壊れてしまったレフィーヤさん~妖精は髪を切り、そして英雄に依存する   作:37級建築士

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筆が乗ってきたので連日投稿。最新話をお間違えなく


(19) 逆転する立場

 

 

 

 点滴の音が等間隔で響く。病室というのはあまりにも静かで、こんな小さな音なのに妙に鮮明で、そして耳障りに響いてしまう

 

 喉の管を塞いで、自分で息もできるようになったのにまだ体は麻痺したまま。起き上がってご飯を食べて、本を読んで眠くなれば瞼を閉じる

 

 それだけ。排泄も入浴も自分で出来ないから人の手を借りないといけない

 

 自分の立場になって、初めて介助される人の気持ちが理解できる。これは、中々に辛い

 

 

「……うるさい」

 

 

 点滴の音が耳障りだ。未だ蝕む体の毒を消すために、僕の体には血液に似た液体を流し続けている

 体の中を満たす水が毒を薄める。排尿という形で吐き出し続ける毒素は、もうあと数日は続くらしい

 

 それまでは、まだベッドの上で管につながれたまま

 

 

 

……ぴた、ぴた

 

 

 

「うぅ、うるさい……くッ」

 

 

 

 精神がギスギスする。担当医者であるアミッドさん曰く、僕の中には毒が残ってしまっているから、落ち着かないらしい。

 

 毒、毒、毒、そう口にするアミッドさんは何も知らない。きっとわかっていないのだ

 

 あの日、僕が見て知って、この傷を負った相手が何か

 

 何も知らない、知らないくせに、知らないくせに!!

 

 

「あぁ、うるさいうるさい……脳が、震えるんだよ!!」

 

 

「…………ベル」

 

 

「うるさい!?」

 

 

 抑えようとした手を僕は乱暴に払った。

 

 払って、その勢いで顔を叩いてしまって、叩いてしまった後で、血の気が引いた

 

 

 

「……あ、レフィー」

 

 

 振り上げた左手、見下ろすのは床に転げたレフィーヤ

 

 顔の左側に大きな縫い目の後を残して、けど今はその縫い目から血がにじんでいる

 

 

「れ、レフィ……ごめん、僕」

 

「……いい、ごめんなさい」

 

「ちがう、僕が……こんなの、ひどすぎる」

 

 振り上げた手が力なく落ちる。床に頭をこすり付けて謝ることすら、今の僕には難解な動きだ

 

 契れた管の針がぶら下がる。気づけば、音がけたたましくなっていて、ドアを乱暴に開けてアミッドさん達が押し入ってきた

 

 そこから先は、夢を見ているようで曖昧で、気づけば僕は泣きながら天井を仰いでいた

 

 

 そうして、そんなことをして、夜になって

 

 

 

 

 一日が終わり、また日が昇る

 

 

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 

 

「……ベル、おはようございます」

 

 

 

 

 朝餉をお盆に乗せて、またレフィーヤさんが病室に訪れる

 

 以前のような私服を身にまとい、もう快癒した姿振る舞いで僕に近寄る。山吹色の髪は短髪の時に比べて少し伸びていて、服もシックでおとなしめな装いだ。冒険者らしい服ではない、道を行く綺麗な少女。可憐なエルフらしい、整った容姿が和やかな笑みを向ける

 

 微笑みかける。口元はわずかに動くだけ、依然その顔の半分に消えない傷跡が残っている

 

 アミッドさん曰く、時間が経てば傷は塞がるらしい。会話もできるし、詠唱だって問題ない

 

 ただし、どんなに高度な処理をしたとしても深く裂けた傷跡だけは残ってしまう

 

 レフィーヤさんの顔に一生傷が残ってしまった。その事実は、どんなに日が昇って落ちてを繰り返そうと覆らない。悪夢ではない、現実だ

 

 

 

 

「レフィ……っ」

 

 

 

 痛々しい傷、ガーゼで覆われたそこに、今も痛々しい縫い糸がある。そして、昨日は僕のせいでつながりかけた傷をまた開かせてしまった

 僕のせいで、余計に傷が大きくなるかもしれない

 

 僕のせいで、僕が

 

 

 

 

 

 

「違う」

 

 

 

 

 

「!」

 

 

 

 悔しさで毛布を握りしめた手に重ねられた優しい温度

 

 面を上げれば、眼前まで近づいているレフィーの尊顔に面食らってしまった

 

 

 

「あなたのせいじゃありません。ベル、お願いですから」

 

 

 

「……でも」

 

 

 

「自分を傷つけないでください。ベル、わたしはあなたに」

 

 

 

 

 

……助けられた、二度も

 

 

 

 

「……けど、けどぉ、うぁああああああああッ」

 

 

 

 

 優しい言葉、だけど傷跡にはどんな薬も痛みを及ぼす

 

 レフィーは優しい、言わんとすることは理解している。僕が、僕自身の思いで心を痛めるのは間違っている。そう貴方は言ってくれる

 

 心を病んでしまったあなたと同じ、自責で心を傷つける。手を繋いで保っていたレフィと同じ

 

 僕も脆くなった。救ったとしても、傷を負わせてしまったから

 

 だから

 

 

 

「……ッ」

 

 

 

 だから、辛くて、申し訳なくて、ずっと涙が止まらない。

 

 レフィーヤに頼ってしまう僕が、格好悪くて仕方ない

 

 

 

「……ベル」

 

 

 

「ごめん、れふぃーごめんッ」

 

 

 

 出る言葉は謝罪だけ、こんなのでレフィーが喜ぶとは思っていない。だけど、どうしてか涙は止められない

 

 

「ごめん、ごめんね……ぼくが、ぼくがもっとうまくできていたら」

 

 

「……」

 

 

 何も言わない。レフィーはどうやっても離れようとしない

 

 それどころか、触れた手を別の場所に

 

 

 

「え、レフィ?」

 

 

 

「……ふん!」

 

 

 

 手首ごと掴まれた右手、空いた手で器用にレフィーは服のボタンを外した。外した?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………は?」

 

 

 ばっと、いきなりばさりと

 

 シャツのボタンを開いて、開かれたレフィーの柔肌とおへそを見て、そしてふくらみを隠している下着はライトブルーで、とってもかわいいレースの入ったデザインで

 

 フロントホックも外して、あわや見えてしまう手前で、乳房はその全貌をあらわにする前に隠された

 

 片方はシャツに覆われて、けど左のふくらみは、違う

 

 あろうことか、僕の右手が暖かくてふよふよで、だけど押し返す素敵な弾力のあるふくらみを覆うように包んでいた

 

 

 触ってしまった。というかおっぱいだった 

 

 

「え、えぇ……あ、あわわわわわ」

 

 

 

 悲しみで震えていた心が、今度は別の意味で震えだした

 

 うん、さっきまで悲しんでいたのはずなのに、なのに、なのになのに!!!

 

 

 

 

……ふにゅん、もにゅ

 

 

 

 

「あ、アバババババババ」

 

 

 

 

「……素直に喜んでください、もう」

 

 

 

 

 恥じらった顔、傷の在りなしに関係なくとってもあどけない様子で、そんなレフィーの姿でまたもう一段階心が震えてしまった

 

 自責の念でさいなまれていた心とはいえ、うん、こんなの、ねぇ

 

 

 

「と、とりあえず……もう一つ残ってますけど、触らないのですか?」

 

 

 

「——————ッ」

 

 

 

 

 

次回に続く




見えなかったら問題ない、はず


感想、評価等頂ければ幸い。モチベ上がって日々健康に過ごせます。
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