壊れてしまったレフィーヤさん~妖精は髪を切り、そして英雄に依存する 作:37級建築士
ダンメモの火は消えない
僕にとってのレフィーヤさんはなんだ? 深くこの疑問に向き合ったのはいつからか
もともと、接点は以前からも始まっていたし、名前を呼びあって気軽に話すことだってできる、それぐらいの距離感にいる人だと認識はしていた
けど、記憶に残るレフィーヤさんは、どうも怒っている印象が強い。偶然、理不尽、不運、いろんな理由があって、ごめんなさいをいっぱい言って頭を下げるか逃げるか。そんなことばかり記憶に新しい
だけど、そうした激しいやり取りの後は決まって落ち着いて話し合って、そして怒りすぎたことはちゃんと謝って、最後は笑う
そう、笑うんだ
レフィーヤさんはどんな女の子か、そう聞かれればどう答えるかは決まっている。
怒りっぽいけど、思いやりもいっぱいある。だから
レフィーヤさんは、花のように豊かで明るくて、そして暖かい心を持った女の子だと、僕は答えたい
男女の好意はどうかと聞かれれば、僕はどうもうまく答えられない。だけど、仮定の話をするなら、少し思ったことがある
失礼で、一方的で
ただ、それでも腑に落ちてしまう想い
オラリオで、素敵な異性との出会いを僕はたくさん果たしてきた。そして、レフィーは、年の近い異性で。だから、なんだか意識してしまうかもしれない
年が近い、ただそれだけなのかと思われる。でも、ほぼ同じ年だし、だから思いたくなる
年が一番近い異性の女の子。それだけで、心が動くこともある。同年代の綺麗で元気で感情豊かで、なんだかんだで他人に優しい、そんなレフィーヤさんに、だ
僕はすでに出会いを経た。忘れられない、金色の出会い
だけど、もし別の出会いがあったなら。これはあくまで、仮定、仮定の、ちょっとした世迷言
僕が、同い年の女の子に恋をする道を歩んでいたなら
きっと、僕はレフィーヤさんのような女の子にこそ、恋をしたかもしれない
人には言えない、ましてや本人には言えない
僕の、小さな秘密。内に秘めて、明かすことない思い付きで、欲が生み出した迷言
…………だった、のに
始まった二人の日々、内に秘めたものは、僕の意思に反して動き出した。
だから、改めて思う。僕にとって、僕にとってのレフィーヤさんの存在は、いったいなんだというのか
〇
「ああああああああああああああッ!!!!!」
刃を強く振りかぶる。感情のまま、獣のように体を奮い立てる
武器は少ない、それがどうした
足りない武器は、心で補え
『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!?!?』
獣が叫ぶ、大顎を開いて触手が放たれた。
数は多い、10や20そこらじゃない。束ねた糸は点ではなく面になり、躱す隙間もなく僕を殺しに来る。
死が迫る。だけど、装填はすでに終わっている
放て、今なら消し飛ばせる
「……ファイア、ボルッ」
鐘がなる。轟く音色、光
突き出した手のひらから、炎雷は死を迎え撃つ
直撃、赤い光を伴い爆炎がまき散らす
吹き飛ぶ泥、焼け落ちる触手の針。
『■■■■■■■■ッ!!!!』
怪物が叫ぶ。そこに勝利を叫ぶ意思があるかは不明、しかし倒すべき敵を見て、渾身の攻撃を放った所からみて間違いなく敵だ。
敵は触手の針を続けて何度も打ち放つ。再装填と射出
執拗に、念入りに、何度も何度も刃を打ち込み、それでもまだ飽き足らない
「——————————ッ」
取り込まれるレフィーヤは、獣の泥を飲み干し続ける一方で、消え入る意識で、ただ一点を見つめていた
逃げろとも、助けてともいえぬ壊れた心。もはや正気も不確か、だがすがるように見続けていた
死にゆく命、尽きる運命、それが眼前で見せつけられているのに、いまだあらがう英雄を見ていた
眼球は動く。本能で、英雄の軌跡をなぞる
英雄は、常に過酷な道を選ぶ
× × ×
知らないことばかりで、それでも懸命に頭を振り絞る
今とるべき、一番望ましい道。それは、レフィーヤさんを助けること。だから、その為ならなんだってする
……助けるために、必ず助けられる方法を
英雄願望、チャージしたファイアボルトを僕は使わなかった
迫るギリギリまで、放ったファイアボルトは6発。触手針の刃は4割を消し飛ばし、残る6割はこの身に食らった
腹を貫いた。内臓だって傷ついている
骨が寸断されている。筋肉だけで、どうにか足を立たせている僕はどうかしている狂人だ
確証もない、計算に乗っ取った生存の道はない。賭けに挑むとき、僕の手にあったのは運一つ
「……ッ」
血は流れ出る。はらわたが零れ落ちるのも時間の問題かもしれない
だけど、それでも僕は足を使った。腕を振った、血の泡を吹き散らす喉で魔法を唱えた
真っ赤な世界で、浮上の泥を蹴飛ばし、爆炎の中から僕はそいつを見た
「おまえはッ……誰だッ!?」
『■■■■■■■■■■■■』
見た、目が合った。虚ろな穴が一つ顔の中央に空いている
問いかけるも、反論の代わりに放たれるのは触手の刃。まっすぐに、僕の顔めがけて放たれるそれは、もう見えていた
……こいつは、泥の塊だ。形がない生き物だ
開いた顎から触手は放たれる。だけど、刃が形成されるのは、一定の距離を超えてから
距離が開けば開くほど触手は分割して脅威の攻撃になる。だけど、この距離なら
……ぐしゃぁあッ
「つかんだ、ぞッ!!」
固形化する半ば途中、触手の束に左手を突き出し、一体化したまま思いっきり引き寄せる
体は前に、距離感は刹那、獣の顔に右の掌が届く
放たれる炎雷をゼロ距離で爆発させる
「ファイア、ボルトォオオオオオオオオオッッ!!!??!?!?」
消し飛ばす、殺しきる。怒りでハイになった僕は続けて炎を放っていた
消え去りゆく意識、マインドダウン寸前。だけど、まだだ
「レフィーッ!!!」
「—————ッ」
獣の上半身を吹き飛ばす、纏わりつく泥からレフィーヤさんがおちそうになるのを見逃さない。
つかんだ、手は離さない
もう、これ以上、悲しい思いをさせたくない
『■■■■ッ!?!?!』
「!」
叫び、消し飛ばした泥から聞こえた
周囲を囲む不思議な壁、そこにまとわりついた怪物が、まだ求めているというのか
……離れろ、少しでも、ここからッ
「……ぁ、くッ……れふぃ、だいじょうぶ、だからッ」
ヘドロの海、少しでも触れない場所を求めて
残骸の上、僕らが住んでいた家屋の屋根が、むき出しで泥のない場所に抱えているレフィーを上げる。
意識は浅い。だけど、息はしている
……これで、いい。でも、でもここから
無我夢中で、とにかく助けることばかり考えていた
だけど、依然ここは閉じられたまま。泥は、緩やかにカサを増やし続けている
「……おわり、なのか」
泥は増える、獣も姿を取り戻していく
何も変わらず、ただ無駄に傷を負っただけ。僕は、ここまでだったのか
手は握っている。だけどそれだけだ
僕は何も知らない。何もわからない
何がレフィーを苦しめているのか、どうすればこの状況を変えられるのか
……知恵もない、戦うしか、僕には
獣を屠る。そうやって、レフィーが少しでも生きられるようにあがく
それぐらいしかできない。でも、今となってはそれすらも危うい
血が、止まらない
「……ぁ、そうだった、ぼく」
お腹に、足に、額に、首に、いっぱい刺されて、血を流して。指だって二本、今頃あの泥の中で沈んでいる
気付けば、もう立てない。この屋根の上から一歩も動けない
……言った通りになった、僕もいっしょに
死ぬ、終わる。命が続かない、そうなった先に何があるかは想像できない
魂が真っ白になって、生まれ変わると聞いた。けど、こんなに汚れては、きっと神様だって苦労する
「……きたない、な」
きたない、不浄をいっぱいに詰め込んでできたこのよくわからない泥
汚い、本当に汚い。だから
「れ、ふぃ」
手を伸ばす。山吹の髪に、白磁のような肌
レフィーには相応しくない。せめて、手で泥をこそげとり、その様相を目にする
「あぁ、やっぱりきれいだ……きれい、れふぃーはほんとうに」
笑ってしまう、こんな状況で、どうしてかその顔を見るだけで僕は笑えてしまった
悪くないと、思ってしまった
一人じゃない。一人寂しく終わらないから、せめて二人
不浄の泥にまみれて、ただ理不尽に終わる最後も
繋いだ手で、寂しくなく終わるなら。それは、きっと
……ぽつ
「ぁ、あぁ……ぐ、ぁああああああッ!!!!!!」
悪くないはず、せめてそう思わないといけない。じゃなきゃ辛いだけだ
なのに、なのになのに
「いやだ、こんなところで終わりたくない……だって、僕たちはまだッ」
触れ合って、10日間
知ったこともあった。こんな体験はなかった
遠くて近い、そんな男女の関係を思って、少し楽しく思ったりもした
ずっと、心の底にしまってしまった世迷言が、どうしてか忘れられなくなってしまった
これからだった。まだまだ、得られるものも、生み出せるものもあった
僕とレフィーは、なれたかもしれない
「いやだ、死にたくない!死なせたくない!!」
「まだ知らない、僕とレフィーヤが出会った意味を、僕はまだわかっていないッ」
「依存したのはどうしてですか! どうしてあなたは、僕に特別を感じたんですか!!」
成り行きで始まった介助の日々。後ろ暗い現実もあった、だけど今日までうまく続けてきた
続けたいと、僕の欲が背中を押し続けた。本心から、僕はレフィーヤさんを知りたくなったんだ
……だから終われない、まだ
つないだ手、両の手をぎゅっとつかむ
死んだ体に鞭を打つ。頭を回せと心が叫ぶ。涙を流すことも今は惜しい
手がかりはないか、状況を変える兆しはないか
レフィーを見る。息がある、生きている、死んでいない
希望はある。そう信じろ、ベル・クラネル
お前が命を消してでも、助けたいヒロインは目の前にいる。英雄になれ、泥臭くてもいい情けなくてもいい
泥臭くてもいい。どんな形であれ、最後は全てを手にして大団円の中心に立つ英雄、それにこそ僕はなるべきだッ
「考えろ、考えろ考えろッ!!!??」
頭を回せ、死ぬ気で回せ
変化はどこから来た、どこから始まった
兆しは、きっとそこに
「—————……レフィッ!!」
次回に続く
今回はここまで、胸糞展開から脱却かと思わせてまだ苦しい目にあいます。次回もお楽しみに
・追記・
調子が出ないのとプロット練り直しなので少し休みます。