壊れてしまったレフィーヤさん~妖精は髪を切り、そして英雄に依存する   作:37級建築士

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第二章はじまり、そしてさっそく曇らせをご賞味あれ


第二章~曲線上のウムル=アト・タウィル
(18) けじめ


 

 

 

 

〈前回のログ〉

 

 

 

 ダンジョン下層特定領域に禁域指定が勧告されてより約一週間後のこと、ディアンケヒト治療院敷地内にて原因不明な倒壊事故が起きる。表上、建造物の老朽化によるものと処理される。調査員による報告では、その一帯における不浄の汚染は観測されず

 

 要監視対象者、およびその随伴者においても危険性は見えないことにより要監視へと対応を下げるものとする。ヘルメスファミリアによる安全措置機構を撤廃する旨を神ウラヌスが発信

 

 

 

 

 ティンダロスの猟犬。外宇宙の先に巣くう生物の汚染が始まりし日より、一月を迎える

 

 

 

 

【第二章~曲線上のウムル=アト・タウィル】

 

 

 

 

 

 オラリオ基準世界、観測者及び探索者の行動を開始

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オラリオにおいて、神は神たる由縁の神秘のアルカナムを封印している。

 

 水を酒に変え、傷をいやし、蝋の翼になど頼らすとも空を舞う。これらはものの例えだが、神ゆえに出来る超常の力は確かにあり、しかして彼ら神々はそれらを禁じている

 

 それが地上に降り立つ条件である故。一部例外を除いて、彼ら彼女たち神は地上に置いて禁忌を犯さない

 

 使えば、その瞬間に天界へと送還される。故に、神は人の身と同じのまま

 

 だが、過度に傷を負えば本能で力を行使してしまう。神も人と同じ身を案じる、ひどく傷を負えば天に返るところにおいて、人も神も等しい

 

 等しい、等しくある故に

 

 

 

 

「ヘルメスッ!!!!?!?」

 

 

 

 

「————ッ」

 

 

 

 

 わが身を大切に傷を避ける。だが、それを彼はあえて受けいれている

 

 本能を意思で抑え込み、アルカナムを封じ込め、今もなおまた拳を受け止め続けているのだ

 

 

 

 

 

「……か、神ロキ……どうか、それ以上は!!」

 

 

 

「————ッ!?」

 

 

 

 叩きつけられた壁には神の血がべったりとこびりついている

 

 吐き出した胃の内容物も、掴んで引きずられ、契られた御髪の数本も、全てアルカナムであれば無かったものに出来る痛みだ

 

 ここは神ロキのおられる私室。そして、その場にいるは神ヘルメスとその眷属

 

 訪問した理由は、先に起きた不自然な事故の真相についての開示

 

 今もなお、病室のベッドに横たわるベルと、そのベルに寄り添うレフィーヤ。二人があの夜に何が起きて、どのように傷を負ったか

 全て、仕組んだことも含めてロキに伝え聞かせて、そして今に至る

 

 

「……ヘルメス、ヘルメスお前がぁああ゛あ゛ッ!?!?」

 

 

 

 

「!」

 

 

 

 

 胸ぐらをつかみ、壁に叩きつけて叩きつけて、それでもまだ飽き足らぬ怒りを神ロキはその拳に込めた

 

 細身な体のどこにそのような力があるのか。整った容姿のヘルメスの顔に、幾度も殴られ続けたせいで血の赤がこびりついている。

 

 拳の先で皮膚が摩擦して切り傷になる。硬い頭部を殴ったせいで、敗れた拳の皮膚から漏れる血が金色の髪を赤く染め上げる

 痛みを握りしめて、声を発することなくただ無抵抗に受け入れるヘルメスへ、何度も何度も

 

 

 

「やめて、もうやめて……それ以上はヘルメス様がッ」

 

 

 

 止めに入ることはできず、打擲に合う主神の姿にむせび泣くことしかできない。聡明で気丈な彼女、アスフィであったが、此度のことにおいて彼女の精神は脆い。この場において、自らも痛みを負うべき罪人である故に、何もできない

 

 かなしく、辛く、耐え切れず叫ぶも意味はない。神ロキの暴虐を背後から止めることもできず、ただその場でうずくまるようにして、謝罪の言葉を繰り返し続ける

 

 

「ごめんなさい、わたしたちが……わたしたちのせいで」

 

 

「————————ペルセウス、黙っとけや」

 

 

「!?」

 

 冷たく言い放つ、そうして神ロキは掴んだソレをアスフィの方へと投げつける

 

 糸の切れた人形を抱き留める。息も途切れ途切れに、血の泡を口から漏らす神ヘルメスを抱きしめて、アスフィはまた子供のように泣きじゃくる

 

 ずっと、繰り返し流し続けた悔恨の涙

 

 事実を知り、そして神ヘルメスの決断こそが正しいと納得して、その上で自身も加担した。

 

 だが、一夜たりとも後悔しない日は無かった。

 

 

 

 

「……ぁ、あぁ、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいッ!!!」

 

 

 

 大粒の涙がヘルメスの腫れた頬を伝う。彼女の涙は、あの夜以降から嵐の翌日の河川のように、多く荒々しく変わった

 

 安全装置が起動し、ベル・クラネルとレフィーヤ・ウィリディスは汚染されたすべてを共に、この世界から消える算段であった

 それが、この世界に残された手掛かりに触れ続け、外宇宙の先の危険と真実を曲がりなりにも知ってしまった立場の取るべき正しい判断  

 

 しかし、その正しい判断はありえないことに覆ってしまった

 

 乗り越えたのだ。この世界の英雄が、外宇宙の脅威を、その一端とはいえ、跳ね除けた

 

 正しいと信じて、あきらめていたのは自分たちだけ

 

 それ故に恥もあった。この世界に生まれた民であるくせに、この世界の英雄を信じ切れなかった、その事実が情けなく、愚かしく、故に罪悪感も幾重に増える

 

 

 

 

「あ、あす、ふぃ……泣くな」

 

 

 

 

「……へ、ヘルメス様……駄目!」

 

 

 

 

 王妃の流す涙を払いさり、神ヘルメスはその身を起こす。痛めつけられ、血を流すその体に鞭を打って

 

 意志の力で、傷をいやそうとする神の奇跡を封じ込め続けている。受けるべき痛みを痛みのまま受け入れて、またもロキの前へとへりくだる

 

 

 

「ロキ、すまなかった」

 

 

「!」

 

 

 人を痛めつける音が響く。足蹴にされて絨毯に転がる神ヘルメスに、ロキが何度も蹴りつけながら

 

 

 

「お前が、うちの可愛い子のためやって、言うたんやッ」

 

 

「……ぁ、ガハッ……知らない、方が良いことも、あった……ぐはッ」

 

 

「納得したくないわ! 殺す目的で隔離して、その協力にウチを加担させたんはおどれやッ!!」

 

 

「かふ、けふッ…………ろ、ロキ」

 

 

「レフィーヤを殺そうとしたんや、綺麗ごとほざくなや!……何が世界や、なにが外宇宙や!?」

 

 

 横になるヘルメスを何度も蹴りつけた。しかし飽き足らず、ロキは胸ぐらをつかみ、また血に濡れた拳を握り固める

 

 

「世界のために天秤にかけてええ気分やろうな!!」 

 

 

「…………ッ」

 

 

 振り上げたこぶし、ひときわ大きく鈍い音を立てた。

 

 絨毯にはべったりとネバついた赤色が染みつく。だが、今はそれを上から透明な水が色をにじませてうわがきされる

 

 ポタリ、ポタリと

 

 

「——————」

 

 

 

 鬼神のごとく怒り狂った女神は、怒りを叩きつけた拳を振るいあげずそのばで嗚咽をまき散らした

 怒り狂うも、完全に狂いきれるほど女神ロキは浅慮ではない。トリックスター故に、彼女は聡明に理解をしてしまった

 

 この目の前で無抵抗に痛みを受け取る神の苦悩、そして決断、全て話を聞いたうえで、理解してしまった

 

 理解してしまい、その次は想像が働く

 

 世界を取るか二人を取るか、決断は愚かしくない。結果論だけ言えば愚神、しかし提示された真実を知ってしまった以上、受け入れざるを得ない

 

 今、このオラリオに起きているティンダロス・モンストルの浸蝕。及び、外宇宙よりもたらされる悪神の危機

 

 神ロキは納得してしまえた。することができてしまった

 

 

「……ロキ、罪は全て俺にある」

 

「そうや、けど……背負わせたんは、自分以外の全てやろ。ヘルメス、自分この世界で一番不幸やで」

 

「知っている。世界を旅して、多くの裏を見て知ったせいだ……だが、俺でよかったと今は思うことにしている」

 

 

 傷を負った顔で、屈託ない笑顔を見せつける。ボロボロの体に活を入れ、神ヘルメスは伸びをして立ち上がった

 ふらつくからだ、張れた顔を隠すように床に落ちた羽帽子を目深に被りなおす

 

 

 

「……聞かせえや」

 

 

「?」

 

 

 

 責任を果たした。次はヘスティアの下へとけじめをつけに行く、そんなヘルメスを呼び止めて、神ロキはまっすぐに告げる

 

 今度は怒り狂う様子は消えて、今はただ

 

 同じ悲劇に立ち向かう同胞として、手を取るべき相手を見る目で神ヘルメスに語り掛ける

 

 

「今度はどうするつもりやねん。運命を超えたあの二人に、自分は何を期待しとる?」

 

 

「期待、か……それは、っと」

 

 

「ヘルメス様、肩を」

 

 

「悪いな、いや……いい拳だったぜロキ。今度はもっと優しくしてくれたらうれしいな」

 

 

 軽口を吐きながらも、その足取りはひどく重い。アスフィに支えながら、ヘルメスは笑みを絶やさず答え返す

 

 

「今度は諦めやしない。外の彼方にどれだけ触れがたいものがあろうと、俺はもうあきらめない……最後まで信じて、二人を支える。だから、俺は鍵を託すよ」

 

 

「鍵?」

 

 

「あぁ、文字通り扉を開ける鍵だ……全てを得るか全てを失うか、今度こそ賭けから逃げない。ベル君を信じて、俺も、皆も……全員死に飛び込むべきだ」

 

 

「……狂っとるな」

 

 

 笑いが重なる。暗躍するトリックスターらしい、余裕でニヒルに満ちた笑いだ

 

 

「らしく行こう、神らしく地上の子供に全部を丸投げにする。あぁ、どうせ世界が全て死ぬかどうかなんだ、オールオアナッシングでこそ賭けは最高に面白くなる。ひりつく勝負を楽しむとしようぜ、なあロキ」  

 

 

 

 

次回に続く

 

 

 

 




 今回はここまで、けじめヘルメスとそれを見て曇らせられるアスフィでした。一章では胸糞だったのでこれで差し引きゼロになったら幸い。


 第一章ではベルとレフィー二人が死ぬか世界全てが終わるかの選択肢。けど、二章以降では世界全てを失うか存続するかどうかの二者択一。主人公とヒロインを犠牲にして助かる世界なんて要らないよね、だから賭け内容の更新も当然。うん、全く自然な流れだぜ

 次回はそんな流れはひとまずおいて、待ち望んでいたベルレフィ依存いちゃいちゃを書ければと

 レフィーヤの顔の傷、残すべきか消すべきか、悩む
 
 
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