壊れてしまったレフィーヤさん~妖精は髪を切り、そして英雄に依存する 作:37級建築士
~十日目~
昼食を食べ終えた。薬もちゃんと飲んでくれた
布団で気持ちよさそうに眠っているレフィーヤさんはとても可愛らしい。この光景は何時見ても役得だ
この眠っている時だけは手を繋がなくても良い時間だ。だから僕も休むべきなのだろうけど、でもなんだかんだ側にいて、そして寝顔をついつい見ながらお茶を飲んでいた。今日も、昨日も一昨日も
昼間、日陰になる家の中はほどよく風が流れて気持ちが良い。かけ布団を使わず、枕に、そして抱き枕がわりに取り込んだばかりの僕の服
「……しわ、なっちゃうけどいいや」
僕の私物である衣服をいっぱいに抱えて、匂いを吸いながら幼子の様にすやすやと息をしている
あまりよくはないけど、でも愛らしい光景だから。つい許してしまう。
保護者や、はたまた父親か、妙な感情が芽生えてしまう
……思うだけなら、いいよね
そっと撫でる。短くなった髪だけど、相変わらずさらさらと綺麗な山吹色だ。僕が手入れした髪だから、綺麗な姿に誇らしさを感じる
「……和む」
これから、最低でも二時間はお昼寝をする。今日のレフィーヤさんはよく眠る日だから、僕も自然と和やかに過ごしてしまう。
他の厄介な日であれば気が休まらなくなるから。こうして和むのも立派な仕事だと、そうアミッドさんから言われた
やはりというか、レフィーヤさんは未だ病人の身。一日置きに、よく寝る日や、あまり体の調子がすぐれない日。体温調節がうまくいかず風邪をこじらせたりする日もあったりする
薬の治療もしてはいるけど、どうも精神状態でストレスから肉体も本調子にならない。
そういう日は、本当に大変な介護がいる。だから、休めるときに休まないと
……とはいえ、だよね
話す相手もいない、家から離れられないし、退屈は募る
いっそ、来客でも来れば
そう、願っていた矢先に、だ。
……ざ、ざ
「!」
一仕事を終えて、お茶を入れて菓子を噛んだ。そんな折に、居間の方からざくざくと草を踏んで寄ってくる青年をが見える。聞こえる
知った顔だけど、もう久しく会う気分だ。
ホームのみんなが遠く感じる。数日、されど数日だ
「……よっす」
「いらっしゃい、ヴェルフ」
軽い言葉のやりとり、靴を脱いで今に上がってきたヴェルフがまっすぐ僕の下へと近づき、胡坐をかいて座った
手に持つのは土産の菓子折り箱。僕がというよりは、レフィーヤさんに向けたものなのだろう。女性向けの少し華やかなラッピングはなんともミスマッチで、似合わないなとつい口溢す。ヴェルフは指で僕の頭を小突いた。ちょっと頭が揺れた
来客は毎日のことだ。最近ではレフィーヤさんも壁越しなら僕以外の人とも会話ができる。昨日はアイズさん達がきて、色々とお話をして土産も置いてきた
不安を感じさせないように、姦しい華やかな会話で、ちょっと男の僕が居心地悪くなるぐらいの、けどそれがちょうどよかった。
……そして、今日は僕の番
きっと、アミッドさんや人を経由で伝わったのだろう。
僕が退屈しないように、今日はレフィーヤさんは休む日になるから。だから僕あての来客が多い日になる、ということだ
「なんというか、居心地がいいな」
「……はは、それは僕も思う」
「極東の畳はあれだ、匂いが良いな匂いが」
「いや、だからって顔を近づけて嗅がなくても」
いきなりとったおかしな動きに苦笑する
ベルが笑う様子に、ヴェルフはしてやったりとまた笑い返した
「っと、そろそろ代わるとするか……邪魔したな、じゃあ頑張れよ」
「うん、それじゃあ」
手を振る、時間にして一時間も無い、けどすぐ変わって今度は命さんと春姫さんだ
みんな、心配して会いに来てくれる。
次はリリとエイナさん。リューさんにシルさんも足を運ぶとか
なんだか、これでは入院しているのが僕みたいだ
……本当に、うれしいことだよね
介助をすると決まった日より、続いてきたこの日々。鬱屈するわけじゃないけど、責任で肩に力がこもる日々だから。だから、以前の日常に帰ったみたいで、少し安心してしまう
春姫さんは話し相手になってくれて、その間に命さんは家事を少し片づけてくれたりした。おろそかになっている自分の服や私物の片づけを率先して済ましてくれた。かまいません、自分がしたくてやっていますから、その二言で押し切られて、好意を甘んじて僕は受け取った
リリやエイナさんは僕に女性への配慮でアドバイス、というか小言、不埒なことをしないようにとも忠告もくれた。けど、最後はがんばれと、優しく応援をしてくれた
みんな、やっぱり僕の身を案じているのだと、いやでも察してしまえた
苦労を買ってしまったぼくに、皆決定的な言葉だけは避けて、どこか遠回しに、意見を交えながら
「……ベル君、率直に言うよ」
「————ッ」
だから、最後に一人ここに足を運んだ神さまだけは、少しだけ突き放す言葉で僕に向き合ったのだろう
× × ×
「ベル君はね、正しいことをしているよ。それは間違いない」
「……はい」
褒める言葉で、安心させるように空気をほぐす
神さま自身、今から使う言葉に抵抗があるのだろう
「……いい、かな?」
「はい、起こさせないように」
許しを得てから、神さまはレフィーヤさんのもとへと近づく。
僕のジャケットで顔の半分を隠している。少しうなされているのか、うめく声を上げている顔に、そっと神さまは手をやった
「……ロキはね、僕に頭を下げたよ」
なでる。優しく優しく、慈母のごとく愛をもって、髪を撫でて落ち着かせた
女神として、レフィーヤさんに抱く感情は、憐れみと慈しみ。そんな思いが、横顔に映る
「この子のことは聞いたよ。ロキは本気で悲しんでいたね、この子の未来が限りなくゼロになったことを」
「ぜ、ゼロ……それは」
「ああ、近いうちに聞く話になるだろうけど……この子の心を壊した例の怪物、それを討伐することは不可能になった」
「!」
知らない事実にめまいが起こる
そのうえで、神さまはなおも続けて
「……ベル君、僕は君が正しいことをしていることを、尊敬するし賞賛する。肯定するよ」
君を誇りに思う。
暖かく、柔和に微笑んでくれた
レフィーヤさんへと伸ばした手とは反対、神さまは僕の頭も撫でてくれた
そして、こっちに引き寄せもした
「!」
「君はいい子だ、本当に良い子だ」
自然と、力が抜けた人形のように、僕は神さまの胸に顔を預けてしまった
はずかしくて、でも暖かくて
神さまは、あくまでも優しく僕に声をかける。
だけど、そんな暖かさで覆われても隠しきれないぐらい、告げる事実は冷え切っていた悲しい真理だ
「君は、一人の女の子のために自分を犠牲にした。だけどね、それは素晴らしい行動だけど、認められるべき善行だけども……責務じゃない」
「……でも、ぼくは」
「うん、だからこそ君は貫くだろうね……難しいね。僕は、いや僕たちは君にひどい事をしろと言ってしまうんだもの」
謝る、神さまの方が正しいのに
言われなくても、僕はそれを理解して悩んで、なんとか決断まで持ってくることができた。
正しいことをしたい、これが純粋な願いだと信じたい。
だけど、だけども
……思わないことは、絶対に無理だ
「……ロキとはしかるべき契約をした。ヘスティアファミリアは、ロキファミリアの協力をいつでも引き出せる。探索系ファミリアとして、食いっぱぐれることも無い」
そうだとしても、あぁわかっていることだ。
僕は冒険者だ。冒険者であり続けるためなら命を懸けることもできる。冒険者であるなら
「言わないでください、わかっています……ぼくは、ぼくはッ」
「……ベル君」
せがむ、子供の訴えで僕は神さまの言葉を遮った
何も変わらない。もしかしたら、ここが一つの分かれ目だったかもしれない
僕は自ら蹴飛ばした。二つある道の一つを、たった今。自分からじゃ絶対に言えないからこそ、神さまが悪役になってでも提示したかった二つ目の道
僕がレフィーヤさんを見捨てて、元の冒険者に戻る道を
「————ッ」
絶対ではない、そう思いたい。
いつか治る時がくれば、またダンジョンへと目指せばいい。だけど
そんな日は、本当に来るのだろうか。根拠は何もない、その上で先の
『……この子の心を壊した例の怪物、それを討伐することは不可能になった』
× × ×
「………………」
日が暮れてしまった。食事の用意をしないといけない
みんなが持ち寄ってくれたもので、今日は美味しいシチューでも作れそうだ
「……ごめん」
どうしてか、真っ先に謝る言葉が出てしまった。
床に伏したレフィーヤさんを見て、僕はそっと手を掴む
そろそろ起きる頃合いだ。起きる時に、手を繋いでいないと、また大変なことになる
「えっと、あぁ……お風呂もしないと、あ……命さんがやってくれたって言ってた」
またお風呂に入る。明かりを消して、それか目隠しで
一緒にご飯を食べて、一緒に寝て
全部、僕が背負わないと、いけないから
「守らないと、僕がレフィーヤさんを……ぼくが」
誰に向けたかもわからない言葉、横からさす夕日に飲まれて消え去る
静かな部屋で、僕はただどこを見るもなく、けどどこかを見続けていないといけないようで、視線が不安定になって疲れたから目を閉じた
傍に布団もあった。だから、少しぐらいいいと、甘えてしまった
……少しだけ、ほんの少し眠るだけ
次回に続く
次回でまたシリアスかエッチか、濃い展開を挟みたい。
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