやれ。お前のせいで帰京が遅れるってな」

 

 

「は」

 

 

 将来、己の舅となる猛将(師泰)の命を拝受し、師冬は終戦後初めて佐々木六角軍の陣営へ足を運んだ。部外者の師冬に対する六角党の視線はやはり余所余所しい。身分の上では然程大したことのない高一族の師冬が名門武家の当主の千寿丸の元に押しかけては料理を食べるだけ食べて帰っていくように映っているのだから、当然だろう。

 だが、師冬は我関せずの姿勢で、千寿丸の元へ向かう。その途中で見覚えのある武将と出会した。信濃国守護の小笠原貞宗だ。

 

 

(そう言えば、千寿丸は弓術で貞宗の指南を受けていたか。確かに理に適っているが、類い稀な武才のある千寿丸にそうさせるとは。前の指導者はどんな教えを施していたのやら。純粋に気になる)

 

 

「千寿丸殿の見舞いですか。貞宗殿」

 

 

「……師冬殿、見ての通りぞ。そう言うそなたは今回、師泰殿の代理で此処へ参られたのか?六角軍に度々出入りしていると聞くが」

 

 

「ええ。今後の若狭国守護職についても含め、話がありますので」

 

 

 昨年は一時、佐々木氏の分家の京極道誉に委ねられた若狭国守護の地位はこの年(建武四年)、斯波家長の叔父の家兼に変更されることになる。

 近江国を巡って道誉に思うところのあった様子の貞宗は溜飲が多少下がったのか、気を良くして佐々木六角軍の陣営を後にした。

 

 

(今後、貞宗は何かしら使い道がある。小泉長寿丸(北条時行)の件に関して強請れば、あれ程の武将も我が意のまま。そして、千寿丸(佐々木惣領)も同様に)

 

 

「……来たんだ。師冬(吹雪)

 

 

「亜也子……殿を付けて呼んだ方が良いですかね?」

 

 

「別に。好きにしたら?」

 

 

 かつての逃若党時代の同僚の亜也子と言葉を交わすのは随分と久し振りのことである。今思えば、元仲間同士と言っても、かつての主君の時行が居なければ、乾いた関係だったと師冬は振り返る。

 更なる地位を望む師冬にして見れば、望月亜也子ですら己の出世の道具に過ぎない。六角家当主の千寿丸を操るための良き駒だ。

 

 

「ねぇ、師冬(吹雪)。全部見抜いてるんでしょ?それに、元々こうなることが分かって、殿様に城への潜入を強要した……そうだよね?」

 

 

「何のことやら。望月殿、貴女の今の主君が御自分の意思で承知して城へ赴かれたのですよ?それとも、貴女に後ろめたい行為でも?これまで貴女はずっと私の事を避けていた……が、今はこうして己から私に話し掛けている。心境の変わる切っ掛けがあった筈だ」

 

 

「トボけなくて良いよ……逃若党のことを持ち出して殿様を焚き付ければ、必ず私を連れて城に潜入する。宴の舞でも呼ばれない程、去年の冬からずっと干されていた私が()()殿()()()()()()()()()()()を前にしたら、どうするか。読めない師冬じゃないでしょ?」

 

 

「……私を責めているのですか?もしくは」

 

 

「ううん。感謝してるんだよ。高師冬、あんたにさ」

 

 

「ッ!」

 

 

 途端に師冬は己の目を疑った。かつての同僚の変貌振りは強烈の一言では済まされない。まさに神に取り憑かれたかのようだった。

 美しい黒髪が変容する。千寿丸由来の神力に彩られ、今の亜也子の髪は金色に染まったかのようだ。すわ、これが巫女の本質か。

 

 

「あんたが機会をくれた。親王の死で、殿様は私に目を奪われざるを得なくなった。あと一押しで、私は殿様の寵愛を受けられる」

 

 

「……その一押しを私にしろ。そういうことですね?」

 

 

(乱世の女、斯くたるべし。亜也子は変わった。もう完全に北条の女ではない。源氏の天下を望む佐々木の女だ。手を尊き血で染め、いよいよ戻れなくなった。亜也子も……そして、千寿丸も忘れるしかない。亜也子は千寿丸に、千寿丸は尊氏様に心身を捧げる訳だ)

 

 

「うん。これでまた私から行ったら、水泡に帰するどころか今度こそ御手討ちだからさ。ただ、もし私が殿様の御子を宿せば、その時は師冬。あんたがその子の烏帽子親になってよ。この意味、師冬なら分かるよね?次代の足利家執事になるっていうなら、尚更さ」

 

 

(将来的に京極家を敵に回し得る道だが……弟殿(直義)の一派を排除した後は道誉(佐渡判官)とて必ずしも入り用とは限らない。何より、京極家(佐々木道誉)の後継候補たちの才覚は幼き佐々木氏本家当主の千寿丸に遠く及ばぬ)

 

 

貴女と千寿丸殿(新たな形の六角家)で、我が政権を支える……良いでしょう」

 

 

 一時的に仮面を外し、師冬は野心に染まった微笑を浮かべる。

 高一族の流れを汲む師冬は源氏の血筋ではないが、飽くまでその志は全てを欲する足利尊氏に次ぐ政権運営者となることだ。尊氏の庇護下において、近江国の支配者であり続けることを望む千寿丸とは協力し合える筈である。むしろ協力してこそ師冬は上へ昇れる。

 再び仮面を被った師冬は心を新たに踏み出した。全てが師冬の描く青写真の通りになっている。妹の夢と父の呪いを預けられた身として今の状況は天恵にも等しい。決して無駄にするつもりはない。

 まずは千寿丸を引き摺りだそう。何時迄も床の上では困るのだ。




次回から新章です。西暦1338年という六角氏頼にとって泣いたり笑ったりジェットコースターのような年に差し掛かります。
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