壊れてしまったレフィーヤさん~妖精は髪を切り、そして英雄に依存する   作:37級建築士

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痛いシーンがあるので注意。セルフでSANチェックどうぞ


(15) 不浄の妖精ティンダロス

 

 

 

~ダンジョン下層、禁域~ 

 

 

 

 

 怪物は眠っている。眠りながら、不浄と魂を分離し続ける抵抗を維持していた

 

 外宇宙へと続くすき間を覗いた愚かな異端児、彼はティンダロスの猟犬に等しい化け物へと成り果てながらも、依然ダンジョンのモンスターとしての存在定義を残していた

 

 封印されて、出ることも叶わない空間で、怪物は自ら部屋の鋭角を削り落とし、曲線だけの空間を作る

 外から流れ来る不浄をシャットダウンした。だが、依然入り込んだ不浄、ティンダロスの因子は彼の体内で強く癒着し、汚染を吐き出し続けている

 

 

『クルシイ、イタイ』

 

 

 彼は戦っていた。ティンダロスの猟犬という、外宇宙の先にいる恐ろしい怪物になり果てる手前で、依然モンストルとして自己証明を続けている

 

 神話生物、ダンジョンモンスター、同じく人ならざる怪物であるが故の親和性。彼は不浄に抗う適応を目指し、自らの体は溶かし再構築を繰り返す。未だ正気を保ち続けている。

 

 さながら、不治の病に侵されながらも免疫のみで耐え忍ぶように

 

 だが、それは怪物の身であるからできることであり。年端も行かない少女の精神ではまずもって無理な所業である

 

 

 

 

…………ぐしゃり

 

 

 

 

 

『————ナガレテイル、ソトニ、イタミガ』

 

 

 

 

 

 溶ける表皮、まき散らす不浄の泥。ティンダロスモンストルは目を覚ます

 

 なぜか、それは彼の体内に、いやそんな物理的なものじゃあない。彼の魂にわずかながら不浄の流出があった

 

 不浄の伝播、それはここに閉じ込められる依然に、数度経験したことだ。自分を襲う、もしくは目撃したモンスターに地上のヒト、そいつらが漏れなく自分の不浄と繋がり、そして死んでいったことを思い出す

 

 思い出し、そして理解する。外に一人、このダンジョンを出た先に、自分と同じ不浄を抱いたダレカがいることを

 

 

『オレト、オナジ————オナジ————————ティンダロス、カワル』

 

 

 興味を向ける。今、現在進行形で不浄をため込み変わり果てようとしている他者に、彼は

 

 

 

 

『————————ヤ、ヤッタ、ハハハ、ヨカッタ』

 

 

 

 釣り上げる口角、泥が糸を引き彼のおぞましい牙が晒される

 

 彼は笑う。あどけなく、おさなく、無垢な幼児が楽しみを見出したかのように、笑う

 

 他者が穢れていく感覚を、共有して知覚する。次元を超えて、彼の不浄もまた桁数を減らし、すると痛みが安らぐ

 

 二百五十と数時間、一分一秒隙間なく絶え間なく、不浄の狂気と汚染の痛みで死を飽きるほど繰り返し続けた彼にとって、その安らぎはまさしく快感ともいえた

 

 

 

『ウレ、シイ————サビシイ、ナイ』

 

 

 

 不浄が流れ出る。飽和してなお注がれる、因子の奥より来る不浄の泥

 

 多くは耐え切れずにこときれて死んだ。孤独は嫌だ、一人まだ耐えているものがいる。自分と同じ、痛みを飲み干して、死を願う。だが、死にきれず、また狂うこともできずにいる

 

 

 

 

『————アイタイ、サビシイ、ヨ』

 

 

 

『アイタイ、アイタイ————タノシミダヨ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『レ、レフ……ィヤ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『レフィーヤ、レフィーヤレフィーヤ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アイタイ』 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〇  

 

 

 

 

 

 

 

「ぁ、痛いッ……いたぃ、いたぁいぃ……ぁ、あぁああああァアアアッ!!?!?」

 

 

 

 

 

 

 

 悲痛な叫びがこだまする

 

 閉じられた不可思議な空間で、逃げ場も無く、武器もなく

 

 

 

 

「!」

 

 

……ビシャァアアッ

 

 

 

 救う術も知らず、僕は幾度目かもしらない触手針の斬撃を食らった。

 

 鋭利な刃で額の皮一枚、垂れ落ちる血液で視界の半分が死んでしまう。それは、この状況では致命的すぎる

 腹をくくる。調整して、加減して

 

 

「……ッ」

 

 

……ファイヤボルト

 

 

 

 小さくささやいた魔法の引き金、押し当てた手のひらの中で火花が迸る

 

 肉の焼ける匂い、鈍い痛みが脳にまで響く。流れ出る血で、焦げる髪の匂いが鼻を突いた

 

 

「ぐ、がぁあ……ぁ、はぁ、はあぁッ」

 

 

 痛みにこらえる。気を保てと、痛みにすがる

 

 攻撃のパターンは読めている。落ち着いて躱せば、まだ死にはしない

 

 

 

……針の攻撃は、休憩を挟んでから、一斉に

 

 

 

 出の早い攻撃、だがタイミングも、軌道も単純だ。攻撃に意思は無い。やたらめったらに、暴力をばらまいているだけ

 

 出られない空間、これがいったい何なのか考えるのは後回し。今わかっているのは、目の前にレフィーヤさんがいる。レフィーヤはまだ生きている、この事実

 

 生きて、囚われて、樹木にはりつけにされるように、でもまだ生きている。生きているんだ

 

 

 

『——————————————ッ!?!?!?!?』 

 

 

 

 叫び散らす怪物の轟砲、発する音は、レフィーヤさんの頭のすぐ上

 

 形は無かった。だけど、次第に何かに変わっている。頭だ、獣、狼やその類に近い頭が、徐々に出来上がっている

 

 まるで、レフィーヤさんという生贄をとりこんで、悍ましい怪物を呼び覚ます怪しい儀式の様に

 

 根拠は無い、だけど、惨劇がおこる最後の垣根だということは、いやでも理解できる。できてしまう

 

 

 

「……ファイヤ」

 

 

 

「ぁ、あぁああああああああッ!!?!?!」

 

 

 痛みを叫ぶ、体の奥に沈む何かに悶え、そして吐き出す。血を混ぜて、赤黒くなる触手の針が僕めがけて狙い、貫こうとする

 

 足元は泥がまき散らされて、素早く動くには不都合だ

 

 迫りくる針の斬撃、切り刻まれる前に、軌道をそらす

 

 

 

「ボルトッ……ファイヤボルト!ファイヤボルト!!……ファイヤ」

 

 

 朽ちて解ける針、爆炎を抜けて迫りくる三本

 

 打つ前に、肉を裂く。突き出した手は、魔法を打つ前に、刃に触れた

 

「!」

 

 身をそらす、判断が遅かった。二本は躱せた、けど

 

 掠めた刃で、右手の指が欠けてしまった。薬指と中指

 

 

 

「けど、構わないッ」

 

 

 

 刃が指を寸断した。だけど、それは手を握る場所に触手が届いている証

 

 掴む、足りない指で、至らない握力で、だけどそれがなんだ、知ったことかッ

 

 

 

……バチンッ

 

 

 

「!」 

 

 

 触手が切れた。いや、自切した

 

 レフィーの口から、不浄の泥が溢れ出る。形を作り、リロードを済ませた

 

「……ッ」

 

 攻撃を予測する、そのための観察。だが、こんな痛々しい光景は願ってもない。死んでも見たくないし、見る運命そのものを呪いたい

 

 攻撃は放たれる。命の危機で、一向に油断できない状況なのに、なのにだ

 

 

 

「……やめろ、もうやめろッ!!」

 

 

 奪い取った触手針、その刃の根元の硬い芯を握り、ナイフ代わりに振るう。 

 

 昔、リリが渡してくれたバゼラートぐらいの刃渡り、同じ強度の斬撃に何度耐えられるか保証はできない。だから、刃に負荷はかけず、そらす。捌いていく

 

 肉を裂かれ、自分の血を流しても、まだ耐え続ける

 

 

 もう、何度血を流しただろうか

 

 

 指だって無くなった。焼いたことで左の視力も、少し落ちている

 

 

 深層の悲劇を連想する。理不尽な現実具合で言えば、かなり近しい

 

 

 だけど、背中を支える理由だけは、違う。違う感情で、僕は抗っている

 

 

 それは憤りだ、ベル・クラネルは怒りに震えているんだ

 

 

 

「……おま、えは、なんなんだ」

 

 

 

 問いかける、問いかける相手は、今もなお生まれようとしている獣のアギトに

 

 

 

 

「ぼくは、なにもしらない……なにもわからない。誰が敵で、どんな運命が先にあるかも、僕は知らない、知ることもできないッ」

 

 

 

「だから、僕は僕の感情に従う。今、一番熱くなっているこの感情に、怒りにッ」

 

 

 

「だから、だからだからッ!!」

 

 

 

 敵を見る。敵を見て、狙うは二つ

 

 

 

 

「……………………べ、る」

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

 

 声を聴いた。か細い声だ

 

 怒りで振るう頭にも、その声はすんなりとはいってくる。熱い鉄に冷えた水をかけられる気分だ

 

 だけど、この熱は冷めない

 

 怒りで正気は失われない。この狂気に、僕は抗い続ける。絶望は、何度だって超えてきた通過点の一つに過ぎない

 

 

 

「レフィーヤさん、泣いている。痛いでしょう、顔に傷もできて、きっとつらい」

 

 

 

「ころ、して……もう、しにた、い」

 

 

 

 涙を一筋、触手針の砲台は上の頭に映ったのか。

 

 やっと自由に声を出せる。だけど、今も泥がレフィーヤさんを覆うとしている。飲まれようとしている

 

 死にたい、きっとそれだけ辛いことなんだろう。その泥は、この空間に満ちている汚れは、本当にひどいものだ

 

 

 

「死にたい、わかります……でも、その時は一人じゃない。僕も、お供します」

 

 

 

 優しく、微笑みを持ってベルは告げる。告げて、刃は前に構えた

 

 

 

「いっしょに、死んであげます。ひどい最後も、一緒なら幾分はマシです。だから、安心して」

 

 

 

 

 

『僕に……助けられて、くださいッ』

 

 

 

 

 

 

 宣戦布告、聞く耳があるかもわからない相手、だが告げることは誓いだ。何があっても貫くと決めた覚悟の再確認だ。意味のある行為だ

 

 

 

……———————ッ!?

 

 

 

 怒りの焔で鐘を打つ、ゴォンゴォンっと重い音色を幾度も鳴らす

 

 装填は、戦いが始まった時よりすでに開始されていた

 

 

 

 英雄の反撃(ベル・クラネル)が始まる

  

 

 

 

次回に続く

 

 

 




今回はここまで、次回決着予定


多くの感想頂いて、本当に勉強になります。思った以上に読まれる方でクトゥルフ要素が受け入れられて、いまさらながら驚いたり。もともと神話生物出すつもりもなかったんですけど、即興で展開を変えていったら今の形に落ち着きましたとさ

作者はTRPGガチ勢、の友達のおかげで多少経験と知識がある程度です。間違いなどは指摘していただけると本当に助かります。感想の推測であげるネタも参考にしちゃったりしてます。本当に感謝です、感謝が飽和しています。漏れそう


今後の展開、というか予定では、一度区切りをつけます。物語は全編後編の二本立て


ティンダロス・モンストル、討伐までじっくりこっくりアイデアを練っていきます。そして同時にベルレフィはさらに加速します。R18にならない程度に


以上、ながながと喋ってしまいましたが、とにかく読了感謝ということで

次回の投稿は早ければ明日にもまた、それでは~





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最新話でガチのベルレフィエッチな小話を投稿してます。メスガキなレフィーヤに興味がある方はこちらもどうぞ。

https://syosetu.org/novel/231673/

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