ダンまち外伝【エクストラ・オラトリア】   作:黎明のカタリスト/榊原黎意

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 小説書いたのが久しぶりすぎて文章がとんでもない。
 リハビリしながらゆっくりやって行きたい……。


プロローグ1:ある日の一幕

 □???

 

 

 ダンジョンに強さを求める人間がいる。

 ダンジョンに逆転を求める人間がいる。

 ダンジョンに出会いを求める人間がいる。

 ダンジョンに死に場所を求める人間がいる。

 ダンジョンに生を求める人間がいる。

 

 世界広しと言えど、ダンジョンほど特異な存在もそうは無いだろう。

 そこには間違いなく何かが在り、それ以上に人々をそこへ駆り立てる魔が潜んでいる。

 

 世界で唯一の迷宮を持つ都市オラリオ、その中央に聳え立つバベルによって閉じられたこのダンジョンでは、日夜様々な思いと願いを抱えた人間が探索を続けている。

 

 冒険者。ダンジョンに挑む者。

 その身に神の恩恵(ファルナ)を宿し、同じファミリアに属する家族達との絆か、はたまた独りの決意を支えに彼らは迷宮を征くのだ。

 もちろん、成功だけが物語ではない。

 往々にしてハッピーエンドとは確かな下地の上に形作られる。

 はるか昔の英雄譚に語られる英雄達の物語と、このオラリオで今も紡がれ続ける冒険者達の迷宮冒険譚は些か質が違う。

 このオラリオで成功を収める冒険者とは、英雄のように成功を収めた者ではなく、収め続ける者なのだ。

 

 母は寝物語に彼ら冒険者の話を聞かせてくれた。客の持ってくる迷宮の土産話によって俺は育てられた。

 

 だからこそ俺は今ここ(ダンジョン)にいる。それだけは間違いなかった。

 

「はぁあ!」

『ギギッ!』

 

 褐色肌の少年が、白髪を揺らしながら駆ける。

 相対するのは醜悪な矮人、ゴブリンと呼ばれる上層常連のモンスター。

 普通の人間であれば、太刀打ちすることも出来ずに返り討ちにされるであろう。それほどまでにダンジョンのモンスターは人間の天敵足り得た。

 

 しかし、果敢に立ち向かう彼にとっての彼らの意味は違った。

 ゴブリンを足蹴にして距離を取ると、一切臆すことなくゴブリンの前に立ち、最後の一太刀を見舞う決定的な隙を刹那の間に見定める。

 そして、

 

「斬ッ!」

『ギギャァッ!?』

 

 少年は刀身も柄も中途半端な長さの得物《落ち葉》を下段に構え、一息に無防備な懐に潜り込んで、下から一閃。

 脳天まで振り上げられた一振りによってゴブリンは真っ二つに両断され、弾けるような音と共にその身を小さな魔石へと変えた。

 

「三十匹目っと」

 

 死線を潜り抜けてモンスターを倒した。それ以上になんの感慨を抱くことも無く、得物を一振りして血を払うと腰の鞘へと納める。

 そして地に転がり紫に怪しく主張する魔石を拾い上げるとそれを無造作に腰のポーチに詰め込んだ少年は、ふうと一息ついておもむろに口を開いた。

 

「……こんなもんか」

 

 少し重くなってきたポーチを揺らしながら、探索を切り上げようかと思案する。

 しかしその声音には隠しようもない落胆があった。

 

 段々とここら一帯のモンスターでは物足りなくなってきてしまった。

 それ以上に今は自身の成長が如実に分かり、居てもたってもいられない。逸る気持ちのままに冒険を続けたい。

 長寿のエルフでなければ、成長しても容貌がヒューマンの子供を思わせる程度にしかならない小人族(パルゥム)でもない、ヒューマンとして年相応の未だ幼い彼は抗い難い欲求を前に懊悩する。

 

 

 しかし、限度というものもまたあるのだ。

 

 

 ここは迷宮第四階層。少し腕に自信のある駆け出しか、一生を下級冒険者のまま終えんとする者達の狩場。

 それはすなわちここが簡単な世界だからというわけではない。

 油断した人間から屍を晒す、そんなある意味で当然とも言える残酷な法則によって成り立つ理不尽、ここが迷宮である以上はそこに変わりなど無い。

 

 

 体力的にも、ポーチの容量的にも、何より地上まで帰る所要時間を鑑みても今はここまでが限界だろう。

 

 それに、だ。

 

「明日はブライトさん達も帰ってくるんだっけか」

 

 少年の先達の冒険者達、ファミリアにおける言ってしまえば姉や兄貴分のような存在が明日には帰ってくるのだ。

 第一級冒険者である彼らの稼ぎに比べれば自分の稼ぎなどは微々たるものだろうが、それでも今日はここら辺で探索を切り上げて、何かささやかながら帰還祝いのようなものでも用意しよう。

 

 そして彼らから聞くのだ。

 まだ見ぬ世界の()()()を。

 かつては母の口伝えに聞いた冒険者達の物語を、今は彼ら自身の口から聞くことができる。これほどまでに心躍ることもそうはあるまい。

 

「よし、帰ろう」

 

 俺には俺の成り方がある。それがどういったものなのか、具体的にはまだ分からずとも構わない。

 けれど確かなことはひとつ。

 

 焦る必要は無いのだ。

 センセイも生き急ぐべき時は自ずと分かるものだと言っていた。ならば、今はまだ違うのだろう。

 少なくとも、先達の冒険譚に心躍らせてからでも遅くはないはずだ。

 

 そうと決まれば、ここで悩む暇は無い。探索を切り上げる決心をした俺は階層を繋ぐ階段目指して歩き出す。

 

「……なんだ?」

 

 そこでふと、下からにわかに騒がしさが駆け上がってくるのを感じた。

 モンスターだろうか。ギルドのアドバイザー曰く、下の階層からモンスターが上ってくることも珍しくはないという。警戒はするべきだろう。

 歩みを止めて振り返った少年はいつでも応戦できるよう、《落ち葉》の柄に手を添えた。

 

「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!!!」

 

「うぉっ……!?」

 

 そこで少年は己が目を疑った。

 

 なんと、現れたのは全身どす黒い血色に染まった人間。

 危うく帯びた得物を抜刀しそうになるも、それが同業者であることを認めてなんとか堪える。

 

 まるで死人が未練のままに駆け回っているのか、凄惨な場に居合わせた哀れな二次被害者といった様相。

 だが、少年には己と同い年くらいに見える彼のことがまた違ったふうに見えていた。

 

「はは、何か良いことでもあったんだろうな」

 

 その返り血で真っ赤に染まった顔からは喜色が滲み出ていて。

 きっと今日が転換点となるようなそんな出来事があったのだろうと思わせる雰囲気に、少年もまたつられるように笑みを零すのであった。

 

「よし、俺も頑張らないとな」

『グルルルッ』

 

 真っ赤な彼を見送って。少年は別の気配を感じ辺りを見回す。

 その視界の中に手頃な獲物の群れを見つけた彼は、昂るままにもうひと狩りせんと愛刀を抜き放った。

 

 

「悪いが、相手してもらうぜ」

 

 

 正眼に構えられた《落ち葉》から見える闘気に一点の曇りもなく。

 少年、ギルは怪物達へと斬り掛かるのであった。

 

 

 

 

 

 これは、英雄を目指す白兎の少年の物語……ではない。

 輝かしい彼の冒険譚、その時代を席巻する物語に隠れたひとつのお話。

 

 

 ────これはありえたかもしれない、とある眷属達の物語(エクストラ・ファミリア・ミィス)

 

 

 

 

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